511 原住民と対話にゃ~


「とりあえず、岸に上がっていいかにゃ?」


 頭に羽を付けたカラフルな民族衣装の原住民は、わしを神と騒いでいたが、猫と訂正したけどあまり信じていない。どこからどう見ても猫のはずなのだが、神々しく見えるらしい……

 なので、要求はあっさり通り、わしは岸に上がってあぐらを組んで座る。これは、敵意が無いとのパフォーマンス。原住民にも座るように促し、皆が座るとこの中で一番偉いというおっさんと念話で喋る。


「わしは猫の国の王、シラタマと申すにゃ」

「王? ……神様という事ですか??」

「神様じゃなくて、王様って言ってるにゃろ~」

「王様……神のように偉い者??」


 はて? 王様で通じないとは、どういう事じゃ??


「えっと……ここは、なんて名前の国にゃ?」

「国……縄張りの事でしょうか??」


 マジか……この島、王様どころか国家すら存在しない。わしは台湾の歴史にうといから、歴史がわからんのに……。たしか、日本が統治する前は、西洋にある国が植民地にしたと聞いた事があるような……

 他国が台湾に関与したのは、16世紀前後の大航海時代辺りかな? ……ダメじゃ。どう考えてもこの世界では、船で支配者が渡来できない。

 となると、その前は、原住民ばかりだったって事か。なんだかネイティブアメリカンのような出で立ちじゃけど……。顔も、もっと中国人寄りの顔をしていてもよさそうなのに、彫りが深い。南洋系かな?


 おっと。考え事をしてたら、皆が不安そうな顔をしておる。


「それじゃあ、あにゃた達は部族って事かにゃ?」

「あ、はい。我々はタイヤル族です」

「ちにゃみに、この島には何個ぐらいの部族があるにゃ?」

「二十はあると聞いていますが、正確な数はちょっと……」

「にゃるほど~。ま、わしの事は、族長だと思ってくれたらいいにゃ。でも、わしの下には、何万もの人間が居るからにゃ」

「そんなに!?」


 わしが族長だと説明したら、おっさんは少し顔を強張こわばらせたが、数を聞いたら驚愕の表情に変わった。おそらく、部族ならば戦いになると思い、数を聞いて絶対に勝てないと考えたのかもしれない。


「それでにゃ。そっちの族長とお話をしてみたいんにゃけど、取り次いでくれないかにゃ? もちろん、わし達に攻撃の意思はないにゃ。ダメにゃら、他の部族の元へ行ってみるにゃ~」

「は、はあ……族長は内陸に住んでるので、連絡に二日ほど時間が掛かりますから、少しお待ち……」

「やっぱり行くにゃ! わしから手土産持って、挨拶に行くのが筋だと思うにゃ~!!」

「いや……」

「土産とはこれにゃ!!」


 二日も待ってられないわしは、おっさんの言葉を最後まで聞かず、反論も潰してしまう。


「こ、この大物の魚は!?」


 とりあえず、5メートルを超える黒い魚を次元倉庫から出してみたら、皆は驚いて騒ぎ出した。


「あ、やっぱりこれは、みにゃさんにあげるにゃ。族長にはもっといい物を渡すから、これで案内人を出してくんにゃい? 案内してくれる人には、美味しい物や珍しい物を追加で払うにゃ~」

