247 調子に乗ってないにゃ~
「はじめ!」
兵士の合図で、大将同士の一騎討ちが始まり、皆、固唾を呑んで見守る。
わしは【白猫刀】をだらりと構え、エンアク将軍は湾曲した大きな剣を、片手で中段に構え、睨み合う。
変わった形の剣じゃな。これもカンフー映画に出てきそうな剣じゃ。薄いから、これも変則的な動きをしてきそう。前の槍使いのように体術も扱いそうじゃから、これにも注意じゃな。
「来ないのか?」
「にゃ? わしから行って、よかったにゃ?」
「ふっ。余裕ぶっているのか……ならば、先手をいただこう!」
エンアクはそう言うと、ひとっ跳びでわしとの間合いを詰め、剣を振り下ろす。わしはギリギリでかわそうかと考えたが、ひとまず大きく左に避ける。
するとエンアクは、足を大股に開いて、わしに一歩踏み込むと、体を沈めて低い姿勢で剣を振るう。これも後方に跳んでかわすが、エンアクは低い姿勢のまま回転し、足払いからの低空斬りを繰り出す。
よっと。お! まだ回って来る。こんな低い攻撃は初めてだから、やりづらいな。しかも、連続攻撃とは……わ!
わしがエンアクの低空連続回転斬りを、びょんびょんかわしていると、剣が縦に跳ね上がり、わしを斬り付け、続けて回し蹴り、さらに回転して横薙ぎ。少し距離が空くと、また沈み込んで、斬り付け。
下段、中段、上段と、回転は止まらない。
【白猫刀】で、勝負を受けるんじゃなかったな。剣を受けると
わしは【白猫刀】を半回転させると、エンアクの中段横薙ぎを受け止め、回転を止める。
わざと受けたのに、何をニヤリと笑っておるんじゃろう?
エンアクは一瞬笑みを浮かべたが、すぐに顔を引き締め、沈み込んで足払いを放つ。わしは、跳んでかわすのはやめ、その蹴りを踏み付ける。
「グッ……」
エンアクは痛みで顔を歪めるのも束の間、すぐにわしの足に剣を振るい、わしの足を
エンアクは、わしに一切ダメージを与えられない事に驚き、大きく後ろに跳んだ。
「嘘だろ?」
「もうおしまいかにゃ?」
「ま、まだだ!」
口では否定しておるが、足が出ないか。それとも、次の手を考え中か? 一瞬で終わらせてやってもいいんじゃが、心をバッキバキに折って負けを認めさせないと、また自殺
「来ないにゃ?」
「す、少し考えていただけだ!」
「あまりいい案も思い付かないにゃら、ハンデあげようかにゃ?」
「いらん!」
「そうにゃんだ……」
わしは喋りながら【白猫刀】を鞘に収め、次元倉庫から、ある武器を取り出す。
「それは……ヌンチャク?」
「そうにゃ。重たく作ってるから、当たったら痛いにゃ」
「ハンデなどいらんと言っただろ!」
「あ~。これはわしの得意武器にゃ。だから、剣より上手く使えるにゃ。こんにゃ風に……」
わしはデモンストレーションで、ヌンチャクを振り回す。右手、左手と素早くクルクル回し、最後に脇に挟んで決めボーズ。
かっこよく決まったんじゃなかろうか? ブルーさんの映画を見て、よくマネしていたからのう。五十代に……
まぁ上手く出来たのは、ゆっくりやったからじゃけどな。エンアクのスピードぐらいなら、わしの本気の十分の一以下じゃ。
「にゃ~? わしのヌンチャク
「そ、そうだな。それなら、ハンデじゃない」
「じゃあ、今度はわしから行くにゃ~」
「来い!」
わしは軽く走ってエンアクに近付く。エンアクの間合いに入ると、剣が縦に振り下ろされるが、横に避けるとすぐさまヌンチャクを振るう。
「アニャー!」
「グッ……」
わしのヌンチャクは弧を描き、エンアクの肩にドスッと鈍い音を出して当たる。だが、エンアクは歯を食い縛り、ミドルキックを放つが、その足を両手に掴んだヌンチャクでガード。
エンアクのスネに当たり、顔を歪めるのを見て、今度は反対側の腕にヌンチャクを回して当てる。するとエンアクは、
「ホ~~~……ニャニャニャニャニャー!」
わしはトドメとばかりに、ヌンチャクを素早い手捌きで、右、左と回しながら、エンアクの体に滅多打ちに振り回す。
「ラストにゃ~! アニャーーー!!」
最後は綺麗に残していた顔めがけて、華麗な飛び蹴り。エンアクは、わしの蹴りを受けて、派手にぶっ飛んで行くのであった。
う~ん……見た目はかっこよく決まったと思うんじゃが、猫の口のせいで「アチャー」と言えないから、しまらんのう。
エンアク将軍との一騎打ちは決着はついたので、ぶっ飛んで行ったエンアクのそばに歩み寄ると、残っていた敵兵がエンアクを守ろうと行く手を阻む。
やり取りが起こると面倒だったので、喋り出す前に、ヌンチャクをぶつけて意識を刈り取る。
その後、エンアクに話し掛けようとしたら、手加減をミスっていたらしく、顔が陥没していたので、慌てて回復魔法で顔だけ治してあげた。手加減を失敗したのは謎だ。
「シラタマ殿は、すぐに調子に乗るからニャー」
皆がわしに追い付いて来て、メイバイがおかしな事を言っているが気にしない。そんなわけがないからだ。
「調子に乗るのはやめませんか?」
リータまでこう言う始末。もちろん調子に乗ってないわしは、意義申し立てる。
「にゃ!? 調子ににゃんて乗ってないにゃ~」
「本当ニャ?」
「ほ、本当にゃ~!」
