641 責任の所在にゃ~
「「な、何が起こっているんだ……」」
アメリヤ兵が銃も撃てずに宙を舞う姿を見た公爵と侯爵は、仲良く顔を青くしている。他の議員も同じ表情をし、時折降って来るアメリヤ兵の下敷きになって悲鳴をあげていた。
そりゃ、リータですら本気で動けば普通の人の目に映らないのだ。ここに居る人間に何が起こっているかなんてわかるわけがない。
わしは絶妙な力加減のネコパンチでアメリヤ兵の腹を殴り、意識を奪っているのでその場で倒れる。
リータはぶん殴ってアメリヤ兵をブッ飛ばし、メイバイとイサベレは刀の峰打ちでブッ飛ばしている。
コリスはいつの間にか元の姿に戻って、尻尾で薙ぎ払ってアメリヤ兵をブッ飛ばしている。
オニヒメは【光盾】を展開してジョージと教皇を守っているが、暇なのか時々【風玉】を放ってアメリヤ兵をブッ飛ばしている。
みんなやり過ぎじゃ……ここへ来て、ストレス溜まってたもんな。手加減が下手になっておる。コリスはいつも通り。ベチコーンッしないだけマシか。
皆の動きを横目に見つつ、わしは殴るついでにサブマシンガンを壇上に投げていたら、皆も気付いて投げてくれていた。
まだ動いているアメリヤ兵が残り
「ここは通行止めにゃ。逃がすわけないにゃろ~?」
「「「「「む、向こうだ!」」」」」
「コリス~。出口を塞いでくれにゃ~!」
「まかせて!」
議員は他のドアに向かおうとするので、コリスと手分けして出口を完全に土の壁で塞ぐ。そうしていたらアメリヤ兵は全員倒れ、議員も中央に集まってプルプル震えるのであった。
「にゃはは。お前達の自慢の兵は、にゃにも出来ずに枯れ葉のように飛んだにゃ~。にゃははは」
敵が居なくなったら、わし達はまた壇上に集合して声を発する。
「いまからお前達を含めたこの国の者を皆殺しにするけど、これ、誰のせいなんにゃろ??」
わしの皆殺し発言に、議員は罪の擦り付け合いを始め、その声は公爵と侯爵に集中したが、二人はと言うと……
「ぎ、議会は国王に助言をする場だ! 全ては国王の責任だ! 我々は国王の為に、より良い政策を進言しただけだから関係ない!」
「そ、そうだ! 我々議員が責任を負う必要はない! 国王の首を差し出しますので、どうか我々の命だけは……」
ジョージ13世を売って命乞いする始末。その声に、リータ達は怒りを通り越して呆れ顔。そんな中わしは、面白い事になりそうなので、レコードを録音モードにしてから問い掛ける。
「ふ~ん。王様が悪いんにゃ……じゃあ、王様と国民の命を持って、お前たちは助けてやろっかにゃ~? もちろん妻子ぐらいは助けてやってもいいにゃ。親兄弟はダメだけどにゃ」
悪魔の取り引き……。ここまで言えば、どうなるかとニヤニヤ見ていたら、議員の約八割はオッケーしやがった。
「お前達は何を言っているんだ!? 俺の命はいい! 上層部の命を持って、国民を助けるべきだろ!!」
もちろん、そんな発言は常識人のジョージは許せないので怒鳴り付けるが、大多数の反論を受けていた。
「黙れにゃ!!」
このまま喋らせても多勢に無勢。ジョージの声が掻き消されてしまっているので、わしは一喝して黙らせる。
「そもそもにゃよ? 昨日の議会では、王様は東の国と友好的にしようと言っていたにゃ。それをお前達が邪魔したにゃ。今日の議会でも、王様は必死に止めていたのに、お前達が兵を招き入れて使者を撃ったにゃ。にゃのに、これ、王様のせいにゃの?」
「「そ、そうです……」」
「違うにゃろ! お前達が強大な武力を持っているから、東の国に戦争を仕掛けようとしていたんにゃろ! 東の国を弱いと勘違いして、戦争を仕掛けたんにゃろ! そしてすでに負けたにゃ!! にゃのにお前達は責任も取らずに、王と国民だけに罪を背負わせるにゃか!!」
