249 猫だにゃ~


 リータとメイバイと指切りで約束を交わすと、コウウンが戻るのを待つ為に、屋敷の正面に移動する。二人は暇なのか、代わる代わるわしを撫で、ゴロゴロと言わされる。

 しばらくゴロゴロ言っていると、それを見た猫耳族の子供が集まって来て、申し訳無さそうに見つめるので、リータとメイバイはわしを貸し与える。

 許可ぐらい取って欲しかったが、子供達の笑顔にわしも負けてしまった。だが、このままでは離れた時に悲しい顔をするのは目に見えているので、土魔法を使って、滑り台やブランコ、遊具を複数作って皆で遊ぶ。子供の扱いにも慣れたものだ。


 え? 雑? わしも解放されるから、いいんじゃ。


 そうこうしていると、調査部隊を出発させたコウウンが戻って来たので、ケンフを犬笛で呼び寄せ、子供達が怪我をしないように見ていてくれと頼む。ちょっと笛を吹いただけなのに、まさか飛んで来るとは……


 それからコウウンを連れて街を出る。リータとメイバイもついて来たけど、まぁいいや。


「王よ。これから何をするのですか?」

「帝国軍が攻めて来るにゃろ? その下見にゃ」

「街にもって、籠城戦を行うのではないのですか?」

「それも有りにゃけど、街の周りには畑があるから踏み荒らされたくないにゃ。それに長引けば、街の者が敵に変わるかもしれないしにゃ」

「……なるほど。となると、少ない人数で、一万人の帝国軍に勝てる戦場を探せと言う訳ですね」

「そうだにゃ。まぁわしに秘策があるから、場所を案内してくれにゃ~」

「はっ!」


 わしは次元倉庫から二号車を取り出し、コウウンを乗せて発車する。


 リータとメイバイは後ろの席に座ってね? 嫌ですか……じゃあ、交代で前に来てね。


 前列の右に寄せてある椅子は、片方を左側にくっつけ、そこにコウウン。後部ソファーに寝そべったメイバイ。運転席に、猫又のわしを抱いたリータで出発。

 コウウンは地図を片手にわしを案内し、数ヶ所目星を付ける。帝国軍の通る道を予想しながらなので、地図には多くの印が付けられた。

 戦場予定地を探すついでに畑も見学。リータとメイバイに交互に撫でられるので、集中できない。ゴロゴロと車は走り、お昼が近付くと屋敷に戻る。



 昼食を済ませると会議に出席。今回はセンジの連れて来た、奴隷解放組織のメンバーも主席しているので、人数が増えている。人族が増えた事で、猫耳族が嫌悪感を示しているが、気にせず会議を始める。


