592 移住第二弾にゃ~


 桜を見る会が終わり、各国の王族が全員帰った翌日……


 わしたち猫ファミリーは大量の三ツ鳥居を持って、クリフ・パレスに転移。寝静まるクリフ・パレスの空き空間にバスを出して猫ファミリーでゴロゴロしていたら、外が明るくなって来た。


 ざわざわと人の声も聞こえるようになるとリータに叩き起こされ、バスから出たらウサギの密。うじゃうじゃと居るウサギの先頭には、ヨタンカが土下座をして待っていた。


「朝から驚かせてしまったようだにゃ。そうかしこまるにゃ」

「はは~」


 ウサギ族はバスを見た事があるので、わしが来たのだとヨタンカに報告したから、このような仰々しい出迎えになったようだ。

 だが、そんな事をされても迷惑なだけ。ヨタンカの首をむんずと掴み、猫ファミリーと共にバスの屋根に飛び乗る。

 そして音声拡張魔道具を持つオニヒメの隣に立たせたヨタンカには通訳を頼んで、わしは語り始める。


「今日より、本格的にゃ移住を開始するにゃ。でも、その前にやっておかなくちゃならないことがあるにゃ」


 ざわざわと声が聞こえる中、わしは喋り続けているのにヨタンカは通訳しないで固まった。


「え……」

「ちょっと酷だったかにゃ? じゃあ、他の人にお願いするにゃ。通訳してくれる人、おやつあげるにゃ~」


 エサに釣られた前列に居たウサギは、めっちゃ手を上げて近付いて来たので適当なウサギを指名したら、すんごい落胆の声が聞こえて来た。十数人しか念話を繋いでいなかったのに、伝言ゲームで多くのウサギに伝わってしまったようだ。

 ちょっとした騒ぎとなっているが、リータに連れて来てもらった通訳ウサギにクッキーの入った袋を見せて、「いまから言う言葉は絶対に一字一句漏らすな」とお願い。

 もちろん通訳ウサギからいい返事をもらえたので、音声拡張魔道具に魔力を流しているオニヒメの隣に立たせて話を再開する。


「これより、酋長しゅうちょうヨタンカの処刑裁判を始めるにゃ!!」


 こんな事を言ったからヨタンカは黙り込んでしまい、通訳が出来なくなってしまったのだ。二番手の通訳ウサギも、わしを何度も見て「マジで??」って顔をしながら通訳している。


「過去であったとしても、にゃん人もの同胞を死に追いやったんにゃ。わしはこのことが許せないにゃ。事後法だろうとそんにゃもん関係ないにゃ! 被告ヨタンカを、大量殺人の罪で死罪とするにゃ~~~!!」


 通訳ウサギはわしとの熱量がまったく違い、震えるような声で言葉を発し、ずっとざわざわしていたウサギ族は静まり返った。

 そんな中、わしはコリスに指示。ヨタンカを正座させ、押さえているように言ってからのデモンストレーション。次元倉庫から太い木を取り出して空中に投げると、腰に差している【猫撫での剣】で真っ二つにしてやった。


 地面にドスドスと木が落ちるとウサギ族にも音が戻り、何やら叫んでいたので近くに居るウサギに念話を繋ぐ。


 うむ。罵詈雑言の嵐じゃ。「短い耳のウサギ」が悪口かどうかはよくわからんけど、わしを指してるっぽい。猫なんじゃがな~。

 てか、ヨタンカを殺すぐらいなら猫の国に入りたくないのか……思っていたより反感が強いな。


 わしはウサギ族の声を聞きながら、ヨタンカの隣にしゃがみ込む。


「ヨタンカって、酷い事をしていたくせに、こんにゃに慕われていたんだにゃ~」

「私も恨まれているものだと……」

「まぁこのままじゃ収集がつかにゃいし、時世の言葉でも語って、さっさとあの世に行こうにゃ」

「そうですね。私も早く楽になりたいです……」


 通訳ウサギにヨタンカが喋る旨を伝えさせると、ウサギ族は固唾を飲んで見守る。


「皆さん……私はウサギ族の為とはいえ、多くの同胞に手を掛けました。この責は不甲斐ない私にあります。申し訳……申し訳ありません」


 ヨタンカが涙ながらに訴えると、ウサギ族からもすすり泣く声が聞こえる。


「皆さん。これは自責の念に押し潰されそうな私に、神様がくれる最高の褒美です。だからどうか皆さんは、私の死を悲しまないでください。神様を信じて、ウサギ族を繁栄させてください。どうか、どうか……幸せに暮らしてください」


