041 女の子を助けるにゃ~


 わし達、王女一行を乗せた馬車は街中を抜け、一際大きな建物の前で停車する。建物の前には数人のメイド服を着た女性と初老の男、兵士らしき者達が整列していた。


「サンドリーヌ様。お待ちしておりました。長旅でお疲れでしょう。こちらへどうぞ」


 初老の男が代表して、さっちゃんに話し掛ける。


「セベリ、久し振りね。しばらく頼むわね」

「はっ! なんなりとお申し付け下さい」


 初老の男はセベリと言う名か。執事ってやつじゃな。わしの若い頃に似てナイスミドルじゃのう。若いと言っても還暦じゃが……百歳まで生きたんじゃ。六十歳なんて、わしから見たら小僧も同然じゃ。

 しかし、広い屋敷じゃのう。こんな屋敷でメイドが四人で足りるのじゃろうか? 王族はさっちゃん一人じゃから問題無いのかな。

 あっちの女性も混じっている兵士は……夜間の護衛にあたってくれるのか。ありがたい。これで熟睡出来るわい。



 わしは家の中を眺めながらセベリとさっちゃんの後に続く。護衛は別室との事で、ソフィ達は、メイドに部屋を案内される。わしはソフィに、一息ついたら全員でさっちゃんの部屋に来るように念話で言い付けておいた。

 セベリの後をトコトコと歩き、階段を上がると豪華な部屋に案内される。


「サンドリーヌ様はこちらの部屋をお使いください。ペットの猫様は、いかが致しましょう。他の部屋をご用意なさいますか?」

「いえ。一緒でいいわよ」

「わかりました。飲み物を用意致しますので、少しお待ち下さい」



 セベリは礼をして部屋を後にする。セベリと入れ替えにソフィ達が入り、その後メイドが飲み物を用意して退室して行く。


「それじゃあ、作戦会議にゃ~」

「作戦会議?」

「普通に過ごすのではないのですか?」

「敵をおびき出す為に、ここにいるにゃ」

「そうだけど、勝手に相手が来るだけだから何も出来る事なんてないよ?」

「アイノは知らなかったかにゃ? 城での暗殺犯は、みんな大切な人を人質に取られていたにゃ」

「そうなんだ!」

「ちなみにアイノは暗殺犯の手先かにゃ?」

「ち、違うよ!」

「焦っているにゃ。ほんとかにゃ~?」

「違うって~」


 まぁ女王が護衛に付けるんじゃから、調査済みじゃろう。それよりドロテの冷や汗がひどい事になっておるから話を進めよう。


「まずは、この屋敷にいる人間の潔白を証明させるにゃ。もし人質に捕られている人がいるなら助け出して、アジトも押さえるにゃ!」

「なるほど。人質を捕られたばかりなら、首謀者の足掛かりになりそうですね」

「でも、どうやって話を聞き出すの?」

「それは……みんなで考えるにゃ!」

「考えてなかったのね……」

「考えてなかったのですね」


 みんなしてうなずいてる……ひどい! 作戦会議と言ったのに、考えていないわしが悪いみたいじゃ。



 わしがドンヨリしていると、皆でなぐさめるようにわしをモフモフする。ただのモフモフ大会に変わっているが、しばらく黙ってモフモフされていた。だが、まったく話をする気配がなかったので結局わしが指揮を取る。

 猫がリーダーってどうなのかと思うが、いろいろ案を出させて話がまとまると、決行に移す。





「失礼します」

「ブリタね。そこの椅子に掛けてちょうだい」


 さっちゃんの部屋に通されたメイドのブリタは、緊張してさっちゃんの正面の椅子に座る。周りには護衛が囲み、ブリタを見つめる。そして、さっちゃんがブリタを指差し、大きな声で、あの有名なセリフを叫ぶ。


「犯人はお前だ~~~!」


 ちょっとした冗談じゃったんじゃがのう。孫のこんな時に言いたいセリフ集から、さっちゃんに言ってみたらと進言したら、ノリノリになってしまった。

 ブリタでこの屋敷にいるメンバーは、派遣された兵士を含めて最後じゃ。さっちゃんは大声で叫ぶもんじゃから、最初のセベリ以降バレバレじゃわい。

 全員、ほのぼのとさっちゃんの遊びに付き合ってくれたがのう。皆の緊張が無いせいか、昨日からブリタの様子がおかしいという情報が出て来たので、ブリタは急遽、最後に回してみた。

 せめてブリタを、より緊張させる為じゃ。苦肉の策じゃから上手くはいかんじゃろうな。


「申し訳ありません!」


 え? 言うの? ここは言い訳のひとつでもするところじゃろう。


「二日前に娘がさらわれ、この手紙が届きました。返して欲しければ、同封されている毒を……サンドリーヌ様の皿に入れろと……」


 洗いざらい喋りおった! てか、さっちゃんのドヤ顔がうっとうしい……


「よく話してくれたわ。あなたが行動を起こす前でよかった。娘は私達が必ず助け出します。だから心配しないで」

「サンドリーヌ様……」


 おお! さっちゃんが王女様っぽい! 普段はやんちゃで我が儘な子供にしか見えないのにのう。ん? なんかさっちゃんが睨んでいる気がする……目を逸らしておこう。


「あとでこの者を、あなたの家まで案内をお願いするわ」

「猫様がですか?」



 わしは出番が来たので人型に変身すると、ブリタは驚いて固まった。


 この屋敷にいる全員に披露済みじゃ。人数も少ないし、後々、見られて驚かれるのも面倒じゃからのう。


「シラタマと申すにゃ。よろしくにゃ」

「よ、よろしくお願いします?」

「シラタマちゃんは、とっても強いから安心してね」

「はあ……」


 ブリタはあまり信用しておらんように見えるのう。しかし、さっちゃんはさっきまでの王女オーラはどこに行ったんだか。言葉遣いもそうじゃが、撫で過ぎじゃ。



 屋敷の人間の調査が終わると夕食の時間となり、どんな食事が出るのかと楽しみにしていたが、お城とさほど変わらずしょんぼりとした。

 もうみんな、わしが人型に変身出来るのを知っているので堂々と食べていたが、セベリとメイドの視線が凄かった。わしのマナーが悪かったのかのう?

