440 違うって言ってるにゃ~


 秀忠が多国籍料理を喉に詰まらせて死に掛けたので、わしは必死に背中を叩くと息を吹き返した。なので、追加料理を運んで来たら、わしも席に着いてムシャムシャ。そうしていると、秀忠から話し掛けて来た。


「か、かたじけない……」

「気にするにゃ。それだけ西洋料理が気に入ったんにゃろ」

「ああ。天ぷらを超す料理ばかりだ。昼に贈られた料理も大変美味で、あの父ですら叫びながら食っていたぞ」

「にゃははは。それはお粗末にゃ~」


 わしが笑うと秀忠も笑いながら箸を持ち、料理を口に入れる。どうも、オクタゴンに来た頃の難しい顔がどこかに行ってしまったようだ。


「ところでにゃけど、苦情を言う為だけに来たんじゃないにゃろ?」

「ん? それだけだが……」

「そうにゃの? てっきり、各国の王様に会いに来たと思っていたにゃ~」

「お、おお! そうであった。顔を繋いでくれるか?」

「もうじきみんにゃ入って来るから、食べながら待っててくれにゃ」


 わし達が料理を腹に詰め込んでいると、入口がガヤガヤ騒がしくなり、各国の王族や護衛達が入って来た。なので、腹をさすっていたわしと秀忠は、各国のテーブルを挨拶をしながら回る。


 基本的に、2メートル以上の白いタヌキは驚かれ、わしと似ていると罵られる。その都度、訂正と、バスを売らないと脅して回り、各国の王はわしに謝って来る。

 そのせいで、挨拶をしていた秀忠は、わしが西の地では一番偉い王様だと勘違いしていた。なので、最後に残していた三大国が偉いと説明したのだが、西と南の王がわしに媚びへつらうので、誤解が解けない。

 なのでなので、最後の最後のオオトリ、女王の挨拶で挽回。さっちゃんがわしをタヌキと罵るのでケンカになってしまい、女王に髭を引っ張られる。これで西の地では、女王がヒエラルキーの頂点となったので、誤解は解けたようだ。


 そうして挨拶が終わった秀忠には、多国籍料理のお土産を渡し、オクタゴンの外へと送り届ける。


「西の地では、あのように顔も髪の色も違うのか……」

「容姿だけじゃないにゃ。国も家も、形が違っているにゃ。でも、日ノ本のほうが、少しばかり技術力が上かもにゃ~」

「そ、そうか! 我が日ノ本のほうが上か!!」

「まぁ江戸と京しか見てないから、にゃんとも言えないけどにゃ」

「関東は、江戸以外にもいい所があるぞ。暇が出来たら見に来るといい」

「それは喜んでにゃ。将軍も、西の地に来たいならば、いつでも天皇家に言ってくれにゃ~」

「天皇家……」


 わしが口にした言葉は、秀忠にはハードルが高いからか、また難しい顔になってしまった。


「いまはそこしか窓口が無いからにゃ~……三ツ鳥居を江戸に置かせてくれるにゃら、それが手っ取り早いんだけどにゃ」

「三ツ鳥居が余っておるのか?」

「最近、素材を集めたから製造中にゃ。これも、玉藻と応相談になるのかにゃ?」

「どちらにしても、天皇家を頼らないといけないのか……」

「頼りたくないんにゃ……。そうだにゃ~……近々、京で西の地の商品を販売するから、そっちでも言伝ぐらいは出来るにゃ。厳昭みねあきって京一番の商人に、わしからも話を通しておいてあげるにゃ」

