510 陽気に海を行くにゃ~


「ゴメンにゃ~」


 レコードから聞こえる音が酷すぎたので、リータの歌だとは気付かずののしったわしは、泣かせてしまって平謝り。今度、歌の訓練をする事で納得してもらったけど、双子王女に丸投げしようと考えている。


 だって、そんな騒音をずっと聞いていたくないんじゃもん。


 心の中で呟いたら、皆が何故か頷いていたが気にしない。だが、リータのポコポコは気になるので、戦闘機に乗り込んだ。


 だって、わしが頑丈に作ったエリザベスキャット号に亀裂が入ったんじゃもん。


 とりあえず、ひとり寂しく船と連絡を取りつつ、レコードを流していたら、リータリサイタルが始まって墜落しかけた。


 だって、音量を触っていないのに、大音量が流れて来たんじゃもん。ビクッとを通り越して、気絶しかけたんじゃもん!


 なんとかレコードを止めたわしの元に通信魔道具で連絡が来たので、居眠りしてたと嘘をついた。


 だって、リータリサイタルで墜落しかけたとか言ったらかわいそうじゃもん。


 なので、皆の叱責はわしが受け、きっちりナビゲートしながら、また歌の録音。五曲ほど入れたらそれを流して、優雅に空を行く。



 船では、相変わらず大きな魚が近付いて来て、リータに鎖で釣られて猫ファミリーにボコられていたらしい。保管は一時、玉藻の【大風呂敷】。白いサンゴ礁で主と戦った後、わしの次元倉庫に入れ替えられる。

 そうしてまた戦闘機に乗ろうとしたら、レコードをカツアゲされた。


 「にゃ」が邪魔って言うなら、聞かなければいいのに……


 皆も暇潰しアイテムが欲しいらしく、わしの歌を文字に起こして、レコードに歌入れしていたようだ。次回も同じ曲を入れて船に戻ったら、新しい曲をご所望。


 そんなにレパートリーないッスよ~。うろ覚え……作曲家じゃないから、ポンポン出て来ないッスよ~。


 言い訳をしている最中に、この中で唯一わしの転生の秘密を知らない家康が居た事を思い出したので、作曲家と言い直す。家康のせいでリータ達も強く歌を教えろとは言えないらしく、新曲の件はうやむやになった。



 本日は四つの白いサンゴ礁の主と戦って、山口県沖で停泊。晩ごはんを食べ終えると、新しいオモチャを作ってみる。

 木を取り出し、エルフの里で習った木工気功で加工。空洞を作ってからぐにゃぐにゃ曲げて、真ん中をくり貫く。そして、鉄魔法で作った銅製の弦をピンッと張れば完成だ。


 ポロロ~ン!


 そう。ウクレレの音色だ。べっぴんさんの英会話講師がウクレレ教室の先生もしていたので、言われるままに入会したから、簡単なコードぐらいならわしでも弾けるのだ。女房と娘に、詐欺ではないかと何度も言われたけど……


 そのウクレレを爪で弾いてみたら、皆からガン見された。


「三味線か?」

「いや、琴じゃないか?」


 玉藻と家康は、日本古来の弦楽器の名をあげる。


「木彫りの猫を作っていたんじゃなかったニャー?」

「これ、お城で見た事がありますよ。たしかヴァイオリンって言いましたか」


 メイバイは変な勘違いをし、リータは見た事のある楽器の名前をあげる。


「これはウクレレにゃ。指で音を出す楽器にゃから、ご老公の言った琴が一番近いかにゃ? ちょっと弾いてみるにゃ~」


 本来ウクレレはナイロン製の弦だからかなり弾き難いが、コードを思い出しながらポロポロ弾き、乗って来ると家康にリクエスト。腹鼓はらつづみのドラムでリズムを取る。

 そして玉藻とメイバイに歌ってもらい、残りにはハンドクラップ。即興の音楽隊の完成だ。


 その音は陽気で、皆も笑顔だ。


 何度か通しで練習し、なかなかいい演奏になって来たので、一発取りの録音開始。リータにスイッチと合図を任せ、五曲の音入れ完了。

 聞き直してみたら下手くそで、コリスやオニヒメの笑い声も入っていたが、それもまたいい思い出だ。


 この日は皆でレコードを聞きながら、笑顔のまま眠りに就いたのであった。



 翌日は、コピーされたレコードを戦闘機とエリザベスキャット号で聞きながら進み、二ヶ所の白いサンゴ礁に入って巨大な魚を倒せば、玉藻の予定していた海域は制覇したと思われる。

