560 トラウマにゃ~
「シラタマ王……よく生きて帰って来たな。グズッ……」
小説家の猫耳娘からの取材を終え、最後に阿修羅との戦闘シーンを語ったら、ちびっこ天皇だけでなく、この席に居る者は何故か泣き出した。
「まぁにゃんとかにゃ。みんにゃに知られたら心配するから、秘密にしてにゃ~?」
「わかっておる。それで……次はどんな化け物と死闘を繰り広げるのだ?」
「お前もわしを殺したいにゃか~~~!!」
グスグス言っているわりには早く戦いに行けと言う皆は、わしの心配をしてくれていたわけではないようだ。話の内容が素晴らしいから泣いていただけであって、続編は期待しているんだとか。
しかし、ついこないだ戻って来たわしは動く気がない。しばらくは猫の街に引きこもる予定だ。
「そこをなんとか!」
「陛下には猫王様シリーズをやるから、しばらくはそれを読んでればいいにゃろ~」
うっとうしいちびっこ天皇には、わしが持っていた小説を全巻プレゼント。何故だか5セットも渡されていたから、在庫処分だ。
これには日ノ本も出て来るので、その事を教えてあげたら英語を習おうかと言い出した。たしかに英語で書かれているから読めないので、遣猫使の公家にでも翻訳させろとアドバイスしておいた。
ただ、「販売に関しては、うちを通してくれないと困る」と猫耳娘が勝手な事を言い出したので、翻訳した原本を持って来たら印刷する流れになってしまった。
あとで双子王女にも報告を上げるらしいので、止める事もできなかった……
後日聞いた話では、日ノ本でもバカ売れしたらしいが、わしはタヌキと思われているので、京を歩いても誰もサインを求めて来ないのであったとさ。
取材を受けながらも昼食を取り、取材も終わったらもう夕方。なんだか今日は時間の流れが早いと思いつつ、夕食になったのでモグモグ。その席で源斉とつゆの事を思い出したが、今日はもう面倒だったので、そのまま眠りに就いた。
そして翌朝、一通りのやる事は終わったので、縁側でダラダラ。コリスとオニヒメの間でグースカしていたら、もうお昼。
旅から帰って忙しくしていたから、さすがにリータ達も休日をくれたからお
「本当にシラタマが王なのか?」
「モグモグ。ハンター兼、冒険家兼、職人兼、猫にゃ~。モグモグ」
「せめて王を入れろ!!」
ウトウトもしていたからやや頭が回っていなかったので、わしが羅列した肩書きの中に王様を入れ忘れたら、ちびっこ天皇にツッコまれてしまった。
まぁ王様はやりたくてやっているわけではないので、忘れていてもかまわない。なので、お昼寝兼ランチは継続……
「寝るか食べるかどっちかにしろ!」
「モグモグ、ウトウト……」
再度ツッコまれても態度を変えないわしを見て、ちびっこ天皇が涙目になったら、さすがにリータ達の殺気が飛んで来てたので、ハッと目が覚めた。
「あ~……それそれ~。わしもそう思うにゃ~」
「なんの話をしてるのだ……」
「にゃ? にゃんか話してなかったにゃ??」
「はぁ~~~」
必殺OL会話術。相槌と肯定を使ってみたが、そもそも話をしていなかったので、ちびっこ天皇に長いため息を吐かせてしまった。なので、睨む人が多いので、他愛ない世間話をしてみる。
「そう言えば、猫の街の観光はしたにゃ?」
「いちおう全て見た。白い牛の餌付け体験は、お玉が止めるから出来なかったがな」
「人気があるのにもったいにゃい。まぁシユウはお玉より強いから、仕方ないにゃ~」
食後のコーヒーを飲みながら他にも楽しかった事を聞いていると、各地で手に入れた芸術品と写真が飾られている美術館の話になったかと思ったら、ちびっこ天皇からのおねだりが始まった。
「猫の街は一通り見たから、東の国に行きたいんだけど……」
「キャットトレインに乗って、行って来たらいいにゃ~」
「それではさっちゃんに会えないだろ! 舞踏会に連れて行ってくれると言っていたよね? な~な~??」
「揺らすにゃ~!」
どうやらさっちゃん狙いで東の国に行きたいらしいちびっこ天皇。さすがに王女様と会うにはアポイントが必要だとわかっているらしく、わしをぐわんぐわん揺らすので、止める為には適当な事を言わなくてはならない。
