445 呪術対決、決着にゃ~
呪術対決はシーソーゲームを繰り返し、副将戦になっても、呪術のゴリ押しが続く。ただし、中堅辺りから面白い呪術を使っていたので、隣に座っているキツネ巫女の尻尾を撫でながら話をしてみる。
「にゃんか紙人形みたいにゃのが浮いてるんにゃけど、アレはにゃに?」
舞台では、複数の紙人形が飛び回り、お互いの紙風船を狙っている。
「式神です。あの呪術が出来るようになれば一人前なんですけど、複数操るのが難しくて……それより、なんで尻尾を撫でるのですか?」
「にゃるほど~」
式神か……。魔法書さんに載っておるかのう? ……あった! 操作するだけじゃからわりと簡単そうじゃが、魔力が多くないと難しいみたいじゃな。
紙も魔力を乗せると切れ味が上がるみたいじゃけど、【
「あの……そんなに撫でられると……」
「あ、ああ。お姉さんの尻尾が気持ちよくてにゃ~」
「い、いや……やめてくださ~い! お父さ~ん!!」
わしがキツネ巫女の尻尾を撫で続けると、秀忠に負けて戻って来たキツネ神主に泣き付いた。
「娘を傷物にして、責任を取ってくれるのでしょうね?」
「にゃ!? 違うにゃ! ちょっと撫でただけにゃ~!!」
キツネ神主は激オコ。どうやら神職の者の中には、尻尾を撫でる行為がいやらしい行為として思っている文化があるようだ。なのでわしは、必死に謝って、慰謝料を払う事で許してもらった。
それから行司に何度も呼ばれていたわしは、舞台に上がって秀忠と相対する。
「また騒いでいたようだが……」
「た、たいした事じゃないにゃ~」
くっそ……尻尾を撫でたくらいでセクハラ認定して来るとは、あのキツネ巫女、
おっと、いまはそんなこと考えている場合じゃなかった。
「それよりその足、本当にそのままでいいにゃ?」
「呪術だけだから何も問題ない」
「わしが気になるにゃ~……ちょっと失礼するにゃ」
「な、なんだ? 何をする!?」
わしは秀忠の足元にしがみついて作業を開始。すると、秀忠はわしを振り払おうとし、観客席からブーイングが飛んで来る。
しかし、わしに掛かればこんな傷、袴の上からでもちょちょいのちょい。元々わしが怪我を負わせたのだから、治すのも簡単だ。
「ほい。治ったにゃ~」
「癒しの呪術にまで精通しておるのか……」
「これで正々堂々闘えるにゃ。手加減抜きで頼むにゃ~」
わしは秀忠の返事を聞かずに開始線に移動する。飛び道具勝負なので、開始線は武術よりかなり離れているようだ。そこで振り向くと、秀忠は松葉杖を投げ捨てて、歩いて開始線についた。
「これより、結びの一番……」
行司の、仰々しい紹介を受けて「はっけよい」。わしは様子見で、秀忠の頭に向けて【風玉】を放ってみる。秀忠は、わしより大きな風の玉で防御。さらには、押し潰してわしの頭に付いた紙風船を狙う。
わしは避けてやろうと考えたが、あまりにも遅いし、どっちみち操作して浮かしているので、掻き消すか、遠くにやる方法しか風の玉を処理する方法がない。なので、【風玉】を何度も放って掻き消してやった。
「フンッ……そこまでたいした使い手ではなさそうだな」
わしの【風玉】を見て秀忠は勘違いしているようなので、忠告してやる。
「そんにゃこと言ってると、さっきみたいに無様に負けるにゃよ~?」
「たしかに見た目で騙されていたな……ならば、最初から飛ばさせてもらおう!」
秀忠はわしとの会話を終えると、大きな風の玉を五つ作り出し、自分を中心に回転させる。
