512 最後の獲物にゃ~


 タイヤル族が振る舞ってくれる食事を待つ間、わしと玉藻と家康は、軽食を摘まみながら話し合う。


「こうもまとまっていにゃいと、島を見て回るのは面倒だにゃ~」

「部族が二十ほどか……たしかに、いちいち交渉して回るのは骨が折れる」

「小競り合いで人も死んでおるらしいし、昔の日ノ本を見ているようじゃ」

「日ノ本と比べて文化水準も低いから、観光するってのも面白くないかもにゃ~」

わらわも、西の地を見て回るほうが面白いのう」

「では、徳川が統治してみせよう」

「「にゃ??」」


 家康がとんでもない事を言い出すので、わしと玉藻の声が重なる。


「いやなに、昔を思い出してのう。いまの力があれば、もっと上手くひとつに纏められるのではないかと思って試してみたいんじゃ」


 タイヤル族を見た限り、強くてD級ハンター程度しかいないから、そりゃ、いまのご老公なら無双状態じゃろう。しかし、目的はそれだけか?


「にゃにをたくらんでいるにゃ? ここの人の為にならにゃい事をするにゃら、わしはご老公の敵に回るにゃ」

「そう睨むでない。ここは、鉄製の武器を使っておったじゃろ? もしもたくさんあるのなら、分けてもらおうと思ってのう」

「ふむ……日ノ本だけでは、いつか鉱石が取れなくなる可能性があるか」

「玉藻まで乗り気にゃの~?」

「妾はそこまで……猫の国から輸入すればいいからのう」

「ご老公も輸入でまかなってくれにゃ~」


 わしが玉藻の案に賛成するが、家康は意見を変えようとしない。


「なぁに。この島が平定したら、その対価でもらうだけじゃ。どうか、わしに任せてくれんか? この通りじゃ」


 家康が頭を下げるので、わしと玉藻は数秒見つめ合ってから答えを出す。


「う~ん……犯罪者以外での人殺しは無しにゃ。これが絶対条件にゃ」

「そうじゃな。極力話し合い。戦は無しじゃ」

「それでかまわぬ。なんだったら、天皇家から誰か出してくれ。写真を取らせれば、嘘が無いとわかるじゃろう」


 それならばと、わしと玉藻は納得し、台湾を徳川が統治する事に許可を出すのであった。



 いちおう家康の統治プランを聞き出していると、案内役の犬が「はぁはぁ」呼びに来たので、エサを食わせ、ソードを渡して広場に戻る。

 そこで、現地の食事をいただくのだが、思った通り口に合わない。獣の肉を焼いただけの物は普通に食べられるのだが、その他は微妙。美味しいと感じたのは、せいぜい竹の葉で蒸された米ぐらいだ。


 その間、家康は族長のワリスと話し合い。徳川の戦力を投入して、後ろ楯になると言っていた。数が少なかったので、ワリスは証拠を見せろと言ったらしく、家康はタイヤル族の猛者と手合わせ。

 一斉に襲い掛かる猛者を、侍の勘で一蹴。全員、一発ずつのビンタでブッ飛ばした。ついでに巨大タヌキに戻り、威嚇して恐怖の渦におとしいれていた。


「ポンポコポン。これでわかったじゃろう」

「「「「「はは~」」」」」


 猫神様に続いて、タヌキ闘神の降臨。タイヤル族は二匹の神に、平伏したのであった。


 もちろんわしは、宥和ゆうわ政策。エサをばらまきつつ、お土産をいただく。ただ、民族衣装と木彫りの変な像しか面白い物は無いので、野菜関係も集めておいた。

 もしも家康が、民族をひとつに纏めたならば、あきないをしてもいいだろう。その時の為に、家康には部族の文化はないがしろにするなと脅しておいたので、タイヤル族は、わしを絶対神だと勘違いして震えていた。



 この集落ではたいした観光も出来そうにないので、用事が済めばさっさと撤収。案内役の犬と共に飛行機で空を行く。

 飛行機初体験の犬は「キャンキャン」うるさかったが、空からの観光をしつつ、知ってる知識を喋らせ、低空飛行で写真も撮っておいた。これで、家康の台湾攻略の戦術が立てやすいだろう。

 後日聞いた話では、巨大な鳥が旋回していたので、神が降臨する前兆だと各部族は勘違いしていたと家康から聞いたのであった。



 浜辺の集落に着陸すると、拝む人続出。空を飛んだから神様が降りて来たと勘違いしたらしいけど、今朝会ったじゃろ?

 もう忘れているのかと思ったが、うまい魚を食ったから拝んでいたようだ。また来てくれと言われても家康任せなので、国となった頃に来るつもりだ。


 なので、さっさとエリザベスキャット号に乗り込んで、ここで一泊。高級料理を食べ終えると、家康の為に飛行機を作る。

 三ツ鳥居を置きたいところだが、タイヤル族の中に魔法使いが確認できなかったので、補充が出来ない。船で来れない事はないだろうが、強い魚と出会ったら、沈没は必至。

 飛行機は家康しか操縦できないだろうが、一回のフライトで十人以上送り込めるから、すぐに編成が組めるだろう。



 エリザベスキャット号で一泊すると、最後にもう一度巨大魚と戦いたいと言われた。飛行機で帰りたかったが、脳筋だらけなので、わしも渋々付き合う。


「「「「あ゛っ!?」」」」


 皆に心を読まれて睨まれてしまったので、戦闘機に乗って偵察すると言って逃げ出した。そうしてきっちりナビゲートして、琉球と台湾のちょうど間にある白いサンゴ礁に近付くと、獲物はすでに見えていた。


