097 おっかさんの仇と闘うにゃ~


「まったく……子供みたいなケンカをするんじゃありません!」

「「はい! すいにゃ(ま)せんでした!!」」


 さっちゃんの親父さんと盛大に口喧嘩をしていたら、女王に正座をさせられ、二人ともこっぴどく怒られてしまった。


「あなた! その毛皮はシラタマに返すように言ったでしょ」

「しかし……」

「言ったでしょ……」

「はい……」


 ふふ。オッサンは口答えするからまた怒られておる。いい気味じゃ。女王の静かな殺意は怖いのう。


「なに笑っているの! シラタマも怒るか、ふざけるか、どっちかにしなさい!」

「いや……」

「しなさい……」

「はいにゃ……」


 うぅぅ。怒られた。でも、真面目にやると言う選択肢を入れたかっただけじゃ。くそっ! オッサン、ニヤケてやがる。


「それじゃあ、試合をさっさと始めてちょうだい。ソフィ、審判をやりなさい」

「はっ!」



 わしは項垂れながら、訓練場の中央に移動する。するとソフィは駆け足で中央に移動して、わしに声を掛ける。


「大丈夫ですか?」

「厄日にゃ~。今日は怒られてばっかりにゃ~」

「それはシラタマ様が悪いのでは?」

「悪く無いにゃ~。ソフィまでわしをイジめるにゃ~」

「そんな事しませんよ。なんなら私が後で慰めてあげましょうか?」

「うん……いや、やめとくにゃ」

「リータと何かあったのですか?」

「にゃ、にゃんでにゃ!?」

「一瞬、見たじゃないですか」

「ニャニモナイにゃ」

「怪しいです」

「ほら! 始めにゃいと、また女王に怒られるにゃ!」


 わしはリータの視線も気になるが、女王の視線も気になるので、その事を言うとソフィもチラっと見て、すぐに納得してくれた。


「……わかりました。殺したりしないでくださいね?」

「わかっているにゃ」

「それで、二人同時でいいのですか?」

「いいにゃ」

「では、おふた方とも、こちらに来てください」


 ソフィはイサベレとオンニを呼び込んだのだが、オンニが先に前に出て、イサベレを制する仕草をした。


「試合だから俺一人で行く! イサベレ。いいよな?」

「ええ。でも、気を付けなさい」

「面倒だから二人でいいにゃ」

「その口、黙らせてやる! かかってこい!! ソフィ、始めろ!」

「は、はい! それでは、オンニ様対シラタマ様……はじめ!」


 いや、二人でいいって言ったのに……ソフィはオンニの圧に押されたかな? また怒られたくないし、真面目にやろう。その前に【白猫刀】大丈夫じゃったかな?


 わしは【白猫刀】を抜いて、マジマジと見つめる。すると、オンニが話し掛けて来た。


「そんなにその剣が大事か? 俺の一撃に耐えたのは褒めてやるが、俺のエルタニンに優るものは無い!」

「はぁ……」


 なんか怒られ過ぎてやる気が出ない……。おっかさんの仇じゃ。兄弟達が見ておるんじゃ。ちゃんとやらないといけない!

 しかし、剣に名前って、あの馬鹿デカイ剣は名刀なのかな? それとも自分で名前を付けたのか? わしの【白猫刀】のほうがかっこいい名前じゃな。それにさっきの一撃でも刃零れしておらんかったし、名刀と言って過言ではない。

 さて、どうやって、こいつの心を折ってやるか。一撃で倒すか? それだとわしの気が収まらんし、兄弟達もスッキリせんじゃろう。殺さず、それでいてダメージを与える方法……うん。これで行こう。


「それじゃあ行くにゃ~」

「来い!」


 わしは刀をだらりと構えたまま走る。オンニは大剣を真横に構え、わしが射程範囲に入るや否や、右から左に振り回す。わしはギリギリを見極め、鼻先、紙一重にかわし、前に出て刀を振るおうとする。


「なめるな!」


 オンニは力業で大剣を止めると、今度は左から右に薙ぎ払う。


「どっちがにゃ!」


 わしが大剣をかわすと、オンニはわしを見失った……


「どこに行った!」


 この距離で見失うとは……思ったより弱いのか? これでおっかさんによく勝てたもんじゃ。あっちの白い女、イサベレが強いのか?


