551 チェクチ族の集落を守るにゃ~


 わしのやらかした事を揉み消す方法を考えながら走っていたら、ハグレの黒い鳥が何匹か寄って来た。だが、【鎌鼬かまいたち】でサクッと首をねて、リータ達が戦っている西門に近付く。


 おお~。あんなに引き付けておったのか。多いけど、皆は元気に戦っているみたいじゃな。ちょっと生き生きし過ぎな気もするけど……

 まぁ壁の外もどうなっているかわからないし、わしも外から削るとするか。


 向かって来る黒い鳥に【鎌鼬】を放ち、数が減って来ると半円状に走り回り、リータ達に群がる黒い鳥も次々と撃ち落とす。こうして百羽を超える黒や白い鳥との戦いは続くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 シラタマがリータ達の戦闘に参加する少し前……


 黒い外壁を背にしたリータ達は、黒や白い鳥の群れとの戦闘を繰り広げていた。


 リータとコリスは盾を上に構え、黒い鳥の群れから放たれる【風の刃】に対応。複数羽から一斉に放たれる場合は、皆の傘となって【風の刃】がやむのを待つ。

 【風の刃】が止まれば、コリス、イサベレ、オニヒメで反撃。各々の遠距離攻撃魔法で黒い鳥を落とす。

 黒い鳥の傷は浅いが、落ちてくれさえすれば、メイバイのナイフが届く。メイバイはナイフに光の剣をまとい、弧を描くように黒い鳥を切り裂きながら走り抜ける。

 その間、突撃して来た黒い鳥にはリータが対応。盾で受け、鎖を巻いて地に落とす。その黒い鳥には、イサベレがレイピアを突き刺してトドメ。コリスはイサベレを守るように盾を構える。


 皆は息の合った戦闘を繰り広げ、危なげなく黒い鳥の数を減らしていたら、リータ達に攻撃する黒い鳥が減って来た。


「シラタマさんが来たようですね」

「さすがダーリン。一発で首を落としてる」

「でも、取り過ぎニャー」

「シラタマさんに負けないように、私達も頑張りましょう!」


 リータ、イサベレ、メイバイは軽口を叩いていたが、このままではシラタマに獲物を多く取られそうだったので、ここからはスピードアップ。イサベレを空に放つと同時に、遠距離攻撃の数を増やす。

 イサベレは空を駆けて翼を斬り、コリスは【鎌鼬】を乱発、オニヒメは【千羽鶴】を翼に張り付かせる。次々と黒い鳥が墜落する中、リータとメイバイは走り回り、拳とナイフで息の根を止める。


 そうこうしていたら黒い鳥は残りわずかとなり、一際大きな白い鳥が、空を駆けていたイサベレを追う。


 イサベレは急降下。空気を蹴り、ジグザグに駆け、【エアブレイド】で牽制。なんとか追い付かれる前に着地したら、リータとタッチ。

 突撃する白鳥しろとりくちばしを、リータは盾で受け止める。しかし、巨体を受けるにはやや力負けしたのか、リータは受け流して、白鳥は地上スレスレを飛んで空に逃げる。


「どっせい!」


 いや、すでに鎖を白鳥の脚に巻き付けていたので、逃げる事も許されない。リータは力任せに鎖を引っ張り、白鳥を地面に叩き付けた。


「メイバイさん、イサベレさん! やっちゃってください!!」

「わかったニャー!」

「ん!」


 トドメは、メイバイとイサベレ。ザクザクと白鳥を切り裂く。

 その間、リータ、コリス、オニヒメで他の黒い鳥の牽制。遠距離攻撃は盾で阻まれ、近付く黒い鳥は撃ち落とされ、リータにぶん殴られて絶命する。

 次々と黒い鳥が減るなか白鳥も息を引き取り、残りの黒い鳥は西に逃げて行くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 おっ! 鳥さんは逃げて行ったな。集落の中は……うん。いまのところ、鳥や獣が動いている感じはない。リータ達と合流しよっと。