「まずはセンジ。帝国への連絡はどうなったにゃ?」

「結論から言うと、ダメでした。もうすでに情報が行っていて、必ず取り返すと言って切られました」

「もしかして、センジは裏切者となってしまったかにゃ?」

「……はい」


 しまったな~。これなら、救出してくれと頼んでもらって、情報をもらったほうがよかったか……


「まぁどっちみち滅ぶ国にゃ。裏切り者も今の内。センジにその気があるにゃら要職に付けてやるにゃ」

「え……要職だなんて……」

「いや、街を運営するのに、センジの力を借りたいにゃ。猫耳族がこの街のトップだと、センジも街の人族が心配にゃろ?」

「いえ。そんな事は……」

「決定にゃ。街の為に働いてくれにゃ」

「……わかりました」


 よし! 労働力ゲット! 首長の娘なら、ラサの街に詳しいじゃろうから、ウンチョウと一緒に押し付ければなんとかなるじゃろう。



「それでそちらの人達が、朝に言っていた組織の人かにゃ?」

「はい。こちらは……」


 センジは奴隷解放組織のメンバーを紹介していく。最後にわしも名乗るが、ガン見し続けるのはやめて欲しい。


「この中で、農業に詳しい人はいるかにゃ?」

「それでしたら、私が……」


 わしの質問に、一人の男が答える。


「トクユウさんだったかにゃ? さっき外の畑を見て来たけど、畑の世話をしなくていいのかにゃ?」

「収穫の近い物もありますし、急いだほうがいいです」

「にゃら、トクユウさんに任せてもいいかにゃ?」

「私がですか?」

「ここの畑に詳しくにゃいと、出来ない仕事にゃ。元奴隷にゃら、畑仕事をしていたから、それを使えば出来るにゃろ?」

「はい。可能です」

「じゃあ、任せるにゃ。ただし、猫耳族を鞭で打つようなやり方をするにゃら外すにゃ」


 わしの発言に、トクユウは焦りながら弁明する。


「そ、そんな事はしませんよ。私は前々からそのやり方に疑問を持っていたので、命令はしますが、人族の者と対等に扱わせていただきます」

「言い方が悪かったにゃ。すまなかったにゃ」

「いえ。こちらこそ、王様に謝らせるなんて……」

「気にするにゃ。トクユウさんには、ある程度の権限を与えるけど、猫耳族からお目付け役を付けるにゃ。ウンチョウの部下から出してくれにゃ」

「はっ!」

「猫耳族の元奴隷だけでは足りないにゃら、人族からも使ってくれていいからにゃ。トクユウさんは、もう会議はいいから、さっそく取り掛かってくれにゃ~」

「はい!」


 トクユウとウンチョウの部下が退出すると、会議を続行する。


「それじゃあ、あとは報告だけかにゃ?」


 わしの問いに、ウンチョウが手を上げる。


「その前に、捕らえた帝国兵の処分をどうするかをお聞きしたいのですが……」

「う~ん……ウンチョウはどうしたいにゃ?」

「奴隷紋を掛けて、兵隊として使うのはどうでしょう? そうすれば、人手が増えますし、寝返りの心配が無くなります」

「それ、いいにゃ! タダ飯食わすより、よっぽどいいにゃ~」


 ウンチョウのナイスアイデアを実現する為に、わしは適任者を見る。


「ワンヂェン。奴隷紋の解除の進展はどうなってるにゃ?」

「多いから、まだまだにゃ~」

「一旦その作業は止めて、帝国兵を優先してやってくれにゃ」

「わかったけど、それでも数日かかるにゃ~」

「でしたら、人族で使える者に心当たりがあるので、集めましょうか?」


 わしとワンヂェンが話し合っていると、一人の女性が割って入る。


「えっと~。インさんだったかにゃ?」

「はい。私の手元に奴隷紋を扱える者のリストがありますので、反抗しても、縛ってしまえば増やす事が出来ます」

「反抗する者が居るにゃら、兵が必要になるにゃ……シェンメイ。数人集めて、当たってくれにゃ」

「わかったわ」

「ワンヂェンのところからも、一人出してくれにゃ」

「わかったにゃ~」

「三人も会議はいいから行ってくれにゃ~」


 また人が会議室から出て行き、各自報告を聞き終わると、会議室にはリータ達とウンチョウが残った。


「ウンチョウ。センジの連れて来た者を、どう思ったにゃ?」

「率直に言いますと、正直驚いています。人族にも、これほど猫耳族に寛大に接する者が居たのですね」

「たぶん、まだ一部の者にゃ。探せばもっと居るはずにゃ」

「そうですね。王の言った通りでした。どうやら、俺の頭が固かったみたいです」

「にゃはは。猫耳族、全員固いにゃ~」

「ははは。たしかに」


 こうして、ウンチョウも会議室から笑いながら出て行った。残ったのはわしとリータ達だけ。と言う訳で、堂々とサボろう。


「シラタマさんは、サボッていていいのですか?」


 リータが質問するが、聞こえていない振り。両手を組んで、考えている振りでやり過ごす。


「シラタマ殿~」


 メイバイが揺らすが、考えている振り。


「諦めて働きなさい」


 ノエミまでこう言う始末。仕方がないので、言い訳のひとつでもしよう。


「ちょっと考え事があるにゃ~」

「「「嘘でしょ!」」」

「にゃ……本当にゃ~。猫、ウソツカにゃイ」

「いつもつくじゃないですか」

「それもバレバレの嘘ニャー」


 わしの言い訳が、若干、片言になってしまったので、リータとメイバイの目が怖い。


「こ、今回は本当にゃ!」

「じゃあ、その嘘、聞いてあげますよ」

「つまらない事なら埋めるニャー」

「つまらなくても埋めにゃいで~!」

「早く言ってください。早く埋めますから」

「にゃんでにゃ~!」

「早く言うニャー」


 ヤバイ……返答をミスれば、確実に埋められる。何かいい考えは……あ!