ブルーさんのマネをしていたあの頃を思い出し、少し乗ったかも……
「「やっぱり(ニャ)……」」
「にゃ!? そんにゃ事より、将軍を起こさにゃいと!!」
わしは、二人の探偵の追及を逸らす為に話を変える。それでも追及して来そうだったので、水魔法でエンアクを起こして話し掛ける。
「起きたにゃ?」
「グッ……体が……」
「ああ。ヌンチャクで滅多打ちにしたから、両手両足、他にも骨はボロボロになっているんにゃろうな」
「猫!?」
ん? また驚いておる。そのやり取りは面倒臭いんじゃよな~。
「猫だにゃ~。それより、わしの犬になる約束は覚えているかにゃ?」
「私は……そうか。負けたのか……」
「じゃあ、さっそく命令にゃ。軍を降伏させてくれにゃ」
「そうだな……約束は約束だ。だが、果たせそうもない」
「にゃんで~?」
「口が動けば、自害は出来る! 皇帝陛下。バンザ……ムグ」
わしは舌を噛みきろうとしたエンアクの口に、土の玉を入れて自殺を阻止する。
「はぁ……ケンフ。お前の国は、こんにゃ奴ばっかりにゃの?」
「まぁ皇帝陛下に逆らえる者は居ませんからね」
「もう面倒臭いにゃ。こいつを張り付けにして、軍の元に運ぶにゃ。センジ。首長の代わりに、降伏宣言してくれにゃ」
「はい……」
センジは自信無さそうに返事をするが、帝国兵がセンジの言葉に耳を傾けてくれるかは祈るしかない。
ひとまず帝国兵は二百人ほど転がっているので、顔だけ出して昼顔にしておく。センジが何か言いたげにガン見していたが、無視して作業の続行。
それが終わると寝転んで動けないエンアクを、土魔法で作った十字架に張り付け、それを土魔法で操作して起き上がらせると、高々と
車輪も付けたので動かす分には問題無いが、十字架を高く掲げてしまったので、土台が重くなり、わしが魔法で動かすしか出来なくなってしまった。
リータ達潜入組とセンジを土台に乗せると出発。音声拡張魔道具を使い、センジにエンアク将軍が討ち取られた事と、降伏を呼び掛けてもらう。
その音に、帝国兵はちらほらと持ち場を離れて集まって来たが、エンアクの救出を企てて来る者には、キャット神拳で撃退。キャット百裂拳で帝国兵を吹き飛ばしてやった。
リータとメイバイに、また調子に乗ってると注意を受けたが、真面目にやってるんだから、つつかないで~。
わしのキャット神拳で、帝国兵がおよそ五百を切った頃に、外壁に到着。外からの攻撃に備えていた兵もわし達の登場で、内に集まざるを得なかった。
帝国兵の視線を集めたところで、センジから音声拡張魔道具を受け取ったわしは、語り掛ける。
『さて、帝国軍のみにゃさん。エンアク将軍は降伏を受け入れたんにゃけど、みんにゃはどうするにゃ?』
帝国兵は、猫、猫と騒いでいたが、十字架に張り付けられたエンアクを見ると、今度は違うざわめきが起こる。そんな中、一人の男がわし達に歩み寄る。
「エンアク将軍は、本当に降伏したのですか?」
「本当にゃ。証人は、首長の娘、センジにゃ」
「あなたはたしか、副将軍のシトクね。私の顔に、見覚えがあるでしょう?」
「……はい」
センジがわしの代わりに喋ると、シトクは素直に頷いた。
「父……首長の命も、エンアク将軍の命も、現在、猫さんに握られているのです。私達はたった一人?の猫さんに敗けました。ただちに降伏し、武器を捨ててください」
「敗けとおっしゃいましても、まだ街も落とされておらず、敵は五百の兵で囲んでいます。まだ戦えます!」
「わからないのですか? その半数の兵を、猫さん一人?に倒されたのですよ」
「ですが……」
う~ん。説得にはもう一声必要か……。センジは、わしを一人と言うのに疑問を抱くなら、一匹って言えばいいのに……
ひとまず、わしの強さを確認させてやるか。
わしは、ノエミに猫耳族への前進の合図を出すように指示した後、大魔法を使う。
「【朱雀】にゃ~!」
突如、出現する10メートルの火の鳥。頭上を旋回させると熱気を振り撒く。
「あ、ああああ……」
シトクは【朱雀】を見ると、声にならない声をあげる。
「行けにゃ~!」
さらにわしは【朱雀】を操作して、外壁にぶつける。【朱雀】は壁を、高熱で一瞬に溶かし、大きな穴を開けて浮上。再び頭上を旋回する。
その光景に、呆気に取られる者、腰を抜かす者、恐怖に震える者と、それぞれ千差万別。わしはその姿を見て、【朱雀】を吸収魔法で消し去る。
あらら。わしの力を知る、リータとメイバイ、ケンフ以外は固まって、あっちの世界に行ってしまったな。ノエミは……目が
とりあえず、皆に帰って来てもらわんと話が進まないのう。
わしは音声拡張魔道具を握り、声を発する。
『さてと……エンアク将軍、首長、並びに街に居るみにゃさんの命は、わしが握ったにゃ。この世から骨まで消して欲しい人は、わしに掛かって来てくれにゃ~』
返事が無い。皆、わしをゆっくり見ただけだ。
「リータ、メイバイ。またわしは、調子に乗ってしまったかにゃ?」
「「う~~~ん……今度はやり過ぎ(ニャ)?」」
相変わらず、二人の裁定は厳しいのであった。
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