248 約束にゃ~


 エンアク将軍を一騎討ちで討ち取り、残った帝国兵もわしの大魔法でおどしたが、少しやり過ぎたみたいで、帝国兵は考える事を止め、あっちの世界に行ってしまった。

 このままではらちもあかないので、リータ達をエンアクを張り付けた乗り物に乗せて前進。その姿を見た帝国兵は、声も出さずに道を開ける。


 乗り物を【朱雀】で開けた穴まで進ませると、壁がドロドロに溶けて、熱気が酷かったので水魔法で消火。

 街の外では猫耳族が前進しているはずだったが、どうやらあちらも固まっているみたいだ。仕方がないので、もう一度、通信魔道具を繋いで急がせる。



 猫耳軍が壁に到着すると、軍はさらに前進。街に易々やすやすと侵入する事に成功した。


「とりあえず、戦士諸君。帝国兵を拘束するにゃ。反撃して来る者は殺していいけど、出来るだけ命は取るにゃよ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 わしの命令に猫耳族の戦士は、帝国兵を拘束していく。幸い、帝国兵は反撃する気力も無く、猫耳族に剣を向けられると自分の剣は投げ捨て、素直に降伏する。

 だが、拘束するにも縄が足りなく、コウウンがどうするか聞いて来たので、壁に開けた穴を修復するついでに、土魔法で檻を作成。ひとまず檻に入ってもらう。


 こちらの処理はコウウンに任せて、わしはウンチョウを連れて首長の屋敷前に移動。埋まっている帝国兵は、わしが土魔法で掘り起こして檻に連行してもらい、手が空くと首長の屋敷に作った壁も消し去る。

 次にワンヂェンを呼び寄せ、支援部隊に食事を調理してもらう。簡単に調理場を作り、あとはマネして作ってもらい、次々に、肉やジャガイモが焼かれていく。



 そうして帝国兵の処置の指示が終わると、センジに頼み事をする。


「センジは街の者に、軍は負けた事と、猫耳族を解放しろと伝えてくれにゃ。それと、簡単だけど食事を支給するから、首長の屋敷に来るように集めてくれにゃ」

「え? 食糧は徴収するのではないのですか?」

「そんにゃ事をしたら、街の者に嫌われてしまうにゃ~。わしは罪ある者しか裁かないから、残りたく無い者には、いますぐ出て行ってもらってかまわないにゃ」

「……わかりました。でも、私一人では難しいです」


 センジの言葉はもっともなので、わしは適任者を呼ぶ。


「ウンチョウ!」

「はっ!」

「ただちに街を封鎖にゃ。出て行く者は、何も取り上げずに出て行かせるにゃ。注意しても、猫耳族を連れて行こうとする奴がいるにゃら、殺してもかまわないにゃ。それと、このセンジを助けてやってくれにゃ」

「わかりましたが……」

「王の命令にゃ! 不満はあとで聞くし、いまは一刻を争うにゃ!!」

「は、はい!」


 わしの命令に、ウンチョウは猫耳兵にいそいそと指示を出す。兵の三分の二は、街の封鎖にあたり、残りは街の人間の誘導。

 センジが街の者に呼び掛けて、各ブロックごとに集めるようだ。指示していない事までしてくれるとは、なかなか有能だ。


 首長の屋敷には、まずは猫耳族が集まり、どうみても栄養不足であったので、食事を与える。食事が終わった者から、ワンヂェン率いる魔法使いが、奴隷紋の解除。屋敷の中から、痛そうなうめき声が聞こえて来る。


 わしはサボろうと考えていたが、各指揮官を使ってしまったので、仕方なく雑用の指揮。

 お昼も過ぎてしまったので、街を封鎖している猫耳兵と、捕らえた帝国兵に食事を届けさせ、揉め事が起こっていれば走って駆け付け、独断と偏見で檻に送る。



 そうこうしていると空が赤くなりだし、今日の炊き出しは中止。皆の寝る場所の確保に奔走。空き家を探すのに断念。

 人数が多過ぎて面倒……足りない。空き地に五階建てのビルを建てて仮住まいとする。何棟も建てたので、首長の屋敷が隠れてしまったけど仕方がない。


 仕事も落ち着き、やっとのんびり出来るとお風呂に入ろうとしたが、張り付けのエンアクをどうするかと、センジが尋ねて来たので、明日に考えると言ってみた。


 人道的? 人としてどうか? わしは猫じゃ。


 結局、リータとメイバイに叱られて、エンアクを屋敷にご案内。奴隷紋だと解除される可能性があるので、エンアクは、この国に無い契約魔法で縛る。そして傷を治すと、首長と一緒の部屋に放り込んで、食べ物と水も配付。

