441 合気道の達人にゃ~
さっちゃん筆頭に、東の国王族からわしの出生の秘密を探られていたが、宿場町の出店を回る小国の護衛をしていたリータ達が戻って来たので、わしは次のビーダール組の護衛を買って出て逃げる。
ここでもかつあげにあって、いろいろ買わされてしまった。まぁあとで必ず必要経費として請求するので、いまは許してやる。
それよりも、リンリーと明日からの護衛の打ち合わせをしておかなくてはならない。日ノ本の案内役も交えて、護衛とガイドの確認しながら最後の組と出店を回っていると、一匹のキツネに呼び止められた。
「シラタマさん! ……シラタマさ~ん!!」
「にゃ??」
名を呼ばれたが、知らないキツネだと思って無視していたが、何度も呼ぶのでわしは足を止める。
「ちょっと! なんで無視するんでっか~」
「えっと……どちらさんにゃ?」
「この顔を忘れてはるんですか!?」
この顔……どの顔の事じゃ? キツネは見た目じゃわからん。それに、わしにキツネの知り合いなんて、質屋と……
「にゃ!? 覚えてますがにゃ~。質屋の顔を、わしが忘れるわけがないですがにゃ~。ちょっとボケただけですがにゃ~」
「ぜったい忘れてはりました……」
ジト目どころか涙目になったキツネ店主を見て、わしは慌てて話を変える。
「それより、こんにゃ所で何してるにゃ?」
「はぁ……もうええですわ。
「お~。さぞ儲かっているんだろにゃ~」
「いえいえ。売り込んでいるだけで、売ってはいまへん。大量に持って来られまへんので、紹介だけですわ~。ですが、好評ですから、京に買いに来ると言ってくれてる人が大量に釣れました」
「にゃるほど……京まで呼び寄せて、他の物も抱き合わせるって算段にゃ~」
「コンコンコン。シラタマさんにはすぐにバレましたな~」
「にゃはは。商魂逞しくて結構な事にゃ。頑張ってうちも美味しくしてくれにゃ~」
「へい! それはもう、お任せください~」
キツネ店主と喋り込んでいるわけにもいかないので、暇が出来たらオクタゴンに顔を出すように言ってから、わしは護衛に戻る。そうして屋台を回っていると、時間が来たので今日の宿場町観光はお開きにする。
王族と護衛の人数確認をすれば、キャットトレインを発車させ、オクタゴンへ帰る。正門の前に横付けさせると王族達を降ろし、キャットトレインは門の近くに駐車させておく。
使用頻度が高そうなので、出しておいたほうがいいだろう。元々、日ノ本では使い方のわからない乗り物だ。鍵さえ閉めておけば、盗まれる事もないはずだ。
念の為、エネルギーが空になっていてはいけないので、満タンまで魔力を注いで、わしもオクタゴンに入る。その時、日課の三ツ鳥居の魔力補充を忘れていた事を思い出し、みっつほど補充しておいた。
そんな事をしていて少し時間が空いたからか、リータ達が王族達を解散させて、各々の部屋に帰らせていたようだ。
なので、わしも猫の国専用部屋に向かっていたら、兄弟達に体育館裏に呼び出され……いや、観覧場の逆側の屋上に呼び出された。
「洗いざらい吐きなさい」
「そうだぞ。俺達に秘密は無しだ」
歯を向くエリザベスに、真っ直ぐわしの目を見るルシウス。わしは呼び出しの理由がわかっていたので、真摯に全てを語った。
「やっぱりね。城で暮らすようになってから、そんな気がしてたのよね」
「信じてくれるのか?」
「そりゃシラタマは、昔から変だったからな」
「そうそう。私達が思いもよらぬ物を作ったりね」
森で生活していた時に、かなりやらかしたもんな。それが城の生活に変わって、人間の生活を見れば、似通った物もあったのじゃろう。今までその件に触れて来なかった事のほうがおかしい。わしに気を使っておったのかな?