まぁ……普通じゃな。別段、凄い魔法ではない。飛ばすとか言うから、もっと面白い魔法が見られると思ったが、玉藻と比べるとかなり劣るのう。
わしがガッカリした顔で秀忠を見ていると、大きな風の玉がふたつ同時に飛んで来る。見ていなかったからハッキリとはわからないが、さっきの試合はこの魔法でゴリ押しされたと思われる。
小さな式神や小さな風の玉では、秀忠の作った大きな風の玉に押し潰されて、紙風船にジリジリと寄せられて割られたのだろう。
なのでわしは、小さな【風玉】で反撃。数十の【風玉】を作り出し、二重螺旋を描くように発射。大きな風の玉に当たった【螺旋風玉】は、貫通しながら中で動き回り、二個とも霧散させる。
【螺旋風玉】は、それで運動エネルギーは少し落ちたが、秀忠に向かって直進。秀忠は、残りふたつの大きな風の玉をぶつけて相殺した。
「ま……まだまだ~!!」
秀忠は、残っていたひとつの風の玉をわしに放つと、また五つの大きな風の玉を浮かべる。わしも【風玉】を十個ほど作り、二個を下から大きな風の玉にぶつけて進行方向を変え、その間に二匹の【土猫】を作る。
「なっ……式神だと……」
あ、これも日ノ本では式神に分類されるのか。勝手な思い込みで、ゴーレムだと思っておったわい。
「まぁそんにゃところにゃ。かわいいにゃろ? よしよしにゃ~」
「ふ、ふざけやがって……喰らえ~!!」
わしが【土猫】を操作し、足元に擦り寄せて頭を撫でていたら、秀忠は怒りの表情に変わり、全ての風の玉を放つ。わしも皆をマネして、避けずに撃退する。
硬く作った【土猫】を突撃。プラス【風玉】を数十個作って、わしの周りを螺旋状に走らせる。
その結果、【土猫】は風の玉を突き破り、わしに迫る風の玉は全て【螺旋風玉】に掻き消される。とりあえず、秀忠は紙風船を引っ掻こうとする【土猫】と遊んでいるので、よそ見している内に、霧散した魔力は吸収魔法で美味しくいただく。
【吸収魔法・球】を常に張り巡らせていれば無敵だったのだが、そんな無敵すぎるとズルっぽいので自重していたのだ。
魔力が少し回復すると、引っ掻く【土猫】を避けたり、風の玉で撃退しようとしている秀忠に向けて、もう一度、式神攻撃。
三羽の【
「勝負あり! に~し~。猫の王~。猫の~王~~」
行司の勝ち名乗りが響く中、
「にゃんか圧勝してしまってごめんにゃ~」
「くっ……敗者に情けなどいらぬ!」
「あ~。配慮が足りなかったにゃ。てか、帰ったら、ご老公に怒られるんにゃろ?」
「……そ、そんな度量の狭い父ではない!」
「あちゃ。これも気分を害させちゃったにゃ。まぁ今までの戦いで、わしの強さはわかってくれたにゃろ? 大将を出せにゃ」
「大将??」
秀忠は意味不明って顔をするので、わしは真顔でその名を口にする。
「家康にゃ」
「父上を……」
「ご老公を出さない限り、東軍は完敗するにゃ。どうせ切羽詰まったら出て来るつもりにゃろ? 手遅れになる前に、さっさと出ろと言っておけにゃ」
「それは言伝ってことか?」
「にゃんだったら、果たし状でも書こうかにゃ?」
「いらぬ! 父上の強さは私を凌駕する。覚悟しておけよ!!」
「にゃははは。楽しみにしてるにゃ~」
わしは手を振って舞台から降りると、興奮したキツネ神職に取り囲まれた。
なに? 【土猫】を教えろ? 【風燕】を教えろ? 嫌じゃ。
料金を払う? それ、わしが渡した慰謝料じゃろ? 妻も間に合っておる!
さっき触るなと言ったのに、自分から尻尾を撫でさせるな!
だから、師匠と呼ぶな~~~!!
