552 北極に到着にゃ~


「ほ~う……つまり、この猫がオーガと戦って凄い爆発が起きたと……」

「「はいにゃ~」」


 リータとメイバイがわしの勇姿を称えながら説明してくれるが、ヴクヴカイ族長の目が妖しく光った。


「二人はこう言っているんだが、獣が押し寄せた理由はお前じゃないと?」

「そうにゃ~。原因不明にゃ~」

「どう聞いてもお前だろう!!」


 とぼけてみても、もうバレバレなので、わしも諦めるしかない。


「ちょっとした興味本意だったんにゃ。まさかあの広い森で、オーガと出会うとは考えていなかったんにゃ。それに、倒さないとアイツは、いつかチェクチ族を見付けていたかもしれなかったにゃ~」

「たしかにそうかもしれんが……倒したという証拠は?」

「死体は持ち帰って来たにゃ。こんにゃ事態になってにゃかったら、帝国滅亡の一報と共に見せてあげようと思ってたんにゃ~」


 ヴクヴカイにはここで出せと言われたが、部屋の中では狭すぎて出せなかったので、外に移動する事となった。その時、外の調査をしていた者が一人戻って来たので、わしの疑惑がひとつ解消された。

 それからどこで出そうかと考えて、鳥の死骸は回収していなかったから、バスで西門に移動する。この死骸についても取り分を話し合う予定だ。


「嘘だろ……たった六人……四人と二匹で……」


 二匹って別に言い直さんでも……猫とリスじゃけど。ま、コリスも仲間に入れてくれたから、いつもより寂しくないもん!


 ヴクヴカイは鳥の死骸の山に驚いて復活には少し時間が掛かりそうだったで、コリスに飛び付いて撫でまくる。

 そうしてコリスが「ホロッホロッ」とご機嫌になった頃にヴクヴカイも落ち着いて来たので、阿修羅の死体を次元倉庫から取り出してあげた。


「うっ……これがオーガ……こんなのが動いていたのか……」


 阿修羅はいちおう人の形はしているが、10メートルもの巨体で顔がみっつ、腕はむっつもあるので、ヴクヴカイの顔が歪む。リータ達には何度も見る物ではないと言ったが、目を逸らさず見ていた。


