612 誤算にゃ~


 二本の白銀のアホ毛を狭い額に立たせたわしは、海に飛び込むと海水を「トーン、トーン」と蹴りながら水を切って進み、白メガロドンの真下に移動した。


 フフン。まだ気付いておらんな。まぁこんだけデカければ、後ろから近付けば気付かれないか。

 しかしデッカイのう……たぶん千年物のサメじゃと思うけど、わしも千年生きたらこんなにデカくなるのかな? 海の生き物じゃないから大丈夫だとは思うんじゃが……。いや、それでも白マンモスぐらい大きくなるかも……


 ととと、千年後の心配している場合ではなかった。どうやったら被害を小さく出来るか考えないと。

 波が起きると各地に被害が出そうじゃからな~……運良く海面にちょっと出てるからいけるかな? やっちゃおっと!



 わしは方針が決まると、足にぐっと力を入れて上昇。水の抵抗は水魔法で泡を作って除去し、【レールキャット】より速い速度で白メガロドンの中心に頭突きしてやった。

 その一撃で白メガロドンは一瞬にして海面より上に数10メートル浮き上がり、もう一撃で数100メートル上昇した。


 うむ。さすがは鬼化。こんなアホほどデカイ生き物でもブッ飛ばせたわい。下は……波は立ったと思うけどよくわからんな。玉藻がなんとかしてくれると信じよう。


 さあ~て……やりますか!!


 白メガロドンはいきなり空を飛んだものだから、慌ててヒレを動かしバタバタしているので、いまのうちに尾ヒレの付け根に突撃。爪を立てて両前脚を高速に動かしたので、スピードと相俟あいまって、一瞬で貫通。

 しかし穴が小さ過ぎるので白メガロドンにはたいしたダメージとなっていない。なので、貫通したと同時に空気を蹴って方向転換。尾ヒレに斜めに突っ込みカリカリ貫通。何度も角度を付けて貫通すれば、尾ヒレの骨はポッキリ折れた。

 わしは常に最高速度で動いているので、この間わずか二秒。これで白メガロドンの推進力は削がれただろう。


 あとは煮るなり焼くなりだ。


 そろそろ落下しそうなので、下から頭突き。また空に上げてからの、カリカリ特攻。狙いは背骨。腹から背骨に穴を開け、背から飛び出たら、空気を蹴って方向転換。

 背から腹まで突き破ると、白メガロドンが落下していたら頭突きを入れてからのカリカリ特攻。上昇中ならば、そのままカリカリ特攻。


 白メガロドンは何と戦っているかもわからない状態で、空中で穴だらけにされるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方、エリザベスキャット号では……


「説明できる人~~~!!」


 こちらも何が起きているのかわかっていない。ただ、常に空気を破る破裂音が轟いているので、シラタマが何かしているとはわかっているからか、リータは挙手を求めた。


「遠いからシラタマは見えんが……」

「玉藻さんはわかるのですか!?」


 そろりと手を上げた玉藻に、リータ達の質問が集中する。


「落ち着け。わらわもようわからんから予想の範疇はんちゅうじゃからな」


 皆が落ち着くと玉藻は続ける。


「光のような物が、上に出たり下に出たりしておるんじゃ。おそろくじゃが、これがシラタマじゃろう。これもおそろくじゃが、シラタマがぶつかって、あのサメを浮かしておるんじゃ」

「素の力だけでアレをですか……」

「たぶんな。血が滴っているように見えるし、複数の穴を開けておるのじゃろう」


 玉藻がリータの質問に答えていると、家康は驚愕の表情でポツリと呟く。


「どんだけ化け物なんじゃ……」

「じゃな。我等の何倍も強い奴を赤子のように扱うとは……しばらく見ない間に、一気に離されてしまったな」

「この短期間でか……いったいぜんたいどのような修行をすればあのようになれるのじゃ!」

「誠に……コツを聞いておかんとならんのう」


 家康が悔しそうに手摺てすりを殴って砕くと、玉藻も歯を強く噛み締める。


「「「「「あ……」」」」」

「「なんと……」」


 その直後、白メガロドンは真っ二つに崩れ落ちるのであった……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 こんなもんかな?


 時は少し戻り、わしは白メガロドンの背骨を真っ直ぐ穴だらけにしたら、状態を確認する。


 予定通り背骨に穴を開けまくったから、たぶん虫の息じゃろう。まだ動いているから生きておるじゃろうけど、ここからどうしたものか……

 そう言えば、この状態で攻撃魔法を使った事がなかったな。いや、白カニの時に使ったか……あの時は意識して使ってなかったから、まったく覚えておらんな。

 まぁ強くなっていたかもしれんし、物は試しじゃ!!


 わしはまた白メガロドンを貫通して真下に移動すると、一度頭突きを入れて空中に跳ね上げてから魔法の準備。


「【超大鎌乱舞】にゃ~~~!!」


 真下から白メガロドンの背骨に添って、巨大な【鎌鼬】を連打。白メガロドンの長さに十分なだけの【鎌鼬】を放ったのだが、一撃では硬いウロコを貫通するのは難しいとわしは思っていた。


 ズッバーーー!!


 おお! 威力が上がっておる!!


 ヤマタノオロチには弾かれた魔法だ。鱗を斬れただけでも儲け物。貫通は無理でも、もう一度か二度放てば、真っ二つに出来るだろう。


 パッカーーーン!!


 あら? 一発で斬れてもた……これはこれで怖い気もする……わしは山ひとつ輪切りに出来るってことじゃもん……

 ま、まぁ、想定外じゃけど、結果オーライ! さすがはわし。これほど強い敵でも、何もさせずにほふってやったわ!