「ちょ、ちょっと相談します!」


 はいそうですとは言えないタイヤル族の男達は、皆で殴り合いの相談をして、結論に至る。


「どうぞどうぞ。俺をしもべとして使ってください~」


 陥落……。どうやら買収にはけっこう弱く、殴り合いを制した男が揉み手でわしの元へやって来た。


 ……これでいいんじゃろか? わしは、わざわざ戦いの火種を作っただけじゃなかろうか? なんか泣いてる奴もいるし……


 ちょっとかわいそうなので、殴られて痛そうにしている皆には、クッキーやドーナツをプレゼント。初めて食べる甘いおやつに、皆の涙は引っ込んだようだ。

 それから黒い魚はさばけるのかと聞いたところ、難しいけどなんとかすると言っていたので、わしがある程度捌いてやった。その結果……


「やはり神様だ~!!」

「「「「「はは~」」」」」


 振り出しに戻る。かと言って訂正するのはもう面倒臭いので、皆が魚を集落に運んでいる間に、わしはエリザベスキャット号に戻って玉藻達と話す。


「いったいぜんたい何をしたら、土下座で出迎えられるのじゃ?」

「さあにゃ~? わしもよくわからないにゃ~」


 玉藻の質問に、本当にわしもわからないので事実を伝えるが、家康は予想を述べる。


「財力か……魚一匹で落とすとは、さすがシラタマ王じゃ」

「まぁ買収はしたんにゃけど、案内を頼んだだけにゃ。あ、そうそう。ここはだにゃ……」


 それからタイヤル族との先ほどの会話を皆に聞かせ、エリザベスキャット号を降りると、クルーザー「ルシウスキャット号」に乗り換える。

 エリザベスキャット号は悩んだ結果、放置。土魔法で固定しているし、操縦の仕方を知らなければ、動かす事も出来ないだろう。


 ルシウスキャット号で移動している間に、見た目問題の処理。もうわしは神のように崇められる猫なのだから、皆の事も隠すのはやめた。コリスの巨大リスも、見た目がかわいいから、ゴリ押しするつもりだ。

 ただ、家康の巨大タヌキバージョンだけは5メートルもあってデカすぎるので、タヌキ耳太っちょおっさんバージョンを継続させた。



「コンコンコン。新天地に乗り込んでやったわい」


 玉藻は岸に上がると上機嫌で笑う。


「前にも新天地に乗り込んだにゃろ~?」

「西の地はずっと陸伝いの移動じゃったからな。こう、船で移動して、島に上陸すると、冒険をしている感じがするんじゃ」


 たしかにわし達も、日ノ本に上陸した時は騒ぎ倒しておったから、気持ちはわからんでもないか。ご老公もニヤニヤ笑っているし、同じ気持ちなのかな?


「時の賢者も日ノ本を発見した時は、こんな気持ちじゃったのかのう」

「かもにゃ~? そう言えば時の賢者って、日ノ本へ着いて骨をうずめたにゃ?」

「いや、東に旅立ったはずじゃ」

「はずにゃ??」

「母様が言うには、東に行くと言いながら、北に向かったらしいんじゃ」

「あ~……にゃるほど」

「そちは、時の賢者が向かった場所がわかるのか?」

「だいたいはにゃ。でも、案内役が戻って来たから、この話はあとでにゃ~」


 案内役の男がロバを二匹連れてやって来たので、乗り物はわしが用意すると言ってロバは帰させた。見た目問題はコリスが少し驚かれたぐらいで、多少変わっていても神様の連れだから、不思議に思わないみたいだ。

 それから何度もロバを勧められながら歩き、平野まで着くと、バスを取り出して男を押し込む。「ギャーギャー」うるさい男が落ち着いたら、ブッ飛ばしまくって一時間……族長が住むという集落に辿り着い。


 男を車から降ろすと、族長へのプレゼントとして、ソードと宝石を預ける。もしも会ってくれるなら、もっと良い物をやると伝えに男を走らせる。


 いや、さっさと行けよ! ソードならあとであげるから! うまい物も付けてやるから、絶対に族長と会わせろよ!!


 報酬にソードを欲しがった男はなかなか走り出さないので、報酬の話をしたら「ひゃっほ~!」とか言って、走って行った。


 それから遠巻きに集落を見て話し込んでいたら、案内役の男が走って来て、「はぁはぁ」言いながら尻尾を振って集落に通される。また犬が、一匹増えたようだ……



 タイヤル族の集落は高い壁が無いところを見ると、強い生き物が棲息していないと思われる。

 家は全て木造で、高床式の建物も見て取れ、おそらく猫の国の村より生活水準の低い集落だとリータ達と話し合い、玉藻達からも感想を聞いて歩く。


 そうしてぺちゃくちゃ喋って歩いていたら、広場だと思われる場所に着き、そこには多くの住人が集まっている姿があった。

 その住人に囲まれる中央には、族長らしき男、赤い民族衣装に顔に入れ墨の入ったがたいのいいオッサンが座っていた。


 わし達はその目の前まで連れて行かれたが、地べたに座るのは玉藻と家康が嫌がるかと思い、レジャーシートを敷いてから皆で座った。


「ようこそ。海を越えた族長よ。俺はタイヤル族の族長、ワリス・ノカンだ」


 思ったより歓迎ムードじゃな。プレゼントが効いたか? かなり安物を渡したんじゃがな~。でも、わしの姿に驚かないって、どゆこと? まさか日ノ本みたいに、ぬいぐるみがいっぱい歩いているのか?