「かなり異形の姿をしているにゃろ? これが帝国が作った人工オーガらしいんにゃ」

「人工オーガ? 作った? なんでその事をお前が知っているんだ??」

「オニヒメが帝国の生まれだからにゃ。ナディヂザ……この名前に聞き覚えはないかにゃ?」

「ナディヂザだと……チェクチ族を救った英雄の名前……その名前を誰から聞いた??」

「オニヒメにゃ。オニヒメのお母さんが、そのナディヂザだったにゃ」

「なんだと……」


 またヴクヴカイがフリーズしているので、帝国があった場所の状況や、阿修羅の強さ、オニヒメから少しだけ聞いた昔話をする。

 わしの言葉はヴクヴカイの頭の中に入っているかわからないが、ずっと頷いていたから、たぶん大丈夫だろう。最後のほうは、オニヒメに土下座していたから聞いていたようだ。


「えっと……ちょっとはわしにも感謝して欲しいんにゃけど……」


 阿修羅との戦闘で死に掛けたわしよりも、何故かオニヒメに感謝するヴクヴカイ。チェクチ族の今日があるのは、オニヒメのお母さんのおかげだとずっとお礼を言い続けている。


「やらんと言ってるにゃろ! オニヒメは生き神じゃなくて、わしの娘にゃ~~~!!」


 感謝どころか、オニヒメを寄越せと言って来るヴクヴカイ。神様としてあがめたいらしいが、とてもじゃないが渡すわけにはいかない。


「パパと離れたくない。抱き心地がいいし、ごはんもおいしい」


 聞き分けの悪いヴクヴカイへ、オニヒメからの援護射撃。しかし、わしと親子になりたい理由がそんな事だったと初めて知って、ちょっとへこむ。甘やかして育てて来たのに……


「だからって、わしをエサで釣らないでくれにゃい? わしも口に合わないって言ったにゃろ? シャーーー!!」


 オニヒメを集落に残せないのならばと、わしを餌付けしようとするヴクヴカイ。なんか毛玉をちらつかせるから、鋭い爪で切り裂いてやった。


「だからって、猫の国入りする必要は……」

「よく決断しました!」

「ようこそ猫の国へニャー!」


 最終手段……オニヒメとの縁を切りたくないヴクヴカイは、猫の国への加入をちらつかせて来た。なのでやんわり断ろうとしたが、リータとメイバイが快く受けてしまったので、チェクチ族が猫の国に正式加入する事となっ……


「あ、もう少し考えるんにゃ。まぁ準備だけしておくから、入りたくなったらいつでも言うんにゃよ~?」

「「そんにゃ~~~」」


 勢いで猫の国に入ると言ってしまったヴクヴカイであったが、ギリギリのところで踏み留まったので、わしは嬉しそうな声を出し、リータとメイバイは残念そうな声を出すのであった。



 とりあえず、帝国問題とオーガ問題は片付き、面倒事は先送りに出来たので、獣の取り分の話し合い。

 ヴクヴカイは鳥の話しかして来なかったので、外にあった獣の死骸も山積みにしてあげた。

 いちおうわしが迷惑を掛けた手前、好きなだけ持って行けと言ったのだが、ほとんどわし達が倒したので、少量を提示された。しかし、一度口にした事はわしも引けない。お互い半分ずつを取り分とする。


 ただ、数が多かったから選別は面倒だったので、白い生き物をきっちり半分にした以外は、適当に線引きして次元倉庫に入れた。

 チェクチ族はどうするのかと見ていたら、そのまま放置するようだ。理由を聞くと、もう夜になるから解体も出来ないし、どうせ放っておいたら天然の冷凍庫が凍らせてくれるから、急ぐ必要もないらしい。

 それならわしがわざわざ保管する必要もないので好きにさせる。



 一通りの話が終われば、わし達は撤収。キャットハウスにて戦いの疲れを落とす。晩ごはんを皆で作って食べ、キャッキャッとお風呂に入ったら、日記を付けて、四畳半で雑魚寝。

 阿修羅との戦いで心配させた事もあり、ここ数日の撫で回しは酷い事になっていたので、わしは気絶して眠りに就くのであった。



 それから二日ほど、森から出て来る獣の見張り。猫の国でも数日は獣が出て来ていたので、強い獣や鳥に対しては、猫パーティで対応してあげた。

 その甲斐あって、住人からも感謝する言葉が聞こえて来たが、オニヒメとわしを拝む人が多かった。どうやらヴクヴカイが、生き神だと宣伝してくれやがったようだ。

 また面倒臭い事になっているが、夜にはキャットハウスにて別れの宴。日中が短いので、朝早くに挨拶するのは時間がもったいないからの処置だ。


 出席者は族長家族だけで、キャットハウスはパンパン。うまいメシがあると聞き付けた奥さんと四人の子供も来てしまった。

 来てしまったものは仕方がないので、乾杯の挨拶をしたら、わしはヴクヴカイと酒を酌み交わす。


「ま、帰りにもう一度寄るから、その時までに、猫の国に連れて行く人員に旅支度させておいてくれにゃ」

「うむ……しかし、これからどこに向かうのだ?」

「ここから真北にゃ」

「北か……伝承では、大きな氷の塊が浮かんでいるらしいな」

「そう言えば、帝国やオーガの伝承も残っていたにゃ~。時の賢者ってのは、伝承に残ってなかったにゃ?」

「知ってるのか??」


 お! この反応は、やっぱりこの道を通って、アメリカ大陸に渡ったんじゃな。


「知ってるもにゃにも、わし達は時の賢者の辿ったであろう道を進んでいるんにゃ」

「そうか……時の賢者も南から来て、砂時計を置いて行ったと言い伝えられている。そして、東の海を渡ったとなっていたな。なのにお前達は北に行くのか……」

「ただの寄り道にゃ。それより、他にも伝承が残っていたら教えてくれにゃ。わしの地での、時の賢者の伝承も教えてあげるにゃ~」


 お互いの時の賢者話に花を咲かせ、ネタが尽きたら猫の国の話をする。もしも猫の国に入った場合のシミュレーションも求められたから適当に言ってみたら、めちゃくちゃ悩み出した。

