593 ウサギが歩く猫の街の様子にゃ~


 移住第二弾の移送が完了すると、クリフ・パレスに残されたわしは二人のエルフをヨタンカに紹介する。


「この夫婦は、ウサギ族の用心棒にゃ」

「用心棒……ですか??」

「ウサギ全員で掛かっていっても、敵わないぐらい強いから安心するにゃ」

「はあ……」

「信じてないにゃ~? 明日にでも、ウサギ族の強者と戦わせてみろにゃ」


 とりあえずエルフの紹介を終えると、わしもお腹がすいていたので食事。その席で、エルフの役割を説明する。


 エルフにはわし直伝の念話を教えているので、この二人も言葉が通じなくても会話は出来る。

 基本、週休二日でクリフ・パレスの警備と三ツ鳥居の魔力補充が仕事だが、出番も少ないだろうから狩りにも使ってもらう。給金は猫の国から支払われるから使い放題だ。

 ただし大食いなので、食料はわしの手持ちの高級肉を毎週送る予定になっている。この食料についてはエルフしか食べる事は禁じているから、ウサギ族が食べると罰を与えると言っておいた。


 そうそう。お腹がすいたら食われちゃうから気を付けてね。


 ついでに脅しておいたから、守ってくれるはずだ。エルフ奥さんからめっちゃ苦情が来たけど……モフモフ出来ると聞いたから来たのですか。あまりモフり過ぎても嫌われると思いますよ?


 どうやら募集要項にウサギ族の写真を付けていたから、エルフの里でもモフモフ好きが殺到したらしい。でも、夫婦で働く決まりだから順番待ちが長くなるので、半年の契約から三ヶ月交代の短いスパンに代表が変えたようだ。



 エルフの家はあるのかとヨタンカに聞いたところ、狭い部屋なら空いているとのこと。しかしちっこいウサギ族の狭い部屋なんて、普通の人間には狭すぎる。なので、わしが作る事にした。


 クリフ・パレスの一番端。壁になっている所を土魔法で掘って、キッチンお風呂トイレ付きの2DK。二人の為に持って来ていたダブルベッドとソファーはプレゼント。

 各種魔道具を設置し、下の階に氷室も作ってあげたので、送った高級肉はここに貯蔵される。

 こんなに至れり尽くせりの家はエルフの里には無いらしいので、交代要員が来ても帰ってくれるか不安だ。ヨタンカも住んでみたいとか言い出す始末。


 そんなことを言うから……ほら? 奥さんに捕まった。まぁ友好を深める為にモフられてね~。


 エルフ旦那は嫁を取られて悲しそうな顔をしていたので、とっておきのお酒をプレゼント。二人で飲みながら個人的な仕事を頼み、カレンダーを見て次回の移住に関して話し合う。

 あとでヨタンカに伝えるように言っておいたので、これでクリフ・パレス側の移住第二弾は全て終了。わしは猫の国に帰った。



 光魔道具で煌々こうこうと照らされたウサギ居住区に入ると、絶賛揉み洗い中。乾かされてブラッシングされたウサギは、猫の街の子供や女性に餌付けされながらモフられている。

 わしにもモフリ被害が来そうなので、用意していた男性陣に近付き、途中経過を聞いておく。


 この男達は、念話の魔道具を使って住民台帳を作る役目。男ならウサギを見てもモフらないかと思っていたが、子供に抱っこされたウサギから聞き取りをしながらモフっていた。

 かなり作業が遅れているように見えるが、猫の国時間はとっくに日を跨いでいる。わしはもう眠たいので、コリスとオニヒメを連れて我が家で眠った。


 リータとメイバイは知らんがな。モフモフがあったら眠気も飛ぶのだろう。



 次の日は、リータ達はモフモフ酔い。何時まで起きていたか知らないが、辛そうにしているので、わしだけでお出掛け。三ツ鳥居の回復作業があるから白い森を訪れて、主の白ヘビから間借りした土地に埋めておく。

 いちおう地下に部屋を作ってガッチガチに固めたから、白ヘビが乗ったとしても壊れないだろう。二日も置いておけば完全回復しているので、適当に取りに来る予定だ。お土産のシロップを持って……