 探知魔法での確認を終えたわしは、ダッシュでリータ達の元へ走る。


「お疲れ様にゃ~……にゃ!?」


 とりあえず労いの言葉を掛けてみたら、一斉にじっとりした目を向けられた。


「にゃ、にゃんですか?」

「私達だけで大丈夫でしたのに~」

「そうニャー。もっと戦えたニャー」


 あ~……戦闘民族の獲物を奪ったから、怒ってらっしゃるのか。ならば、何も問題ない。


「族長情報だと、外にもいっぱい獣が居るらしいにゃ」

「そうなんですか!?」

「それを先に言うニャー!」

「一番乗り」

「「「「待ってにゃ~~~」」」」


 わしが情報を与えると皆の顔はパッと明るくなるが、イサベレが空を駆けて壁の外に消えて行くので、リータ達は西門に走る。しかし、出口の門は固く閉ざされていたので、皆の視線がわしに集中する。


「「「「外に出してにゃ~」」」」

「わかったにゃ。わかったから、そんにゃ悲しそうにゃ顔をするにゃ~」


 皆がかわいそうに見えわしは、【突風】を使って高い壁の上に乗せてあげる。


「「「にゃ~~~!」」」

「すぐ飛び下りるにゃ~~~!!」


 合図を出してから下ろしてあげようとしていたのに、メイバイ、コリス、オニヒメは壁の上から紐無しバンジー。わしは慌てて【突風】を使い、ふわりと下ろしてあげた。


「にゃったく……リータは行かなくてよかったにゃ?」

「まずは戦力の確認を……白も居ますけど、黒ばっかりですね。行って来にゃ~す!」

「だから飛び下りるにゃ~!」


 猫パーティの副リーダーであるリータは大人なように見えたが、白い獣が少なかったので、皆と同じように飛び下りてしまった。

 なのでわしは、リータをふわりと下ろし、外の状況を確認する。


 情報通り、獣が先に到着していたようじゃな。デカイ弓矢が突き刺さっている獣が多数いる。チェクチ族もけっこう頑張っておったんじゃな。でも、この武器では鳥には対応できないってところか。

 群れの種類は、狼に熊に虎と……イタチかな? あとは、トナカイの群れ。デカくて白いトナカイが居るから、こいつがボスじゃろう。トナカイが黒熊を食ってるけど……弱肉強食が逆転している。不思議な光景じゃわい。


