611 海の調査にゃ~


 ウサギ族の移住やらチェクチ族の加入やら国の祭事やら訓練やらで、働き疲れたわしは放心状態。リータ達に冒険に行こうと言われても、わしは動く気が起きない。

 そんなある日、お客がやって来たと聞いたら、女王とさっちゃんとイサベレだった。目的は、五千人ものウサギの大群を見ること。そんな事の為に、料金のお高い三ツ鳥居を通って来たようだ……


 これならわしが動く必要はないので、ボーッと継続。リータ達に案内はお願いしたけど、ワーキャー……モフモフうるさかったんだって。


 女王達は帰り際には「ボーッとしているなら早く冒険に行って来い」と言って、イサベレを置いて行く始末。だが、適当にあしらってボーッと継続だ。


 そんなある日、お客が来たと聞いたら元将軍徳川家康だった。前回話をした台湾からの留学生を、山ほど引き連れて来たらしい。

 これは遣猫使で使った制度があるから、トウキン校長に丸投げ。しかし家康は丸投げできないので、わしが丸まって寝ているところに挨拶しにやって来てしまった。


 目的は釣り。玉藻も侍攻撃と気功を使えるようになっていたので、海の化け物に使ってみたい模様。もちろん戦闘狂のリータ達もノリノリ。

 わしは首根っこを掴まれて、日ノ本へ拉致られた。



 京にある三ツ鳥居で舞鶴の神社に移動し、漁村が大きくなっていたのは気になったが寄らずに、停泊していたエリザベスキャット号に乗り込めばさっさと出港。

 わしは船に揺られて寝ようと思っていたのだが、全員から暴力を受けて仕方なく戦闘機でナビゲートする。


 だって、マジで攻撃して来るんじゃもん。なんか目的が違っていたんじゃもん。絶対にわしと闘うのが楽しそうだったんじゃもん!


 暴力集団と一緒に居るよりは、偵察するほうがまだ心労が軽い。オニヒメと一緒に戦闘機に乗り込み、まずは白イルカ探し。

 意外と近くに居たのでそこまでエリザベスキャット号を進めれば、ヒュウガとマヤはめっちゃ喜んでいた。久し振りに会ったから遊んで欲しかったようだ。

 なのでドルフィントレーナーは玉藻に丸投げ。エリザベスキャット号を並走する白イルカの前に土で出来た輪っかを浮かせてくぐらせたり、玉を高く上げてタッチさせていた。


 今回の目的は、白いサンゴ礁の調査。流し釣りは無し。近付いて来た巨大魚だけは釣り上げて倒してしまう。

 戦闘機に乗ったわしは、キツネ師匠の落語を録音したレコードを聞きながら優雅に空を行き、海図を見ながらナビケート。白いサンゴ礁に入れば交代で主を倒す。

 思った通りかなり弱体化していたので、わしと玉藻なら単独で余裕。家康はてこずっていたが、なんとか倒していた。猫パーティでは厳しいので、わしか玉藻で援護する。ただし、わしと玉藻の白銀の武器は、本気で使う事を止められた。


 なんか力一杯振ったら斬撃が出て、白い巨大魚が簡単に倒せるんじゃもん。


 いろいろ検証したいところであったが、リータ達は楽しめないとのことでやらしてくれない。わし一人で戦う事も許されていないので、玉藻に調査依頼。家康にバレない程度に検証してもらって、帰ってから考える事にした。



 本来の目的は白いサンゴ礁の調査だけなので、エリザベスキャット号は高速で海を行き、一日で九州まで到着。停泊して夜を明かし、沖縄の南にある白いサンゴ礁の主を倒してから、太平洋側を攻める。

 こちらは白いサンゴ礁が少ないので、さほど偵察の必要がない。お昼寝しつつ白いサンゴ礁の主を倒して回ったら、16時過ぎに江戸湾沖に到着。

 そこの主を倒そうと入ったら、60メートルはある白いクジラを発見した。念話は通じるので仲間に引き込もうと皆を説得したら、全員反対。みんな戦いたいんだって。ヒュウガとマヤは、縄張りを取られる心配をしていたけど……