何やらキツネ神職は、全員わしのゴーレム魔法を教えて欲しいから、尻尾を振って寄って来たようだ。もちろんわしはうっとうしく感じたので、控え室にダッシュで駆け込み、喜ぶ玉藻も無視して、オクタゴンに逃げ帰るのであった。
「お楽しみでしたね……」
「クンクン……女の匂いがするニャー!」
オクタゴンに入ると、キツネ巫女の尻尾を撫でていた事を見られていたらしく、怒るリータとメイバイのお出迎え。わしは必死に足に擦り寄り、猫撫で声を出して許してもらうのであったとさ。
* * * * * * * * *
一方その頃、徳川陣営……
「誠に申し訳ありませんでした!」
家康の待つ部屋に入った秀忠は、畳に頭を
「敗因は……」
「はっ! 私の実力不足です。この秀忠……次回に向けて、精進いたします!!」
「実力不足か……」
敗因を聞いた家康は、秀忠に背を向けて考え込む。
己の失策……シラタマの強さを秀忠より下だと決め付けていたのだから、武術、呪術、共に上を行かれては、自分の過ちを認めなくてはならないのだろう。
その事に秀忠も気付いているが、自分が叱責を受ければ家康のプライドを傷付けずに済むので、甘んじて頭を下げている。しかしながら家康からの反応はなく、長い沈黙に耐え兼ねた秀忠は少し頭を上げ、シラタマからの言伝を述べる。
「シラタマ王は、父上が出場しないと勝負にならないと
「………」
再度、畳に頭を擦り付ける秀忠だが、家康からは返事がない。その時間は、数秒、数十秒と流れ、秀忠が頭を上げると同時に家康は振り返った。
「服部
「えっ……相手は一国の王ですが……」
「殺しはしまい。あの猫には、関ヶ原が終わるまで眠っていてもらおうではないか」
「しかし!」
「半壮なら大丈夫じゃ。必ずや、見付からずに遂行してくれる」
「……わかりました」
秀忠は賛成し難い事だが、家康の命令には逆らえず、部屋から出て服部半壮と呼ばれた忍者を呼び寄せる。その服部に、仕事を完遂しろと命令を下すと、服部は一瞬で消え去ったのであった。
* * * * * * * * *
そんな危機が迫っているとは露知らず、わしは夕食をたらふく食って、玉藻にからまれていた。
「そちの式神、神職の者に教える事は出来ないか?」
「え~! 面倒臭いにゃ~」
どうやら玉藻は、キツネ神職にお願いされて、わしにからんで来ているようだ。
「出来れば猫ではなく、キツネがいいんじゃが……」
「玉藻が教えて欲しいんにゃろ~!!」
いや、自分が教えて欲しいから、からんで来たようだ。しばらく「にゃ~にゃ~」喧嘩して、玉藻から何か面白い魔法を教えてもらう事を条件に、この話は落ちついた。
「ぶっちゃけ、玉藻以外きついかもにゃ~」
「それほど呪力が必要なのか」
「せめてワンヂェンぐらい呪力がないとにゃ。土で作るのが、たぶん一番簡単でお安いかにゃ? あとは、そっちの式神と似たようにゃ事をすればいいだけにゃ」
「ならば、呪具と併用すれば、呪力は節約できそうじゃな」
「それは面白そうだにゃ~」
それから玉藻と長く話し込んでいると、イサベレがキョロキョロしながら近付いて来た。
「ダーリン。ちょっといい?」
「にゃ? どうかしたにゃ?」
「何か嫌な感じがする……」
嫌な感じ? イサベレの危険察知に何か引っ掛かったのか……。となると、徳川からの嫌がらせかな?
イサベレの勘を信じたわしは、玉藻との魔法談議はお預け。同席していたリータ達に指示を出す。
「メイバイ。エルフ組を全員食堂に入れてくれにゃ」
「わかったニャー!」
「イサベレは王族に危害が及ばないように見張っておいてにゃ」
「ん」
「リータは入口に立って、不審人物のチェックにゃ」
「はい!」
「玉藻も、注意だけはしておいてにゃ」
「ああ。何かわからんが、招待客は妾が守る」
簡単な指示を出し、エルフ組が食堂に揃うと、わしはリンリーを連れて食堂から出る。すると、エリザベスまでわしについて来たので念話を繋げる。
「なんじゃ?」
「何か変な感じがするの」
エリザベスがイサベレみたいな事を言っておる……イサベレの危険察知までパクったのか? 本当にエリザベスは魔法の天才じゃな。
「それって、食堂の中からするのか?」
「ううん。外……それも近い位置。でも、方向がわからないから気持ち悪いのよ」
「なるほどのう。とりあえず、徳川の狙いはわしだと思うから、距離を空けておいてくれ。リンリーもな」
「「うん」」
二人は食堂を出た所で待機させ、わしは一人でオクタゴンの正門に向かう。
探知魔法を小まめに飛ばし、警戒して歩いていると、何か小さな反応があったので、わしは振り向いて肉球で叩き落とす。
形状的に針だと思ったんじゃが、どこ行った?
「にゃっ!?」
地面に落ちたであろう針を探していると、何本もの針が四方八方から飛んで来て、わしは避け切れずに地面に倒れるのであった。
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