「それならば……何から何まで、かたじけない」

「にゃはは。気にするにゃ。じゃあ、残りの祭りも共に楽しもうにゃ~」


 こうして秀忠は駕籠かごに揺られて帰って行き、わしもオクタゴンに入るのだが、入った所で玉藻が降って来た。


「またつけてたにゃ? もう勘弁してくれにゃ~」


 わしが顔色ひとつ変えずに問うと、玉藻は真顔で答える。


「そちがあちら側につかれると困るからな」

「わしはどちら側でもないにゃ。しいて言うにゃら、面白いほうにつくにゃ」

「……どちらが面白いんじゃ?」

「いまのところは京だにゃ」

「いまのところか……」

「そう心配するにゃ。玉藻とわしは友達にゃろ? それも、わしと肩を並べる友達にゃ」


 わしが友達と言っても、玉藻は暗い顔をする。


「そちには手も足も出なかったんじゃが……」

「あの時は、玉藻は正気を失っていたにゃ。もっと考えて戦っていたら、きっと違う結果になっていたと思うにゃ」

「そうか……じゃが、わらわはシラタマとは、やりあうつもりはない。妾と肩を並べる友じゃからな」

「にゃははは。わしのセリフをパクるにゃよ~」

「コ~ンコンコン。気に入ったから使わせてもらったんじゃ」


 そうして仲良く二人で笑いながら食堂に入ったら、リータとメイバイにからまれた。


「楽しそうですね……」

「二人で何してたニャ……」

「「浮気……」」

「にゃんでそうなるにゃ~!」


 わしが二人に浮気を疑われていたら、友達のはずの玉藻は逃げやがった。あとで問い詰めたら、そのほうが面白いと言いやがった。何から何までパクるとは、友達失格じゃ!

 もちろんわしは浮気なんてしてないので、秀忠を送った事と、その会話を玉藻が盗み聞きしていたとチクッた。それでも浮気を疑って来るので、咄嗟とっさの判断で大声をあげる。


「こんにゃ壁ばかりの所に居たら、息が詰まるにゃろ? 宿場町に行きたい人~!!」


 100パーセント手を上げるので、大失敗。王族を護衛するという仕事がわしに生まれてしまった。しかし、大人数なので、班分けをしなくてはならない。

 関ヶ原開催中の残り数日で、外に出す王族の人数を決めると、皆の視線が痛かったのでくじ引きを引かせる。三大国が睨みを利かせ、小国が涙目で見ていたからくじ引きにしてやったのだ。


 その結果、東の国とビーダール、小国ふたつが引き当てて、オクタゴンを出る事となった。その護衛として、猫ファミリープラス、イサベレとリンリー。黒猫はいらないけど、「にゃ~にゃ~」泣き付いてうるさかったから連れて来てやった。

 イサベレとリンリーを連れて来た理由は、明日からの宿場町見学のため。毎日だと、わしが面倒臭い。明日からは、エルフ組と王族護衛と日ノ本の者が宿場町の護衛をし、猫ファミリーはオクタゴンの警備を担当する予定だ。


 宿場町までの移動は、念のため猫の国から持って来ていたキャットトレイン。猫の国で、予備で使っていた八両編成のキャットトレインだが、この人数なら、動力部と車両の三両編成で十分だろう。

 他の乗り物も考えたのだが、キャットトレインでも使わないと、何台もの馬車や人力車を出動させないといけないから、そもそも足りない。我が儘な王族が勢揃いしているので、わしの対策はバッチリだ。


 とりあえず、護衛の中に運転できる者が居ないか聞いてみたら、二人ほど居たので、その者を運転手に決定。ローテーションで運んでもらう。

 キャットトレインは、元々ほとんどバスなので、平地なら余裕で走らせる事が出来る。しかし、線路となる魔法は使っていないから、各自の力量で運転してもらうしかない。

 といっても、目的地は真っ直ぐ行った所で、行って来いするだけだから、低速で走らせれば事故に遭う事もないだろう。それに、建物密集地に入らなければ問題無い。宿場町の南口は建物も無いので、運転の支障もなさそうだ。



