444 呪術対決にゃ~


「よくやったぞ~!」

「にゃ!? 苦しいにゃ~」


 わしが尻尾を振るムキムキ三弟子と共に控え室に戻ると、玉藻がわしに抱きついて来た。玉藻は、さすがはわしと同格の妖怪とあって、動きが速すぎて避けられなかった。


 けっして、キツネ耳ロリ巨乳の胸に挟まれたいわけではない。いや、マジで!


 九百歳のババアの胸は、わしは迷惑なのでバタバタとしていたら、ようやく離してくれたが、次は笑い出した。


「コ~ンコンコン。秀忠を拷問しようとするとは面白い。コ~ンコンコン」

「しょうがないにゃろ~。あいつが負けを認めてくれなかったんだからにゃ」

「是非とも拷問を見たかったんじゃが、本当に残念じゃ。コ~ンコンコン」

「やるわけないにゃ~。それより、ジジイはどこに行ったにゃ?」

「翁? ……はて? ここには来てないぞ」


 どうやら守平もりへいは、もう一人の弟子と共に、玉藻に挨拶すらせず消えたようだ。もちろん玉藻も騙されていたので、謝りもせず逃げた守平のせいで、笑顔から悪い笑顔に変わった。


 たぶん捕まったら、拷問されると思う。ブツブツ拷問の種類を呟いているし……


「もう関わってやるにゃ。ほれ、そんにゃ事より、流鏑馬やぶさめの出場者を決めなきゃにゃ~」

「そ、そうじゃった! 急いで戻るぞ!!」

「にゃ~~~!」


 わしは玉藻に手を引かれ、凄い速度でオクタゴンに連れ帰られるのであった。

 ちなみに、ムキムキ三弟子は置き去りに出来たのだが、あとからオクタゴンにやって来て、正門で正座をしてずっと待っていたので、雑用係として雇ってあげた。

 いや、さっちゃん達モフモフ好きの、目の保養用にマスコットとして雇ってあげた。何故か人間のマッチョは、王族奥様方から人気があるけど……



 オクタゴンに戻ると、さっそく王族に流鏑馬出場者を聞いてみたが、日ノ本が用意してくれた弓は扱いが難しくて、誰も使えないとのこと。

 ならば、わしが昔森で作ったクロスボウがあったので使ってみるかと案を出したが、的は三個あるから、馬に乗りながら矢を補充できないので、これも却下されてしまった。

 と言うわけで、玉藻はわしに出場を求めたが、わしも弓なんて使った事がない。クロスボウですら遊び程度でしか使った事がないので、出場を辞退した。


 だって、わしより遅い武器なんて、使う機会が無かったんじゃもん。どうせ外れるなら、自分で走って、矢を的に突き刺したほうが手っ取り早いんじゃもん。


 玉藻、納得。わしの言い訳は、玉藻も同じ事を思っていたらしい……



 残念ながら流鏑馬対決は、西の地からの出場者はなく、日ノ本の馬の扱いや弓の扱いを観戦するだけとなった。

 それでも王族達は、猛スピードで走る馬の上から放たれる弓矢、正確に射貫かれる的、ゴール時間や得点が司会から告げられると、勝手に予想を言い合って盛り上がっている。

 何やら王族の間で金貨が動いていたから、賭けている奴等がいたようだ。わしは参加していないので、さっきの試合の感想を聞きながら、皆に撫で回される。


 しかしながら、次の競技の出場者も決めないといけないので、ゴロゴロ言いながら玉藻とも話し合う。そうしていたら「わっ」と会場から声が聞こえて来た。どうやら流鏑馬対決の決着がついたようだ。


