246 戦闘にゃ~


 センジは、家族全員を殺せば兵は止まるとわしに言っておるが、本当に止まるのじゃろうか? 止まらなければ、頭を無くした暴徒の集団となってしまう。

 そうなっては、皆殺しにしないと終わらない事態におちいる。センジの案は最終手段にするとして、代案の模索じゃな。


「センジは家族を殺して欲しいのかにゃ?」

「いえ、そう言う訳では……」

「最悪、センジの案に乗るけど、他に方法は無いかにゃ?」

「ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」

「にゃ? いいにゃ」

「猫さんは、猫ですか?」


 う~ん……いまする質問? あ、さっき何か言いたげだったのは、このこと? またわしの見た目が邪魔をしやがる。


「猫だにゃ~。答えたけど、大事な質問だったにゃ?」

「あ! 違います! 間違えました。すみません!!」


 やっぱり違うんじゃな。ケンフ以外、肩が震えておるけど、笑っておるじゃろ!


「猫さんは、私の家族を殺したいんじゃないのですか?」

「まぁにゃ。でも、わしの一存ではやらないにゃ。猫耳族の意見を聞いてから決めるにゃ。首長の死罪は免れないだろうけどにゃ」

「そうですか……。猫耳族の皆さんが受けていた苦痛を考えると、仕方ない事ですよね……」


 ん? この言い方は……


「『猫耳族の皆さん』にゃ? ひょっとして、センジは猫耳族に、寛大に接していたにゃ?」

「いえ……。私には出来る事は少なかったので、同罪です……」

「メイバイ! 猫耳族にセンジの評価を聞いて来てくれにゃ」

「わかったニャー!」


 わしはメイバイを猫耳族の元へ走らせると、センジに向き直る。


「メイバイの聞き取りの間に、この街の兵力、首長の代わりになるような人物を教えてくれにゃ」

「……はい」


 センジの説明では、ラサの街の兵力はおよそ千人。帝都に招兵されて、普段の五分の一まで減っているらしい。

 それをまとめるのは首長だが、実質、兵を纏めているのは、エンアク将軍。エンアクは帝国に三人いる、将軍の一人らしい。

 皇帝に心酔するエンアク将軍は、規律に従順で、皇帝の為ならどんな事でもする男らしく、首長はこのエンアク将軍がいるから、降伏を渋っていたみたいだ。



 センジから情報を引き出していると、メイバイが戻って来て、報告を伝える。

 どうやらセンジは、猫耳族に好かれているみたいだ。何人もの猫耳族から、センジを心配する声を聞いたとのこと。

 食べ物を与えてくれて感謝されていたとメイバイが言うと、センジは照れて、食べ切れないから残飯処理をさせていたと突き放す。しつこく本当かと聞いてみたら、顔を真っ赤にして下を向いた。

 わしも面白半分で、しつこく「にゃあにゃあ?」と聞いたから、リータにドスドスと下を向かされたけど……


「それじゃあ、エンアク将軍を落とせば降伏してもらえるのかにゃ?」

「そうですね。兵の大半は、エンアク将軍のカリスマに惹かれているのと同時に、恐れているので、殺してしまえば、兵も逃げるか降伏するかのどちらかでしょう」


 殺す……か。またセンジはぶっそうな事を言っておるな。わしも脅しで使う事はあるが、人間相手には、本当にやった事がない。

 この国ではこれが標準なのか? それとも時代背景のせいか? 説得できなければ、ヤルしかないのか……


 戦える兵は、猫耳族と、ここの兵との数は同数。猫耳族は別動隊で連れて来た兵を合わせて二千人で陣形を組ませているが、いざとなったら、街の非戦闘員も加わるだろうから、猫耳族の五倍はあるじゃろうな。

 いまはわし達がここに立てこもっているから、打って出るのは難しいし、猫耳族もわしが合図を出すまで動かないように指示しているから、にらみ合いの最中。

 本格的にぶつかると死者は多数となってしまうから、さっさとエンアク将軍を討つとするか。


「よし! 作戦を言い渡すにゃ」


 わしは皆に作戦を伝えると、センジを連れて屋敷を出る。陣形はわしが先頭。その後ろにリータ、右翼にメイバイ、左翼にケンフを置いて、その中にノエミとセンジ。陣形が整うと【大土壁】に穴を開けて、全員外に出ると閉じる。