 拘束は全員解いたが、契約魔法で縛ったエンアクがいるので、逃げ出す事も出来ないだろう。



 こうしてやっと一息つけると、リータとメイバイと一緒にお風呂。ノエミとワンヂェン、シェンメイは、あとから入れ!

 ワンヂェンもわし同様、バススポンジとなっていた。潤んだ目で見られても、しらんがな。だから言ったんじゃ。

 猫耳族も、みんな入りたいと言われても、小さいから無理じゃ。せめて水浴びだけでも? ちょっと考えるから待って!


 考えた結果、10メートルのプールを作り、お湯を満たす。このままでは冷めてしまうので、薪を燃やせる場所を数ヶ所付けて保温できるようにした。


 女性の為に見えないようにしろ? 忘れてた。ごめ~ん。


 半分で区切って囲いを作ろうと思ったけど、プールをそのまま小屋にして、男女で別れた大浴場に変身。掛け湯だけで勘弁してくださ~い。


 これで猫耳族からの苦情も無くなったので、やっと車で就寝。だが、車にノックの音が響く。


 ……今度はなに? 見張りはどうするか? ウンチョウとコウウンに聞いてくれ。その二人が呼んでる? 行けばいいんじゃろ!


 リータとメイバイには先に寝てるように言って、ウンチョウ達の元に案内される。わしが行くと、二人で話し合っていたのか、解決していた……。


 じゃあ、それで進めてね。おやすみ~。


 こうして、ラサの街攻略戦は一日で終わり、リータとメイバイを起こさないように、ベッドに猫型で潜り込んで、朝を迎えるのであった。





「おはようにゃ~」

「「「「おはようございます」」」」


 今日は朝から会議。猫耳族の主要メンバーに加え、リータ達と、捕虜にしたセンジが出席している。


「まずは帝国軍の動きを知りたいにゃ。センジ。帝都では、この街を奪われたと伝わっているかにゃ?」

「確実に伝わっているでしょうね。負けたと知らされなくとも、半日以上連絡が無ければ、それなりの行動を起こすでしょう」

「にゃるほど……。ダメ元で、帝都に勝ちましたと連絡しといてくれにゃ」

「わかりました」


 センジへの指示は上手く行く可能性は低いので、帝国軍の動向を知る確実な方法も指示しておく。


「コウウンは、帝都に向けて、情報収集の部隊を派遣してくれにゃ。逃げ足特化で、無理をしなくていいにゃ」

「はっ! お任せください」


 帝国軍の動向は報告待ちなので、次の心配事を片付ける。


「それでウンチョウ。街の反応はどうにゃ?」

「いまのところ、反発して来る者も少人数で、それ以外は従順です」

「そうにゃんだ。街から出た者は居たにゃ?」

「はい。身なりのいい服装の者が、それなりの数、街から出ました」

「貴族か商人かにゃ? 面倒な奴等が出て行ってくれて助かるにゃ~。あとは街の者で、使えそうにゃ者が居たら助かるんにゃけど……センジは心当たりないかにゃ?」


 わしの質問に、センジは少し考えてから口を開く。


「そうですね……奴隷解放運動をしていた者達に声を掛けてみます」

「まだ残っていたにゃ?」

「猫様はお知りなのですか?」

「メイバイの主が、その長だったにゃ」

「ツウゴ様の……そうでしたか……」

「どうしたにゃ?」

「実は……」


 センジの話では、メイバイの元主ツウゴは奴隷解放組織のナンバー2。センジが長だったとのこと。首長の娘では動きが取れないので、表向きはツウゴを長として、センジは内部の情報漏洩と、食糧等の支給をこっそり行っていたらしい。

