509 白ハリセンボンと戦うにゃ~
全長100メートル以上あった白ハリセンボンが怒って膨らむと、トゲの長さも加えると200メートルを超え、せっかく張った氷は全て砕かれてしまい、エリザベスキャット号が激しく揺れる。
「もう一度氷を張るにゃ! 玉藻とご老公はすぐに攻撃にゃ~!!」
「「おう!」」
エリザベスキャット号がいくら大きくても、同等の大きさの白ハリセンボンに突撃されたならば、沈没は必至。
わしは慌てて【青龍】を海に飛び込ませ、氷の足場を作って船も固定してしまう。そこに、巨大キツネ玉藻と巨大タヌキ家康が飛び降りて接近するが、白ハリセンボンのトゲが邪魔をして、近接戦闘に持ち込めないでいる。
なので呪術で攻撃するが、白ハリセンボンは思ったより硬いからか、トゲすら折れなかった。
「顔にゃ! 顔を探せにゃ!!」
そこにわしの的確で素晴らしい指示。二人はふた手に分かれて氷を走り、白ハリセンボンの顔を探す。すると、玉藻が一番最初に発見したようだ。
そこはトゲひとつ無い白ハリセンボンの弱点。白ハリセンボンも弱点とわかっているからか、簡単には攻撃をさせてもらえない。ぶっとい水のビームが何発も放たれ、玉藻は近付けないでいた。
そうして避けていたら家康が合流したので、少しだけ言葉を交わして二人で突撃。白ハリセンボンは、一人増えた敵に照準が合わせづらくなり、【水鉄砲】を外す事が増えた。
玉藻と家康が攻めている間、わしも遊んでいるわけにもいかず、海を凍らせて回り、白ハリセンボンを動けなくしてしまう。
頼れるわしの大活躍で、白ハリセンボンが身動きひとつ取れなくなったころで玉藻と家康も、近接戦闘に持ち込む。【水鉄砲】を全て避けきり、白ハリセンボンの両頬にダブル頭突き。
そこから引っ掻きに噛み付きに【
「引くぞ!」
「おう!」
わしも顔側に回って「今日の晩ごはんはてっちりにしよっかな~?」と、ボーっと考えていたら、玉藻と家康は物凄い速度で駆けて来てた。
「血相変えてどうしたにゃ?」
「後ろ後ろ!」
「にゃ~~~?」
わしが質問すると、玉藻がすれ違い様にそんな事を言うので白ハリセンボンを見たら、少し縮んでいた。目の錯覚でなければ、トゲが回転しているようにも見える。
「にゃ!? にゃんでこっちに連れて来てるんにゃ~~~!!」
そう。玉藻と家康は、白ハリセンボンが回転し始めたから逃げていたのだ。それも、わしに
このままではわしも
「これ、どうするんにゃ~!」
「シラタマなら、なんとか出来るじゃろ!」
「そうじゃ。便利な呪術をいろいろ持ってるじゃろ!」
「急に押し付けられても思い付かないにゃ~」
最初から真面目に戦っていたのなら、集中していたからいくらでも方法は思い付いただろうが、いかんせんボーっとしていた。本当にてっちりとてっさしか思い付かないので、三人で最強攻撃をしようと言って振り返る。
「にゃ~~~ご~~~!!」
「ゴーーーン!!」
「ポーーーン!!」
突如、三匹の獣の【咆哮】が響き渡る。
玉藻と家康の口から放たれたエネルギー波は、何故かわしの【
その【合体咆哮】が高速回転する白ハリセンボンのトゲと接触すると、火花を散らし、押し合いとなった。
どちらが勝ったかというと、もちろんわし達じゃ!!