「にゃ~しゃっしゃっしゃっしゃっ……しゃ~? ヤ、ヤバイにゃ!!」


 勝ち誇って高笑いしたのも束の間。真っ二つとなった白メガロドンは重力に逆らえず落下して来たので、焦るわしであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「今度は何をしてるのでしょう?」

「まだ戦ってるのかニャー?」


 白メガロドンの半身が、二個とも交互にポンポン空に打ち上がっている光景を見たリータとメイバイは、何かと話し合うが答えが出ない。


「死んでるよね?」

「ん。真っ二つになってから死んだ」


 危険察知能力のあるオニヒメと同じ能力を持つイサベレが同意見なので、死んでいる事は確定したのだが、やはりシラタマが何をしているかわからないようだ。


「ひょっとしたら、波を起こさないように、ゆっくり下ろそうとしているんじゃないか?」


 ここで玉藻が予想を言うと、リータが質問する。


「そうなのですかね?」

「見よ。徐々に高度が下がって来ておる」

「本当ニャー! やっぱりシラタマ殿は、やる時はやる猫ニャー!」


 玉藻が白メガロドンを指差すと、ようやく答えが出たのでメイバイが大袈裟に褒める。

 事実、皆にはよく見えないが、シラタマは白メガロドンであったふたつの塊の下を行ったり来たりして、ヘディングしながら徐々に高度を下げているのだ。


 それから数分、ふたつの塊が海面に近付いたが……


「あっ! 諦めましたね……」

「うんニャ。諦めたニャ……」


 海面付近でポンポン浮き上がっていた塊をやきもきしながら見ていた皆は、空高々飛んで行ったら残念そうな声を出した。


「そりゃ、あんなに大きな物を波ひとつ立てずに落とせんじゃろう」


 玉藻が言う通り、シラタマはポンポンリフティングで頑張ったのだが、今さら気付いて方針転換したのだ。


「最初からそうしておけばよかろうに……」

「結局、魔法ですか……」

「シラタマ殿は抜けてるところがあるからニャ……」


 そう。海に下ろせないなら、細かくしてしまえばいいとシラタマは今さら気付いて、皆から残念そうな目で見られるのであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 なんてわしはバカなんじゃ~~~!!


 海面付近で白メガロドンをポンポンリフティングしていたわしは、自暴自棄。鬼化も制限時間が迫り、空中で解体すればよかったと荒れていた。

 その怒りは死んだ白メガロドンに向かい、八つ当たり。【超大鎌】連打で瞬く間に切り刻んでやった。

 あとは大きく開いた次元倉庫に身と血を入れて、無駄な時間を使ったと気落ちしてエリザベスキャット号に戻った。


「「「「「プッ……」」」」」

「「「「「あははははは」」」」」

「コ~ンコンコンコン」

「ポンポコポコポン」


 わしの顔を見るなり、白イルカと一人を除いて大爆笑。おそらく無駄にポンポンリフティングしていた事を笑っているのはわかりきっているが、ムカつく。


「笑わないでくれにゃ~。わしだって必死だったんだからにゃ~」


 わしが泣きそうな顔でへそを曲げると、リータ達はお疲れ様と撫でてくれた。でも、玉藻と家康は笑い転げているからムカつく。


「もう絶交にゃ~~~!!」


 あまりに笑うものだから怒ったら、ようやく笑いは止まっ……


「こ、子供か……コ~ンコンコン」

「も、もう笑わせるな……ポンポコポン」


 いや、あまりにも子供っぽい事を言ってしまったので拍車が掛かって、二人は腹筋が痛そうだ。

 だがその時、わしを笑っていなかった秀忠が口を開いた。


「あんな巨大な生き物を、跡形も無く消したシラタマ王を、よく笑えますね……」

「「あ……」」


 そう。秀忠は常識人だから笑っていなかったわけではなく、初めて見たチビりそうなぐらい強くて巨大な白メガロドンを消したわしに、怯えていて笑えなかったのだ。

 この事実を今ごろ思い出した玉藻と家康は、誠意ある謝罪をして来るのであった。


「絶交って言ったにゃ~! プンッ!!」


 へそを曲げたわしは、しばらく二人と口をきかないのであったとさ。



 それから晩メシ時となり、今日のところは白いサンゴ礁で停泊。白メガロドンを切り分けて焼いて食べるのだが、玉藻と家康には無し。絶交中なのだから、食べさせる必要はないのだ~!


「も~う。また子供みたいなことを言って~」

「シラタマ殿は心の広い王様ニャー」

「ゴロゴロ~」


 リータとメイバイは、下手へたに怒るとまたわしがへそを曲げるのではないかと思って、優しく撫でながら機嫌を取る。


 しかし、今回ばかりは許せない。これだけ日ノ本の海の安寧に協力してやっているのに、笑うなんてふてぇ野郎だ。断固として、二人にエサを振る舞うつもりはないのだ~~~!!


「パパ……カッコ悪いよ?」

「玉藻~? ご老公も一緒に食べようにゃ~?」


 だが、娘のオニヒメに格好の悪い姿を見せるわけにはいかない。わしは笑顔で玉藻達に白メガロドン肉を振る舞うのであった。


「チョロイですね……」

「チョロイニャ……」

「チョロ……」

「「え??」」

「おいしいね~」


 リータとメイバイの陰口に続き、オニヒメも言ってしまったようだが、オニヒメはすぐに話題を変えて腹黒さは隠すのであったとさ。

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