 食事が終わるとソフィとエリザベスにさっちゃんの警護をお願いして、猫型に変身すると、ブリタの案内で家へと向かう。


「あの……シラタマ様……」


 わしは話し掛けてきたブリタに念話で応える。


「シラタマ様が家に来れば、娘の居場所がわかるのでしょうか?」

「匂いを辿ってみるにゃ。近かったら、見付かるかも知れないにゃ」

「そうですか……」


 ブリタに安心させる言葉を掛けたいが、見付かる保証は無いから期待はさせられん。



 その後、話すのをやめて歩くブリタの後をトコトコとついて行き、家に入る。ブリタの旦那さんが駆け寄り、心配そうに話し合っていたが、わしは先に娘の匂いのする物を用意するように急かす。

 ブリタは慌てて、娘が攫われた前日に着ていた肌着をわしに渡す。わしは肌着をくわえると、探しに行くからここで待つようにブリタに伝えて家から出る。わしの行動に、旦那さんは不思議そうに見ていたが無視をした。


 匂いのついた物を渡せと言ったが……これ、パンツじゃ! 子供のパンツをクンクン嗅ぐなんて、犯罪じゃなかろうか? こんなところを人に見られたら通報されてしまう。周りだけはしっかり確認しておこう。



 わしは一通り匂いを覚えると、パンツは大事に次元倉庫に入れて、匂いを辿りながら移動する。数十分後、匂いが続いていく、一軒の家に辿り着く。


 ここにいるのかな? わりと近くにとらわれておるな。しかし、さっちゃんの屋敷より小さいが、立派な屋敷じゃのう。ここら辺も貴族の別荘地か。そうなると、暗殺には貴族が関与しておるのかのう。

 ここに来るまで明かりのついている家も全然無かったし、空き家に入っているのかもしれんが……とりあえず突撃しよう。晩ごはんも出るかもしれん……無いか。


 わしはどうでもいい事を考えてから、どこか忍び込めないかと周りを眺め、バルコニーに飛び乗る。



 ここが開いてないと壊すしかないか……お! ラッキーじゃ。窓が開いておった。おっと。侵入したものの、この猫型ではドアノブが回せん。


「へ~ん、しん!」


 フードも深く被り、名刀【白猫刀】も腰に差して準備万端じゃ。じゃが、わしの探知魔法では室内じゃ使い難いんじゃよなぁ。肉眼で確認するしかないか。猫じゃし、多少暗くても人間より見えるからなんとかなるじゃろう。



 わしはドアノブを静かに回し、二階の通路に出る。二階には数部屋あったが、人の気配が無かったので静かに階段を降りて、一階を探索する。すると、ドアの隙間から光が漏れている部屋を発見して、ひっそりと近付き、耳を当てる。


 声から察するに、何人かいるみたいじゃな。ここの家の者か? それとも誘拐犯か? 悩んでいても仕方ない。ブリタの娘の匂いも強くするし、間違い無いじゃろう。

 もし、間違っていたらさっちゃんと一緒に謝ろう。さっちゃんなら着いて来てくれるはず。そうじゃろ?



 わしは勢いよくドアを開ける。開けると同時に、三人の男の視線と敵意のこもった怒鳴り声が飛んで来る。


「誰だ!」

「どこから入ってきやがった!」

「さらって来た子供か!?」


 ここにも馬鹿がおる。何も言ってないのに教えてくれるのはありがたいのう。誘拐犯確定じゃ。一旦眠らせてから尋問するか。



 わしは【白猫刀】を抜くと半回転させて、誘拐犯三人を一瞬で斬り伏せる。そして決めセリフを言う。


「峰打ちにゃ……………峰打ちにゃ!」


 やっぱり「峰打ちじゃ」と言えない……この猫の口め! とりあえず気絶させたし、動きを封じておくか。


 わしは誘拐犯の武器を没収すると、土魔法を使い、誘拐犯の手足にかせを掛け、動けないようにする。誘拐犯を拘束すると、一階を探索する。


 誘拐犯の残党は無しか。特にめぼしい物は無いのう。ブリタの娘さんの匂いを辿ると……あそこが怪しいか。



 わしはブリタの娘の匂いが強い方向に足を進め、ドアを開ける。ドアを開けると地下に続く階段を発見したのでそのまま進む。すると、女の子のすすり泣く声が、牢屋のドアの格子から聞こえてくる。


「うぅぅぅ」


 泣いておる。あんな牢屋に入れられてかわいそうに……いま助けてやるぞ。


 わしは牢屋に近付き女の子に話し掛ける。


「助けに来たにゃ。怪我は無いかにゃ?」

「たすけ?」

「ブリタお母さんに頼まれたにゃ」

「おかあさん!」

「いまから出してあげるけど、わしの姿を見て驚かないで欲しいにゃ」

「うん。おどろかない」


 わしはどうやって牢屋の鍵を開けるか考えながら軽く辺りを見回すと、牢屋の前に掛かっている鍵があったので試してみる。無事、牢屋の鍵は開き、わしは中に入る。


「こども?」


 女の子の質問に、わしはフードを取り、顔を出して答える。


「猫だにゃ~」

「ねこさん!」

「怖がらにゃいで……」

「かわいい!」


 はい。そうですよね~。

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