「陛下にゃら、連絡無しでも城に入れてくれるにゃ~」
「そんな非礼な事が出来るか!」
「それに舞踏会のスケジュールにゃんか知らないからにゃ~。双子王女に聞いたほうが早いと思うにゃ~」
「だからシラタマは王じゃないのか!」
なんとかちびっこ天皇を言いくるめようとしていたら、リータがあの件を持ち出して来た。
「明日には東の国に行くんですから、連れて行ってあげたらいいじゃないですか」
「にゃんにしに行くにゃ?」
「忘れているのですか……じゃあ、誕生日会は猫耳の里で行いましょう。皆さんシラタマさんの事を祝いたくてしょうがないでしょうね」
「行くにゃ! 行くから言わにゃいで~~~!!」
猫耳族なんかにわしの誕生日を知られてしまったら、神のように
たんに誕生日を忘れていただけなので、リータには脅しに使わないでくれと擦り寄り、ちびっこ天皇も東の国に連れて行く事で落ち着いた。
翌日は、夕方前に東の国に前乗り。誕生日会出席者は、猫ファミリー、エミリ、お春、置いて行こうとしたワンヂェン、まだ帰っていなかったイサベレ、何故か断固としてついて来た双子王女。
人数が多いから三ツ鳥居を使いたかったが、魔法使いの人件費節約の為に飛行機でやって来た。
バスに乗り換え、顔バレしていない者を使って広場で買い出し。あまり外に出したくなかったが、ちびっこ天皇とお玉がうるさかったから、リータ達に頼んで少しだけ観光させてあげた。
京よりも何倍も大きな王都は、二人の目にはどう映ったのかわからないが、話が弾んでいるところを見ると、いい勉強になったようだ。
その後、王都の我が家で前夜祭とかいうバカ騒ぎ。ちびっこ天皇がアダルトフォーにおもちゃにされていたので、わしへの被害はなかった。
ちびっこ天皇は、スティナの豊満な胸に挟まれて嬉しそう。エンマに顔を踏まれても嬉しそう。ガウリカの脇の間に挟まれても嬉しそう。フレヤに服をひんむかれても嬉しそう。
ただ、お玉がすんごいキレていたので、わし達の輪に入れて酒を飲ませ、尻尾のブラッシング。名代の仕事を忘れさせて楽しんでもらった。
あとは面倒なアダルトフォーとちびっこ天皇を離れに隔離したら、わし達は楽しく飲み、その気持ちの中、各々の部屋で平和に過ごすのであった。
翌朝……
リータ達の至福の撫で回しで目を覚ましたわしは、しばらくゴロゴロ言って動けない。たぶん誕生日だから、いつもより念入りに撫で回しているのだろうけど、ただ撫でたいだけだと思う。
それからまた尻尾が増えたりしてないかとビクビク確かめ、増えてなかったので安心してゴロゴロ言っていたら、お春が朝ごはんが出来たと呼びに来たので、皆でお腹を鳴らしながら居間に移動する。
アダルトフォーとちびっこ天皇は見当たらないが、手を合わせて食べ、食後は縁側で皆の撫で回し。のどかな時間が流れていたが、離れの扉が開いたと思ったら、ちびっこ天皇が這い出して来た。
「あ、ああ……助け…て……ぎゃああぁぁ~」
しかし、何かに引き摺られるように暗闇に消えて行き、再び離れの扉は固く閉ざされた。その光景に、一同幽霊でも見たような顔をしていた。
わしは何事かと思ったが、ゴロゴロ継続。アダルトフォーの巣に、あまり近付きたくないんじゃもん。
だが、お玉はちびっこ天皇に危険が迫っていると思ったらしく、烈火の如く怒り、離れを破壊しそうな勢いで走り出したので、猫パーティ総出で止められていた。
それでもわしは、エミリとお春に撫でられてゴロゴロ継続していたら、お玉VS猫パーティの闘いに発展してしまった。
さすがは玉藻の娘。なかなか強いが、猫パーティ相手だと、相手にならなかった。これで問題は解決したとゴロゴロ見ていたら、一対一の対決をしようとしていたので、お玉VSメイバイ戦の間に割って入る。
「みんにゃはお玉を
「「「ええぇぇ!?」」」
「あと、お玉……陛下を助けるんじゃなかったにゃ? 目的が変わってるにゃ~!」
「あ……」
猫パーティは闘いたいようだが、わしの誕生日に喧嘩しないで欲しい。お玉も対等に闘える者と出会って嬉しいからって闘わないで欲しい。庭が痛むんじゃ!