 トナカイの群れは逃がしてあげて欲しいけど、戦闘狂に言って通じるか……いちおうリータに声を掛けてみるか。



 わしも壁から飛び下り、デカイ黒狼をぶん殴っているリータに走り寄ると、獲物の横取りを疑われた。

 「そんな事しないッス!」と言いつつ、トナカイは肉食獣を倒しているから、攻撃して来ない限り逃がしてあげるようにお願いしておいた。


 あとは運次第。トナカイに運があれば、生き残るだろう。


 リータ達が戦っている間、わしは壁に飛び乗り東に移動。集落を回るように走り、獣を探す。


 探知魔法ではこの辺には居なかったけど……なんでじゃ? 違いがあるとしたら、獣の死骸か。チェクチ族が殺した死骸を食い漁っていたんじゃな。

 じゃが、少しばかり獣の死骸が転がっているし、群がって来ないように回収しておくか。


 また壁から飛び下りて、半分ほど凍った獣を次元倉庫に入れながら走り、一周したら、リータ達が固まっていたので、わしもそこに合流する。


「首尾はどうにゃ?」

「なんだかトナカイさん達と協力関係になってしまって、早く獣は狩れたのですが……」

「にゃんだ~。よかったにゃ~。でも、にゃんで浮かない顔をしてるにゃ?」

「だって、白い獣で一番やりがいがありそうだったんですも~ん。ちょっとぐらい、いいですよね?」

「ダメに決まってるにゃろ!!」

「「「「「そんにゃ~~~」」」」」


 戦闘狂の集団に任せると話がこじれそうなので、ここは断固拒否。わしだけトコトコとトナカイの群れに近付き、20メートル以上の尻尾が四本ある白トナカイに念話を繋ぐ。


「わし達は戦うつもりはないにゃ。そっちはどうにゃ?」

「あたしもないよ。ただ、行くあてがなくて困っているのよ」

「もしかして、音に驚いて出て来たのかにゃ?」

「ええ。あっちには強いヤツが居るらしいからね。近付きたくないの」


 白トナカイが言うには、群れで一番強かったトナカイが南西に向かって帰って来なかったらしい。その事もあって、南西から戦闘音が聞こえたから、一目散に逃げて来たようだ。


「それにゃら大丈夫にゃ。わしが戦った音だからにゃ」

「あなたが?? 弱そうに見えるけど……」

「嘘じゃないにゃ~。証拠を見せるから、驚かないでくれにゃ~?」


 いちおう忠告してから隠蔽魔法を解いたのだが、白トナカイだけでなく、全てのトナカイは生まれ立ての小鹿のようになって倒れてしまった。


「ちょっとは信用してくれたかにゃ?」


 隠蔽魔法を掛け直しながらわしが質問すると、白トナカイは念話を忘れて首を高速に縦に振っていたので、信用度は高そうだ。


「それで……この先に行っても地面もないし、引き返す事をお勧めするにゃ。森に入っても安全だしにゃ」

「あなたが言うなら……どちらかと言うと、あなたから離れたいみたいな?」

「にゃはは。わしは優しいから、被害が出ない限りにゃにもしないにゃ。獲物も食べたいんにゃら、好きにゃだけ持って行けにゃ」

「……いいの?」

「ただし、元の縄張りに戻るんにゃよ?」

「ええ。わかったわ」


 おそらく元の縄張りならば、チェクチ族の手が届かないと思うが、正直よくわからない。チェクチ族もトナカイを食べていたので、白トナカイの一族ではない事を祈るしかない。

 まぁリータ達の姿も見たのだから、人間を見たらわしの関係者だと思って逃げるだろう。



 トナカイ達が近場の獣をくわえて離れて行く中、わしはリータ達と合流する。


「見ての通り、トナカイは帰ってくれるにゃ。もう十分戦ったからいいにゃろ?」

「う~ん……仕方ないですね。でも、なんでこんなに獣が押し寄せて来たのでしょう?」

「その話は片付けが終わってからするにゃ~」


 皆には温かい飲み物を支給して、トナカイが残して行った獣を全て次元倉庫に入れたら、皆で壁を越えて族長のヴクヴカイが居た避難所に走る。

 避難所に入ると、さっそく結果報告。獣の押し寄せた理由だけはとぼけて、全て倒したと説明したが、ヴクヴカイは何やらわしを疑っている。


「その人数で、あの大群をか……」

「誰か外に出して確認したらいいにゃろ。まぁ鳥の危険は少しはあるから、注意してくれにゃ」

「それもそうか……」


 ヴクヴカイは近くに居た男に編隊を組んで調査に行くようにと指示を出すと、またわしの取り調べ。


「さて……西に行ったお前が帰って来てからこんな事態になったんだ。何を隠している?」

「にゃんのことかにゃ~? ひゅ~」


 名刑事の尋問は、腕を頭の後ろで組んで、鳴らない口笛を吹いてとぼけるわし。カツ丼を出されても、とぼけた顔は崩さない覚悟だ。元々とぼけた顔をしているけど……

 しかしながら、わしの代わりにリータとメイバイがよけいな事を言い出した。


「帝国の調査をしていました!」

「帝国のオーガが一匹残っていたけど、シラタマ殿が倒してくれたニャー!」

「ちょっ……シーーーにゃ!」

「もう帝国におびえなくていいんですよ!」

「だから猫の国に入るといいニャー!」

「黙れと言ってるんにゃ~!!」


 わしが止めてもお構いなし。リータとメイバイは帝国滅亡の土産を持ってヴクヴカイを勧誘するので、獣の押し寄せた原因はわしだという事がバレてしまうのであった。

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