654 地下施設の正体にゃ~
「ふ、服にゃ! 全員服を脱げにゃ~!!」
地下施設から逃げ出したわしがいきなりそんな事を言うので、さすがにこんな所で脱げない女王から苦情が来る。
「先に説明しなさい」
「ほう……毒にゃ! いますぐ服を脱ぎ捨てにゃいと健康被害が出るにゃ!!」
「なんですって……シラタマ。家を出しなさい!」
「にゃ……そうだにゃ」
焦り過ぎたわしは女王の指示で冷静になったので、キャットハウスを空きスペースに出し、その入口の前には区分けした長い掘っ建て小屋を土魔法で建てる。
これは女性用なので、男のジョージにはバスを与え、同じように建てた掘っ建て小屋の中に入って服を脱いで待つように言っておいた。
掘っ建て小屋の中に女性陣と共に入ると、一番目の部屋で服を脱ぎ、その服は土魔法の箱に入れて密閉後、次元倉庫に入れる。そして効くかどうかはわからないが【ノミコロース】を掛けて次の部屋へ。
二番目の部屋では少し強めのシャワー状の水魔法で全員の体を洗い、三番目の部屋と四番目の部屋ではオニヒメとコリスに頼んで皆を洗ってもらい、ゴールはキャットハウス。その中で着替えを行う。
わしは素っ裸で外に出ると、待たせていたジョージに同じ行為を行い、バスに入ると着替えのないジョージには、コリス用に買った浴衣を貸してあげる。
わしも新しい着流しに着替えたら、ジョージには飲み物を渡して待機の指示。外の掘っ建て小屋を地面ごと圧縮して小さくしたら次元倉庫に入れる。
それからキャットハウスに戻ると、何人か素っ裸。キャットハウスにはリータ達用の寝巻きしかなかったので、メイドウサギとオニヒメの裸を見てしまった。
「リータ達はこれ着てくれにゃ~」
猫パーティ用の予備の服はわしが持っていたので、次元倉庫から出したら袖を通す。女王達にはわしが収納袋を預かっていたので、全員その中に入っていた服に着替えてもらった。
女性陣の着替えが終わったら、一人で寂しいだろうとジョージもキャットハウスに招き入れてダイニングで話し合う。
「さっきは毒って言ったけど、正直自信がないにゃ。だから、あそこまでする必要はなかったかもしれないにゃ。でも、念の為、薬も飲んでおいてくれにゃ」
高級薬草の入ったジュースも役に立つかわからないが、わしが正直に危険の有無を説明したので皆は飲んでくれた。
「うまっ……もう一杯もらってもいいですか?」
「薬って言ったにゃろ~」
ジョージはまだ飲みたいようなので、違うジュースを支給。その他にも飲み物を渡してから、先ほどの地下施設の説明をする。
「さっきも言った通り、毒かどうかは確定ではないにゃ。わしが思っている施設にゃらちょっとヤバイけど、短時間だったから大丈夫だと思うにゃ」
「それで……あの施設はなんだったの?」
「女王の質問に答える前に、ジョージに質問させてくれにゃ」
「あ、はい!」
「ジョージのお父さんとお兄さんって急死したんにゃろ? その時、髪がごっそり抜けたり、咳き込んでたりしてなかったにゃ??」
「そう言えば……そんなことを言ってましたね」
「はぁ~~~」
ジョージの答えに、わしは溜め息を吐きながら上を見る。そして皆が見つめるなか数秒が経つと、真正面に顔を戻す。
「あの施設の正体は、核開発施設にゃ。ま、言っている意味がわからにゃいと思うから、いまは火力発電の凄い版と思ってくれにゃ」
わしが砕けて言っても意味不明なので、女王からの質問が来る。
「火力発電と毒が繋がらないんだけど」
「ぶっちゃけ火力発電でも、微量の毒を出してるにゃ。暖炉でも煙突に
「なるほど……と言うことは、煤より健康を害する物が出ているってこと?」
「そうにゃ。放射能と言ってにゃ。目に見えない毒を長時間浴びると死に至るにゃ。短時間でも大量に浴びたらアウトにゃ」