「そんな所に……」


 やっと見付けたか……いまの間に、何回斬れた事か。


「降りろ!」


 オンニは大剣を振り回す。わしは乗っていた大剣から、くるりと回って飛び降りる。


「シラタマちゃ~ん。かわいい~~~!」

「シラタマさ~ん。さすがです~」

「「む……」」


 わしの着地と共に、さっちゃんとリータの応援の声が同時にあがり、何やら睨み合っている。少し気になるが、わしはオンニとの戦闘を優先する。


「そんなもんかにゃ? ガッカリにゃ」

「まだまだ小手調べだ。フン!」


 ん? 魔力が剣に集まっている? うっすらと光っているように見える。


「この剣には黒魔鉱が使われている。魔力を流せば斬れ味が上がるんだ」

「へ~~~……で?」

「お前の剣ごと斬ってやる!」


 オンニはわしに斬り掛かる。縦、横と、凄まじい速さで何度も何度も剣を振るうが、わしにはかすりもしない。


 怒らせてしまったか? そりゃそんな反応になるわい。当たらないのに斬れ味上げてどうするんじゃ。

 魔力を流す、か……わしもそんな刀があったら欲しい! 【白猫刀】でも出来ないかな? こんな感じかな?


 わしはオンニのマネをして、大剣をよけながら【白猫刀】に魔力を流す。


 お! 出来たんじゃね? けっこうな魔力が入るんじゃな。


 わしの刀が白く光を発すると、オンニの攻撃が止まった。


「その剣……白魔鉱か!?」

「さあ? 知らないにゃ」

「そんなわけがないな。そろそろ終わらせてもらおう!」


 オンニはさっきまでの攻撃を繰り返す……が、スピードが倍近く跳ね上がった。


 肉体強化か……。速いが、わしのほうが、まだまだ速いな。おっかさんと比べても、二段は下ってところか。

 あちらさんも終わらせたがっておるし、そろそろやるとするかのう。



 わしはオンニの剣に合わせて刀を振るう。縦には縦に、横には横に、速度も合わせて刀を振るう。


「何をしている! 全然当たらないぞ。その程度か!」


 わしはオンニの挑発を黙って受け流し、オンニの剣に合わせて刀を振るい続ける。


「シラタマちゃん、がんばって~」

「シラタマさん、がんばってくださ~い」

「「む……」」


 わし達の素早い戦闘を見たさっちゃんとリータから、応援の声が同時にあがる。


 二人とも喧嘩にならないといいんじゃが……っと、こんなもんかな?



 わしはオンニの攻撃を避けると、大きく距離を取る。そして、オンニより素早い速度で距離を潰し、突きを放つ。


「なっ!?」


 オンニは驚き、大剣を地面に突き刺して盾のようにして、わしの突きを受け止める。だが、わしの刀とオンニの剣の横腹が接触した瞬間、オンニの剣が砕け散った。


 何故、そうなったかと言うと、大剣が振るわれる度に、刀の刃をかすらせて傷を付け続けた。次に大剣を盾として使わせる為に、速度を上げて驚かせた。

 その結果、わしの突きは傷だらけの大剣を粉々に砕き、オンニの首元でピタリと止まる事となった。


 オンニの大事にしている愛剣を折れば、それと同時に、心も折れると思っての作戦は見事に決まり、オンニはわしの刀よりも、大剣の破片に目をやる事となった。


「俺のエルタニンが……」

「で? まだ続けるかにゃ?」

「ぐっ……俺の負けだ」

「そこまで! 勝者、シラタマ!!」

「「やった~~~!」」


 わし達のやり取りを聞いていたソフィが試合の勝敗を告げると、リータとさっちゃんが同時に飛び跳ねた。


「「なんで同時に喜ぶの(ですか)よ!」」


 リータとさっちゃん……頼むから場外乱闘はやめてくれ。


「シラタマちゃんは、わたしに応援されたいのよ!」

「お、王女様は騎士様の応援しなくていいのですか!?」


 ヤバイ! 始まった!!


 わしは急いで二人の元に走る。


「二人とも、応援ありがとうにゃ」

「シラタマちゃんは、わたしの応援で勝ったのよね?」

「シラタマさんは、私の応援で勝ったのですよね?」

「みんにゃの応援のおかげにゃ。アイノもドロテも応援してくれてたにゃ~」

「「うっ……」」

「みんにゃ仲良く応援してくれないと、負けてしまうにゃ~」

「「うぅ……」」

「ここは休戦しましょう」

「はい!」


 なんとか二人を和解させたわしは、走って中央に戻る。すると、オンニが悲しそうに愛剣の欠片を、ひとつずつ、大事そうに拾い集めていた。


「もう大丈夫ですか?」

「たぶんにゃ……」

「相変わらずシラタマ様はモテモテですね」

「いや、それよりオンニ……大丈夫かにゃ? やり過ぎたかもしれないにゃ」

「実はあの剣……国宝に指定されていたんですよ。オンニ様は、陛下から授かってから、それはもう愛情を注いでいましたからね。それが粉々に……」


 ソフィはわしに顔を近付け、オンニに聞こえないようにコソコソとわしに教えてくれる。


 完全にやり過ぎた。オンニの魂が抜け掛かっておる。女王は……額に青筋が浮き出ておるな。完全にご立腹じゃ。このままじゃ怒られるし、次の試合も始められない。致し方ない。


