513 チェックメイトにゃ~
シラタマが【
「いまのところ血や体液は確認できないが、もうしばらくしたらここは水浸しになるはずじゃ。異変を感じたら、シラタマの魔道具を使うんじゃぞ」
「「「「はい(ニャ)!」」」」
「よし! 家康も元の姿に戻ったし、奥に向かうぞ!!」
猫ファミリーは、巨大キツネと巨大タヌキの背に分かれて乗り込み、白カニの体内、奥へと進んで行く。
前方を照らした光の魔道具の明かりを頼りにしばらく進むと、玉藻と家康は右と左に分かれて【
「どうじゃ?」
家康がふたつの穴に入って、しばらくして戻ると玉藻は問う。
「かなり離れた位置で聞こえておる。けっこう進んだとは思っておったが、まだ中央でもなかったようじゃ」
二人が確認していた事は、白カニの心音。ヤマタノオロチ戦での経験を活かし、弱点である心臓に、一直線に向かう作戦のようだ。
それを見ていたリータとメイバイは……
「オニヒメちゃん。この中で弱点はわからないかな?」
「ん。あっち」
「やっぱりわかるんニャ。えらいニャー」
「えへへ~」
即解決。オニヒメが変な能力を持っていると熟知しているリータとメイバイは、白カニの弱点を教えてもらって褒めまくる。
「……おい? あんな事を言っておるぞ」
「うむ……シラタマの仲間じゃ。信じてみようかのう」
やや信用していない家康と玉藻であったが、奥へ奥へと進み、オニヒメのストップの声で歩みを止める。そうして猫ファミリーは玉藻達から降りると、オニヒメに弱点を探させる。
「ここ。下にぶわーって、やって」
「たぶん真下に、さっきの呪術を使うと弱点があるみたいです」
「わかった。
リータの通訳を聞いて、玉藻が立候補する。玉藻は皆を下がらせたら真下に向かって【咆哮】を放ち、二度目の【咆哮】で大きな揺れを感じる。
「本当じゃったのか……」
「これでは
一発で心臓を引き当てたオニヒメを見て、玉藻は驚きの顔。家康は出番を取られて肩を落とす。
「シラタマも変じゃが、リータ達も大概変じゃな」
「誠に……どうしてこんなに変わった者が集まるんじゃ」
「変じゃないですって~」
「変なのはシラタマ殿だけニャー」
「「変じゃない~」」
玉藻達に、変、変、言われたリータ達は反論する。ただ、メイバイはちょっとだけシラタマをディスッていたので、あとで玉藻にチクられていた。
そうして話し合っていると、オニヒメが回りをキョロキョロしだして、家康の耳にガサガサと鳴る音が聞こえて来た。
「どうしたの?」
「いっぱい、いっぱい」
「何か大量にこっちに向かって来ておる!」
オニヒメの異変にリータが質問すると、オニヒメはトンネルの両側を指差す。それと同時に家康が答えを述べ、皆に緊張が走る。
「タマモさん、イエヤスさん。行ってください!」
「しかし……」
リータが二人に先ほど開けた穴に飛び込めと言うが、二人は心配なのか、足が出ないでいる。
「私達なら大丈夫ですよ。ね?」
「うんニャ。オニヒメちゃんのこの感じなら、数が多いだけニャー」
「こちらは任せてください!」
「そうか……」
メイバイに話を振ると安心させる言葉を掛け、さらにリータが力強く応える。
その力強い言葉を受けて、玉藻と家康は頷き合って口を開く。
「よし。こちらは任せた!」
「すぐに心臓を潰して戻るからな!」
二人はそれだけ言うと、穴に飛び込んで垂直に駆ける。それを見送ったリータ達は、武器を構えて穴を囲むように立つ。
「なんだか嫌な音がしますね」
「大蟻みたいニャー」
「その程度でしたら楽なんですが……」
「どうだろニャー?」
「きた」
リータとメイバイが話し合っているとオニヒメが指差し、何かの大群がガサガサと押し寄せるのであった。
* * * * * * * * *
玉藻達が白カニの体内で行動を起こしたほぼ同時刻、わしは白くて巨大な氷のリングの上で白カニと睨み合っていたら、白カニが動き出した。
なんじゃ? チョキチョキと空を切っておる。
「にゃ~~~!!」
遠くで何度もハサミを動かしている白カニを不思議に思っていたら、突如、凄まじい速度の斬撃が飛んで来て、わしは間一髪避ける。
そこからは斬撃が乱れ飛んで来るので、わしはジグザクに避けながら防御体勢。【吸収魔法・甲冑】で身を守る。
その直後、後ろ脚にかすってわしはこけてしまった。
ぐっ……しくった。全身守っておけばよかった……
こけた所に大量の斬撃が降り注ぎ、わしは体を丸めて耐える。そうして斬撃が終わったと安心したのも束の間、ドドドドと大きな音が凄まじい速度で近付いて来た。
ちょっとは休ませろ!