「くっそ~……負けてしまった」


 流鏑馬対決は、東軍が僅差で西軍を破る。その結果に、東軍陣営は物凄く盛り上がっているようだ。


「まぁ東軍はこれで一勝にゃんだから、焦る事ないにゃろ」

「そうなんじゃが、いつもは西軍が勝っておったんじゃ。まさか取りこぼすとは思わなんだ」

「にゃんだ~。それにゃら、西の地から出さなくてよかったんにゃ~」

「いや、念には念をだな」


 おそらく多国籍組を出していたら大敗していたので、出場させなくて正解だったのであろう。無理して出していたら、不甲斐ない結果になっていたので、玉藻は複雑な顔をしていた。



 流鏑馬対決が終われば、食事休憩。食堂にて、わしはダラダラしながらリータに餌付けされる。なんだかんだで、お昼寝の時間が取れないのはきつい。

 なので、うとうとモグモグしながら次の競技の話をしていたら、出場者が決定していた。


「またわしにゃ~? 呪術対決は、京の神職でにゃんとかならにゃい?」

「いいや。確実に取るには、シラタマの力が必要じゃ」

「う~ん……他の護衛はどうなってるにゃ?」

「呪術師は、ほとんど猫の国に置いて来たじゃろうが」

「じゃあ、ワンヂェンとオニヒメを貸してあげるにゃ。遊んでおいでにゃ~」


 玉藻がわしを出場させようとするので、わしは二人に押し付ける。だが、オニヒメは乗り気……意味がわかっていないので遊んで来ると言うが、ワンヂェンは微妙な顔をしている。


「うちで勝てるかにゃ~?」

「別に勝たにゃくていいにゃ。でも、ワンヂェンはうちの国でトップクラスの魔法使いにゃから、普通にやったら楽勝じゃないかにゃ~?」

「楽勝にゃの!? それならやってもいいにゃ~」

「念の為、出場者じゃないリータとメイバイも連れて行ってあげてにゃ~」


 とりあえず、面白く無さそうな競技はパス。ワンヂェンとオニヒメを送り込んだから、なんとかなるはずだ。もしもオニヒメが暴れた場合の、武装したリータとメイバイを送り込んだから、オニヒメ対策もバッチリだ。

 なので、わしとコリスはお昼寝。冷房完備の部屋に戻って、コリスベッドで眠る。



 お昼寝時間が二時間を過ぎた頃、玉藻が起こしにやって来たのだが、コリスベッドに、さっちゃんと兄弟達も埋もれていた。


「ふにゃ~。もう終わったんにゃ~」

「そうじゃ。次の競技は、必ずシラタマに出てもらうからな」

「今日は、もういいんじゃないかにゃ~?」

「いいや、先ほどの呪術対決は互角になってしまったから、出てもらわないことにはならない」

「互角にゃ?? あの二人が居て、にゃんでそんにゃ事に……」

「秀忠が出ておったんじゃ。その事は、移動しながら説明する。急ぐぞ!」

「にゃ~~~!!」


 またしても、玉藻はわしの手を引き、凄い速度で移動する。思わず大声で叫んでしまったから、さっちゃん達を起こしてしまったようだ。



 選手控え室に入ると、ここで先ほどの対決の説明を受けた。

 先ほどの対決は、呪術対決。戦闘ではなく、的に当てるだけの簡単な競技と聞いたので、わしは興味が無くてお昼寝していたのだ。観客には、派手な攻撃魔法が見れるから人気らしいので、めちゃくちゃ盛り上がっていたとのこと。

 盛り上がっていた理由の要素に、秀忠が怪我を押して出場した事も大きいらしい。痛みに耐え、それでも的を正確に射貫く秀忠に、観客は感動したっぽい。


 もちろん、それだけで盛り上がっていたわけでもない。特別ゲストのワンヂェンとオニヒメも貢献していたとのこと。わしより猫らしい黒猫と、本物の鬼を目撃した観客は、大いに盛り上がったらしい。わしだって猫なのに……