わしが怒鳴り付けると全員下を向いたが、公爵がボソッと何かを呟いた。
「にゃ? いま、わし達を中に入れにゃければ、こんにゃことにならにゃかったと言ったにゃ??」
「い、いえ……」
「言ったにゃろ? 言ったと認めるにゃら、戦争の仕切り直しをしてやるにゃ」
「え……」
「わし達は母船に戻って、外から戦争をしてやると言ってるんにゃ」
わしの甘い言葉に、イサベレ達が睨んで来たけど、黙っているように目で伝える。公爵は自分一人で決めかねるのか、議員に相談したいと言うので、二分だけ時間をあげた。
「多数決の結果、一から戦争をすることに決まりました」
まだ勝てる見込みがあると甘い事を考えた公爵達。なのでわしは、ニヤニヤしながらジョージに問う。
「だってにゃ。王様はどうするにゃ?」
「俺は反対だ! そんなことをしたら民が傷付くだけだ。即刻、降伏する!!」
「じゃあ、王様はうちの亡命者として扱うにゃ。最高責任者は議会にゃ。そんにゃかで、一番偉そうにしていたのは公爵と侯爵だにゃ。名前と、東の国と戦争するってのを、声に出しながら一筆書いてくれにゃ」
二人は一瞬
「二時間やるにゃ。二時間後、わし達は海から攻めるから、お前達の自慢の軍隊を見せてくれにゃ。みんにゃ~。行くにゃ~。おっとその前に」
出口を塞いでいた土の壁は全て消し去り、教皇にはちょちょいと頼み事をしたら、わし達はジョージを連れて議会場をあとにするのであった。
* * * * * * * * *
「クソッ……あの猫……目にもの見せてやる」
公爵と侯爵は戦争準備を指揮し、アメリヤ王国最高戦力を東の海の前に集結させる。その指示を出し終わったら、次に壇上に残されていたボロボロの法衣を着た教皇に温かい言葉を掛けていた。
「教皇猊下。おいたわしい姿に……あの猫にやられたのですか?」
「ええ。議会の面々は、半数近くあの部屋を知っていますでしょう?」
「部屋? 知ってはいますが……それが?」
「私はシラタマ様に、あの拷問を三周受けさせられました」
「はい??」
教皇の服装はボロボロだが、死んでいないどころか怪我をしているように見えないので、皆は首を傾げる。そこに教皇は服を脱いで説明する。
「シラタマ様は魔法で怪我を治す事が出来る。この腕だって、一度地面に落ちたのに、瞬く間に戻してくださったんだ」
「う、嘘ですよね?」
「嘘ではない……拷問で死にそうになると治療し、また死にそうになると治療する。それを、何度も、何度も何度も何度も……不思議な力で縛られているから逃げることも許されない」
教皇の口調は冷静だが、顔は歪み、脂汗がとめどなく流れ落ちるのだから、全員が事実だと受け取める事となった。
「シラタマ様は最後にこう
「「「「「悪魔……」」」」」
教皇は、とても人の顔とは思えない顔をして泣きながら笑い続けるので、一同シラタマの事を悪魔と認める。
ここでようやく、戦争に負けた事を想像し、その対策、主にどうやって罪を
「あの放送は事実なのですか!?」
城の外では大騒ぎ。議会が国王を差し置いて、勝手に戦争を仕掛けたと……
* * * * * * * * *
わし達は城から出たらバスに乗って、東の門に向かう。ジョージはわしのバスに興味津々で質問が多かったが、イサベレが黙っていろと怒ったらピタリと止まった。
「なんでわざわざ戦争を一からやるの?」
「あいつらの責任転嫁の上手さ、見たにゃろ? このままじゃ、自分達は悪くないと言いながら死ぬにゃ。だから、罪を認めさせる為に心を折ってやりたくなったんにゃ」
「必要ないと思う。それに無理」