ひとまず皆は闘う事を諦めてくれたので、わしは渋々離れの扉を開いてみた。
「シラタマ……助けてくれ~!」
すると、アダルトフォーに拘束された半裸のちびっこ天皇に助けを求められたが、どうしようか悩む。
これって、エロガキの望んでいた事じゃろ? そのわりには嫌そうにしておるな。昨夜はハーレムでお楽しみのはずなんじゃが……
てか、まさかスティナ達も、六歳の子供に手を出していないじゃろうな? 皆は裸じゃないから大丈夫じゃろ? 頼むぞ??
とりあえず、アダルトフォーをちびっこ天皇からひっぺがし、わしが出したヤマタノオロチ肉をガッツいている内に、引き戸はピシャリと閉める。
命の恩人かってぐらい泣きながら感謝して来るちびっこ天皇を背負い、居間で朝食を食べさせて落ち着いたら、聞き取り調査。
昨夜、最初の内は大人の女性にかわいがってもらって、ちびっこ天皇は本当に楽しかったそうだ。しかし、酒が増えて来ると愚痴が始まり、泣くわ
今朝は今朝で、アダルトフォーが寝ている内に逃げ出そうとしたのだが捕まって、男を紹介しろとか、大人になったら結婚しろとか、顔にキスマークを付けたから私の物とか脅されていたらしい。
「ふ~ん……それはよかったにゃ~」
「大人の女怖い……大人の女怖い……」
わしがボケても、ちびっこ天皇は聞く耳持たず。大人の女がトラウマとなって震えている。
お玉はそんなちびっこ天皇を見て怒りをぶり返していたが、わしの説得。これで誰彼かまわず口説こうとしなくなると説得したら、アダルトフォーに感謝していた。お玉もちびっこ天皇からのセクハラ被害者だから、せいせいしたようだ。
そうして和気あいあいと雑談していたら、今日もあの人が我が家にやって来た。
「シ~ラタ~マちゃ~ん。あ~そび~ましょ~!」
さっちゃんだ。王族らしからぬ呼び出しをして来たから迎えに行こうとしたら、お春が対応してくれた。だけど、女王達と共に戻って来たら、お春はさっちゃんにモフられ続けて涙目になっていた。
「モフモフ~!」
「も、もうその辺で、堪忍してください……」
「さっちゃん、こっちにゃ~」
「モフモフモフモフ~!」
お春が迷惑そうにしていたから、仕方なく助けてあげる。胸元をはだけて呼んでみたら飛び付いて来たので、わしのモフモフのほうが好きなようだが、触り方が雑でこちょばい。
そうしてさっちゃんは「シラタマちゃん成分注入完了」とか言って落ち着いたのだが、ちびっこ天皇がよけいな事を言い出した。
「さっちゃん……
二度目のいきなりプロポーズに、さっちゃんはと言うと……
「は? 顔にそんなにキスマーク付けておいて、よくそんな事を言えるわね……顔洗って出直して来なさい!!」
「うわ~~~ん!」
汚物を見る目でちびっこ天皇を見て、泣かせてしまうのであった。
このエロガキは……トラウマを、もう克服したのか。どうやったら、エロガキの女好き病が治るんじゃろう? はぁ……
もちろんわしは、呆れてため息しか出ないのであったとさ。
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