594 ポポル親子にゃ~


 チェクチ族のゲウトワリが激太りしていたので心配事が生まれたわしは、リータ達と共にソウの地下空洞に慌てて転移した。


「ふっ……太ってるにゃ!? ポポルもお母さんも激太りにゃ~~~!!」


 残念ながら、時すでに遅し。二匹のウサギは丸々と太って食べ頃になっていた。


「「太ってる?」」


 ポポル親子も英語をマスターしていたようで答えてくれるが、太った事に気付いていないから、持っていたウサギ族の写真を見せたがまだ気付かない。なので、大きな鏡を出したらようやく気付いてくれたけど、事の重大性に気付いていない。


「体が重たいにゃろ?」

「いえ……軽いです」

「うっそにゃ~。そんにゃに太って軽いわけないにゃ~」

「嘘じゃないですって~。こんなに絶好調なのは始めてなんですって~」


 ポポルはなかなか太った事を認めてくれない。それどころか、自慢してきやがった。


「訓練を付けてくれてる人も、簡単に倒せちゃうんですよ? いまならリータさん達は無理でも、シラタマさんぐらい簡単に倒せちゃいますよ」

「にゃ? わしが弱いとでも思ってるにゃ??」

「だって、僕とそんなに変わらないじゃないですか? ましては酋長しゅうちょうみたいな仕事をしてるんじゃ、勝てるわけがありませんよ~」

「リータ~。にゃんかポポルがムカつくこと言ってるにゃ~。どんにゃ訓練してたんにゃ~」


 ポポルがニヤニヤしながらわしを弱者認定するので、訓練を任せていたリータ達に質問すると、わしが言った基礎練しかしてないとのこと。

 あとは奴隷騎士に任せて外に出ていたのでたいして訓練は付けていないし、リータ達もウサギ族の移住を手伝っていたから久し振りに会ったので、現在の強さはわからないようだ。


「仕方ないにゃ。わしがその鼻っ柱、へし折ってやるにゃ」


 多少強くはなっているだろうが、ちょっと強くなっただけで調子に乗るバカは話にならない。訓練用の武器を構えて試合を開始する。


「王様だからって手加減しませんよ~?」

「いいから掛かって来いにゃ~」

「では、いきます!」


 ポポルはニヤケながらわしを挑発し、飛び込んで剣を振るうが、簡単に受け止めて弾き返してやった。


「あ、あれ? なんで……」

「これが実力の差ってヤツにゃ」

「そんなわけありません!!」


 わしが現実を教えてあげてもポポルはお構いなし。縦横無尽に動き回り、剣を振り回す。


 うむ。思っていたよりはやりおる。剣の腕前は酷いもんじゃが、身体能力はなかなかじゃ。まるで猫耳族と戦っているようじゃ。

 この切り返しの速さはウサギ族の特徴か? バネが凄い。太ったというより、本来の体重になって身体能力が戻ったと言ったほうが正しいかもしれん。

 これは、ひょっとしたらお買い得の物件を手に入れたのでは??


 わしはその場から動かずポポルの剣を受け続け、大きく弾き飛ばしたら挑発する。


「にゃはは。軽い軽い、軽いにゃ~! そんにゃ軽い剣で、よくもまぁわしに勝てると言ったにゃ? にゃははははは」

「ぐっ……これならどうだ!!」


 ポポルはめちゃくちゃ跳ねてわしを惑わそうとするが、そんなフェイント、侍攻撃の出来る者に通じるわけがない。しかし、格の違いを見せ付ける為に、わしはポポルの動きに合わせて常に後ろを取り続ける。


「おっそいにゃ~。ほれ? 早く逃げにゃいと斬っちゃうにゃ~」

「うっ、うう……」


 もうここで、ポポルはわしに勝てないと悟ったが、甚振いたぶるように追い詰めて傷を負わす。そしてポポルが完全に止まったら、わしはゆっくりと近付く。


「もう終わりにゃの~? さっきまでの威勢はどこに行ったにゃ??」

「も、申し訳ありませんでした……」

「謝るにゃ!!」


 ポポルが観念したように頭を下げるので、わしは怒鳴り付けると同時に剣を振り下ろし、顔の前にてピタリと止めた。


「お前は調子に乗っていま死んだにゃ! わしは言ったよにゃ? ポポルにはウサギ族の守護者になってもらうと……その守護者が調子に乗って死ぬってどういうことにゃ!!」

「実力差があるから……」

「言い訳するにゃ! それも見越せず死んでどうするにゃ! 相手をよく観察しろにゃ! 勝てないにゃら自分を犠牲にしてでも仲間を逃がす時間を稼げにゃ! ウサギ族が生き残ればお前の勝ちにゃ! わかったにゃ!!」