 外に出ると、多くの帝国兵に囲まれるが、わし達は壁を背にして武器を構える。


 すると、帝国兵は口々に声をあげる。


「猫!!」

「ぬいぐるみ?」

「猫が立って歩いているぞ?」

「そう言っただろ! この壁も、あの猫が作ったんだ!」

「本当か?」

「あんな猫に出来るわけがない」

「尻尾を見ろ! ホワイトトリプルだぞ!」

「しかしあのとぼけた顔を見るとな~」

「猫じゃなくて、タヌキじゃね?」


 あら? 騒動が起こっておるな。わし達敵兵が、街のど真ん中に現れたら仕方がないか……


「シラタマさんの姿に驚いていますね」

「そんにゃ事ないにゃ~!」

「絶対、シラタマ殿の姿ニャー!」

「違うって言ってるにゃ~! ケンフは違うと思うにゃ。にゃ?」

「……ワ、ワフン!」


 リータとメイバイが騒動の理由をわしのせいにするので、ケンフに聞いてみたら、わしの意見を肯定してくれた……と、思う。「ワフン」じゃわからん。いや、間違いなく肯定じゃ。

 しかし、そんなケンフの正しい意見を、ノエミが否定する。


「従順なケンフに聞くのはズルいわよ。認めなさい」

「そんにゃ~~~」


 誰もわしの味方をしてくれない……くそっ! こうなったら、タヌキと言った奴をボコボコにしてやる! どいつじゃったかな?



 わしが獲物を狩る鋭い眼で犯人を探していると、わし達の行動を不思議に思ったのか、センジが尋ねて来る。


「あの~」

「なんにゃ?」

「ここは猫さんからしたら敵地の真ん中になのに、そんなにのほほんとしていて、いいのでしょうか?」


 センジがよけいな事を言うので、リータとメイバイは目で語り合って数秒後、わしを睨んで来た。


「そうですよ! こんなに敵に囲まれているんですから、真面目にしてください!」

「いっつもいっつも、シラタマ殿はニャー」

「にゃ……」


 理不尽に怒られた! わしはいたって真面目なのに……。そもそもあいつらが、猫、猫と騒ぐのが悪いんじゃ! わしの見た目が猫なのが悪いわけじゃない!


 ジーーー×4


「そんにゃ目でみにゃいで~!」

「??」


 皆に生温い目で見られ、わしは声をあげる。センジは、わしが心を読まれていた事に気付いてないので、不思議に思っているようだ。





「静まれ!!」


 帝国兵は騒ぎ、わし達も身内で騒いでいると、一人の男が怒声を発しながら兵を割って、わし達の前に現れる。


「貴様等は何をしている! 敵を囲んでおいて、剣も振るわない兵士がどこにいるんだ!」


 お! 偉そうなおっさんが現れた。こいつが、エンアク将軍かな? これでようやく戦闘の開始じゃ。


「何が猫が立って歩いてるだ!!」


 兵士がおっさんに怒鳴られて静まり返る中、わしは申し訳なさそうに質問する。


「あの~。お前がエンアク将軍かにゃ?」

「いかにも。私が……猫が喋った!」


 お前もかい!


「それはもういいにゃ! わしは敵にゃ! 兵に注意しておいて、自分も同じ事してていいにゃ?」

「あ、ああ。いかにも、私がエンアクだ」

「首長を人質にとって、仲間がいつでも殺せるんにゃけど、降伏してくれにゃいかにゃ?」

「ハッ。あんなブタの命ぐらいで、皇帝陛下のこの街を、明け渡すわけがない!」


 首長をブタ呼ばわりか……。首長より、将軍のほうが力関係が上なのか? まぁ仲間なんて全員連れて出たから、殺す術は無いんじゃけどな。


「首長の家族も、セットで皆殺しにしてもダメにゃ?」

「愚問だ!」

「センジ~。ダメだって言ってるにゃ~」

「そ、そんな……」


 センジは目論見が外れて、ヘナヘナと座り込んでしまった。


「ノエミ。センジを頼むにゃ」

「わかったわ。センジ。気持ちはわかるけど、いまはしっかり立って」

「は、はい……」


 ノエミがセンジに肩を貸して立たせている間も、わしとエンアクの問答は続く。


「どうしたら降伏してくれるにゃ?」

「逆に聞こう。たった数人の賊相手に、何故、私が降伏しなくてはいけないんだ?」

「外には二千人の猫耳族が、攻めるのを待っているからにゃ」

「たった二千で何が出来る? 私一人で蹴散らせる人数だ!」


 マジですか? キョリス並みに強くないと出来ないと思うんじゃが……わしの見立てでは、オンニと同等ぐらい。ハッタリか? それともバカか?


