040 到着だにゃ~


 わしはさっちゃん暗殺犯であろう五人の賊を峰打ちで斬り伏せ、意識を刈り取った。そして、賊を一箇所に集めると持ち物を没収して、土魔法で作り出した頑丈な檻に閉じ込める。

 賊を閉じ込めると、わしはフードを深く被り直し、水魔法を賊にぶっかけて起こす。


「なんだ!?」

「……水?」


 賊を起こすと、わしは地面にあった枯木に火を点ける。うっすらと辺りが明るくなったところで、賊は自分達の置かれた状態とわしの存在に気付く。


「檻?」

「お前は誰だ!」

「わし? わしは護衛にゃ」

「そんな小さいのに王女の護衛か」

「「「ギャハハハ」」」


 やっぱり馬鹿じゃのう。王女など一言も言ってないのに。それにその小さい奴に負けたと気付かないのか? 笑いやがって!

 ちょっとだけいたぶってもいいじゃろ? ちょっとだけじゃ。


「【小火の玉】【小火の玉】【小火の玉】にゃ」

「ギャーーー!」

「あち~~~!」

「やめろ~~~」

「け、消せ~~~」

「【ウォーターーー】!」


 賊はわしの【小火の玉】で服を焦がし、騒ぎ出す。その騒ぎの中、魔法使いらしき男が少量の水を出して、なんとか消火したようだ。


「次、騒いだら殺すにゃ」

「なにを~」

「【小火の玉】にゃ」

「ウ、【ウォーター】」

「わしの質問に答えるにゃら殺さないけど、どうするにゃ?」

「誰が答えるか!」

「じゃあ死ぬにゃ~」


 わしは土魔法を操作し、ゆっくりと檻を小さくしていく。賊は最初は騒ぎ、暴れていたが、檻が小さくなっていくと物理的に静かになっていく。静かになると、わしは小さくなるのを止める。


「で、最後の言葉は『誰が答えるか』で間違いないかにゃ?」

「待て!」

「『待て』が最後の言葉かにゃ? わかったにゃ」

「待て……待ってください!」

「うるさいのは嫌いにゃ。代表が話すにゃ」



 暗殺犯のリーダーらしき男が、わしの質問に重い口で答えていく。

 なんでも王都ではハンターをしているが、ハンターギルド以外の非合法な仕事も引き受けているらしい。そこで、黒服の怪しい男に声を掛けられ、報酬が良かったから飛びついたと言う事だとさ。


「お前達が馬鹿なのは、よ~くわかったにゃ」

「待ってください! 全て話したんだから逃がしてください」

「馬鹿にゃお前達に教えてやるにゃ。王女暗殺は重罪にゃ。逃がす訳が無いにゃ」

「そんな……」

「せ、せめて檻を広くしてください」


 暗殺犯は、身動き取れないぐらいぎゅうぎゅう詰めじゃな。広げてやってもいいが……


「広げてやるから騒ぐにゃ! もしもお前達の声がわしの耳に入ったら、どうにゃるかわかるにゃ?」

「……はい」



 わしは暗殺犯が寝転べるぐらいに檻を広げ、馬車に戻る。馬車に戻ると意外な人物……いや、意外な猫が出迎えてくれた。


「終わったの?」

「ああ。エリザベスとルシウスは何をしておるんじゃ?」

「昼に寝過ぎて眠れないだけよ」

「エリザベスが見張り代わってくれるってさ」

「ルシウス! 噛むわよ!!」

「にゃ~!」


 逃げるルシウス。追うエリザベス。どっちも本気じゃなさそうじゃ。

 やっぱりエリザベスはいい子じゃな。わしの食べ物を取らなければ……あと、ネコパンチしなければ……ん? あんまりいい子じゃない??