 なので、わしの我が儘。エリザベスキャット号の舵を南に向け、速度を出して走ってもらう。

 わしも時々空を飛び、目指す島を望遠鏡で確認しながら進み、何度かの戦闘はあったが、その日の夕方には、大きな島を目視できる位置にまで近付いた。



「おお! あれはもしかして……琉球か??」


 玉藻が驚きの声をあげるので、わしは訂正してあげる。


「琉球は、とっくに通り過ぎたにゃ~」

「なんじゃと!? じゃあ、あの大きな島は……」

「玉藻には言ってなかったんにゃけど、日ノ本へ着く前に、わし達はふたつの島を発見していたにゃ。その内、大きかった島に行ったら、日ノ本だったわけにゃ」

「という事は、新天地……」


 まぁこの世界の人ならば新天地で間違いないじゃろうが、わしの常識なら、あの島は台湾。日ノ本と同じく黒い木が少なかったし、人間の生き残りが居る可能性が高い。

 外国が関わっていない台湾がどう発展しているか楽しみじゃ……あれ? 古代に台湾から沖縄に、手漕ぎの丸木舟で渡ったとか聞いた事があるかも??


「ここは琉球から近いし、交易してたと文献に残ってないのかにゃ?」

「たしかにありそうじゃな。帰ったら公家にでも調べさせてみるのも面白そうじゃ」

「残念にゃ。玉藻の勉強不足にゃ~」

「おいおい。琉球は日ノ本の一番端じゃぞ。そんな遠くの歴史まで、わらわが詳しく知るわけがあるまい」


 そりゃそうか。薩摩藩と琉球の交流も江戸時代じゃったもんな。中央でまつりごとをしていた玉藻じゃ、歴史までは詳しくないか。


「とりあえず、今日はあの島に乗り上げて夜を明かすって事でいいかにゃ?」

「「すぐに人を探さんのか!?」」

「もう暗くなるにゃ~」


 騒ぐ玉藻と家康を宥め、島に向けてエリザベスキャット号は進む。島に近付き、浅瀬に侵入すると、物理的に急停止。船がデカ過ぎて船底が海底にぶつかってしまった。

 全員、進行方向に転がったが、強者揃いの皆にダメージは無し。玉藻が操縦していたので、誰にも失敗をとがめられていなかった。わしだったら咎められていたかもしれないので、舵を握ってなくてラッキーだ。


 止まってしまったものは仕方がない。このまま船を土魔法で固定して、停泊とする。これは、原住民が居た場合の配慮。こんな巨大な船が攻めて来たと思わせない為に、上陸を一時遅らせる。


 だから玉藻とご老公は、船から降りようとしないでくれる? よし! わしに勝てたら考えなくもないぞ!! ……冗談で~す。マジで攻撃しないでくださ~い。


 どうやら二人は、新天地に上陸もしたいようだが、わしとの手合わせも楽しいようだ。全員人型であったが、それでも日ノ本最強戦力。わしの作った船が、数ヵ所破損する事態となってしまった。

 船首にある猫又像が壊れたから、リータとメイバイが悲しそうに直していたけど、見て見ぬ振りをしておいた。


 だって、自分で自分の像なんか修理したくないんじゃもん!


 そんな戦闘をしていたら完全に日が落ちてしまい、二人も上陸は諦めて、ゼーゼー言って倒れている。なので、わし達は楽しくディナー。ウクレレ片手に少し騒いで、お風呂を済ませて就寝。久し振りに家族水入らずで眠った。

 玉藻と家康は……しらんがな。食事と酒は出しておいたし、二人に割り当てた部屋もあるのだから、勝手に寝ただろう。



 翌朝は、朝から会議。家康が巨大タヌキになって大きなあくびをしているところを、原住民に見られたから緊急事態だ。巨大船に驚いたのか、巨大タヌキに驚いたのかわからないが、あまり好ましくはない。