「二人とも、今まで黙っていてすまなかったな。元は人間だったと知られてしまうと、二人と兄弟で無くなりそうで怖かったんじゃ」
「はあ? なんでそんな事で兄弟じゃなくなるのよ」
「そうだぞ。何が起きようと、俺達はお母さんの子供だ」
「うぅぅ……ありがとう、ありがとう……にゃ~~~」
「なに泣いてるのよ」
「あははは。エリザベスの顔が怖かったんだろ」
「ルシウス……噛むわよ!」
「にゃ~~~」
ルシウスは本当に噛まれて、わしと一緒に大泣き。でも、エリザベスはあとから、わしとルシウスを慰めてくれた。
それからわしの転生の話は内緒にするように頼んで、部屋に送り届ける。その時、猫用の出入口を作っておいたので、次回からはわしが扉を開けなくてもいいだろう。
わしも部屋に戻ると、浮気を疑うリータとメイバイのお出迎え。でも、兄弟達との会話を教えると、優しく撫でてくれた。ここにも猫用の出入口を作って、いつでも遊びに来れるようにしたので、リータ達は首を長くして待っているようだ。
こうして関ヶ原一日目は、温かい雰囲気の中、夜が更けて行くのであった。
* * * * * * * * *
一方、徳川陣営……
オクタゴンから戻った秀忠は、家康の前で土下座をしていた。
「お前は、なんの情報も得ずに戻って来たのか……」
「も、申し訳ありません」
「挨拶? 食事? それでどうやって、明日からの関ヶ原を乗り切るつもりじゃ!」
どうやら秀忠は、シラタマの出場スケジュールや、その他の戦力を調べにオクタゴンに乗り込んだようだ。そこで食べ物に
家康も、そこまでの指示を出していなかったのだが、送り込んだ時点でそれぐらい伝わっていると思っていたので、この
「もういい! 明日の競技は武術からだ。お前を大将に置くからな!!」
「はっ! この秀忠、必ずや東軍に勝利をもたらしましょうぞ」
秀忠は力強く返事をし、頷く家康に再度頭を下げて、自分の寝室に帰るのであっ……
「その手に持っているのは、西洋料理じゃろう?」
「え……あの、その……」
「お前はたらふく食って来たんじゃから、置いていかんか!」
シラタマに貰ったお土産を、全て家康にかつあげされて、秀忠はトボトボ帰るのであったとさ。
* * * * * * * * *
関ヶ原二日目……
朝から玉藻がオクタゴンに押し掛け、大慌てで作戦会議。昨夜、宿場町観光を急遽行ったので、対応が忙しくて忘れてたんだって。
なので午前の部、武術対決と
リータも昨日、やりすぎた感があって出場を辞退するし、コリスを送り込むのはちと不安。エルフ組はあまり表に出したくないので、結局武術対決は、わし一人で出場する事となってしまった。
流鏑馬対決に至っては、王族護衛しか馬を操れる者が居ないし、弓を使う者が居ないので、出場者が見当たらない。とりあえずこれは武術対決をしている間に決めておいてと言って、わしと玉藻はダッシュで選手控え室に走る。
ここで自己紹介。玉藻がわしの事を紹介してくれるが、一匹の……いや、一人の袴姿のキツネ老人が不快そうな顔をする。
「このような者が大将なのですか……」
「
不満を訴えたのは、元々西軍大将に就いていた合気道の達人と紹介を受けたキツネ老人「植芝
しかし、さすがに玉藻に睨まれると畏縮してしまったので、わしが助けてあげる。
「玉藻~。いきなり順番を変えられたら、そりゃ怒るにゃ。玉藻が悪いんにゃから、そう睨んでやるにゃ」
ひとまず玉藻の処理が終わると、わしは守平に詫びを入れる。
「わしのせいで迷惑掛けてすまないにゃ」
「まったくじゃ……」
「ところで翁は、この中で最強にゃんだと思うんにゃけど、わしの出番が来ないようにしてくんにゃい?」
「むっ……どういう事じゃ?」
「大将は翁にゃ。ただ、わしはその席で、翁の技を勉強させてもらうにゃ~」
「……出たかったのではないのか?」
「まったく……そんにゃ事よりも、翁の技を特等席で見れるほうが光栄にゃ~」
「おお。そういう事か。ならば大将席で、ゆるりと、我が合気の
「お言葉に甘えるにゃ~」
守平はわしの言葉に気を良くして、弟子だと思われる袴姿のキツネ二人とタヌキと人間の元へと歩いて行った。
一人のキツネ弟子を除いて、合気道を習っているとは思えないぐらい体が大きくて筋肉隆々なので、本当に弟子なのか疑いたくなる。
その弟子達を凝視していると、玉藻はわしのそばにやって来て念話を繋げる。
「翁の手綱を上手く握ってくれてありがとうな」
「別にいいにゃ。でも、あの老人は、大将をするぐらい強いにゃ?」
「強いと聞いているのだが、本当のところはわからん」
「にゃ? 強いから連れて来たんじゃにゃいの?」
「何度も頼んで断れていてな……」
玉藻が言うには、これまでの関ヶ原で、西で最強だと噂の合気の達人守平に、出てくれるように何度も打診しては断られ続けていたとのこと。今回もダメ元で頼んでみたら、四人の弟子と一緒に出るのならばと、初めて首を縦に振ったらしい。
もちろん他の武術家もスカウトしていたのだが、東軍に負けた事のある者だったので、最強ならば全てを守平に任せてみようとなったようだ。
それなのに、わしが参加して弟子の一人が出れなくなったから怒っていたと玉藻は見ている。
「ふ~ん。ま、合気の達人にゃら、強さは関係ないのかにゃ? 相手の力を使って倒すしにゃ」
「そうだといいのじゃがな……もしもの場合は、頼んだぞ」
「適当にやるにゃ~」
玉藻の心配は、わしは特に気にせず、服をどうしようかと悩む。だが、守平達は袴姿なので、わしも袴に決定。着流しの上から、袴を
少し豪華な服装だが、どちらも
そうして着替えも終わり、玉藻と雑談していると、係のキツネが呼びに来たので、守平を先頭に会場に向かう。
あら? 土俵が無くなっておる。その代わり、四角く盛り上がった舞台が出来ておるな。あそこで闘うのか?
