515 小説の続編にゃ~
大漁を祝して江戸の寿司屋で大宴会を行った翌日……
「「「御用だ御用だ!」」」
何やら威勢のいい声でわしは目覚めた。
ん、んん……なんじゃ? 騒がしいのう。また誰かが騒いでおるのか??
寿司屋のカウンターで突っ伏して寝ていたわしが体を起こすと、寿司屋の大将が入口でお縄になっていた。なので、何事かとわしは近付く。
「にゃんか大将が悪い事をしたにゃ?」
「ち、ちが……」
「昨夜、お前達はバカ騒ぎをしていただろう。騒音罪で、全員しょっぴかせてもらうからな!」
わしの問いに大将が答えようとしたら、岡っ引きタヌキを引き連れた紋付きタヌキが遮った。
「つつつ……急に大きにゃ声を出すにゃ~。騒音を出してるのはお前にゃ~」
「なに!? 口答えするのか!!」
「だから大声を出すにゃ~。てか、誰がそんにゃふざけた罪状を作ったんにゃ~」
「貴様……天下の元将軍、徳川家康公を愚弄するのか。不敬罪も追加だ!!」
「うっさいにゃ~。そのご老公がこの騒ぎの幹事にゃんだから、そういう苦情はご老公に言ってくんにゃい?」
「馬鹿な……こんな所に家康様がおられるわけがなかろう!」
「呼んで来るから待ってろにゃ~」
わしが
「拙者に手を上げたな……公務執行妨害も追加だ~~~!!」
騒ぐ紋付きタヌキの声は、耳をふさいで無視し、カウンターで寝ている家康タヌキ耳太っちょおっさんバージョンの顔をペチペチ叩く。
「ご老公~。にゃんかご老公を捕まえに官権が来てるにゃ~」
「ん、んん~……
わしに起こされた家康は、あくびをしつつ入口に向かい、紋付きタヌキの前に立つ。
「見た事のある顔じゃな」
「そ、そのお顔は!? は、はは~」
「「「「「はは~」」」」」
家康が紋付きタヌキの顔を覗き込むと、驚愕の表情を浮かべたあと、後方ジャンピング正座。からの土下座。それに釣られて、岡っ引きタヌキ全員も土下座する。
「して、
「そ、それは……」
「騒音罪にゃって」
紋付きタヌキが口ごもるので、わしが教えてあげたら家康は首を傾げる。
「騒音罪……はて? そんな罪状はあったかのう」
「忘れてるにゃ? こいつはご老公が作ったって、言ってたにゃ~」
「ううむ……あ! 思い出したぞ」
どうやら騒音罪は、遠い昔にお茶を飲んでいる時に、外で騒いでいた若者に対して一度だけ使われたようだ。わびさびを邪魔されて、怒りに任せてその場で叫んだ事が今日まで引き継がれ、江戸が静かな要因のひとつとなったんだって。
「えっと……じゃあ、その一度だけの罪状が
「うむ……どうりで江戸が静かなわけじゃ」
「罪状ぐらい、ちゃんと確めておけにゃ~」
「いや、儂が一度怒鳴っただけじゃぞ? まさかそれが……」
「そんにゃ罪状だらけかも知れないにゃ! 帰ったら調べろにゃ!!」
「面目ない」
わしが家康を怒鳴り付け、頭を下げられると、紋付きタヌキ達は絶望した顔に変わったので助けてあげる。
「聞いた通り、ご老公の失敗で、変にゃ罪状が残っていたにゃ。みんにゃが悪いわけじゃないから安心するにゃ。もしも、腹を切れとか言われたら、わしが止めてやるからにゃ」
「は、はい! ですが、家康様とそのようにお話をするあなた様はいったい……」
「にゃ? わしは猫の国の国王、シラタマにゃ。顔は知らなくても、名前ぐらいは聞いた事があるにゃろ?」
「う、噂の猫王……」
せっかく助けてあげたのにわしの正体を知ると、紋付きタヌキはさらに奈落の底に落とされたような顔に変わった。
「まぁどっちが不敬だったかいま気付いたんだにゃ。全て不問にするから、みんにゃも朝メシ食って行ってくれにゃ。大将! 昨日の余り物でにゃんか見繕ってくれにゃ~」
「あいよ!」
大将は縄で結ばれたままキッチンに向かうので、縄はわしが引きちぎってあげた。それから大将は職人を蹴って全員起こしていたので、わしもリータ達を起こそうと思ったが見当たらない。
大将に聞いたところ、店に居た女性は全員、玉藻の指示で二階の座敷で雑魚寝してるとのこと。なので、トコトコと階段を登り、皆を起こす。
そうして撫でられて待っていたら、一階から騒ぎ声が聞こえて来たので、料理が出来たのだと受け取って下りるが、席が無い。なので、猫ファミリーでせっせっと二階に運んで朝ごはん。
寿司屋なのに味噌汁と焼き魚、おにぎりの朝食セットだったが、どれも高級魚が使われているので、うまいの一言しか聞こえて来なかった。
朝食を終え、寿司屋にはお土産の料理を作らせている間に、わし達は近所の銭湯に向かう。そこでひと悶着。
家康と一緒に男湯に入ろうとしたら、リータ達に女湯に拉致られた。番頭にも男だと言ったが、「女湯はいまは誰も居ないからご勝手に。朝からお盛んですね~」とのこと。
まぁそれならいいかと、いつも通り揉み洗いにされ、きれいさっぱりになったら皆でラムネを飲む。
「「「「「ブフゥゥーーー!!」」」」」
「だから止めたんにゃ~」
炭酸飲料初体験の者は、わしが止めてもゴクゴク飲んで盛大に吹き出す。なので、わし達は掃除してから銭湯を出るのであった。
銭湯から寿司屋に戻ると、大量に出来ていたお土産を次元倉庫にしまい、家康に支払いは任せてバスで出発。まずは三ツ鳥居があるという神社で玉藻を降ろす。ここから京に帰れるらしい。
別れの挨拶で「また遊ぼう」と言われたが、断った。その顔は、絶対に白いサンゴ礁の主と戦う顔してるんじゃもん!