「でもにゃ~。ヒュウガ達はひとつの場所にしか常駐してくれないんにゃから、海を守ってくれる生き物は、多少は必要だと思うんだよにゃ~」


 このわしの言葉で玉藻と家康は折れてくれたので、リータ達も何も言えなくなった。ヒュウガ達からは非難轟々だったけど……

 これであとは白クジラを説得するだけ。念話を繋いで話してみたら……


「おけまる!」


 だってさ。デカイから雄だと思っていたけど、ギャルだった。どこでそんな言葉覚えたんだか……


 白クジラには餌付けの必要はなかったが、少し怪我していたので治してあげたら、なんか「マブダチ」になれた。だからどこでそんな言葉覚えたんじゃ……

 もしも強い敵が来たら助太刀するから江戸湾に来るようにと道案内し、ギリギリ近付ける所まで白クジラを連れて行ったら、黒船騒動。

 白クジラは馬鹿デカイから、民衆は魚が攻めて来たと騒いでいたっぽい。それを家康が収めたら拝み倒されていた。


 これで家康は神格化。日光東照宮にまつられるはずだ。……でも、いつ死ぬんじゃろ?


 白クジラを縄張りに帰したら、贔屓ひいきにしている江戸の寿司屋でどんちゃん騒ぎ。また寿司ネタをねだられたので渡したが、わしは今日のネタから握ってもらった。

 味は段違いに落ちるが、鮮度のいい寿司はうまくて懐かしい。まるで元の世界のようだと懐かしく食べていたが、ネタの種類が以前来た時よりかなり増えていたので質問。

 どうやら船は沖に出してはいないが、江戸湾では連日大漁らしい。これは巨大魚が減った効果が出ているのだろう。その証拠に、各地でも漁獲量は上がっていると、玉藻と家康が教えてくれた。


 それもこれもわしのおかげらしいが、二人して拝まないでくれる? 大将が現猫神あらねこがみとか言っておるじゃろ! 冗談なんじゃから大将も噂を広めるなよ!!


 この日以降、漁船には丸くて尻尾の三本ある白い招き猫が帆に描かれたり乗せられていたらしいが、わしは漁船なんて乗らないので、気付くのがかなり遅れるのであった。


 寿司屋では、元々居た客を巻き込んでちょっとした宴会になっていたので、それを聞き付けた徳川将軍秀忠も登場。空気がピリッとなったが、腹踊りをし出したので一気にほぐれた。


 将軍は真面目に見えて、やはりお茶目じゃのう。


 何しに来たのかと聞いたら、エサをたかりに来たようだ……。だから、せめて場を盛り上げようと、腹に顔を書いて来たらしい……


 でも、タヌキがタヌキの顔っておかしくない? そりゃ誰でも笑うよ。



 寿司屋の二階を借りて雑魚寝した翌日は、また北上。秀忠までエリザベスキャット号に乗ってしまったけど、仕事はいいんじゃろうか?