「猫ちゃん達、起きて来たけど、どうしたのかしら?」

「わしと見張りを代わってくれるにゃ」

「そうなんだ。優しい兄弟だね」

「自慢の兄弟にゃ」

「そう言えば、敵はどうなったの?」

「檻に閉じ込めて来たから大丈夫にゃ。また連絡、お願いするにゃ」

「オッケー。今じゃ繋がらないかもしれないから、朝一でするわ。ここに埋めるって伝えたらいいの?」

「面倒だけど、そんなに離れていないし、朝に十人の盗賊の所に埋めに行くにゃ」

「猫ちゃんがそうするなら伝えておくわ」

「よろしくにゃ。おやすみにゃ~」

「おやすみ~」



 わしはアイノに挨拶を済ませると、兄弟達に感謝と誰かが来たら必ず起こすように伝える、エリザベスは終始、わしの為で無いと言っていたが、あれは孫から教わったツンデレだと思う。

 そして、わしは猫型に戻ると欠伸をしながらさっちゃんのベッドに、起こさないように潜り込む。だが、眠ったままのさっちゃんにガッシリと捕まって、抱かれたまま眠りに落ちていくのであった。




 翌朝、さっちゃんの胸の中で目を覚ますと、ゆっくりさっちゃんから脱出する。尻尾を掴まれるハプニングはあったが、からくも逃げ出した。


「ふにゃ~」

「シラタマ様、おはようございます」

「ソフィ、おはようにゃ~」

「昨夜はまた暗殺犯が出たみたいですね」

「そうにゃ。わしの寝てる間に、何も無かったかにゃ?」

「その一件だけです」


 よかった。もしも強い奴が来ていたり、エリザベスが無茶していたら大変じゃ。何もないに越した事はない。



 わしはソフィと軽く挨拶をすると猫型のまま、暗殺犯の元へ向かう。猫、猫と朝からうるさかったので【水玉】を静かになるまでぶつけて黙らせた。そして、土魔法で檻を浮かせると車輪を付け、檻の上に乗って馬車に向けて動かす。


 う~ん。大きめの車輪を付けたけど、揺れがひどい。スピードを出す予定じゃからこのままだと、盗賊の所まではちとキツイのう。わしが引っ張るのは嫌じゃし、車で牽引するか。



 檻に乗って馬車に戻ると、起きて来た皆に、またあきれた顔をされた。不思議じゃ。


「こいつらを盗賊の所に埋めて来るにゃ。みんなは朝ご飯を用意するから食べて待ってるにゃ」

「ううん。シラタマちゃんと一緒に食べるよ」

「すぐ戻るからいいにゃ」

「シラタマちゃんが何をするか、すご~~~く気になるのよ」


 なんかみんなうなずいておる……兄弟達まで!! 何故に??


「別にたいした事しないにゃ。すぐに戻るから待ってるにゃ!」



 わしは車と檻を土魔法で繋げると、人型になって運転席の中央に乗り込む。人型になるのは猫型では座席が低くて見えないからだ。

 運転席が中央にある理由は、サイドレバーも無いから右や左に寄せる必要が感じられなかった為、見やすさ重視に作ったからだ。


 わしが乗り込むと、さっちゃんとアイノがわしを押し込むように乗り込み、ソフィ、ドロテ、兄弟達が後部座席(居住スペース)に座る。


「なんでみんな乗ってるにゃ?」

「気になるからよ」

「気になりますから」

「気になります」

「気になるよね」

「にゃ~(気になる~)」

「にゃにゃにゃにゃ!(何か楽しそうな予感がするわ!)」


 なに? みんなの木になる発言……わしは果物じゃないわい! このボケは面白くないのう。他に思い付くボケは……じゃなくて!