 ヨタンカが涙ながらにわしを見て頷くので、話が終わったと受け取り、処刑を開始する。

 コリスには首を斬りやすいようにヨタンカを前屈みにさせて、わしは刀を振り上げる。すると、そこかしこからウサギの悲痛な声が聞こえた。


 ズバッ……


 と、空気が斬れる音が辺りに響くと、ウサギ達から声は無くなる。


「やっぱやめたにゃ。そんにゃに死にたいにゃら、ずっと生かしてやるにゃ。お前が苦しくても、ウサギ族のため死ぬまで働いてもらうにゃ。通訳! さっさと仕事しろにゃ!!」


 ポカンと見ていた通訳ウサギは、わしに怒鳴られて慌てて通訳する。


「ヨタンカを、ウサギ族の代表として任命するにゃ! これを持って罰とするにゃ~!!」


 ヨタンカが崩れ落ちる中ウサギ達は歓喜の声を出して、処刑裁判は閉廷するのであった。



 それからウサギ族には、呼ぶまでいつも通りの仕事をするように言い渡して解散させると、ヨタンカはクリフ・パレス頂上に連れ去る。そこで、テーブルを出して豪勢な食事を並べた。


「こ、これは??」

「話はあとにゃ。早く食ってくれにゃ~」


 ヨタンカはヨダレを垂らしながらも食べようとしないので、わしは急かす。コリスには、わし直々に餌付け。そうでもしないと、ヨタンカの分が無くなるからだ。

 超高級料理を食べたヨタンカは、一口入れては気絶するので、リータとメイバイに介護してもらう。ちなみにオニヒメもヨタンカの料理に手を伸ばしていたので、「メッ!」と叱って餌付けしておいた。


 ヨタンカが料理を食べ終え、昇天して魂が空に飛んで行ったが、わしは慌てて捕まえて体に押し込んだら話を再開する。


「さてと……さっき言った通り、ヨタンカには猫の国を支える代表になってもらうからにゃ」

「私のような咎人とがにんについて来る者なんて……」

「いっぱい居たにゃ~。てか、罰なんにゃから、絶対にやってもらうにゃ。お前は死ぬ事も許されないんだからにゃ」


 ぶっちゃけこの処刑裁判は、ただのパフォーマンスだった。おそらく死にたがっているであろうヨタンカを裁く事によって、少しでも罪の意識が軽くなるように、わざわざウサギ族の目の前でやったのだ。

 こうでもしないと、ヨタンカが代表になってくれないとの判断。代表を新たに選ぶにしてもウサギの人となりはわからないし、こんな大人数の選挙なんてやりたくない。わしが楽するには、なんとしてもヨタンカを代表にするしかなかったのだ。

 もちろんリータ達には前もって説明していたので、演技に付き合ってくれた。わしが楽がしたいが為とは伝えていないので、たぶんバレてないはず……


 バレてないよね? 頷いているところを見るとバレバレっぽい。


 まぁ実際問題ウサギ族を移住するにしても、クリフ・パレスのまとめ役は必要なので、リータ達からのお咎めはなし。ヨタンカの罪の意識を軽くしようとしているのだから、優しく頭を撫でてくれている。


 わしの裁定にヨタンカは黙って下を向いていたが、顔を上げた頃には覚悟は決まったようだ。


「このヨタンカ。ウサギ族の為に、命を燃やし尽くすと約束します!」


 ヨタンカの力強い言葉を聞いたわしは……


「はいにゃ~。肩の力を抜いて頑張ってにゃ~」


 軽い。あまりにも軽すぎたので、リータとメイバイに頬を伸ばされるのであった。



 代表が決まると、これからの話。もう一人の代表を決める事と、移住の順番や残す者を決めるように指示を出しておく。

 二人目の代表は、次期酋長に即決定といきたかったが、ヨタンカの息子だったので保留。家族運営なんてされてはここの為にならないので、家族以外で有能な者を探すように指示を出しておいた。


 エルフの里では夫婦で代表をやっているが、厳正なる選挙で決まったからいいのだ! いいのだ~!!


