500 珍しいお客さんにゃ~


 日ノ本との友好条約締結が終わり、『猫王様の東方見聞録』の続編が決まった翌日、わしはさっそく小説家の猫耳娘ふたりを呼び出し、役場の庭で話を聞かせる。

 しかし、何から話していいいのかわからないので、渡した日記を読ませて質疑応答。

 大量の死者を出した浜松の惨状は、子供に聞かせたくなかったからお茶を濁して伝えようとしたのだが、二人が詳しく聞かせてくれないと執筆できないと言うので、渋々話す事となってしまった。


 だって、「執筆できないならそれでいいよ~」って、言ってる時に、ちょうど散歩に出て来た双子王女に壁ドンされたんじゃもん。ハイヒールの壁ドンは怖かったんじゃもん!


 双子王女が離れ、しばらく話をしていたら鐘の音が聞こえて来た。昨日からなんの音かと不思議に思っていたら、正午の鐘とのこと……なので、猫耳娘を誘って食堂でランチ。そこで双子王女に「にゃ~にゃ~」文句。

 時計台が完成しているならなんで教えてくれないのかと聞いたら、わしが出張している間に完成して、完成しているのに使わないのはもったいないって事になり、完成式典も滞りなくやっていたとのこと……


 別に出席したいわけじゃないけど楽しみにしていたんだから、そんな大事な式典を王様抜きでやるかね~?


 わしが真っ当な事を言ってみたら、二人に目を逸らされた。あとでキツネ少女お春に聞いてみたら、双子王女も楽しみ過ぎて、わしの帰りを待てなかったようだ。

 なので、これからの双子王女の見張りはお春に任せる事にした。お春はわしの役に立てて嬉しそうに尻尾を振っていたけど、スパイ活動をさせるので心苦しい。

 でも、服部先生の忍者講座には出席するように言っておいた。クノイチは無理でも、心構えぐらいは勉強してもらおう。

 ちなみに、お春は役場全般のメイドの仕事をしている事もあり、メイド服が制服になったらしい。若干スカートが短く、太もも辺りにナイフが見えた気がするが、かわいいから褒めておいた。きっと気のせいだろう。



 ランチが済むと、また庭で質疑応答。話し込んでいたら、玉藻と家康が聞き付けて、自分達も本に載せろと言って来た。この目立ちたがり屋どもめ……


 まぁ実際にヤマタノオロチの中で戦った者の話を聞くのはいい事だろう。でも、わしの演説を原文そのままで聞かせないでくれる? なんで覚えておるんじゃ!!

 わしが珍しく真面目な事を言ったので、玉藻は心に響いたらしいが、笑っておったじゃろ? わしの目を見て、本当の事を言ってくれ。


 わしの目を見てくれない玉藻は、肩が震えていたから絶対に思い出し笑いをしてると思う。家康も今ごろ笑って目を逸らすし……


 そんなこんなで玉藻と家康からの聞き取りを終えた猫耳娘は、元の姿の巨大キツネと巨大タヌキも見たいと言い出した。

 二人は断るかと思ったが、完成している第二巻を書き直し、かっこいい勇姿を書いてもらえると聞いて、二つ返事で変化へんげ


「「モフモフ~!」」


 だが、取材そっちのけで、猫耳娘ふたりは撫でる撫でる。


「「「「「モフモフ~!!」」」」」


 どこで聞き付けたかわからないリータ達や双子王女が突然現れて、飛び込む飛び込む。さらには、役場で働く職員までもが吸い込まれて、皆、だらしない顔でモフモフ言ってるよ……


 モフモフホイホイ……巨大キツネと巨大タヌキの毛並みには、誰もあらがえないようだ。


「こ、これ! どこをまさぐっておるんじゃ!」

「そ、そこは……シラタマ王も見てないで止めてくれ!」


 もちろんわしは毛むくじゃらなので、玉藻と家康にくっつく事はしていない。微笑ましく見ているだけだ。たが、お春が指をくわえて見ていたので、準備運動をしてからお春と供にモフモフの海に飛び込んだ。


