499 猫王様の東方見聞録にゃ~


「いいわ。続編は、リータ達に頼むわ。ジョジアーヌ達から聞いたんだけど、重版に次ぐ重版らしいの……」

「コリスちゃ~ん? これがいっぱい売れると、美味しいのがいっぱい食べれるんだよ~?」


 『猫王様の東方見聞録』の続編について、わしが「にゃ~にゃ~」拒否っていたら、女王はリータとメイバイに標的を移し、さっちゃんは何故かコリスを説得していた。


「シラタマさん!」

「やるニャー!」

「おいしいの!!」


 金に目が眩んだリータとメイバイと、エサに目が眩んだコリスは、興奮してわしを挟み込んで来た。


「そうは言っても、最近出張ばっかりにゃ~。王様がこんにゃに国を空けていていいにゃ?」

「それは、王様らしい仕事をしてから言ってくれますか?」

「いっつも暇そうにしてるんだから、せめてお金を稼ごうニャー?」

「わたしもおかねかせいで、おいしいのたべる!!」


 わしの言い訳は聞く耳持たず。それでも、わしにも王様としての自覚はあるのだ!


「家でゆっくりしたいにゃ~。たまに旅行するって事でどうにゃろ?」


 いや、わしにも王様らしい仕事は無いと自覚していたので、代案を提出してみた。


「「「働け!!」」」


 当然、そんな温い代案はすかさず却下されて、続編の為の取材旅行は決定してしまうのであった。


 コリスまで怒鳴らんでも……リータとメイバイに似て来たな……


 それからやる気のないわしは、適当に皆の話を聞き流し、本の表紙にサインを書き、中表紙に手形を押すのであった。ちなみに、リータとメイバイもサインを求められてあわあわサインし、コリスも何故かサインと母音を押していた。



 今日はお城で一泊。玉藻と家康のお城見学が終わると、わしはさっちゃんと女王が尻尾を離してくれなかったので、二人の間で眠る。皆は各々部屋を与えられたらしいが、猫ファミリーはひとつの部屋で眠ったようだ。


 翌朝は、朝メシをゴチになり、東の国観光。家康の為とか玉藻は言っていたけど、自分の為じゃろ? 一回うろうろしたくせに、また「わーきゃー」言っておるし……


 わしが猫の国に帰ろうと何度も言っても、「猫の国では日ノ本に近いから勉強にならん」と言われてテコでも動かない。そのせいで日が暮れたので、もう一泊。

 我が家でアダルトフォーと一緒に飲み明かし、翌日……やっとこさ猫の国に帰った。


 ここで、ようやく日ノ本との国交を結ぶ条約書を交わす。双子王女が手を回して、役場職員が公家に条約書を読み聞かせ、書き移しも済んでいたようなので、一日の時間を空ける事にした。


 サボってませんって~。いまからやったら、夜中にまで協議する事になるからですよ~。これも玉藻達の為ですって~。


 玉藻達は初めて経験なのだから、読み込んでもらってから条約を交わそうとしたら、リータ達に睨まれた。しかし、言い訳とスリスリで、なんとか納得してもらったわしは、我が家の縁側で長旅の疲れを取るのであった。



 翌朝は、本当に仕事。役場の大会議室で、玉藻と家康を前に戦いを開始する。


 でも、そのキツネとタヌキはなに? 商売や数字に強い者ですか。わしの忠告を守ってくれたのですね。そうですか。


 友好条約については、ほとんど玉藻達が呑める内容だったので、少しだけ「にゃ~にゃ~」喧嘩してお互いが納得する結果となったが、技術使用料に関しては、キツネとタヌキがやり手で、めちゃくちゃ喧嘩した。

 玉藻と家康が止めに入るほどの熱い喧嘩であったが、キツネとタヌキはそれで止まらず、小数点の戦いに突入して、終わったのは夕刻。わしとキツネとタヌキは、固い握手を交わして大会議室を出たのであった。


「おい……わらわ達の事をすっかり忘れておるぞ?」

「たしかにわし達は話に入れんかったが……」

「「この仕打ちはなかろう!!」」


 黙ってわし達の熱い戦いを観戦していた玉藻と家康は激オコ。わし達に追い付いて来て「ギャーギャー」わめき散らすので、プルプル震えるキツネとタヌキを逃がし、わしは「にゃ~にゃ~」喧嘩するのであったとさ。