「というわけで、ご老公は、この島では常に人型で過ごせにゃ」

「ちょっと背筋を伸ばしただけじゃろうに」


 家康はブツブツ言っていたが、満場一致の決議となったけど、まだまだ問題がある。


「シラタマは……」


 そう。玉藻の言う通り、このメンバーは見た目に難のあるメンバーだ。九尾のキツネ耳ロリ巨乳玉藻、五尾のタヌキ耳太っちょおっさん家康、巨大リスのコリス、猫耳娘メイバイ、白鬼オニヒメ。まともな者が、リータしか居ない。


「シラタマは……」

「とりあえず、コリスは変身してくれにゃ。出来たら、耳と尻尾を隠せないかにゃ?」

「やってみる~」


 コリスは聞き分けよくさっちゃん2に変身してくれるが、耳と尻尾は出たまま。まぁ巨大リスよりは、かなりマシだろう。


「……シラタマは?」

「オニヒメにはキノコ帽子を被せるとして、メイバイはフードでやり過ごそうかにゃ?」

「う、うんニャ」


 メイバイは歯切れの悪い返事だったが、これで見た目問題は、あとは玉藻と家康とコリスの耳と尻尾だけだ。


「そちが一番の問題じゃろう!!」

「わしはこの姿しか出来ないんにゃ~」


 再三、玉藻からの呼び掛けを無視し続けたら、ついにキレられた。もちろんわしだって自分の見た目ぐらい熟知していたから、後回しにしただけだ。



 玉藻が「ギャーギャー」わしを罵っていたら、オニヒメが誰か来たと言って来たので、皆で船首に移動する。すると、頭に羽を付けたカラフルな服装をした原住民がゾロゾロとやって来ていた。

 原住民は皆、漁村の者だと思われるが、手には槍や剣を持っているところを見ると、ヤル気があるようだ。


「ほら~。ご老公のせいで、攻撃を仕掛けられると思ってるにゃ~。ここは、責任を取って説得して来てくれにゃ」

わしがか!? ……最悪根絶やしにしてしまえば楽勝か」

「攻撃するなと言ってるんにゃ~!」


 戦国武将に任せると、土地の奪い合いになりそうなので、チェンジ!


「じゃあ、天皇の名代の出番にゃ~」

「妾が!? 陛下を神としてあがめさせ、ゆくゆくは統治を奪って……」

「島を乗っ取ろうとするにゃ~!」


 ちびっこ天皇の名代は搦め手で土地を乗っ取ろうとするので、やはりここは頼りになる……


「リータ。穏便に済まして来てにゃ~」

「む、無理です! 言葉も通じないですし……」

「念話があるにゃろ? メイバイもついて行ってあげてにゃ~」

「無理ニャー!」


 二人は人見知りが出て、船から降りてくれない。なので、やはり玉藻と家康に穏便に処理してくれと頼んだら、こちらも今ごろガチガチに緊張している。権威も通じない相手に、どうやって話し掛けていいかわからないんだって。


 んなもん、各国の王と会った時と同じようにすればいいんじゃ! てか、二人について来てもらったのは、原住民を説得してもらう為なんじゃからな! リータ達も、二度目なんじゃから大丈夫じゃろ!


 と、怒鳴ってみたら、全員に背中を押されて、エリザベスキャット号から落とされてしまった。



 一番乗りしてしまったからには致し方ない。水魔法で水分を除去しつつ海を歩き、岸の手前で止まる。原住民は何かを言いつつ槍や剣を下ろしてざわざわしているが、気にせず挨拶してみる。


「ニイハオにゃ~」

「「「「「×##*×*×!!??」」」」」


 あら? 中国語でも通じん。それに、エルフの里と言葉が違う気がする。たぶん「猫、猫」と言っているはずなんじゃが、単語が違っておるな。とりあえず、念話で声を掛けてみるか。


 人数が多いので、前列に居る十人ほどの原住民に念話を繋いで話し掛ける。


「こんにゃちは~」

「な、なんだ……」


 皆、キョロキョロしているので自分を指差して教えてあげる。


「わしにゃわし。魔法で話し掛けているんにゃ」

「あなた様が……やはり神様なのですね!」

「「「「「はは~~~」」」」」


 どうやら原住民は、海の上を歩く神秘的な光景を見て、わしを神様だと勘違いして全員土下座をしているようだ。


「猫だにゃ~~~!!」


 もちろんわしは、猫だと叫び続けるのであったとさ。

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