107 蟻駆除・リータとメイバイ


「シラタマさ~~~ん!」

「シラタマ殿~~~!」


 シラタマはリータとメイバイを、土で出来たお茶碗をひっくり返した形の防御壁に押し込め、蟻の群れに向かって行った。

 彼女達はしだいに小さくなるシラタマの背中を見つめるしか出来なかった。


「シラタマ殿が死んじゃうニャ……」

「そ、そんな事はないです! シラタマさんは絶対死にません!!」

「あんなに多いニャ……」

「周りを見てください! あんな数より、もっと多くの蟻が倒れています!!」


 リータはメイバイに周りを見るように促すが、千匹以上の蟻の死骸を見た二人は顔を青くして息を呑む。


「本当にゃ……これはこれで怖いニャ……」

「本当ですね……作戦に夢中で気付きませんでした。これ、ほとんどシラタマさんがやったんですよね……」

「あんなに小さいのに……」

「あんなにかわいいのに……」

「あ! 見るニャ!」

「なに、あの玉……」


 メイバイが気付いた物の正体は、シラタマの風魔法【大風玉】。リータが驚いたのも束の間、みっつの【大風玉】がザコ蟻を吹き飛ばしたのであった。


「もうザコが吹っ飛んだニャー!」

「すごい!」

「でも、今度は黒蟻に囲まれたニャ……」


 大きな黒蟻に囲まれたシラタマは、素早く動き、刀を振って応戦している。


「全部避けてますよ! ……徐々に黒蟻の動きが鈍くなってます?」

「避けるたびに足を斬ってるみたいニャ」

「メイバイさんは見えるのですか?」

「遠くてシラタマ殿の剣は見えないど、黒蟻の足の数が減っているのは、なんとか見えるニャ」

「本当です!」


 二人でシラタマの戦闘を観戦していると、突如、大きな竜巻が出現する。


「なんニャ! 竜巻ニャー!!」

「あれはシラタマさんの魔法です」

「シラタマ殿はあんなに凄い魔法まで使えるんだニャ」

「シラタマさんが白蟻に飛び込んだ!」

「避けられたみたいニャ。でも、これなら……」

「危ない!!」

「大丈夫ニャ。クイーンの魔法はちゃんとガードしたニャー」

「あ……黒蟻を二匹倒しました」

「勝てるニャ!」

「シラタマさんなら勝てます!」


 二人はシラタマの戦いに一喜一憂し、黒蟻が二匹倒れると不安は取り除かれ、「キャーキャー」と手を握り合って飛び跳ねる。


 しかし……


「あの……」

「なんニャ?」

「黒蟻、こっちに来てません?」

「……来てるニャ」

「ど、ど、とうしましょ!?」

「お、落ち着くニャ。弱い奴が逃げて来ただけニャ」

「あれ、一番大きくて角が三本ある奴ですよ!」

「嘘? ホントニャ……どうしようかニャ?」

「シラタマさんは、ここから出るなって言ってましたね……」

「この壁はどれだけ持つかニャ?」

「ああ! 蟻があんなに出て来た……」

「さっきの倍はいるニャ。……リータ!」

「メイバイさん!」

「行くニャー!」

「はい!!」


 二人は【お茶碗】から飛び出して、向かって来る三本の角を持つ黒蟻を迎え討たんとする。


「私がメイバイさんを守ります!」

「私が攻撃するニャー!」

「「かかってこ~~~い(ニャ)!」」



 リータはメイバイの前に立って盾を構え、メイバイはリータの後ろで二本のナイフを構える。その瞬間、リータの盾に衝撃が走った。


「グ……」

「大丈夫ニャ?」

「大丈夫です! それより来ます。準備してください!」

「わかったニャー」


 黒蟻は走りながらリータ達に三個の土の塊を放つが、リータの盾によって防がれる。黒蟻は土の塊を防がれても走りを止めずに、リータ達に向かう。そして角を前に体当たりを繰り出す。

 それをリータは、盾に魔力を込めて受け止めた。


「行くニャーーー!」

「メイバイさん。待って! 後ろに跳んで!!」

「ニャ? ……わっ!」


 メイバイがリータの後ろから飛び出した瞬間、地面が盛り上がり、槍となってメイバイを襲う。

 元の世界で岩だったリータの勘が働き、土の動きに違和感を覚え、メイバイを後ろに跳ばせた。そこを土の槍が、メイバイの居た場所から現れたのだ。

 二人は、黒蟻がまた何かして来ないかと考えて距離を取る。


「危なかったニャー!」

「まだ来ます! 動きますよ!」

「わかったニャー」



 二人は何本も生える土の槍に、当たらないように回り込みながら走り出す。黒蟻もそれに合わせ、土の槍を生やしたり、土の塊を飛ばしたりと、土魔法で二人を近付かせない。

 しばらく膠着状態こうちゃくじょうたいとなるが、なかなか攻撃が当たらない二人に黒蟻は苛立いらだったのか、体当たりを繰り出す。

 その攻撃に、リータは待っていたと言わんばかりに盾を前に構え、力を込めて待ち構える。その直後、リータと黒蟻は接触し、大きな衝撃音が辺りに響いた。


「いまです!」

「……【肉体強化】。行っくニャー!」


 リータによって受け止められた黒蟻は、力を込めて押そうとするが、リータは動かない。動きを止めた黒蟻に、リータの後ろからメイバイが飛び出し、黒蟻とすれ違い様に魔力を込めたナイフで、左脚を一本斬り落とす。

 怪我を負ってリータを押し切れないと判断した黒蟻は、自分の後方まで走り抜けたメイバイにターゲットを移し、振り返ろうとする。


「行かせません! 【土槍】×2」

「ナイスニャー!」


 しかし、リータは黒蟻の両脇に【土槍】を生やし、振り返ろうとする黒蟻を数秒拘束する。そこを反転したメイバイが、今度は黒蟻の右側を走り抜け、脚を斬り落とした。


「二本、斬り落としてやったニャー」

「いけます! いけますよ!!」

「そうだニャ。このまま押し切るニャー!」


 二本の脚を切り落とされた黒蟻の動きは鈍り、リータとメイバイの戦いは攻勢に傾く。

 動きの鈍った黒蟻は、二人を近付けないように土の塊を多数放つ。だが、リータは盾を前に構え、一歩一歩、距離を詰める。じりじりと時間を掛けて進み、メイバイの射程範囲、あと少しのところで黒蟻は口を開けて突進して来た。


「いまです!」


 リータの合図で二人は左右に跳び、黒蟻を挟み込む。先手でメイバイが黒蟻の背中に飛び乗り、何度もナイフで斬り付け、次にリータが横腹を殴り付ける。

 黒蟻は悲鳴をあげて吹っ飛び、メイバイは黒蟻から前転しながら飛び降りる。


「すごいパワーニャー」

「メイバイさんも、速いし身軽ですね」

「ギィィーーー!!!」


 二人がたたええ合っていると、怒った黒蟻が叫ぶ。


「褒め合ってる場合じゃないニャ」

「ですね。どこが弱点でしょう?」

「やっぱり……」

「「頭 (ニャ)」」

「気が合うニャ」

「もうひと頑張りです」

「行くニャー!」

「はい!」


 リータとメイバイの戦いは続く。

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