 無事、事故なく宿場町南口に着くと、王族を連れてぞろぞろと街を歩く。そうして祭り囃子が聞こえる道を進むと、提灯に照らされる祭り会場が姿を現した。


 そこは、祭りやぐらを囲み、円を描いて盆踊りをするキツネやタヌキ、キツネ耳やタヌキ耳、普通の人間、老若男女が入り乱れてのお祭り騒ぎ。

 その光景に、皆は異国に来たのだと実感し、見惚れているようだ。


 とりあえず王族を立たせているわけにもいかないので、玉藻に邪魔にならないような場所を聞いてから、テーブルセッティング。土魔法で特別観覧場を作る。

 そこでまた班分け。四分の一に割って、出店見学に連れ出す。リータ達にはひとまず観覧場を守ってもらい、わしは出店見学。東の国組と護衛を数人連れて歩く。


「シラタマちゃん! アレ買って~?」

「今度はお面にゃ~?」


 出店が多く並ぶ通りを歩くさっちゃんは、買って買ってとうるさい。黒猫もそれに乗って「にゃ~にゃ~」うるさいので、その都度わしのポケットマネーで支払われる。

 お面屋さんに代金を払うと、さっちゃんはお姫様っぽいお面を頭につけ、ワンヂェンは桃太郎っぽいお面が気に入ったようだ。


「アレもやりた~い」

「うちも食べたいにゃ~」

「金魚すくいはやめとこうにゃ。持って帰れないにゃ~。てか、金魚は食べ物じゃないからにゃ?」

「「ええぇぇ~!」」


 遊戯にも手を出そうとする二人を引っ張りながら歩くわし。女王達は興味はあるようだが、はしたないマネはしたくないらしく、自制を持った行動をしているようだ。

 次を待たせている組もいるので、三十分の持ち時間が来るとブーイングの中、王族を引っ張って戻る。そうしてリータ達と交代。お財布を渡して、玉藻が用意してくれた案内役のキツネ女にもあとをお願いする。



 東の国の者は、先ほど回った出店で買って来た飲み物を出してあげたが、どうやって飲むのか悩んでいるようだ。


「シラタマちゃ~ん」

「はいにゃ~。ちょっと待つにゃ~」


 さっちゃんが呼ぶので、わしは土魔法で飲み物を開ける道具を作って、開けてあげる。


「わ! 吹き出した!!」

「誰か振ったにゃ~?」


 さっき買ってきた物は、ラムネ。皆はお腹がいっぱいで食べ物は欲しがらなかったが、変わった形の瓶が気になっていたから買ってあげた。その場で飲むのはお店に迷惑になりそうだったので、持ち帰ったわけだ。

 さっちゃんには、ひとまず吹き出しが止まったら飲むように言って、女王達の分もガンガン開ける。そうしていると、さっちゃんと女王はラムネの瓶に口をつけた。


「プハー! しゅわしゅわしておいしい!」

「スパークリングワインみたいね。甘くておいしいわ」

「この瓶もかわいいね。持って帰ってもいい?」

「う~ん……あとで玉藻に聞いてみるにゃ」


 ラムネの瓶は使い回していると言うと、女王達は不快に思うかもしれないので、この場では知らせない。知らないほうがいいかもしれないので、帰ってから話す予定だ。


「それにしてもさ~……」


 わしもラムネを飲んでいると、さっちゃんがわしの顔をガン見する。


「シラタマちゃんって、日ノ本出身でしょ?」

「ブフー! ゲホッゲホッ!!」


 あまりに唐突なさっちゃんの質問に、わしはラムネを吹き出してしまった。


「にゃ、にゃんのことにゃ?」

「だって~……あの祭り櫓もダンスも、猫の国の建国記念日でやってたじゃない。それにさ、出店でやってる輪投げとかも、建国記念日で見たわよ」


 あ……たしかにやってた! 丸パクリしたから、そりゃ疑問に思うか。しかし、どう答えたものか……王族全員、興味津々で見ておるし……


「ほ、ほら。こんにゃの誰でも思い付くにゃ~」

「シラタマちゃんの家だって服だって、ここと一緒じゃない? それはどう説明するのよ?」

「だから誰でも思い付くにゃ~」

「あくまでもしらを切るのね……」

「しらを切るもにゃにも、猫だにゃ~。森の生まれにゃ~。適当に思い付いた事が、たまたまここと酷似してただけにゃ~」


 わしが「にゃ~にゃ~」反論しても、全員、納得してくれない。それでも「にゃ~にゃ~」言っていると、さっちゃんは違う質問に変える。


「そう言えば、時の賢者様も同じ服を来てたわよね? 時の賢者様もここの出身だったのかしら?」

「時の賢者もって、わしは違うにゃ~」

「残念……引っ掛からないか」


 やはりさっちゃんは、女王ばりの誘導尋問をマスターしておる。だが、今日のわしは一味違う。心も読ませないし、転生だって漏らさぬ! じゃが、皆の視線がわしの出身は日ノ本だと断定しておる。

 ここはひとつ、時の賢者の話を使ってみるか。


「そう言えば、玉藻のお母さんは時の賢者と会ったんにゃって」

「え……あの時の賢者様に??」

「そうにゃ。千年前に、この地に来たんにゃって。わしが東に向かって旅をしていたのも、時の賢者の足跡を辿っていたんにゃ」

「うそ……じゃあ、時の賢者様も、シラタマちゃんと同じで日ノ本出身なの?」

「だからわしは違うにゃ~~~!!」


 話を逸らせど逸らせど、何度もわしの出生の秘密に話を戻すさっちゃん達であったとさ。

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