 その二人が、全ての的をパーフェクトで射貫き、東軍のタヌキ神職も秀忠を目の前にして不甲斐ない結果を出すわけにもいかず、奮闘したとのこと。

 最後の遠当てまでやや東軍が勝っていたらしいが、ここで差が出て、西軍に勝利が傾き掛けた。だが、秀忠が孤軍奮闘し、ワンヂェンが外して、さらに的が遠くなると、オニヒメが外す。

 秀忠はオニヒメより遠い的を射貫き、もう一枚を抜けば東軍の勝ちは確実だったのだが、外してしまったようだ。


 そこで集計をきっちり取ると、点数は同点。この結果にも、観客は大いに盛り上がったらしい。


「ふ~ん……そんにゃに盛り上がっていたにゃら、見ておけばよかったにゃ~」

「妾は胃が痛かったがな。それより、次の競技の規則は覚えておるか?」

「人に当てたらダメなんにゃろ? あと、肩と頭に乗せた紙風船を割れば勝ちにゃ」

「わかっているならいいのじゃが、それが一番難しいから、重々注意するんじゃぞ」

「わかっているにゃ~」


 ルール説明と、出場者である神職の白キツネ達の紹介を受けると、わしは疑問を口にする。

 白キツネがこんなに多く居るのかと聞いたら、全員、地の白さじゃないんだって。たんに白い毛皮に変身へんげしているだけ。魔力量も思ったほどないようだ。

 係のキツネが呼びに来たら、わしを最後尾に歩くのだが、東軍から何やらブーイングが飛んで来た。さっきの拷問発言がマズかったようだ。だが、そんな声は慣れっこ。うるさいとしか思えない。


 わし達が舞台に上がったところで東軍の入場を待っていると、秀忠を先頭に入場して来た。秀忠はまだ足が治ってないからか松葉杖を使って歩き、その姿に観客は感動してるようだ。

 秀忠の後ろには白いタヌキが歩いていたので、ここでも質問。やはり変化で色を変えているだけで、キツネ神職と大差ない実力らしい。



 西軍の四人の白キツネプラス白猫と、東軍の五人の白タヌキは舞台中央で睨み合う。


「にゃんか痛々しいにゃ~。そっちで治せる人がいないのかにゃ?」


 わしは秀忠の足を見ながら問う。


いましめの為に、このままにしているだけだ」

「でも、少なからず動く競技にゃろ? それじゃあ本気を出せないにゃ~」

「これぐらいの不利があるほうが、ちょうどいい。さっさと始めようぞ」

「ま、わしはどっちでもいいにゃ~」


 わしと秀忠が同時に振り返ると、東西の出場者も控え席に向かう。そうしてわし達が席に着くと、行司に先鋒が呼ばれて「はっけよい」。呪術対決が始まった。


 その闘いは互角。風の呪術で作った玉をお互い飛ばし、相殺したりしながら、頭と両肩に乗せたみっつの紙風船を狙う。

 たまに会場に向かう風の玉があるので、わしは追いかけようとしたが、玉藻が仁王立ちで立っていたので追う事はやめた。あの程度の魔法では、玉藻の鉄壁は抜けられないだろう。

 そんなこんなで先鋒は、一進一退で紙風船を割り合い、お互い残り一個となったところで、辛くも西軍キツネが割った。


 まずは一勝。西軍ベンチが盛り上がっていると、次の闘いはあっと言う間に西軍が負けた。呪力切れだとのこと……

 もっと考えて闘えとわしが言っていると次の試合が始まり、話を聞いている内に西軍の勝利。そして東軍の勝ちとシーソーゲームが続く。


 つまり、呪力の総量が勝敗の決め手になるわけなのだが、わしは思う事がある。


 それなら避けろよ! 避けたら呪力の節約になるじゃろ? え……神職は動くの苦手? だったら練習したらいいんじゃ~!!


 わしの訴えは、時すでに遅し。そもそもこの競技に出る神職は呪術特化で、それしか練習していないから、避けたりしないんだって。秀忠もそれがわかっているから、怪我を治していないらしい……

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