「は、はい!!」


 ポポルが背筋を正したので、わしは最後の言葉を送る。


「よし! それじゃあ、死んでくれにゃ~」

「はい? ……ぎゃああぁぁ~!!」


 調子に乗った罰だ。気絶するぐらいの力に抑えたわしの模擬刀はポポルの腹に減り込み、十数メートル吹っ飛んで行くのであった。



「息子が失礼なことを……申し訳ありませんでした!!」


 ポポルが吹っ飛ぶと、母親のルルはポポルに駆け寄るでなくわしの元へ来て頭を下げる。


「気にしてないにゃ。それより、お母さんの勉強の成果を見せてくれにゃ~」

「あ……は、はい!」


 わしが笑顔で言うと、ルルはポポルのそばに駆け寄って回復魔法を使う。わしもそこに近付いて、ポポルの傷が治るか注視する。


 わからん……たぶん全身打撲なんじゃろうけど、毛皮のせいでわからん。自分ならわかるんじゃけどな~。せめて血が出てないとわからんわ~。


 ルルもよくわからないらしく、触診して腫れている所やポポルが痛そうな反応をした場所を集中的に回復魔法を使う。

 わしよりかなり遅いが、強制レベルアップの効果で魔力量は増えていたから、余裕を持って治せたようだ。


 治療が終わるとルルはポポルを起こし、一緒に土下座して謝って来た。


「「申し訳ありませんでした!!」」

「もういいにゃ。調子に乗ったらこんにゃ事が起こると忘れるにゃよ~?」

「はい! もう調子に乗りません!!」


 ポポルも反省しているようなので、頼んでいた仕事の確認。それが終わったら、ディナーをしつつ訓練の成果を聞いておく。

 その時、普段からどれぐらいの量を食べているのか見ていたが、一般的な成人男性よりやや少ないぐらい。これでどうしてこんなに急に太ったのだと思案していたら、ようやく答が出た。


 魔力濃度の高い空間と魔力濃度の高い食材のダブルパンチ。


 奴隷は安物のメシしか食べさせていないし、そもそも量もかなり少ない。わしたち猫ファミリーはおそらく魔力代謝が高いから太りにくい。

 ポポル親子は魔力代謝が低いのに、そんなダブルパンチを続けたら、そりゃ太る。ただ、本当に体の調子はいいようだから、これがウサギ族の本来の姿なのだろう。

 要経過観察と報告書にしたためて、双子王女に提出する。


「「モフモフ~!」」

「「あ~れ~」」


 撫で心地もアップしているらしいので、特筆事項「痴漢発生率アップ??」と書き加えて提出するのであったとさ。



 その深夜、ソウの別荘で寝ていたわしであったが、ここのところ寝る時間がまちまちだったので変な時間に目が覚めてしまった。

 仕方がないので少し酒を入れようと縁側に出たら、ルルがボーッと庭を見詰めていた。


「お母さんも眠れないにゃ?」

「あ! シラタマ様……」

「そのまま、そのままにゃ」


 わしが声を掛けるとルルは立ち上がろうとするので制止して、わしは隣に座る。そして、ルルには日本酒を。わしはウィスキーを水割りで入れたらグラスを合わせる。


「わっ! 美味しいです……」

「気に入ってくれてよかったにゃ。でも、ゴクゴク飲んだら倒れるから、ゆっくり飲んでにゃ」

「そうですね……すぐに無くなったらもったいないです」

「ま、おかわりはあるけどにゃ。それより、こんにゃ深夜にどうしたにゃ?」

「はあ……特にという事ではないのですけど……」


 どうやらルルは、ポポルの成長や怒られてしゅんとする顔、笑顔など様々な顔が見れて、幸せを噛み締めていたようだ。

 わしは「そんなことで幸せを?」とか思ったが、口には出さなかった。だけど顔には出ていたのでルルにはバレていた。


「夫を亡くしてから自分がポポルを幸せにしたかったのですけど、なにぶん体が弱くて……あの子には苦労ばかり掛けてしまって申し訳なくて……」


 まぁ親は、子供の幸せを一番に考えるもんな。それを自分が足を引っ張っていたんじゃ。心苦しく思うじゃろう。わしも同じ立場なら同じ事を思っていそうじゃわい。


「その不幸はお母さんのせいじゃないにゃ。時代が悪かったんにゃ。それに、いまポポルが幸せって事はお母さんも幸せにゃろ? その幸せは長く続くから、心配するにゃ」

「うっ……うぅぅ」


 わしが優しい言葉を掛けて頭を撫でると、ルルは泣き崩れて抱きついて来た。そんなルルをわしは抱き締め、静かな時間が流れるのであった。



「ウフフ。ポポルを叱るシラタマ様……まるでお父さんみたいでしたよ。ウフフフフ」


 泣き止んだルルは、酒が進みぺちゃくちゃと喋り続けて笑い上戸となっていた。


「もう、そろそろ寝……」

「ウフフフフ。本当にポポルのお父さんになりません? 私、まだまだ若いと思うんですよ。ウフフ」

「いや、わしには妻が……」

「こんな未亡人は嫌ですか? 私、未亡人には未亡人の魅力があると思うんですよね。成熟した女……燃えません? ウフフフフ」

「ちょっ! 触る……」

たくましい胸板……ウフフ。こんな胸に抱かれたいわ~。ウフフフフ」

「リータ~! メイバ~イ! 助けてくれにゃ~~~!!」


 ルルは酔っているのかわしに絡み付いてエロいので、緊急事態だ。わしは怒られるのを覚悟して二人を呼ぶしかなかった。


 だって、熟女以前に、こんなモフモフ好みじゃないんじゃもん!


 もちろん助けに来てくれたリータとメイバイに引き離され、わしが浮気していたとこっぴどく怒られたのであった。ルルもモフモフ罪でモフられていたけど……



 翌日、朝食の席で……


「お母さんも早く食べるにゃ~」

「いやですわ。ルルと呼んでください」

「昨日のこと覚えてたにゃ!?」

「ポポル~? 新しいお父さん欲しくない??」

「勘弁してくれにゃ~~~」


 酔った勢いでわしを誘っていたと思っていたルルは、素でわしを狙っていたと知って、恐怖におののくのであったとさ。

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