 ウサギ族の相手をして忙しく過ごしていたら、また厄介な仕事。4月6日の終戦記念日となった。

 この終戦記念日は、前回は建国記念日と同時にやったのだが、遊びに来る他国の者には関係ない話だし、しんみりしてしまうので祭りにはそぐわない。なので、猫会議の議題に出して、完全に分離したのだ。


 全体的には終戦記念日なのだが、人族と猫耳族では意味合いが違う。人族では、東の国や猫耳族との戦闘で亡くなった戦没者のとむらい。猫耳族では、帝国からの独立記念日だと受け取られている。

 このままでは分断の危険はあるが、どちらの意見もわしは黙認している。もちろん、わしたち猫ファミリーは両方に出席だ。


 午前中はソウのお墓の前で戦没者を弔うしめやかな追悼式。わしが殺した者も居るので弔辞は読み上げず、お墓の前で手を合わせるだけ。幹事の三将軍にだけは、一言声を掛けて次に移動する。


 午後は猫耳の里に出向き、移転した慰霊碑の前で弔辞。わしからは独立という言葉を使わず、猫の国がまとまったと締める。

 そこからは、どんちゃん騒ぎ。しめやかにやりたいのだが、最初は静かに飲んでいた猫耳族は酒が進むに連れてわしを拝み倒し、歌って踊り出したので仕方がない。


 今日と明日は国民の休日となっているので、全ての猫耳族が猫耳の里に集合しているから逃げ出す事も出来ない。

 そのお祭りは深夜に突入し、まだまだ続いていたが、猫ファミリープラスワンヂェンは、ワンヂェンの根城だった寺院に逃げ込み朝を迎える。


 外に出ると、猫耳族の屍がそこかしこに……朝方まで騒いでいたようで、ほとんどの猫耳族は外で雑魚寝していた。

 幹事であるセイボクをなんとか探し出し、帰る旨と、今日中に全員を住んでいる街に帰すようにと念を押しておいた。キャットトレインは増便しているし、何回か行って来いさせればなんとかなるだろう。


 猫の街に帰ったら、惰眠。今日は国民の休日と言うことは、王様も休日と言うことだ。


「王様って……国民??」

「民じゃないから違う気がするニャー」

「今日だけは休ませてくださいにゃ~」


 リータとメイバイがいらん事に気付いたので、必死にスリスリして休日を勝ち取るわしであったとさ。



 次の日も惰眠を貪りたかったが、リータ達が許してくれないので猫ファミリーで街中をウロウロ。じゃなくて視察。

 双子王女だけでは一気に増えた住人に対して手が回らないので、経過報告書を作る大事な仕事だ。


 道を歩くと素っ裸のウサギを発見。食料品は届いたのだが、服はまだ一着も届いていないので、もう少し辛抱してもらわないといけない。

 わし直々に他国のギルドに苦情を入れようとしたら双子王女がやってくれる事になったので、王女効果ですぐに届くだろう。

 まぁその事を謝罪しても、ウサギ族は服を着たそうにしていなかったから、多少は時間的猶予がありそうだ。


 ウサギ族の当面の仕事は、農業とサービス業。十人一組で行動し、念話の魔道具を持つ住人の指示を聞いて働いている。しかし魔道具が足りないので、ウサギ族を班分けして仕事日と授業日に分けている。

 勉強組は校長のトウキンに丸投げしているのでなんとかなるから、仕事関係を視察。ウサギ族は農業もやった事があるようだから問題なさそうだ。

 サービス業は、ベッドメイキング、皿洗い、掃除等、裏方ぐらいしか任せられないようだが、真面目に働いているように見える。


 総じてウサギ族は問題なさそうだが、問題があるのは猫の街の住人のほう。


 ウサギ族を撫で回す痴漢が多発しており、仕事の邪魔ばかりしている。たぶん先輩のウサギから魔法の言葉を習っていたのか、「ドントタッチミー!」が飛び交っていた。

 見掛けた場合はその都度叱って回ったが、痴漢が無くなるのはもうしばらく掛かりそう。ウサギ族にはわし直々に謝罪して、「必ず無くなるかも?」と、自信無さげに言って回った。



 お昼になるとキャットタワー2階の職員食堂にて昼食を取りながら、双子王女に報告。ついでに痴漢をなんとかする法律を作ろうかという話をしたのだが、双子王女は顔が真っ青。リータとメイバイも真っ青にするので、法案を取り下げた。


 だって、国のトップクラスが犯罪者じゃ洒落にならんのじゃもん。


 昼からもウロウロし、ウサギ居住区の視察。あまり残っていなかったが、ウサギから使い心地を聞いておいた。

 もちろん、部屋は広いし床よりは畳ベッドのほうが柔らかいので高評価。食事もうまくて多いし言う事はないようだが、言いたい事はあるようだ。


 それはもちろん、痴漢アカン!