「カニか……ヤマタノオロチぐらいないか?」

「もう一度、ヤマタノオロチ級と戦えるのはいいのじゃが……」


 玉藻と家康は、ヤマタノオロチを思い出して、少し尻込みする。


「うぅ……こんなに大きくちゃ、参加できないです~」

「今度こそはと思っていたのにニャ……」


 リータとメイバイも戦いを諦める。


「じゃ、そんにゃわけで、帰宅するにゃ~」


 わしはやる気がないので帰ろうと言うと……


「「やらんとは言っておらんじゃろ!!」」

「アレを売って食費を稼ぐんです!」

「一年ぐらい余裕ニャー!」


 皆に怒鳴られた。玉藻と家康は武者震いしていただけのようで、リータとメイバイはわしに働けと言う。


 あんなもん、うちの食費の百年分ぐらいあるじゃろう。無理して狩らんでも……猫の国の事を言っているのですか。王様が稼ぎ頭って、どゆこと? もっとこう、生産業で儲けて欲しいんですが……もしもの不作の為ですか。そうですか。


 わしの説得は聞く耳持たず。作戦会議を開いて、魔道具を配る。玉藻と家康は、前回使った魔道具を返してくれなかったからそのまま首輪を首に掛け、リータ達も多くの魔道具を付与した首輪を付ける。


 ……本当にこれでいいの? なんだか全員奴隷みたいなんじゃが……お揃いがいいのですか。わしは首輪は嫌なんですが……


 誰が飼い主かわからない集団が完成すると、円陣を組む。


「みんにゃの頑張りで、他所への被害が減るんにゃから、頼むにゃ~」

「「「「「にゃっ!」」」」」

「では、カニ祭りの開催にゃ~!」

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 皆の返事と気合いの声を聞いて、わしは……


 全員、人の言葉を思い出せ。わしのテンションが下がるんじゃ。


 相変わらず、戦う前にやる気を削がれるのであった。



 皆の気合いが入れば、作戦決行。玉藻だけ巨大キツネに戻って、残りは全員背中に乗り込む。その間わしも猫型に戻って、エリザベスキャット号も土魔法で軽く固定。

 わしと玉藻の準備が整うと、頷き合ってわしだけ海に飛び降りる。そうして海を走り、白いサンゴ礁を大きく回りながら【青龍】を撃ち込みまくる。


 猛スピードで海を駆け、白いサンゴ礁を氷で囲って一周するわしの姿を確認した玉藻は、皆を乗せたまま空を駆け、わしの合図があるまで空中で待機。

 わしは凍り付いた海を走り、白カニの真横、西側に移動したらお座り。約一分間集中したあと、四本の脚に力を込めて、口を開く。


「にゃ~~~ご~~~!!」


 極大魔法【御雷みかずち】だ。


 わしの口から発射された極太雷ビームは、白カニの真横から二本の脚を巻き込み、へし折り、胴体を貫通し、逆にある脚も二本引きちぎって空へ消えて行った……


 その【御雷】を合図に、玉藻は急降下。白カニが慌てて攻撃をした者を探している内に、反対側に開いた穴から体内に侵入する玉藻達であった。



 その頃わしは……


 あ~~~。痛かった~~~。


 【御雷】の反動で吹っ飛び、海の上にプカプカ浮かんでいた。


 前回より半分少ない魔力で使ってみたけど、ちゃんと穴が開いたようじゃな。それにわしへのダメージは……ほぼ無しか?

 顔も焦げた感じもしないし……変じゃな。脚ぐらい折れても不思議ではないんじゃが……

 ま、あれからわしも、リータ達の訓練に付き合って強くなっておったのじゃろう。ラッキーな誤算じゃわい。


 それよりも、カニさんが戸惑っている内に氷を張らねば!!



 わしは水を操作して足場を作ると、グッと力を入れて海面を蹴る。そうして飛ぶように海を走り、白いサンゴ礁を囲った氷の上に乗ったところで白カニと目が合った。


 マジで~? ヤマタノオロチといい、なんでこんなプランクトンみたいな奴を見付けられるんじゃ。


 白カニは、横移動でわしに突撃。わしは【青龍】を連続で放ちつつ、氷の環を走る。


 プププ。方向転換に手間取っておる。やはりカニ。横にしか歩けんのか……うそ~ん!


 わしが笑いながら駆けていると、白カニは四本の大きなハサミを海面に入れたかと思ったら、グルンっと回ってわしを追いかけて来た。

 なのでわしは、ショートカット。凄まじい速さの白カニの進行方向を横切りながら【青龍】連射。白カニはまたハサミで方向転換するので、わしは五芒星ごぼうせいを一筆書するが如く走り続ける。


 その結果、広いサンゴ礁には、巨大な円形の氷の塊が浮かぶ事となった。


 ま、そりゃそうなるか。埋まってくれていたら楽だったんじゃけどな。


 白カニは、当然力も強いので、凍ってもお構いなしに氷の塊に上がって来た。


 タカアシガニかな? ヤマタノオロチよりは、やや小ぶり。足が長いから、海面より上に体が出ておったみたいじゃな。ハサミが四本は確認しておったが、脚は……ひいふうみい……八本かな?

 見た感じ、両側の脚が二本ずつ無いし、合計十二本。普通のカニは、脚八本とハサミ二本。白カニは、六本分の力の上乗せってところか。


 ざっくりヤマタノオロチより、三分の二の強さってところ。わしと比べると、倍ってところじゃな。これぐらいなら、一人でなんとかなったかもな。



 わしが戦力分析していると、白カニは完全に氷の上に体を乗せる。


 こうしてわしと白カニの第2ラウンドは、丸い氷のリングの上で始まるのであった。

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