 どうやら王の意向が考えていたより少ない上に、わしが仕事をしていないと思われたようだ。まぁ実際問題、わしは何もしていないので、チェクチ族に対しても何もしないつもりだ。


「シラタマさ~ん?」

「シラタマ殿~?」


 この話はリータとメイバイに聞かれてしまって「ちょっとはチェクチ族の発展を考えろ」と睨まれたので、ちょっとは考えると言っておいた。だって怖いんじゃもん。


 宴がお開きになると、族長家族はバスで送り届ける。だって、そうでもしないと居心地がいいからって帰ってくれないんじゃもん。

 族長家族にお土産のケーキや和菓子を渡して、やっとバスから降りてくれた。


 そして翌朝早く……


「さてと……みんにゃ忘れ物はないかにゃ~?」

「「「「「はいにゃ~」」」」」

「では、北極に向けて、再出発にゃ~!」

「「「「「にゃ~~~!」」」」」


 キャットハウスを次元倉庫にしまって、その場所から戦闘機を離陸させたのであった。



 戦闘機は空を行き、機内ではチェクチ族や帝国の話に花を咲かせ、わいわいと空を行く。そうしていると、真っ白な大陸が海に浮かんでいる景色が見えて来た。


「あれが北極ですか?」

「とても氷で出来てると思えないニャー」

「まだ遠いからにゃ~。端っこに降りてみたらわかりやすいかもにゃ」


 リータ達は北極の存在をいまいち信じていないので、高度を落としながら北極に向かう。すると、大きな氷が海にいっぱいプカプカと浮かんでいる景色が見えて来たので、メイバイに写真を撮らせる。

 巨大な氷山が浮かんでいる事には驚いてくれたが、まだ信じてくれないので、北極の一番端、氷の割れ目もない場所で戦闘機を着陸させた。


「か、顔が痛いです~」

「寒すぎるニャー!」


 ハッチを開けただけで、リータ達はグロッキー状態。なので、一度閉めて、一昨日夜なべして作った魔道具を配布する。


「【雪化粧】みたいにゃ効果のある魔法を編み出したにゃ。たぶんその魔道具を使えば、全身、適温でくるんでくれるはずにゃ」


 魔道具に使っている魔法は【熱羽織】。魔法書で熱魔法なる物を発見したので、【雪化粧】を応用して、20度くらいの温度の膜で身を包む事が出来る。

 これさえあれば、常に適温で夏も乗り切れるから、【雪化粧】はいらないかもしれない。なんだったらビーダールで売ればウハウハ。新しい商売が出来そうだ。


「シラタマさ~ん?」

「まだ降りて来ないニャー?」


 わしが悪い顔であっちの世界に行っていたら、皆はすでに戦闘機から降りていた……


 快適なんですか。その感想をもっと聞きたかったのですが……それはもう終わったのですか。そうですか。


 あっちの世界に行っている内に、皆の驚きや感謝の言葉を聞き逃したわしは、気を取り直して戦闘機から飛び降りる。


「にゃはは。北極に到着にゃ~」


 感動じゃ~。このわしが北極に足を踏み入れるなんて、日本で生活していた時ですら、思いもしなかった。うっ……感動で涙が……


「にゃ~~……にゃ!? いたっ……手がくっついたにゃ~~~!!」


 自分には【熱羽織】を掛け忘れていたので、感動の涙を拭いたら凍り付き、手が毛にくっつくアクシデントに見舞われるわしであったとさ。

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