わしは血濡れの体を起こし、ダッシュで逃走。ギリギリ白カニに
くう~。効いた~。じゃが、なんとか五体満足じゃ。吸収魔法の隙間に一発入ったはずじゃけど、怪我しただけじゃ。吸収魔法に触れて弱まっておったのかな?
それになんだか走りも速くなっておる気もするけど、気のせいか? おっと。のんびり考え事をしている暇はなかった。
わしが考え事をしながら回復魔法で怪我を治している間に、白カニは急ブレーキ。向きを変え、ドドドドと音を立てながらわしに突撃する。
わしは冷静に白カニの顔とは逆に回り込むように避け、脚に目掛けて【超大鎌】。関節の隙間に入っていたら切り落とせると思うが、脚を動かしている最中ではラッキーに頼るしかなく、弾き返されてしまった。
バカのひとつ覚えしかないのかな?
白カニは、わしに避けられては向きを変え、横歩きからの突撃しかして来ない。なのでわしは簡単に避けられるし、背中側に避ければ反撃もされない。
わしの【超大鎌】も、防御力が高いからダメージになっていないが、ラッキーパンチで機動力を削ぎたいだけなので、当たろうが当たるまいが関係ない。ただ、待てばいいだけだ。
その時は意外と早く来て、白カニの甲羅から何かが飛び出した。
おお~。前回より、かなり早い。二度目とあって慣れておるのう。たしか一発目は、音を聞き分ける為に穴を開けると言っておったか。
弱点の心臓の音もわかるらしいし、もう少し粘っておれば、息の根も止まるじゃろう……ん? あれは……泡??
白カニの動きが止まったと思ったら、大きな口が開いた。そこから、途切れ途切れの黒い線が左右に伸びて行くのが見て取れ、わしは望遠鏡を出して確認する。
泡吹いてるんじゃない! カニじゃ!!
白カニは口の中で、仲間、もしくは子供を守っていたらしく、吐き出したのだ。ほとんどが黒いカニなのだが、少なからず白いカニまで居たので、わしは慌てて走り出した。
わしが慌てている理由は簡単だ。小カニの目的地は、穴の開いた場所。口から近い位置、三ヶ所に向かっているからだ。
そこに入られると、リータ達に危険が及ぶ。玉藻と家康なら大丈夫だろうが、白い小カニなら、リータ達も傷を負いかねない。中に入ってしまえば、それほど危険がないと思って同行を許可したわしの完全なミスだ。
なので急いで接近するが、白カニがそれを許してくれない。チョキチョキと斬撃を飛ばし、【水鉄砲】放ち、わしを近付かせてくれない。
接近戦に持ち込めないのならば、致し方ない。わしは【四獣】を遠距離から放ち、【玄武】の後ろに隠れながら接近する。
しかし、【朱雀】【青龍】【白虎】は接触前にチョキチョキと斬撃に散らされ、白カニの手前で霧散。【玄武】も直にチョキチョキ斬られ、真っ二つとなってしまった。
その直後、白カニはわしを見失う。
「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっ。くっついてしまえばこっちのもんにゃ~! にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっ」
わしがどこに居るかと言うと、白カニの頂上。目は届かず、ハサミも届かない場所だ。
このように、簡単に白カニに登れた理由も超簡単。家康に使った手を焼き直しただけだ。
【四獣】は
そこから念のため影の中を移動して、後ろ側の脚から駆け上がった。わしが乗ったところでプランクトンぐらいにしか重さを感じないのだから、バレずに頂上まで登れたってわけだ。
お! ザコは気付いてこっちに来よったわ。引っ込んでおれ!!