わしの怖い説明に、ジョージはそろりと手を上げて発言する。
「どうしてそんな危険な物を、父達は作らせているのでしょうか?」
「発電所と例を上げたにゃろ? 核と言うのは、核分裂を起こしてとてつもない熱を発するんにゃ。それで水を熱すれば、水蒸気でタービンを回して電気をいっぱい作れるって寸法にゃ」
「お……おお! じゃあ、コーン油を使わなくても、電気を作れるってことじゃないですか!!」
「まぁ……そうにゃんだけどにゃ……」
ジョージが興奮するが、わしは冷めたもの。その態度の違いに、女王はわしの危惧していることに気付いた。
「とつてもない熱と言ったわね……例えば、兵器に転用なんてことは出来ない?」
「兵器……まさかそんな……」
女王の問いでジョージだけでなく皆がわしを見つめるので正解を述べる。
「出来るにゃ……」
「やっぱり……」
「それも、一発でアメリヤ王国にゃんて消し飛ぶにゃ」
「そんなに!?」
「それだけじゃないにゃ。その地に、何十年も毒が残るにゃ」
わしの発言にジョージが驚き、女王は考え込み、皆も沈黙してしまう。
長い沈黙の中、わしが口を開く。
「悪い技術ってわけじゃないんにゃけどにゃ~。ただ、いまは早すぎる技術にゃ。ジョージ君にゃら、パンドラの箱を知ってるにゃろ?」
「はい。興味本意で開けて、世界に絶望が広がったと……」
「最後には希望が入ってるかも知れにゃいけど、そこに辿り着く前に自滅にゃ。わしの言ってる意味、わかるにゃろ?」
ジョージは頷いてくれたが、それでも聞かないといけない事がある。
「なんでシラタマさんは、アメリヤ王国に来て間もないのに、なんでも詳しく知っているのですか?」
その避けられない質問には……
「「「「「猫だからにゃ~」」」」」
猫パーティのアンサー。たぶんわしを守ってくれているのだろう。
「違うにゃ。とある古代文明に印されていたにゃ」
「そう言えば、シラタマが見付けた古代遺跡で、そのような石画があったわね。これのことを言っていたのね」
猫で押し通せるわけもないので、わしが適当な事を言ったら女王も被せてくれたから、ジョージも納得せざるを得ないのであった。たぶん聞いてはならないと思って……
「ま、この技術は、しばし封印にゃ。事故でも起こったらアメリヤ王国は滅亡してしまうし、異論はないにゃ?」
女王が頷くと全員コクコクと頷いて、全会一致で核放棄の流れとなった。
「問題は、誰がもう一度あそこまで行くかだよにゃ~」
「えっ!? ……シラタマさんがめっちゃ見られてますよ??」
わしはジョージに視線を送ったのに、何故か女王達はわしを見ていたみたいだ。
「え~! わしにゃ~??」
「どうせ、辿り着ける
「「「「「うんうん」」」」」
「そうなんですか!?」
「にゃ……」
わしが嫌そうにしても女王がこんな事を言うので、ジョージ以外は頷きまくっているから困ったものだ。わしも本当に行きたくないのに……
結局は誰も頼りにならないので、このわしが。頼りになるこのわしが行くしかないので下準備。
ちょっともったいないけど戦闘機の修理用で持っていた黒魔鉱を使い、全身を鉄魔法で覆う。丸さを排除して角張った形にしたから、見た目はロボットみたいだ。
白魔鉱でもよかったのだが、たぶん黒魔鉱でも魔力を流せば放射能を弾き返してくれるはずなので、ケチと言うわけではない。白魔鉱のほうが安心感はあるけど、ケチと言うわけではない。ケチではないんじゃ……
目の部分は見えていないと困るので、分厚いガラスを嵌め込む。これだけ分厚ければきっと大丈夫。原発職員は薄いポリカーボネートで突っ込んで行ったし……
もちろん密閉されているので空気がない。そこは空気を作り出す魔法でなんとかなるし、【熱羽織】で適温。たぶん、宇宙空間でも作業できるはずだ。