「メイバイの家族が、どうにゃったか考えていたにゃ。メイバイは、にゃにも言ってくれないからにゃ。どこに居るかわかれば、助けられるにゃ~」

「私の家族……」

「たしかに心配ですね……」

「もうここまで来たんにゃから、わしがにゃんでもするにゃ。だから、心配しないで話をしてくれにゃ」

「シラタマ殿……」

「メイバイさん。私も微力ながら協力します!」

「リータ……ありがとうニャー」


 メイバイは、わしとリータを抱き締める。いや、わしを抱いたリータに抱きつき、わしは二人の胸に挟まれた。


 しばらくして、落ち着いたメイバイは語り出す。


 どうやらメイバイの家族も、このラサの街で暮らしていたみたいだ。元々一緒の主に奴隷として働かされていたらしいが、その主の娘が性格が悪く、事あるごとにメイバイ家族を鞭で打ち、幼い頃に離れ離れにされたとのこと。

 街は一緒だったから会いに行くが、話すどころかその娘の目に入ると、鞭で打たれ、引き離されたらしい。

 その後、両親を置いて逃げ出したので、消息はわからない。元奴隷の集まっている場所に探しに行きたかったが、わし達に気を使って我慢していたみたいだ。


「もっと早く言ってにゃ~」

「これ以上、迷惑を掛けるのは……」

「こんにゃの迷惑にゃんかじゃないにゃ~。すぐに行くにゃ~!」

「メイバイさん。行きましょう!」

「う、うんニャー!」


 メイバイはまだ家族に会いたいと言わないので、わしとリータは強引に手を引いて、走り出したのであった。



 わし達は元奴隷の猫耳族の元へ行き、メイバイの両親を探す。報告では、五千人近くいると聞いていたが、仲間で手分けして叫ぶとすぐに見つかった。


「メイバイ……」

「生きていたのね……」

「お父さん……お母さん……」


 メイバイの父と母は、目に涙を溜めてゆっくりとメイバイに近付き、いまにも泣き出しそうなメイバイも、ゆっくりと近付いて抱き合った。


「「「ニャーーー」」」


 う~ん。涙の再会で貰い泣きしそうだったんじゃが、号泣する時は「ニャーーー」なんじゃな。涙が引っ込んでしまった。

 メイバイの癖かと思っていたが、感極まると猫が出て来るのか? そう言えば、魚を出した時も、猫耳族は「ニャーーー」と言っていたか。


 わしが涙の再会を真面目な顔で見ている横では、リータが目を擦っている。


「メイバイさん……よかったですね。グスッ」

「そうだにゃ。これで一安心にゃ」


 その後、落ち着いたメイバイ達を連れて外に移動。簡単な家を土魔法で作って、そこで奴隷紋の解除をする。

 それが終わると、今日は家族水入らずで過ごすように命令する。こうでも言わないと、メイバイはわしに気を使ってしまうからだ。抱き枕と勘違いしている節はあるが……


「シラタマ殿……ありがとうニャー」

「気にするにゃ。ゴロゴロ~」


 メイバイはわしを抱き抱え、感謝のわしゃわしゃをする。そうしてゴロゴロ言っていると、メイバイの両親が声を掛けて来た。


「メイバイは、シラタマ様と、どういった関係なの?」

「将来の第二夫人ニャー!」

「さすが俺の娘だ。男を見る目がある」

「本当ね。これほど素敵な男性は、どこを探しても居ないわ」

「本当ニャー!」

「………」


 反対しないの? 猫じゃぞ? 素敵な男じゃなく、かわいらしい猫じゃぞ? たしかに、どこを探しても居ないけど、猫だからじゃぞ?


 わしの心の声は無視され続け、持てはやされ続けるので、早々に逃げ出す……家族水入らずを邪魔をしないように離れるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る