042 拷問するにゃ~


「ねこさんは、おかあさんと友達なの?」

「そうにゃ。心配しているにゃ」

「おかあさんに会いたい……」

「会わせてあげるから、ここからすぐに出るにゃ。わしについて来るにゃ」

「うん!」


 わしが手を差し出すと、女の子はわしの手を「エヘヘ」と笑いながら握る。わしは手を繋いだまま階段を上がり、誘拐犯の部屋まで歩く。


「ねこさん、こわい……」


 倒れている男達を見た女の子は、さらわれた恐怖を思い出したのか、歩みを止めてしゃがみ込む。


「悪い人は寝てるから大丈夫にゃ」

「でも……」

「歩けないにゃら、おんぶしてあげるにゃ」

「……うん」

「よいしょっと」


 あ、癖で年寄り臭い事を言ってしまった。自分より大きい……ちょっと大きい……同じくらいの女の子じゃが、重力魔法で1トンの負荷を耐えていたのに「よいしょっと」はないのう。まだ二歳じゃから気を付けないと。

 誘拐犯を尋問したかったが、怖がっている女の子を送る方が先か。面倒じゃけど、まだ寝てるみたいじゃし、戻ってくるか。



 わしは女の子を背負い、玄関から出るとブリタの家に向けて軽く走る。女の子は「速い、速い」と喜ぶので、徐々にスピードを上げていったら、あっと言う間に家に着いた。

 家に着き、わしがノックをすると両親が慌てて飛び出して来た。すぐに我が子に気付き、わしごと抱きつかれる。降ろすのを待って欲しいと言いたかったが、気持ちを汲んで自重する。

 そして、二人が落ち着くのを待ってから、わしは次元倉庫から女の子のパンツを取り出し、ブリタと目を合わせずにこそこそと手渡した。

 念の為、さっちゃんの屋敷にかくまってもらおうと提案するが、恐れ多いと断られた。だが、わしも引かずに説得をして、なんとか受け入れてもらい、移動する。




「と、言う訳で、しばらく匿ってあげて欲しいにゃ」

「そうね。その方が安全ね」

「サンドリーヌ様……ありがとうございます」


 ブリタ一家は礼を言い、セベリに空き部屋へ案内されて行く。


「シラタマちゃん。ご苦労様」

「救出を優先したから、まだやる事が残っているにゃ~」

「そうなんだ」

「遅くなるから先に寝てるにゃ。ソフィ、ここは頼むにゃ」

「はい。シラタマ様も気を付けて下さい」



 わしは挨拶も早々にフードを深く被り、急いで誘拐犯の元へ走る。屋敷に入ると誘拐犯はまだ眠っていたので、ズルズルと引きずって地下牢に投げ込み、魔法で水をぶっかける。


「うぅ……」

「さっさと起きるにゃ」

「誰だ!」

「質問はわしがするにゃ。まず誰の指示で子供を攫ったにゃ?」

「誰が言うか!」

「じゃあ質問を変えるにゃ。誰から死ぬかにゃ?」

「な……」


 わしは質問すると刀を抜く。誘拐犯はゴクリと息を飲むが、わしの質問に答えない。


 もう一押しかのう?


 わしはフードを取り、大きく口を開け、牙をく。


「誰から食べればいいにゃ?」

「………」

「………」

「………」

「「「ブッハハハハハハ」」」

「猫のぬいぐるみが食べるってよ!」

「「「ハハハハハハ」」」


 逆効果じゃった……笑い過ぎじゃ! じゃが、この姿ではかわい過ぎて脅しに使えないとわかった。ポジティブに行こう! でも、ムカつくから少しは痛い目をみてもらおう。



 笑う誘拐犯を放っておいて、わしは土魔法である装置を作り出す。作った装置には、誘拐犯の一人を力付くで正座で座らせて固定する。そして、膝の上に少し重たい平らな石を置く。