「たしかににゃ~。でも、こうすれば、わかってくれるかもにゃ~?」
バスの運転はリータに代わってもらうと、コリスが邪魔して来たのでエサを配布。皆にも好きに食べているように言って、わしとイサベレとジョージで、走行中のバスの天窓から屋根に登る。
そこでイサベレにはジョージを支えてもらい、わしはモグモグしながらレコードの準備。音声拡張魔道具を何個も使って、放送を開始する。
『にゃ~。テステス。マイクのテスト中にゃ~』
『なんだこの肉!? うま~~~い!!』
『ちょっ! 王様は黙っていろにゃ~』
ジョージにもヤマタノオロチの串焼きを支給したのは失敗。マイクテストに声が乗ってしまった。
『え~。アメリヤ王国のみにゃさ~ん。元気ですにゃ~? わしは東の国の特使、イサベレ様の部下にゃ~。知らない人も居るかもしれにゃいので、簡単にゃ挨拶を……』
東の海を越えた先に国があること、東の国から特使としてイサベレが派遣されたこと、そのイサベレに議会が攻撃をしたと、わしは簡潔に説明した。
『よって、これから戦争になりにゃす。王様のジョージ13世陛下は、東の国と友好的にしたいと言って止めてくれたんにゃけどにゃ~……議会がそれを許さなかったので致し方ないにゃ。これ、その時の証拠にゃ~。ポチッとにゃ』
レコードの針を落として、議会で喋っていた内容を大音量で流してあげると、民衆より先にジョージが驚いた。
「なんだこれは!? 公爵達がラッパから喋っているぞ??」
「レコードって、音を蓄積させる機械にゃ。てか、ヘリまで持ってるくせに、アメリヤにはにゃいの?」
「ヘリとレコードに何の関係がある?」
「技術力が高いのに、この程度作れないのかって話にゃ」
写真もないしレコードもないって、軍事力に片寄り過ぎじゃろう。アメリヤ王国の発展の仕方がいまいちよくわからん。やっぱ軍事オタクでも転生したのか?
ジョージと話し込みたかったが、わしは放送で忙しいので、レコードをいじったりマイクを握ったり、お弁当をモグモグしたりしていたら東門に到着。
そこに居たアメリヤ兵にライフルを向けられたが、先程の放送を聞いていた事とジョージが説得してくれた事で、難なく外に出る事が出来た。
バスからルシウスキャット号に乗り換えると、ひたすら東へ。波を切り裂き進んでいたら、黒い巨大魚が近付いて来たので、リータが鎖を撃ち込んで一本釣り。
こんな小さな船でなんてことするんだと怒っていたら、イサベレとメイバイが空中でトドメ。息の合っているのはいいけど、血を流さないでくださ~い!
このままでは巨大魚が大量に寄って来るので、すかさず次元倉庫に入れたが、寄って来ない事を祈るしかない。
「あんな巨大な魚を軽々と……それに消えた……」
ジョージが腰を抜かしてブツブツ言っているが、無視してルシウスキャット号をブッ飛ばし、十分陸から離れると停止する。
「あれ? 母船は??」
「そんにゃの無いにゃ。わし達は、本当はこの大陸の西の端に上陸してやって来たんにゃ」
「そっちに海があるのも驚きだけど……こんな人数で戦争になるのか??」
「なるわけないにゃ~」
「だろうな……へ??」
ジョージはわしが肯定するとは思っていなかったらしく、頷いたあとに聞き直した。
「わし達が一方的に
「たった六人で蹂躙……またまた~?」
「まぁ見てるにゃ」
ジョージはあまり信用していないようだが、わしが作業を開始すると、徐々に顔が真っ青となる。
その二時間後には、アメリヤ王国の全ての者が同じ顔をし、恐怖に震えるのであった……
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