「じゃあ、わしと一騎討ちしようにゃ。無駄に兵を減らす必要は無いにゃろ?」

「たしかにな……面白い提案だが、断る! この兵力差なら、一兵も失わず、この街の強固な守りで蹴散らしてやるわ!」

「「「「おおおお!!」」」」


 思ったよりやり手じゃな。交渉に乗らない上に、兵士を鼓舞しよった。名将って奴か……致し方ない。力でねじ伏せよう。


「交渉決裂にゃ。いざ参るにゃ~!」

「おう! 弓隊。魔法隊。一斉射撃だ!!」

「「「「「はっ!」」」」」

「キャーーー!」


 わしの言葉にエンアク将軍が応えると、弓矢と風魔法が降り注ぎ、センジの悲鳴が響く。


「わしが守るから、誰も手を出すにゃ! 【大土玉】×5にゃ~!」


 わしは降り注ぐ攻撃を、五つの大きな土の玉でガード。そのまま空中を浮遊させ、帝国兵の頭上で止める。


「【散】にゃ!」


 次にその【大土玉】を、ゴルフボール大のつぶてに変えて、さっきのお返しとばかりに、帝国兵に降り注ぐ。

 帝国兵は石礫の滅多打ちにあい、悲鳴やうめき声をあげて倒れていった。



「シラタマ殿~?」

「メイバイ。どうしたにゃ?」

「私達の出番はあるニャ?」

「う~んと……」


 無いな。ここに居た帝国兵は、全て倒れておる。立っているのは盾を持った五、六人。エンアクは見当たらないけど、立っている奴らがエンアクを盾で守ったんじゃろう。


「えっと~……そばに居てくれるだけで心強いにゃ!」

「出番は無いんニャ……」

「な、無くていいにゃ! メイバイとリータの手を、血で汚したく無いにゃ!!」

「それじゃあ、シラタマさんの手ばかり汚れてしまいます……」


 メイバイは、わし一人に戦わせる事が申し訳ないのか暗い顔をするので、焦って言い訳する。だか、その言い訳も、メイバイだけでなく、リータにも到底納得できるものではなかったようだ。


「わしは……もう汚れているからいいにゃ」

「シラタマ殿……」

「二人とも、そんにゃ顔するにゃ。わしは猫耳族の王様になってしまったにゃ。だから、罪は全て、わしが背負うにゃ」

「「でも……」」


 二人はさらに暗い顔をするが、いまは戦闘中なので、話をしている場合ではない。なので二人との話を、わしは強引に終わらせる。


「この話はあとにするにゃ。みんにゃは、センジとノエミを守る陣形を崩すにゃよ?」

「「……はい(ニャ)」」

「ワン!」

「行って来るにゃ~」


 ケンフの返事とは違い、リータとメイバイは何か言いたそうだったが、気付かない振りをしてわしは歩き出すのであった。



「フッ。なかなか凄い魔法を使うんだな。腐ってもホワイトトリプルか……」


 わしが盾を持った集団に近付くと、エンアク将軍が顔を出して語り掛けた。


「それじゃあ、決着といこうにゃ」

「ああ。剣で一騎討ちを受けてやる!」

「にゃ? もうそれはいいから、死んでくれにゃ」

「望みの一騎討ちを受けてやると言っているんだ! その剣は飾りか? 戦士なら剣を抜け!!」


 なんじゃこいつ? 妙に剣を推して来るな。わしの魔法にビビったか? それとも、剣の勝負なら、わしに勝てると思っておるのか? 受けてやってもいいが……


「面倒にゃ。一気に魔法で蹴散らしてやるにゃ~」

「ま、待て! 私を殺したら、兵は死ぬまで戦い続けるぞ!」

「わし達が全員、地獄に落としてやるからいいにゃ」

「兵の損害を減らしたかったんじゃなかったのか!!」


 それはそうじゃが、何を焦っておるんじゃ? 一騎討ちでわしを討ち取れば、戦況を打開できるとでも思っておるのか?


「はぁ……乗ってやるにゃ。その代わり、お互いの戦利品をきっちり決めようにゃ」

「おう。私はお前の命だ!」

「わしが勝ったら、エンアク将軍には絶対服従の犬になってもらうにゃ。いいにゃ?」

「わかった。我が名に誓おう」

「わしも……誓うまでもにゃいか。エンアク将軍が勝ったら、願いは叶うんだったにゃ」


 わしの返答を聞いて、エンアクはニヤリと笑う。


「ははは。その通りだ」

「それじゃあ、初めの合図を誰かにやらしてくれにゃ」

「お前、やれ!」

「はっ!」


 エンアク将軍は自軍の兵士に命令し、兵士はわしとエンアクの間に立つと、剣を構えるように促す。そうしてお互いの準備が整うと、声をあげる。


「はじめ!!」

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