 江戸時代に日本でやられていた拷問、抱き石の刑だ。この装置は、一人でも簡単に行えて、石もズレない、人も動けない優れ物だ。


「な、なにしやがる! どけろ!」

「拷問にゃ。楽に殺すにはやめたにゃ」

「この程度で話すと思っているのか!」


 わしは土魔法で一枚の石を追加する。


「うっ……くそ!」

「いまは下の台は平らだけど、尖った物にしてもいいにゃ。どれぐらい耐えられるかにゃ~?」


 わしは意地悪そうにニヤリと笑う。誘拐犯は事態を把握して、さっきまでの笑い顔から青ざめた顔に変わり、わしの質問に、素直に答えるようになった。


「で、誰に頼まれたにゃ?」

「俺達はボスの指示に従っただけだ」

「ボスにゃ?」

「ああ。俺達は闇の仕事を請けう組織の一員だ」

「ボスは誰に頼まれたか、わかるかにゃ?」

「しらん」

「一枚追加するにゃ~」

「ま、待て! 俺達は下っ端だから本当に知らないんだ」


 う~ん……嘘は言ってなさそうじゃが、もう少し情報が欲しいのう。



 わしは誘拐犯達から根掘り葉掘り情報を聞き出す。


 誘拐犯達はボスの指示で王都から来て、指示通りに貰った鍵でこの屋敷を拠点とする。そして指示に従い、ブリタの娘をさらって、指示された手紙と毒を投函したとのこと……

 指示、指示うるさいわ! 最後の方はボス自慢じゃったし……指示されんと、なんも出来んのか。


「最後に、ボスの名前はなんにゃ? あと、ボスに仕事を頼みそうな人間に心当たりはないかにゃ?」

「アルッティ様だ。ボスは貴族や大商人から仕事を請け負う事が多い。俺達が知っているのはそこまでだ」


 貴族か……貴族の名前も知りたいが、下っ端じゃ知らないじゃろうな。ひとつ良い情報を得られたから、良しとするか。あとは衛兵にでも任すかのう。


「それじゃあ、わしは行くにゃ」

「待て。待ってくれ!」

「なんにゃ?」

「これだけ話をしたんだ。逃がしてくれ。な?」

「馬鹿なのかにゃ? 逃がすわけがないにゃ。行くにゃ」

「待ってくれ! せめて石だけでも降ろしてくれ」


 あ、わすれておった。拘束に使っている土魔法のかせも解いておかないと、一生取れないかも。取るには、手や足も一緒に取らないといけないとこじゃった。



 わしは誘拐犯の拷問器具と拘束を解くと、牢屋の鍵をしっかり掛けて屋敷を後にする。フードを被って別荘地を歩き、さっちゃんの屋敷に着いたのは深夜になっていた。

 夜間、見張りで派遣された兵士に挨拶をして門を通ると、自己紹介は終わっているはずなのに、兵士にガン見された。屋敷のドアは鍵が掛かっていたので、ソフィ達が寝ている部屋の窓を叩いて、気付いたソフィに入れてもらう。

 さっちゃんの部屋に行こうとしたが、部屋の前にも派遣された見張りがいて、騒ぎになると迷惑になると言われ、それもそうかとソフィ達の部屋で寝かせてもらう。


 ソフィにベットに誘われたが丁重に断り、猫ハウスを取り出して入ったら、あからさまに悲しい顔をされた。わしはソフィってそんな子だったかと首を傾げる。

 仕方なく、本当に仕方なく、ソフィのベッドで寝させてもらう事にした。仕方なくじゃ!