あとは魔法も使えないといざと言う時に困りそうなので、念話の魔道具、土を作り出したり操作する魔道具、風を操作する魔道具、さらに必要になりそうな魔道具を各種取り付けたら準備完了。
「じゃあ、行って来るにゃ~」
準備が整うと、念話で出掛けの挨拶。何か言いたげな顔の皆に見送られ、わしはガシャンガシャンと歩き出したのであった。
* * * * * * * * *
シラタマを見送った皆は、ガシャンガシャンと歩く鉄の塊を見ていた。
「また変なのになったわね……」
「まぁ、シラタマさんですから……」
「あの猫、どうなっているんだか……」
女王とリータとジョージは、シラタマの姿に呆気に取られ……
「かわいくないニャー!」
「あんなのモフモフじゃない!」
メイバイとコリスはシラタマの批判。
「かっこいいかも? あとで教えてもらおっと」
しかしオニヒメには、かっこいい魔法と思われていたようだ。
そんな中シラタマは……
「あ、こけたニャー」
慣れない事をしてこけてしまった。
「バタバタしてるわよ?」
「立ち上がれないみたいですね。ちょっと行って来ます」
シラタマが何をしているかわからない女王の問いでリータが動き、軽々持ち上げて立たせたら、シラタマはペコペコしながら外壁の中に消えて行くのであったとさ。
* * * * * * * * *
恥ずい!!
地下へ向かう階段を慎重に下りていたわしは、顔が真っ赤。こけてなかなか立ち上がれなかったので仕方がないのだ。
それにムズイ! 体を動かす度に鉄魔法で操作しないといけないから上手く動かせん。いっそ、鉄魔法で無理矢理動かすか?
わしは廊下に出たところで、鉄魔法を使って足を交互に動かしてみるが、そうは上手くいかない。
いたた。関節が変な方向に曲がり掛けた。これも無理じゃな。しかし、このままでは、この長い廊下すら進むのに時間が取られるぞ……ん?
あまり視界がよくないし考え事をしていたから、白衣姿の男が目の前に立っている事に、わしは気付くのがかなり遅れてしまった。
なんかピストルを構えて
黒魔鉱製の防護服に弾丸が当たっても「カンッ!」って鳴るだけ。男も首を傾げながら撃ち続けて、弾丸は尽きてしまったようだ。
防御はいいんじゃけど、黒魔鉱の装備で密閉されると魔法が使えんから攻撃手段が……あ、そう言えば、こんな時の為に魔道具付けておったんじゃった。
さすがわし。喰らえ~っと。
たいした魔道具は付けていないが、わしの大量の魔力で補充し続ければ、風を操作する魔道具でも凶器になる。
目の前の男は突然横風に吹き飛ばされ、壁にぶつかった。これで男は気絶。なので、土魔法で床に張り付けて拘束してしまう。
しまった。尋問を忘れてた。ま、話しづらいし、あとから聞けばいいか。それよりも、早く進める方法を思い付いたわい。
土魔法でよっつの車輪が付いた乗り物に乗ったわしは、車輪を魔法で操作して先を進む。そのナイスアイデアのおかげですぐに一番奥の扉に到着。
また鍵が掛かっていたので鉄魔法で無理やり開けて、逃げ帰った扉まで進んだら、土の車から降りて扉を開けた。
「戻って来たか……。それでどうじゃった?」
わしが中に入ると、いかにも博士って感じの白髪の老人が後ろも見ないで何か喋っていたので、念話を繋いで話し掛けてみる。
「わしはお前の仲間じゃないにゃ~」
「な、なんだ……頭の中で声が……」
「いい加減こっち見ろにゃ~」
念話に驚いていた博士は、ようやく振り返ってわしの容姿に驚く。
「な、なんじゃこの黒い塊は!? どうやって動いておるのじゃ!?」
「ベタベタ触るにゃよ~」
いちおう驚いてくれているが博士は知的好奇心が勝って、黒魔鉱の防護服をベタベタ触って来るので、わしの視界から消えてしまうのであったとさ。
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