「「モフモフにゃ~」」


 たぶんお春は、日ノ本最高家臣に失礼があってはいけないので指をくわえて見ていたのだろう。しかし、王様のわしと一緒に飛び込めば怖くない。皆で死ぬほどモフモフを味わったのであった。



「「うぅぅ……こんな扱い初めてじゃ……」」


 モフモフされまくっていた玉藻と家康は、仲良く涙目。いつまでたっても、誰も離れようとしなかったので、わしが助けてあげた。

 一人ずつひっぺがし、だらしない顔をしてるところに三時のおやつを支給して、仕事に戻れと命令したので、王様の命令には逆らえないから皆はブーブー言いながら離れて行った。


 全員が離れると、玉藻と家康はすぐに人型に変化して、もう二度と猫の国では元の姿に戻らないと言っていた。

 わしはそんな二人に「まぁまぁまぁまぁ」と言いながらケーキやクッキーで餌付けして、友好の為にたまには変化してやってくれと説得するのであった。


 だって、皆の絶望した顔がすんごいんじゃもん。何人か魂が口から飛び出ていたんじゃもん!


 ようやくモフモフパーティも終わって、ティータイムを満喫するのだが、おかしな人物が隣に座っていたので声を掛けてみる。


「センジって……いつから居たにゃ?」


 そう。ラサの街の代表であるセンジが、優雅にお茶をしているので不思議に思っていたのだ。いまだに王様のわしへ挨拶すらないし……


「えっと……その……皆さんがモフモフ言っていた辺りからいました……」


 どうやらセンジは、休暇を取って猫の街に遊びに来ていたようだ。キャットトレインに揺られてお昼過ぎに到着し、役場に顔を出したら、モフモフ聞こえる声に誘われて、モフモフの海に飛び込んだんだって。


「ふ~ん……それで、双子王女に用事でもあるにゃ?」

「いえ……猫陛下がお帰りになっていると聞きまして……」

「あ、わしに用があるんにゃ。にゃにかにゃ?」

「この本です! こんなに凄い冒険をしていたのに、ぜんぜん私に話を聞かせてくれないんですも~~~ん」

「ごめんにゃ~。すっかり忘れていたにゃ~」


 どうやらセンジは、わしが旅の話をしに来てくれるのを首を長くして待っていたようだ。それを二度に渡ってお預けされていたところ、本になってから知ったので、苦情を言いに来たらしい。

 なので、センジも誘って旅のお話。猫耳娘からの取材もあったので、途中からであったが、センジも楽しそうに聞いている。



 長い話になると日が暮れて来たので、今日はお開き。また明日に話す事にして、三人はディナーに誘ってヤマタノオロチ料理を食べさせてあげた。

 猫耳娘ふたりは、最初は申し訳なさそうにしていたが、食べた瞬間うますぎて、どうでもよくなったようだ。これで執筆活動にも精が出るだろう。


 うるさいセンジは適当にあしらいながら今日の宿を聞いたら、話に夢中になりすぎて忘れていたとのこと。

 その時、護衛や従者が見当たらなかったのでその事も聞いたら、キャットトレインに乗れば獣対策の軍人が乗っているし、半日も掛からずに猫の街に入れるので、経費削減で連れて来なかったらしい。