 わかっていた要求なので、ここはしばらく辛抱してくれと言うしかない。それと、お金の話でなんとか誤魔化す。

 税金は一年は取らないから、楽に暮らせると説明。そのお金で美味しい物が買えるとダメ押ししたら、なんとか納得してくれた。

 嘘ではないが、国民はすでに経験しているので、わしの心が苦しい。せめてリータとメイバイだけでも……


 わしを撫でたらいいじゃろ~? 違う感触も楽しみたいのですか。それは浮気ですよ??


 王妃がこれでは、いつになったら痴漢が無くなるのやら……。一年以内に無くならなかったら、マジで法律を作ってやろうと思うわしであった。



 そんな中、チェクチ族から留学しにやって来たナヴガンを発見。太った女を連れて歩いているのも気になったが、そう言えば全然気に掛けていなかったと思って声を掛けてみる。


「勉強のほうは順調かにゃ?」

「あ、はい。英語は全てマスターしました」


 久し振りに会ったから忘れていて英語で喋ってしまったが、普通に受け答えしてくれたのでそのまま世間話。

 猫の街の暮らしはどうかと聞いてみたら、こんなに素晴らしい土地に連れて来てくれたと感謝された。チェクチ族の集落では考えられないぐらい生活水準が高いとも褒めてもくれたが、猫の街はまだまだ発展途上。

 もっと発展した東の国も見てから帰るかと話をしていたら、太った女が鼻息荒く話に入って来た。


「そこには美味しい物はありますか!?」

「にゃ? まぁ猫の街よりはお店は多いけど……うちも美味しいからにゃ~。てか、こんにゃ子、うちの街に居たかにゃ??」


 猫の街には太った人が少ないから、他所の国から来た人だと思うわし。ただ、他所から来た人は会っていたが、顔見知りの人物だった事に気付かされた。


「えっと……姉のゲウトワリなんですが、もう顔を忘れたのですか?」

「失礼しちゃうわね~。チェクチ族一番の美人の顔を忘れるなんて」

「ゲウ、トワリ……にゃ!? ゲウトワリにゃの!?」


 わしは驚くが、ナヴガンとゲウトワリは首を傾げているだけ。


「誰だかわからないぐらい太ってるにゃ!」

「「太ってる??」」

「にゃんで気付かないにゃ~~~!!」


 わしが指摘しても二人はわからないみたいなので、姿鏡と写真を出して現実を教えてあげたら、ゲウトワリは泡吹いてブッ倒れた。



 このまま夢の中に居させてあげたいところだが、家まで運んでゲウトワリが目を覚ましたら質疑応答。今まで二人はどんな暮らしをしていたか聞いてみた。

 どうやら二人は、魔鉱の代金を援助金として渡していたので仕事をしておらず、学校で勉強する以外は猫の街の産業を見て回っていたそうだ。だが、真面目に見ていたのはナヴガンだけ。

 ゲウトワリは学校が終わったら食べ歩きばかりをしており、晩ごはんを食べても食欲は押さえられず、買って来たお菓子をボリボリ食っていたらしい。


 今までお金持ちの留学生なんて居なかったから、完全な盲点。わしも全然面会していなかった事もあり、手遅れとなってしまった。


「近々集落に送ろうかと思っていたんにゃけど……」

「こんな姿じゃ帰れないわ!」

「だったら痩せろにゃ~~~!!」


 この日以降、ゲウトワリには農業の仕事をさせたけど、そのせいでよけいお腹が減るらしく、食事量が増えるのであった……


「おこずかいは没収にゃ~~~!!」

「そんな~~~」


 たぶんそんな事だろうと思ってすぐに様子を見に行ったらボリボリ食ってやがったので、ゲウトワリの援助金は取り上げるわしであったとさ。

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