 今回の移住者は、前回移住したウサギの家族の者と、クリフ・パレスで作る予定の役場で働く職員。それらを含め、五百人近い人数をなんとか猫の国に送り込む予定だ。

 すぐに決まってくれたらいいのだが、なにぶん六千人も居るのだ。猫の街では受け入れの準備はしているが、今日中には終わらないだろうから明日に変更……


「「「「「はいはいはいはい!!」」」」」


 ちょっと説明したら殺到したので先着順。あっという間に定員は埋まったので荷物を取りに行かせ、あとで農園で合流する。

 その間、ヨタンカの息子カレタカを紹介してもらって、役場職員のまとめ役に任命。猫の街役場や学校で勉強したあとは、クリフ・パレスで書類仕事に精を出してもらう予定だ。

 ついでにカレタカには役場職員候補も連れて来るように言って、あとで合流する。


 猫の街にわしだけ戻って双子王女に「予定通り」と指示を出したら、クリフ・パレスに転移して農園に待たせていたウサギの前に三ツ鳥居を置く。


「え~。この先に、前回移住した人が待っているから、その人の指示に従って洗われてくれにゃ。でも、もうちょっと時間があるから、しばしご歓談にゃ~」


 通訳のヨタンカから説明を聞いたウサギ達は首を傾げていたが、気にせずコリスとオニヒメを連れて歩き回る。

 全員を班分けしながら【ノミコロース】も掛け終わると、空に【光玉】を浮かべて注目を集める。


「もうそろそろにゃ。ちょっと嫌にゃ目にあうかもしれにゃいけど、向こうで美味しい食事を用意してあるから許してくれにゃ」


 食事の話をしたらウサギ族は「ひゃっほ~!」とか騒ぎ出したから、『嫌な目』というワードは耳に残っていないようだ。どんな料理が出るのかと、ずっとわいわい喋っている。


「じゃ、そろそろ頃合いにゃんで、第一班準備にゃ~!」


 三ツ鳥居の前にウサギを一列で並べると、駆け足のポーズ。


「よし! 時間にゃ……どんどん走れにゃ~~~!!」

「「「「「ぴょ~~~ん!!」」」」」


 わしが合図を出すと、ウサギ達は嬉しそうに三ツ鳥居を潜り抜ける。おそらく、新天地には素晴らしい未来が待っているのだと思っているのだろう。


「「「「「モフモフ~~~!!」」」」」

「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」


 まずは揉み洗いという地獄が待っているのに……


 モフモフ祭り……いや、移住第二弾は、猫の国では夜の0時だというのに、またいっそう住人が集まり、ウサギ達を揉み洗い。

 ウサギ達は悲鳴を上げていたが、先発組に大丈夫と諭され、諦めて洗われる。まぁ逃げられないから諦めてる節は強いが……


 煌々こうこうと光魔道具で照らされるウサギ居住区ではそんな騒ぎが起こっているが、クリフ・パレスでは気付いておらず、ウサギ達がガンガン三ツ鳥居を走り抜ける。

 開閉時間が迫ると三ツ鳥居を取っ替えて、次の班を走らせて揉み洗い地獄。そうこうしていたら最後の班も走り抜けたので、向こうで待機させていたエルフ二人を呼び寄せた。


「じゃあ、私達も帰りますね!」

「「モフモフ~!!」」

「「ごはん~!!」」


 エルフと入れ違いに、こちらで交通渋滞を整理していたリータ達は三ツ鳥居を潜り抜ける。リータとメイバイはモフりに走り、コリスとオニヒメはごはんを食べに帰ったようだ。


 こうしてクリフ・パレスから五百人のウサギが消えて、移住第二弾の移送が完了するのであった。

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