 さすがにラサの代表を一人で行動させるには、何かしらの危険があるかもしれないので、次回からは護衛を一人は必ず付けるように言って、我が家のゲストルームにご案内。


「それでそれで~?」

「も、もう寝ようにゃ~」


 それが大失敗。もっと話せとわしを抱いたまま離してくれない。


「リータ~、メイバ~イ。代わってくれにゃ~」

「王妃様! お話を聞かせてください!!」


 わし達を睨んでいた二人に助けを求めたら、センジはわしをポイッとして、二人に詰め寄るのでたじたじ。

 しかし、これはチャンスだ。わしは抜き足差し足忍び足でこっそり寝室に逃げ込み、眠りに就くのであっ……


「今日は、私が抱いてもらうんです!」

「わたしも腕の中で眠りたいです~」


 逃げた先でも問題が勃発。愛人希望のタヌキ少女つゆとキツネ少女お春に、わしは引っ張られてしまう。


「仲良くしてにゃ~。今日は二人に抱かれて寝たいにゃ~」


 わしから抱いてくれと言うと、二人は何やら頷き合って、わしを抱いて安らかに眠るのであった。



 翌朝は、リータの胸の中で目覚めた。つゆとお春の間で寝たはずなのにおかしいなと思ったら、メイバイがお春を抱いて眠り、つゆは真ん中で一人で寝ていた。

 おそらくリータとメイバイは、どのぬいぐるみを抱いて寝ようか悩んで、こういう配置になったのだろう。二人が目覚めても、浮気云々言って来なかったところを見ると、ぬいぐるみがみっつもあって幸せみたいだ。


 それから朝ごはんを食べると、今日も猫耳娘へのネタ提供。センジも話を聞き入り、お昼前にようやく全てを話し終えたと思う。


 次はどこに行くか? 決めてないッス! 双子王女からは凄い敵と戦って来いとは言われたけど……あんまり期待しないでね? わしが死んだらこの国がどうなる?? ……それなら人を探して来いじゃと!?


 戦う事を嫌がったら、違う無理難題が来てしまった。いちおうわしの体を気遣ってくれているようだけど、人を探すほうが難しい気がする。

 それならば、楽に倒せそうな獣を狩って来て、誇張して書いてくれたらいいのではと代案を出してみたら、猫耳娘は嘘は書きたくないんだとか……


 一巻でも誇張して書いていたよね? わし、白カマキリのトドメを刺しておらんよ? たしか日記にも、リータとメイバイがトドメを刺したと書いたはずじゃが……

 筆が乗ってしまったのですか。そうですか。でも、次からは、「事実にもとづいたフィクションです」って書こうね。


 それでも強い敵の話を書きたいようなので説得を繰り返していたら、学校で授業を受けていたはずの玉藻と家康がやって来た。


「なんの話をしていたんじゃ?」


 玉藻はわしではなく猫耳娘ふたりに話し掛け、家康を交えて離れて行く。そうしてゴニョゴニョと話したかと思ったら、わしの元へ戻って来た。


「わしに隠れて、にゃにコソコソしてるんにゃ~」

「いやなに、我が国の事をもっと書いて欲しいから、シラタマを遠くに行かないようにとお願いしておったんじゃ」


 それはそれで助かるんじゃが、わざわざ席を外してまでする話かね? 怪しい……


 わしがジト目で玉藻を見ると、家康が口を開く。


「日ノ本の名所なんか、本に載せてくれると有り難いんじゃ……どうじゃ? いい釣り場を知っているんじゃが、俗世を忘れてのんびりと糸を垂らすなんてのは」


 釣りか~……たしかにのんびり出来そうじゃな。魔法で釣れば簡単じゃから、とっとと釣って、お昼寝ってのもいいな。

 それに釣り場って事は、海は危険だから川じゃろう。そこでウナギを捕まえられたら養殖できるかも? いや、海で産卵するらしいから無理か。でも、こっちで探せとリータ達からお達しが下っているし、ダメ元でも試してみよっと。


「それはいいにゃ~。そんにゃんで本になるにゃら行ってもいいにゃ~」

「では、我らと帰りを合わせて、釣りに行くってことで……楽しみじゃのう」

「本当に楽しみじゃ」


 家康に合わせて玉藻も楽しみと言うので不思議に思ったが、猫耳娘から写真もちゃんと撮って来るように頼まれていたので、その事を聞き忘れるわしであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る