わしが断っても、リータとメイバイが快く受けていたので、絶対参加なんだとか……
玉藻と別れると、次は家康。ただ、見たいところがあったから、無理を言って案内してもらった。
そこはもちろん江戸城天守閣。わし一人でワーキャー……「にゃ~にゃ~」言いながら走り回り、触るなと言われたところをガンガン触って、隠し通路をいっぱい発見した。
ただ、家康が凄く疲れた顔をしていたから質問してみたら、子供のお守りは大変だったんだって。まぁわしは四歳の子供で間違いないから気にしない。
リータ達も、わしがはしゃぎまくる姿は珍しい事なのか、微笑ましく見ていたのでお咎めもなかった。
江戸城に来た理由は、何も遊びに来たわけではない。ここの蔵に、わしが売ってあげた猫の国と繋がる三ツ鳥居があるからだ。
家康とも別れの挨拶で「また遊ぼう」と言われたから断ったけど、リータ達が快く受けていた。
それならわしを挟む必要なくない? 玉藻とのやり取りを見てたじゃろ??
わしは家康に突っ掛かるが、三ツ鳥居はすでに開いていたので、リータに首根っこを掴まれて猫の国に帰るのであった。
我が家に帰ったら、さっそく双子王女にからまれる。
「「それで強敵と戦って来たのでしょう? お話を聞かせてくれますわよね?」」
「にゃんで知ってるにゃ!?」
わしは釣りに行くとしか言っていなかったのだが、双子王女には筒抜け。どうやら小説家の猫耳娘は、玉藻と家康から「海にはとんでもない化け物が居る」と聞いていたそうだ。
そこにわしを送り込めば小説のネタになると言われて、猫耳娘はわしに釣りをして来いと言っていたらしい。
その事を、双子王女に報告していたから知っていたらしいが、わしは現地に行くまで知らなかったんじゃぞ? リータとメイバイは聞いてた??
あ、聞いてなかったんじゃ。わしを騙す為に、トップシークレットになっていたのですか。そうで……騙すなよ!!
家臣に騙された事を知ったわしは「にゃ~にゃ~」文句を言うが、冒険の話を早くしろとのこと。なので、大会議室に役場職員を集めて、お土産の巨大魚料理を振る舞う。
うまい魚料理に舌鼓を打つ皆の騒ぎが落ち着いて来たら、航海日誌を見ながら魚の大きさと苦労して倒したこと、リータ達がわしの失敗談を補足する。
コリスの元にも話を聞きに行く者もいたけど、どれが美味しいかと聞かれて「ぜ~んぶ、星みっちゅ!」とか言って、微笑ましく見られていた。
役場職員は休憩時間を延長して話を聞いていたが、仕事は大事。双子王女の指示で解散し、わしは縁側にてゴロゴロ。久し振りの我が家は気持ちよく、皆も疲れていたからか、そのまま眠りに就くのであった。
夜にもどんちゃん騒ぎで冒険談をし、次の日は猫耳娘の取材。お昼過ぎに写真が出来たので、写真観賞。巨大魚は縮尺がわからない物が多かったが、メイバイが背中に乗っている写真もあったので、二人にもなんとか大きさが伝わった。
ただ、猫耳娘が
それならば、保護者も一緒に絶対参加。遣猫使が帰ったら、トウキン家族には長期休暇でいろいろ回って楽しんでもらおう。
とりあえず「リス王女様のお品書き」の為の、ランチとディナーをトウキン家族で食べに来るようにと命令し、嬉しそうな猫耳娘が呼びに行くと、わしも役場に入ってゴロゴロする。
そうしてディナーが始まれば、また双子王女にからまれた。
「「どうして発見した島を猫の国にしないのですの?」」
「どうしてと言われても……面倒にゃ」
「シラタマちゃんなら余裕でしょ」
「帝国だって簡単に倒していたじゃない」
「簡単じゃないにゃ~。超大変だったにゃ~」
「「それ、小説のネタになりそうですわね……」」
「まだ出すにゃ!?」
双子王女の話に乗ったら、小説「猫王様シリーズ」のエピソード1から3まで出版が決まった。猫の暮らしや、白い巨象討伐、帝国滅亡まで……
「あの……東の国編の、さっちゃん暗殺未遂は出さにゃいのでしょうか?」
「「そ、それは……」」
どうやら、母国の不祥事は小説にしたくないようだ。それも、自分達が少なからず絡んでいるから恥ずかしいんだって。
わしだって根掘り葉掘り聞かれて恥ずかしいんだから、猫耳娘に双子王女の悪行をある事ない事チクリ、「東の国編」も出版を強行してやるのであった。
「「オホホホ。わたくし達の活躍が書かれていますわね。オホホホ~」」
「にゃんで双子王女が解決した事になってるんにゃ~~~!!」
秘密裏に双子王女を悪役令嬢に仕立て上げた小説は、百冊販売した時点で双子王女にバレて、話自体がまったく変えられ、わしは悪役ぬいぐるみに落とされていたのであった。
もちろん、そんな嘘だらけの本は女王から苦情が入り、出版差し止めにあって、わしと双子王女で負債を折半するのであったとさ。
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