わしは【白虎】を走らせ、小カニの集団を一蹴。それだけでなく、【朱雀】や【青龍】も召喚し、白カニに開けた穴に近付く小カニも吹き飛ばすが、如何せん白カニは巨大だ。
白カニの上を行ったり来たりしながら穴を守るが数には対抗できず、小カニの侵入を許してしまうわしであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、玉藻と家康は、オニヒメの指示で開けた体内の穴に飛び込み、体液の中を犬かきで泳ぎ、心臓の前まで辿り着いた。そこで二人は耳を折り、重低音を出す心臓を見つめる。
「これが心臓か……変わった形をしておるのう」
「星型とは面白い。儂達に白星をくれるという事じゃろう」
玉藻と家康は、脈打つ白い星型の心臓を前にして軽口を叩く。
「さて……こういう場合、英語でなんと言うんじゃったか?」
「たしかチェスとかいうゲームで、王手……」
「おお。それじゃそれじゃ」
「では、それでいくかのう」
二人は目配せすると、声を合わせる。
「「チェックメイトじゃ!!」」
決め台詞と同時に【咆哮】。心臓に大穴を開けると、飛び込んで暴れ続けるのであった。
* * * * * * * * *
「けっこう多いですね」
「でも、楽勝ニャー!」
リータとメイバイは小カニの群れと戦いながら軽口を叩く。
小カニの群れは、大きくても5メートル程度で、ほとんどが黒。白もまざっているが、リータ達の敵ではない。
リータは迫り来るカニに対し、侍の勘を使って、攻撃される前にパンチ。
コリスも同じく、ビビビッと感じて、リスパンチと尻尾薙ぎ払い。
メイバイも侍の勘を使いつつ、ナイフ二刀流で突き刺す。
全員、気功を
唯一気功の使えないオニヒメは、お掃除担当。カニの死骸で穴が詰まって来たら、【大風玉】を使って道を開ける。
そうしているとカニも動ける場所が減って来て、遠くで詰まり始め、しばらくして完全に止まってしまった。
「マズイですね……」
「もう戦えないニャー。もう少し強い敵が来て欲しかったニャー」
「そんな事を言ってる場合じゃないですよ。帰り道が塞がれちゃいました」
「あ……どうするニャー??」
「タマモさん達を待つしか……」
「待たせたな」
「ちょっとそこを開けてくれ」
リータとメイバイが喋っていたら、ちょうど玉藻と家康からの念話が届いた。
「タマモさん! イエヤスさん!」
リータ達が下に向かう穴に目を移すと、巨大キツネと巨大タヌキが覗いており、リータ達が穴から離れたら、二人は飛び出して来た。
「もう終わったニャー?」
「ああ。心臓を潰してやったぞ」
「お主達も大変な思いをしたようじゃな」
メイバイの質問に玉藻が答え、家康は辺りを見回してカニの死骸の山に気付く。
「いえ。弱かったので、それほどです」
「コンコンコン。誠にシラタマの仲間は頼りになる」
「本当じゃのう。徳川に是非とも欲しい人材じゃ。ポンポコポン」
「笑っているところすみません。外に出る道が無くなってしまいまして……」
「そうじゃな。あとは任せろ」
「うむ。儂はあっちに撃とうかのう」
リータが申し訳なさそうに言うと、玉藻と家康は背中を向けあって【咆哮】を放つ。その一撃でトンネルからカニが飛び出し、道が開通した。
「さて、シラタマに報告しに行こうかのう」
そうしてリータ達を乗せた玉藻と家康は、白カニの体内に開いたトンネルを走り抜けるのであった。
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