数秒の押し合いの最中、白ハリセンボンのトゲは折れ、回転していた事が仇となって、顔から背、腹から顔と【合体咆哮】に
「チャンスにゃ! 一気に仕留めるにゃ~~~!!」
「「にゃ~~~!!」」
これだけ無駄に走らされたのだ。わしも怒り爆発で、【レールキャット】。【御雷】からの気功ネコパンチだ。
トゲも鱗も無い白ハリセンボンでは、わしの攻撃で貫通どころか大穴が開いた。その大きく開いたトンネルを、玉藻と家康が潜り抜けながら【咆哮】連射。何発も白ハリセンボンの腹から【咆哮】が空に消えて行く。
玉藻と家康が潜り抜けた頃には重要器官を貫いたからか、白ハリセンボンは空気が抜けてしぼんで動かなくなるのであった。
「楽しそうでしたね」
「なに遊んでるニャー」
「「「面目にゃい」」」
エリザベスキャット号に戻ったわし達は、リータとメイバイに小言を言われる。どうやら転がる白ハリセンボンから逃げ回っていた事が、遊んでいたと受け取られたようだ。
まぁ実際問題、この面子なら白ハリセンボンに余裕で勝てたはずなのだから、わし達は頭をポリポリ掻きながら反省したのであったとさ。
夕刻間際という事もあり、今日はここで一泊。切り分けた白ハリセンボンの身で、てっちりとてっさだ。本物のフグでは無いが、白い魚だけあって、本物のフグより遥かにうまい。
ただ、どれも素人料理なので、玉藻と家康がブツブツ言っていた。どうやら超高級魚の味に慣れてしまって、わしの適当フグ鍋と分厚い切り身が気に食わないようだ。
だったら自分で作れよ! ……包丁すら持った事がないのですか。じゃあ、文句言うな!!
お弁当も追加してお腹もいっぱいになり、玉藻と家康が反省したところで、お風呂。今日も、タヌキだけど男の家康は建物のお風呂に隔離し、わし達は露天風呂で汚れを落とす。わしは猫でぬいぐるみだからいいのだ。
お風呂が済めば、晩酌。コリス達にはジュースやお茶を飲ませ、わしと玉藻と家康は、熱燗をすする。
「にゃっとと。スズー……ほっこりするにゃ~」
「今宵は満月。酒が進むのう」
「氷に月に海、
綺麗な景色にわし達は酒が進むが、あまり飲みすぎると明日に支障をきたすので、地図を広げて作戦会議に移行する。
「ここで京を過ぎたところって感じだにゃ。どこまで進むにゃ?」
「ふむ。九州辺りまでは、妾としては行きたいところじゃが……」
玉藻は申し訳なさそうに家康を見る。
「かまわん。それぐらい攻めたほうが、日ノ本の為になるじゃろう。次回は、逆側の海を全て回らせてもらうからな」
「おお~。有り難うな。ささ、飲め飲め」
それを家康は笑って許可し、玉藻も笑顔でお酌するが、わしは納得できない。
「次回ってなんにゃ! わしは付き合わないと言ったにゃろ!!」
「まぁまぁまぁまぁ。妾達は戦友じゃろ」
「ささ、飲め飲め飲め飲め。また戦友として、共闘しようと約束したじゃろう」
「そうじゃぞ。忘れたとは言わせん」
「知らないにゃ~! プハー!!」
どうやらヤマタノオロチ討伐お疲れ様会で、玉藻と家康と約束していたらしいが、まったく記憶にない。
今日の事も忘れるほど飲まされて、リータ達から「酒臭い」と寝室からポイっと投げ捨てられ、わしは寒空のなか震えて眠るのであった。
翌朝、ブルッとして目覚めたわしはベッドから降り、甲板の端に移動して立ち小便。大海原でする立ち小便は格別だ。
いちおう備え付けのトイレはあるが、どっちみち海に直通しているから、どっちでしても変わらない。
そうしてもう一眠りしようかと戻ったら、ベッドが無い。「おっかしいな~?」と思ったけど、そもそも自分が外で寝ていた事がおかしい。夢でも見ていたのかとキョロキョロしていたら、玉藻がテーブルにてお茶をしている姿があった。
なのでわしも、コーヒーを取り出して目の前に座る。
「にゃあ? わしって昨日、どこで寝てたにゃ??」
「覚えておらんのか? そちは酒臭いから、リータ達に部屋から追い出されておったんじゃ」
「そうにゃの!?」
「あまりにも
どうやら玉藻は、巨大キツネの姿でわしを包み込んでくれていたらしい。だからわしが小便で起きて戻ったら、ベッドが消えて、キツネ耳ロリ巨乳に変わっていたようだ。
「じゃあ、わしが起こしちゃったんにゃ」
「まぁそうじゃが、起きるには頃合いじゃ。それよりも、話をしておこうと思ってな」
「にゃ?」
「報酬の話じゃ。またそちには無理をさせておるからのう」
「あ~……とりあえず、魚は猫の国と日ノ本で、半分こって事でどうにゃろ?」
「ううむ……」
わしの案に、玉藻は腕を組んで唸る。
「取り過ぎかにゃ?」
「いや、少なく感じるだけじゃ」
「半分でも、全て売れば、国家予算ぐらいになりそうにゃ~」
「そちは本当に欲がないのう。もっと要求してもいいじゃろう」
国家予算も貰えば、十分過ぎるじゃろう。玉藻は金の価値がわからないのか?