 その過程で、猫耳族が白い獣の操作で犠牲になっている事と、奴隷解放運動をしていた長の捕縛が近くに行われる情報を、ツウゴに流したそうだ。


「それにゃあ、ツウゴさんはもう……」

「はい。メイバイさん……。本来ならば私が裁かれなくてはいけなかったのに、ツウゴさんを身代わりにさせてしまい、申し訳ありません」


 センジは立ち上がると、メイバイに深々と頭を下げる。


「……もう終わった事ですニャ。頭を上げてくださいニャ」

「ですが……」

「センジさんのおかげで私達は逃げ出し、少しの間だけでも仲間と自由を楽しめたですニャ」

「………」

「それにシラタマ殿と出会えたニャ。主様の分……仲間の分も、私が幸せになるニャー」

「そうだにゃ。一緒に幸せになろうにゃ~」

「シラタマ殿~!」

「にゃ!? ここでは……ゴロゴロ~」


 メイバイに抱きつかれて、わしはゴロゴロと言ってしまう。だが、一通りの指示は終わっていたので、そのまま会議の締めに移行する。


「ゴロゴロ~。それじゃあ、センジは帝国への報告と、解放組織メンバーを集めてくれにゃ」

「はい!」

「ウンチョウは街の治安維持。奴隷だった猫耳族で、動けそうな者にも仕事を与えてくれにゃ。ゴロゴロ~」

「はっ!」

「コウウンは、情報収集部隊にゃ。ゴロゴロ~。それが終わったら声を掛けてくれにゃ」

「はっ!」



 朝の会議は終了。また昼に集合するので一時解散。わしは屋敷から離れられないので、エンアクと首長の相手を一人でする。


「さてと、お前達は死刑決定にゃけど、助かりたい人は居るかにゃ?」


 わしの質問に、シュパパパパッと手が上がり、口々に声を発する。


 エンアク将軍以外、全員か。首長家族は、いきなりののしり合いを始めたな。拷問して罪を吐かせる手間ははぶけたけど、ひどい……。まさか、些細な失敗で多くの猫耳族を殺していたとは……

 これではセンジ以外、助ける事が出来ない。命で罪を償ってもらわねば、猫耳族に申し訳が立たない……


「……もう、口を閉じろにゃ」

「助けてくれるのですか?」

「それはまた今度にゃ」

「しかし……」

「喋るなと言っているにゃ!」


 わしは怒りをあらわに、声を荒らげて首長を黙らせる。


「エンアク将軍は、いまの話をどう思うにゃ?」

「……普通の事だ」

「……わかったにゃ。首長達には、おって沙汰さたを言い渡すにゃ。エンアク将軍は、わしに協力する気があるにゃら減刑もあるけど、どうするにゃ?」

「フッ。愚問だ。殺せ!」

「……そうにゃんだ。また来るにゃ」


 わしはそれだけ言うと、部屋の扉を固く閉ざす。人を人として扱わない話を聞いて、気分の悪くなったわしは、外に出て空気を深く吸う。


 そうしていると、リータとメイバイが駆け寄って来た。


「シラタマさん。大丈夫ですか?」

「にゃ? 全然、大丈夫にゃ!」

「また無理してるニャー」

「……わかるにゃ?」

「わかりますよ!」

「そうニャー!」

「辛い事があるなら、私達に分けてください」

「リータの言葉は、シラタマ殿が私に言った事ニャー。私も、シラタマ殿の荷物を持つニャー」


 二人の優しい言葉に、わしの肩に乗った重たい物が、ふっと軽くなったような気がした。


「二人とも……。ありがとうにゃ。二人がいるから、もう少し頑張れるにゃ。だから、辛くなったら助けてもらうにゃ」

「絶対ですよ?」

「うんにゃ!」

「約束ニャー?」

「約束にゃ。指切りするにゃ~」

「「指切り(ニャ)?」」

「二人とも、小指を出してくれにゃ」


 リータ達は指切りをした事がないみたいなので、二人にやり方を念話で教える。


 そしてわし達は、指を絡め、調子に合わせて歌うのであった。


「「「ゆ~びき~り、げんにゃん、嘘ついにゃら、針千本の~にゃす。指切っにゃ!」」」


 念話で説明したのに、なんでピッタリ「にゃ」が合うんじゃ!!

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