 ちょっとした見学でどこかの三ツ鳥居から帰るらしいが、そんな考えで乗り込むのが悪い。家康に白いサンゴ礁の主と戦えと言われて、涙目で突っ込んで行った。


 もちろん白い巨大魚にボコられたので、わしが助けて家康がケツを拭く。家康は教育の為とか言っていたけど、千尋の谷が深すぎて登って来れんじゃろ……

 せめて猫パーティと合同じゃないと戦えないと秀忠を擁護したら、わしへの好感度がちょっと上がった。


 猫パーティの順番の時に秀忠も投入したら、白い巨大魚をタコ殴り。わしも最初は手伝ったけど、秀忠を入れた事で防御力が上がったので、途中から身を引いた。

 リータ、コリス、秀忠で守り、オニヒメで牽制すれば白い巨大魚とも互角に戦えて、メイバイ、イサベレで内部に攻撃すると、時間を掛ければ倒せたのだ。


 この結果には家康も秀忠を褒めていたし、玉藻も次回はお玉の参加を考え、リータ達もわしの手を借りずに倒せて満足。でも、わしは不満。


「次ってにゃに!? もうわし達いらなくにゃい!?」


 これだけ弱くなっているなら、次回はわし達はいらないはずだ。だが、リータ達がかたくなにやると言うので、わしも絶対参加だとか……



 そうこうしていたら、北海道に到着。前回、白伊勢海老を倒した白いサンゴ礁まで行くと、30メートルクラスの白い巨大魚が居たので、猫パーティプラス秀忠で余裕。


「にゃ~? あとは玉藻達に任せようにゃ~」

「そう言えば、この北に大きなサンゴ礁がありましたよね?」

「うんニャー。そこに行こうニャー!」


 しかし、リータとメイバイに論点をズラされて、わしの話はうやむやに。日ノ本の土地じゃないと言っているのに、玉藻と家康までやる気満々なので行くしかない。


 この戦闘狂の集団め……


 唯一の味方はオニヒメだけ。珍しい事もあるもんだと聞いたら、前回空から強い生き物が居たと気付いていたようだ。ただ、記憶が戻った直前の出来事だったから正確な強さはわからないらしいので、イサベレに聞いたらとぼけやがる。

 どもっているから確実に強い奴が居ると思うけど、オニヒメを援護してくれなかったので、皆の説得材料にはならなかった。



「おい……ヤマタノオロチよりデカくないか……」

「それに覇気も上じゃ……三人で戦うとしても厳しいかもしれん……」


 樺太からふとを少し越えた辺りの馬鹿デカイ白いサンゴ礁の前で停船すると、もう白い巨大魚は見えていた。探知魔法で調べたところ、海面から出ている部分だけで長さはざっくり300メートル。フォルムから察するに、500メートルは超えそうだ。

 背ヒレがずらっと11個も並んでいるので、今までの最多。強さをかんがみて、目の錯覚ではないだろう。

 強さはあんなに苦労して倒したヤマタノオロチの1.5倍もあれば、玉藻と家康が尻込みしても仕方がない。


「これぞ、メガロドンだにゃ~」


 わしはと言うと、通常運転。たぶんサメだとはわかっているが、今まで見たサメの中で群を抜いてデカイから、パシャパシャっと写真を撮っていた。


「前にも言ったが、お主には恐怖というものがないのか?」

わらわでも臆しておるんじゃから、ちょっとは空気を読め」

「わしのことはいいにゃろ~。ま、アレは無理にゃろ。諦めろにゃ」

「ぐっ……日ノ本近海でもないし、無駄に事を荒立てる必要はないか」

「じゃな。無理に怒らせて日ノ本に来られてはたまらん。蝦夷地にだけは知らせておこう」


 家康と玉藻は白メガロドンとの戦闘を諦めてくれたので、わしは次の言葉を発する。


「それじゃあ、わしが丸々もらうにゃ~」

「そうじゃな。戻ろ……いま、なんと言った?」

「だからわしがや……」

「「はあ!?」」


 いつもならやる気を見せないわしのセリフに玉藻が聞き返したので、言い直してやったのに、二人は最後まで喋らせてくれなかった。


「うっさいにゃ~。黙って見てろにゃ~」


 二人が止める中、わしは船首に立つと猫型に戻って【弐鬼猫にきねこ】発動!


「じゃ、行って来るにゃ~」


 二本の白銀のアホ毛がピョンッと立ったら振り向き、皆に笑顔を見せたらトプンッと海に飛び込むわしであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「一人で行ってしまったぞ!」

「本当に大丈夫なのか!?」


 シラタマの姿が見えなくなると、玉藻と家康はリータとメイバイに詰め寄っていた。


「シラタマさんが出来ると言うなら大丈夫ですよ」

「シラタマ殿は、やる時はやる猫ニャー!」

「「しかしじゃな……」」

「たぶん余裕で倒すかと……」

「あ! 様子がおかしいニャー」


 メイバイが白メガロドンを指差すので皆もそちらに目を移したら、白メガロドンは空中に浮き上がっていた。


「「嘘じゃろ?」」

「嘘ですよね?」

「夢かニャー?」


 その光景が現実とは思えない、玉藻、家康、リータ、メイバイ。


「「うわ~~~」」

「どうなってるの??」


 その光景に驚いてしまう、コリス、オニヒメ、イサベレ。


 まさかのまさか。500メートルを超す山が浮き上がるとは思っていなかったのか、シラタマを信頼していたリータ達でさえ、空飛ぶ白メガロドンを見て頬をつねるのであった。

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