わしが舞台を見ながら歩いていると、観客からの声援が大きくなり、先に到着していた柔道着姿のタヌキたち五人と舞台の上で向き合う。
その中で、わしの目の前に立つタヌキは見知った人物だったので、声を掛けてみる。
「将軍みずから闘うにゃ?」
わしの目の前に立つ人物は、尻尾が三本ある白タヌキ、二代目将軍徳川秀忠。柔道着まで着て、やる気満々だ。
「そちらが卑怯な手を使うのでな。対応せざるを得まい」
「あ~。たしかに卑怯だにゃ~。お手を
「フッ……私を前にして、卑怯だと思わないとは面白い」
「だって、こっちには合気の達人が居るんにゃよ? わしの出番も来ないにゃ~。にゃ?」
わしは同意を求めて、副将の守平に話を振る。
「は、はひ!!」
しかし、守平は返事をしてくれたが、何故か声が裏返っていた。
「どうしたにゃ?」
「ちょ、ちょっと来てくれ……」
「にゃ~??」
守平はわしの袖を引っ張って舞台の端に連れて行くと、焦りながらコソコソ喋る。
「あの方は、将軍様じゃぞ? 何を無礼な口を聞いているのじゃ」
「にゃにをって……わしは王様にゃから、将軍より偉いからにゃ。開会式で、天皇のちびっこが紹介してくれたの知ってるにゃろ?」
「王様!?」
「にゃ? ひょっとして開会式出てなかったにゃ?」
「は、はい……」
「別に言葉に気を付けなくていいにゃ。翁のほうが年上にゃんだから、本当はわしのほうが気を付けなくてはいけないんだからにゃ」
「う、うむ……」
「じゃあ、将軍を待たせるのもアレにゃし、元の位置に戻るにゃ~」
今度は守平がわしに恐縮してしまったので、袖を引っ張って元の位置に戻る。すると、行司がルールの最終確認を行って、わし達を東と西の控え席で待機するように言ったのだが、西軍の者はわし以外、舞台を降りなかった。
わしがその事に気付いたのは、控え席の長椅子に座ろうと振り返った時。その視線の先には、守平を三人の弟子が囲んでいる姿があった。
何やら守平がゴニョゴニョ言ったあと、弟子のキツネから口上を述べる。
「我等が師匠は、合気道の達人、植芝守平様である!」
「守平様は、我等のような力がある者も、触れた瞬間に弾き返す達人!」
「疑うのなら、これより我等が同時に襲い掛かってみせようぞ!!」
は? あいつら何をしておるんじゃ??
弟子キツネから、弟子人間、弟子タヌキと口上を述べ終わると、わしの頭にクエスチョンマークが浮かぶが、そんな事はおかまいなし。
「「「きえーーー!!」」」
三弟子は、奇声をあげながら守平に掴み掛かる。
「ほわっ!!」
「「「ぐわ~~~」」」
守平は掴まれた瞬間、小さく動いたと思ったら、三人の弟子は吹っ飛んで倒れるのであった。
マジか……
その光景に、観客を含め、わしも驚く事になる。
いま、弟子が自分から飛んだじゃろ! 弟子に守られた達人なんて連れて来て、玉藻さん……どうすんの!?
観客は騙せても、わしの目は騙せない。偽合気道デモンストレーションを見せられたわしは、マジで驚きを隠せないのであったとさ。
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