「どくにゃ」

「まだ破片が……」

「いいから、その破片も置くにゃ」

「それは……」

「もういいにゃ!」


 わしはオンニにネコパンチ(掌底)を喰らわし、強制的に破片を手離させ、退場してもらう。


「敗者に何をしているの!!」


 皆、驚き、女王は怒るが、無視をして作業に取りかかる。


「鉄魔法……【操作】にゃ」


 わしは砕け散った剣の破片を浮き上がらせる。


「【選別】にゃ」


 次に剣に使われていた鉄と、違った鉄を別けて集める。


「【合体】からの【操作】にゃ」


 最後に、鉄の塊を作り、オンニの使っていた剣の形に作り変える。わしはその剣をそのまま操作し、倒れているオンニのそばに突き立てる。


「すごい……シラタマ様は鍛冶も出来るのですか?」

「いや、出来ないにゃ。剣の形をしたただの鉄の塊にゃ。女王! 素材は全部集めたから、鍛冶屋にでも打ってもらうにゃ」

「……わかった」

「これで怒らにゃいでくれにゃ。にゃ?」

「それとこれとは別よ! 次、始めなさい!!」


 わしは怒られたくないので黒魔鉱を集めたのだが、女王は聞く耳持たず。怒りの表情で、わしは怒鳴られてしまった。


「うぅぅ……ソフィ、また怒られるにゃ~」

「国宝を破壊なんてするからですよ」

「もう、次で憂さ晴らしするにゃ!」

「イサベレ様は、この国を百年守る守護者ですから、お手柔らかにお願いしますね。では……はじめ!」

「いや、待っ……」

「【エアブレード】」

「にゃ~!」



 ソフィの開始の合図と同時に、イサベレの魔法がわしを襲う。わしは話を遮られ、慌てて避ける。だが、わしが避ける先に、次々と【エアブレード】は飛んで来る。

 全て避け終わったかと思った瞬間、魔法を放ちながら距離を詰めていたイサベレの剣が振るわれる。


 ああ、くそ! 考える時間ぐらいくれ!


 わしはイサベレの剣を【白猫刀】を抜き、峰で受け止める。イサベレは、わしが受け止めても構わず、連続して斬り付ける。


 速い! オンニの大剣を見ていたせいで、よけい速く感じる。この女……本当に人間か? おっかさんのスピードといい勝負じゃ。


「【エアウォーク】」


 わしが剣を捌いていると、イザベレは魔法を織り交ぜ始める。目視では確認できない空気を蹴って、後方から加速し斬撃、跳び跳ねて上方の空気を蹴ってから斬撃。右からかと思えば空気を蹴って左に跳び、さらに加速して斬撃。

 イザベレの剣は、多角的にわしを攻撃する。


 器用な事を……。こんな攻撃初めてで、さばくのに思考を取られる。


「【エアブレード】」


 イザベレは多角的な攻撃に加え、魔法の攻撃をまぜる。わしが魔法を避けると、斬撃が来て受け止める。斬撃を避けると、魔法がわしに迫る。


 足すな! タイミングが取りづらいじゃろう!!


 イザベレは多角的な斬撃と攻撃魔法を続ける。だが、わしは全てを捌く。


 やっと足し算は終わったか。じゃが、うっとうしい事この上ない。動きを止めてやる!


 わしはイサベレの魔法を避け、次の斬激にタイミングを合わせる。


 とう!


 わしは突進して来る斬激を避けると、すかさずイザベレの握る剣に峰打ちを放つ。すると、リズムとバランスを崩したイサベレの動きを止める事に成功する。


 こんな攻撃で止まっているのは一瞬じゃろう!


「土魔法【お茶碗】にゃ~!!」


 わしは動きを止めたイサベレに、お茶碗をひっくり返したような土の塊を落として閉じ込めるのであった。


 ふぅ~。やっと考える時間が出来た。ホントやっとじゃ……

 さて、満を持して、ツッコませてもらおう。


 百年生きてるの~~~~~!!

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