「他には何かないか?」
他と言われても……あ! ついでじゃし、二人にも付き合ってもらうか。
わしの要求は玉藻にとってはたいした物ではないが、時間を奪う事になるから、それなりに大きな出費だろう。かなりお茶を濁しての要求だったが許可は取れた。
それから玉藻と楽しく話をしていたら、リータ達が外に出て来て浮気だなんだと騒ぎ出した。
浮気って……それより、この寒空に放り出すって酷くない? 凍え死んでいてもおかしくないぞ? それに、タヌキと一緒に寝たって事は、そっちが浮気なのでは??
わしの反撃にあったリータとメイバイは、謝りながら撫で回して来る。いつもと同じ撫で方だが、たぶん反省しているのだろう。
なので、ゴロゴロ許し、ゴロゴロ言いながら朝食。そして、ゴロゴロ言いながら出発。
も、もうその辺で……ゴロゴロゴロゴロ~。
結局は撫で回しの刑を受けたわしは、気持ち良すぎて気絶するのであったとさ。
エリザベスキャット号は南に進む中、寝ているわしを玉藻が叩き起こし、早く空を見て来いと言われた。なので、戦闘機を取り出すが、昨日のレコードの件を話し忘れていたので、皆を集めて見せてあげた。
すると、わしが喋ってもいないのにレコードから歌声が聞こえるので、玉藻以外、不思議そうな顔で、わしとレコードを交互に見ていた。
もちろん、玉藻と家康は購入希望。売り付けようとふたつ持って来ていたから、売ってあげる。ただし、わしの暇潰しも兼ねているので、ひとつはしばらくわし専用レコードだ。
わしが戦闘機でナビをしつつ、新しく英語の曲を歌っていたら、船では何度もレコードを聞いていたようだ。そうして白いサンゴ礁に侵入すると、主を倒してさっさと音楽鑑賞。
次の白いサンゴ礁の主を倒して休憩していたら、今度は英語の歌も「にゃ」が邪魔と言われてしまった。それなら自分達で歌えばいいと、録音の仕方を教えてまた空へ。
次の白いサンゴ礁の主を倒せば、ランチをしながら音楽鑑賞会だ。
『『上を向ういて~♪ あ~るこおおお♪ 涙が~こぼれ~ないよおおに♪』』
「にゃ? 玉藻とご老公が一緒に歌ってるにゃ?」
「そうじゃ。声だけでは寂しいと思ってのう」
「男と女の声が合わされば、いい響きに聞こえたからな」
「お~。上手く調和してるにゃ~」
あまり茶化すと二人は喧嘩になり兼ねないので適当に褒めておいて、一曲が終わったら、次の曲が流れて来た。
『ハーウ、メニーピーポー♪』
「にゃ! メイバイの声にゃ。なかなか上手いにゃ~」
「そうかニャー? 王女様方のほうが上手かったニャー」
「あ、それいいにゃ。帰ったらにゃにか歌ってもらって、それを売れるかどうかも考えようにゃ~」
メイバイの歌を聞きながら商売の話をしていたら、次なる歌が聞こえて来て、皆は耳を塞ぐ事となった。
『ボエ~~~! ボエ~~~!!』
「にゃんだこの騒音は~~~!!」
「私の歌です~~~」
オオトリはリータ。あまりにも酷すぎたので、怒鳴りながらスイッチを切ったら泣かせてしまった。
どうやら元の世界で岩だったリータは、運動音痴だけでなく、歌も音痴だったようだ。
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