 てか、名前はどっちが姓なんじゃろ? とりあえず、ワリスと呼んで見て、ツッコまれなかったらそのまま喋るか。


「お初にお目に掛かるにゃ。わしは猫の国の王……族長のシラタマにゃ。いきなりの訪問に、快く応えてくれてありがとにゃ~」

「こちらこそだ。こんなに立派な剣を譲ってくれて感謝する。それで、俺に会いたいとは、どういった用件なのだ?」

「この島についていろいろ聞きたくてにゃ~。あ、わし達は、喧嘩をしに来たわけじゃないからにゃ。観光に来ただけだから、安心してくれにゃ」

「あの化け物渦巻く海を越えて、観光をしに来ただけなのか……」

「ワリスだって、わしの住んでるところを見たくにゃい? わしの家は、石で出来てるにゃ。みんにゃ石で出来た家で、うまいメシを朝昼晩と食べ、ふかふかの布団で寝てるにゃ~」

「そんな集落があるのか!?」

「にゃ~? 興味が湧くにゃろ~? 今日は、お互いの暮らしを聞かせっこしようにゃ~」


 前のめりになったワリスは、わしとの話に夢中になる。わしだけでなく、日ノ本出身の玉藻と家康とも喋り、お昼になっても終わりそうにないので、昼食の話を持ち出して、ついでに欲しい物を聞く。


「魚と獣、どっちが好みにゃ?」

「どちらかというと獣だが……」

「わかったにゃ~」


 わしが次元倉庫から取り出した獣は、10メートルを超える黒い獣。漁村での反応から見るに、これでもとんでもなく価値が高いはずだ。


「「「「「あわわわわ」」」」」


 ただ、突然そんな巨大な獣が現れたからには、住民の三分の一ぐらいは腰を抜かしてしまった。ワリスも立っているのがやっとのようだ。


「捌けないと思うから、わしが捌いてやるにゃ~」


 リータ達にも手伝ってもらい、瞬く間に肉の塊と毛皮に変わると、ワリスを含めた住人は、何やら拝む拝む。


「ほ、本当に神様だったのか……」

「「「「「はは~~~」」」」」


 なるほど……案内役の犬が、神様とか紹介しやがったから、わしの見た目に触れて来なかったのか。おかしいと思っておったんじゃ。いらん事しやがって!

 全員土下座なんてするから、玉藻とご老公がニヤニヤ何か言い合っておるじゃろう!


「だから猫だと言ってるにゃろ! さっさとメシの準備をしろにゃ~!!」

「「「「「はは~~~」」」」」


 若干イラッとしたわしが命令すると、ただちに料理に取り掛かるタイヤル族であった。



 わし達は料理が出来るまで席を外し、集落の外で軽くランチにする。


「コ~ンコンコン。ここでも現猫神あらねこがみになっておるのう」

「現猫神!? それは面白い。ポンポコポン」


 玉藻と家康が笑うので、わしは怒り爆発。


「笑うにゃ~! そんにゃに笑うにゃら、わしが天皇ににゃるぞ~~~!!」

「それいいですね!」

「日ノ本も猫の国入りニャー!」

「「それは困る!!」」


 リータとメイバイは国土が増えて嬉しいようだが、そのせいで、わしの冗談が玉藻と家康には冗談に聞こえなかったらしく、誠意のある謝罪をして来た。

 でも、少し離れた所で「あんなに仕事をしない猫に、日ノ本を統治されたらめちゃくちゃになってしまう」とか言わないでくれる? 聞こえておるぞ??


 二人がわしを侮辱し続けるので、本当に日ノ本を乗っ取ってやろうかと考えるわしであったとさ。

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