 翌朝、ソフィの腕の中で気持ち良く寝ていたら、アイノに叩き起こされた。どうして私のベッドに来てくれないのと言われても、しらんがな。

 わしがアイノの訴えを右から左に聞き流していたら、朝食の時にさっちゃんにチクられて、また浮気騒動となった。


 さっちゃんをなだめ終わると、ようやく昨夜に手に入れた情報を説明し、アイノに指示を出す。


「それじゃあ、誘拐犯のアジトに兵を送ればいいのね。街の兵に通信しておくわ」

「お願いするにゃ。それと例の件もよろしくにゃ」

「わかったわ。こっちは王都ね。行って来る!」

「それにしてもアルッティファミリーですか」

「ドロテは知っているのかにゃ?」

「王都の裏社会を牛耳っている組織です。殺人に人身売買、なんでもするって話です」

「そんにゃ奴らが、にゃんで捕まらないにゃ?」

「なんでも、アジトを見つけて乗り込むと、いつも、もぬけの殻だとか」


 ふ~ん。官権でも味方に付けておるのかな? ヤクザも警察と仲良くしたりするらしいしのう。欧米系の顔でヤクザはないか。こっちではマフィアじゃな。

 それにしても、アイノに頼んだ例の件は上手く行くといいのう。



 昨夜の情報の共有が終わるとソフィ達は食堂から出て行き、わしがまったりとお茶をすすっていたら、さっちゃんが今日の予定を聞いて来る。


「シラタマちゃん。今日はどうするの?」

「昨日、着いたばかりだから、ゆっくりしたいにゃ~」

「え~~~! 泳ぎに行こうよ~」

「泳ぎに行っても、まだ敵の準備が整ってにゃいんじゃないかにゃ?」

「なおさらじゃない! 水辺でゆっくりすればいいのよ。涼しいよ~」

「ここに遊びに来たわけじゃないにゃ」


 わしとさっちゃんで言い合いをしていると、ソフィとドロテが食堂に戻り、言葉をさえぎる。


「サンドリーヌ様、準備が出来ました」

「水着も全員分ありましたよ」


 は? ソフィもドロテも何をしとるんじゃ? 護衛の仕事はどうした! これってわしに聞く前に決定していたのでは?

 しかし、水着か……たしかアイノは、大きなモノをふたつ持っておったな。仕方ない。とても行きたくは無いが、多数決でも負けているし、仕方なく行くとするか。仕方なくな。


「わかったにゃ」

「「「やった~~~」」」

「やれやれだにゃ~」



 わし達は馬車に乗り込むと、街の外に走らせる。しばらく走ると、湖で遊ぶ人々が目に入る。

 ここで降りるのかと思ったが、もう少し先に貴族が使う遊び場があるから、そこに向かうみたいだ。数十分ほど馬車を走らせると木々が増え、小さな建物が見えて来る。

 わしが何かと尋ねたら、兵士の詰め所で、馬車の管理や害獣の処理を行う施設だそうだ。シーズンオフで兵士は来てないと言うから、大丈夫なのかと聞くと、わしがいるから大丈夫らしい。出るとしても弱い動物らしいし、まぁいいか。


 詰め所の駐車スペースに馬車を止めると、ソフィ達が馬を小屋に入れて馬車に戻る。わしは探知魔法で辺りを確かめるが、いまのところ反応は無い。やっぱり敵さんは、今日は休みみたいだ。




「シラタマちゃ~ん。行くわよ~」


 わしが警戒していると、馬車から水着を着たさっちゃん達が出て来た。


「シラタマちゃん、どう?」


 どうと聞かれても……わしは猫じゃぞ? それにさっちゃんは十一歳じゃ。何も感じん。ホントじゃぞ。ふてくされても面倒じゃし褒めておくか。


「似合ってるにゃ。かわいいにゃ」

「エヘヘ。ありがとう」

「猫ちゃん、私はどう? 似合ってる?」


 アイノか……正直言うと、目のやり場に困る。あの水着、サイズ合っておるのか? アイノの大きな胸がはみ出しそうじゃわい。こんなもの、褒めていいのかすらわからん。


「サイズ、合っているのかにゃ?」

「そうなの。屋敷にあった水着は、少し小さいのよね」

「「「それは自慢してるの?」」」

「違います! 違いますよ!!」


 うん。自慢じゃろうな。さっちゃんはぺったんこじゃし、ソフィもドロテも小さい。小さいからといって無い訳じゃないし、さっちゃんも成長すれば女王のように大きくなるはずじゃ。気にする事も無いのにのう。

 しかし、デカイ……


「シラタマちゃ~ん……どこ見てるのかな~?」

「シラタマ様も、やはり……」

「シラタマ様……」

「猫ちゃんのエッチ……」

「ち、違うにゃ~~~!」


 わしがアイノの胸を凝視していると、皆から軽蔑する目を向けられ、必死に弁解し、水着を褒めて話を逸らすのであった。



 猫のわしを、何故、そんな目で見るんじゃ~!

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