 それからいちおう二人とも握手を交わし、食堂でぐったりしながらリータとメイバイに餌付けされ、ふらふらと居住スペースで倒れたわしは、メイバイの膝で安らかに眠る……


「それで、条約はどうなったのですの?」

「技術使用料は、あの値段に落ち着きましたの?」

「これ、勝手に目を通してくれにゃ~」


 眠れずに、事の顛末が気になって居住スペースにまでついて来ていた双子王女に、条約書を提出して答えとする。


「条約に関しては、全て呑ましたみたいですわね」

「技術使用料は……あんな安値を吹っ掛けておいて、よくもまぁ一割アップで済ましましたわね」

「ゴロゴロ~……にゃ!?」


 双子王女は褒めて優しく撫でてくれていたが、言いたい文句があったので、わしは飛び起きる。


「あの本はなんにゃ! わしはにゃにも聞いてないにゃ~~~!!」

「「あの本??」」

「『猫王様の東方見聞録』にゃ!!」

「「ああ……」」


 どうやら『猫王様の東方見聞録』は、関ヶ原開催中に、猫の街を任されていたセイボクとウンチョウの元へ、最初に届けられたそうだ。

 その本を読んで、わしを神のようにあがめるセイボクとウンチョウは、猫耳の里の皆にも読んで欲しいと考えたらしい。

 だが、代表の代理では勝手な事をするわけにいかず、双子王女の帰還を待ち、日ノ本へ旅立ったウンチョウの願いも込めて、セイボクが猛プッシュしたとのこと。


 双子王女は何事かと思ったが、本を読んだら面白かったので、鶴の一声で販売が決まったらしい。それも、挿絵も表紙も校閲作業も猛スピードで行い、一週間で製本したらしい。猫の一声も待っていてくれてもいいのに……


 なので、わしが帰った頃にはとっくに出荷しており、また出張した際には増産された本も出荷され、猫の街にはあまり広まっていなかったらしい……


「と、ところでにゃんだけど、いま、にゃん冊ぐらい売れているにゃ?」

「そうですね……千ってところでしょうか」


 ま、まぁそんなものか。本は手書きで写すか、魔法使いが複写魔法とかいうのを使って作っているから高いし、元の世界のように、十万も百万も売れるような世界ではない。これなら上流階級止まりで終わるはずじゃ。

 でも、千冊でも驚異的な数字だと思うんじゃけど、いったい全体どうやって作ったんじゃ? 猫の街では、絶対無理な数字じゃろう……


「なので、猫の街ではどうしても、施設も人手も足りませんので、ソウで製本しておりますの」

「ホウジツさんに読ませたら、二つ返事でやらせてくれとなりましたわ」


 ソウ……ま、まさかアレを使っているのでは……いやいや、アレは未完成。上手く印刷できなかったから、ソウの倉庫で眠っていたはず……


「まさか大量に印刷できる装置があるなんて、どうして教えてくれませんでしたの?」

「にゃ……にゃぜそれを……」

「ホウジツさんが使えればと、口を滑らせてくれましてね」


 おい、ホウジツ! ハニートラップに引っ掛かってんじゃねぇよ! いや、活版印刷機は特に秘密にしてなかったか。立て札よりも新聞が作れないかと研究して、投げ出したんじゃった。

 なんせ、装置が大きくなり過ぎたのに、正確に時間が計れなかったから、どうしても文字のズレが出てしまう……


「つゆちゃんを派遣したら、動くようになったらしいですわ」


 でしょうね……あとは調整だけじゃったもん。アルファベットを入れ替えるのは面倒じゃけど、それさえ間違えなければ、あとはベルトコンベア方式で流されて行く……


「ですので、一万部刷る予定ですわ」

「お……多いにゃ! 絶対売れ残るにゃ!!」

「庶民でも買えるように、安い紙を使い、大きさも小さくしてますから大丈夫ですわよ」

「それに、手作業ではないらしいですし、人件費もかなり安くなるとホウジツさんがおっしゃっていましたわ」


 ぶ……文庫本!? それに、わしの知らないところで産業革命が起こっておる!!


 わしが驚きのあまり固まっていると、双子王女が声を揃える。


「「それで続編の話なのですが……」」

「無理にゃ~! そんにゃに長旅ばっかり出来ないにゃ~!!」

「「何を言ってますの?」」

「にゃ? いますぐ旅立てって事じゃにゃいの??」

「まだ一巻が売れているのに、そんなにすぐ売るわけがないでしょう」

「二巻が完成したと伝えようとしただけですわ」


 完成してんのか~い!! そう言えば、一巻は日ノ本発見までとか言っていたか。てか、完成してるって、トウキンの娘は何がんばっちゃってんの?? いや、まだ販売してないからセーフじゃ!


「じゃあ、わしも読んで、書き替える所があるにゃら助言させてもらうにゃ。販売はそのあとって事でにゃ~」

「何を言ってますの? もう完成していると言ってますでしょう」

「シラタマちゃんの仕事は、日記の提出と、小説家へのネタ提供ですわよ」

「関ヶ原の祭りはわたくし供でやっておきましたので、浜松やヤマタノオロチについて話をしておあげなさい」

「それと、販売スケジュールはこちらで決めますので、年に四回は新天地に旅すること」

「何かとてつもない敵と戦って来る事はマストですからね」

「にゃんで~~~!!」


 こうしてわしは、王様なのに、冒険家とかいう仕事も兼任させられるのであっ……


「いやいや、わしは王様にゃろ? 国の仕事で忙しい王様が、そんにゃに国を空けていいにゃ?」

「「い~そ~が~し~い~~~??」」

「すいにゃせん!!」


 当然、わしの仕事を熟知している双子王女には悪足掻きは通じず、スリスリ擦り寄って、冒険をしていない時は、家でゆっくりさせてもらう権利を勝ち取るのであったとさ。

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