「みんな、ついて来るにゃ?」

「「「「うん!(はい!)にゃ~!」」」」


 みんな興味津々じゃな……


「はぁ……それじゃあ飛ばすから、しっかり掴まってるにゃ」



 わしは中央に座っているさっちゃんと席を変わってもらい、土魔法でゆっくり車輪を動かす。徐々にスピードを上げて行くと、皆から様々な声が聞こえて来る。


「きゃ~~~! 速い、速い!!」

「振動が少ないですね」

「単体の馬より速いかも」

「こ、怖いです~」

「「にゃ~~~!」」


 みんな概ね楽しそうじゃが、ドロテは怖がりじゃのう。兄弟達は……もっと飛ばせですか。馬車は遅いからのう。

 わしの体感では80キロってところか。パトカーもおらんし、兄弟達の望み通りもっと飛ばすとするか。



 わしがスピードを上げようとしたその時、綺麗に咲いた朝顔……いや、盗賊の顔が見えて、慌てて減速をした。

 幸い王都からの応援もまだ来ていなかったので、みんなには降りないように強く言い、檻の中の暗殺犯を盗賊と同じように朝顔の仲間入りさせて車に乗り込んだ。

 さっちゃんとアイノに「ブーブー」言われたが、無視して発進。さらにスピードを上げて、往復十五分も掛からずに馬車まで戻って来た。


「速かった~」

「信じられません」

「こ、怖かった……」

「猫ちゃん。これは魔道具?」

「そんな物じゃないにゃ。それより朝ごはんにするにゃ~」



 わしはいそいそと食事の準備を始める。食事中もわいわいと車の事を聞かれたが、わししか運転出来ないと言うとがっかりして質問の数は減った。

 しかし、アイノに車の構造について根掘り葉掘り質問された。どうやらまだ、この世界にはスプリングは無いようなので、実物を見せてもピンと来ないみたいだった。

 食事が済めば出発準備。わしがテーブルセットと車を次元倉庫に仕舞うと、さっちゃんとアイノに車に乗りたいと駄々をこねらる。たが、さっちゃん暗殺犯のあぶり出しだから、乗り物が変わるといけないと説得してなんとかやり過ごした。

 また乗せる約束だけはきっちり取られたが、仕方がない。



 こうして朝の騒がしさを終え、ベネエラに向かう。馬車で走るが、一日目のように盗賊に襲われると用心していたが、盗賊の待ち伏せは消えた。


 順調に馬車を走らせ、昼食を挟み、まだ日が高い内にベネエラの街が見えて来た。


「シラタマ様。あの街がベネエラです」


 ふ~ん。大きな湖の側にちょこんと街があるのか。湖で遊ぶには外に出ないといけないのかな? 湖があるって事は淡水魚の料理が食べられるかも。楽しみじゃのう。

 しかし、高い壁はどこの街も一緒じゃのう。検閲けんえつとかあるのじゃろうか? ペットお断りとかあったら嫌じゃな。まぁ王女様のペットを没収するやからはおらんか。



 馬車は街の門に向かい、近付くと、王女一行と気付いた兵に案内される。


「王女殿下。ようこそベネエラへ。お供は護衛三名とペット三匹でよろしいでしょうか?」

「ええ。しばらく滞在させてもらいます」


 さっちゃんは門兵に軽く挨拶をして、街の中へと馬車を進ませる。


「ソフィ。街にはこんなに簡単に入れるにゃ?」

「王族のサンドリーヌ様が乗られていますからね。ふつうは並んで身分証明書の提示や、他国の者なら入国税の支払いで、もっと時間が掛かります」

「身分証明書にゃ?」

「一般市民なら居住区で発行しているカード。ハンターなら所属証明書扱いのペンダントですね。私も騎士の証のペンダントを付けています」


 ソフィは胸元から銀色のペンダントを取り出して、わしに見せてくれる。


「わしも身分証明書が欲しいにゃ~」

「そう言えば、シラタマ様は持っていないのですね。不法入場は犯罪です」

「猫だにゃ~。大目に見るにゃ~。それより、この辺は人がいないにゃ~」


 ソフィの目が怖かったので、わしは慌てて話を逸らす。


「この辺りは貴族の別荘が多い土地ですね。もう夏も終わりですので、領地に戻ったみたいです」


 よしよし。わしの不法入場の話は逸らせたな。


「先ほどの話ですが……」

「あの建物は大きいにゃ~!」

「あちらは、サンドリーヌ様の滞在先になります」


 ソフィはそう言うと、皆に到着するので降りる準備をするように促す。わしは不法入場の件がうやむやになって、ホッと胸を撫で下ろすのであった。


 セーフ! 助かった~~~!!

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