159 お昼を食べるにゃ~
白象アイラーバ滑り台は好評に終わり、疲れた皆は、アイラーバの上で休憩する。皆がわいわいと感想を言い合っている中、アイラーバに行ける所まで沖に出てもらい、わしはお昼の魚をとろうとする。
アイラーバの三本ある鼻の一本に乗せてもらい、水面ギリギリまで降りると海に手を入れ、探知魔法を飛ばす。
この辺で水深10メートルってところかのう? 小物ばっかりじゃ。大物を釣り上げたいんじゃが……おっ! 一直線に向かって来ている奴がいる。5メートルってところか? これでいいじゃろう。
「アイラーバ。一匹、デカイの捕まえるぞ。わしが打ち上げるから鼻で捕まえてくれ」
「わかったわ」
「行くぞ~。【水柱】!」
アイラーバに念話で指示を出したわしは、探知魔法を小まめに飛ばし、大きな魚のスピードを把握する。そうしてアイラーバの射程近くになると、大きな魚に【水柱】ぶつける。
大きな魚は下から来る勢いのある水流を喰らい、水と共に空中に打ち上げられ、なす術もなくアイラーバの鼻に捕らえられた。
黒か。ヤバイ! 魔法が来る。
大きな魚は反撃をしようと暴れ、高出力の水鉄砲のような魔法を乱発する。わしはその魔法を【風玉】で相殺しながら、鼻から鼻に飛び移り、近付いてから【
大きな魚は首元を狙った【鎌鼬】によって、首を半ばまで斬られ、絶命した。
「アイラーバ。お疲れさん。魔法に当たらなかったか?」
「シラタマが守ってくれたから大丈夫よ。それに、あの程度だったら痛くなかったわ」
「要らぬ世話じゃったか」
「いいえ。ありがとう」
「ちょっとみんなを見て来る。もう少しここで待機しておいてくれ」
「わかったわ」
アイラーバに労いの言葉を掛けると、黒い魚は次元倉庫に入れて鼻をよじ登り、皆の元へ戻る。わしがアイラーバの頭から背中まで滑り降りたら、皆は何やらコソコソと話をしていた。
「女王。にゃんの話をしてるにゃ?」
「黒い生き物って強いんでしょ? それに初めて見る生き物なのに、あんなに簡単に狩るから不思議に思っているのよ」
「こんにゃの、イサベレだって出来るにゃ。にゃあ?」
女王の質問をイサベレに振ると、首を横に振られてしまった。
「地上なら出来るけど、こんなに足場が悪いと難しい」
「そうにゃんだ。まぁ今回はアイラーバもいたから楽が出来たにゃ。あとでお昼に出すにゃ」
「さっきの食べるの?」
黒い魚を食べると言うと、女王が驚いた顔になった。なので、わしは首を傾げながら質問する。
「そのために狩ったんにゃ。もしかして、得体の知れない生き物は嫌かにゃ~?」
「新種よ? 食べないで売ったほうがいいんじゃない?」
「う~ん。お金には困って無いから食べるにゃ。どんにゃ味がするか楽しみにゃ~」
「シラタマがいいのなら、いいんだけど……。いつも食べ物の事ばかり考えているわね」
「そんにゃこと……ないにゃ」
「ほら。自信なさそうじゃない」
思い起こせば、そうかもしれない。猫になって虫や生肉を食っておったんじゃ。それを人間の暮らしに変われば、城の料理にランクアップし、平民の暮らしに変われば、ランクは下がった。
元日本人としては、城の料理でもやや劣る。美味しい料理を探すのは必然と言うもんじゃ。
女王の小言……ではなく、
わしが何をするか気になったメンバーは……いや、全員ついて来て、わしのする事を、変、変と言いながらずっと見ている。
「変って言うにゃ~!」
「どう見ても変よ」
代表してさっちゃんが答え、皆は
「そんにゃに言うにゃら、みんにゃには食べさせないにゃ!」
「じょ、冗談よ。ねえ。みんな?」
「「「「「そうそう」」」」」
嘘くせ~。まぁ大量にとって、次元倉庫でお持ち帰りする予定じゃからいいんじゃけどな。それに、一人で食べるより、みんなで食べたほうが美味しい。
気を取り直して……【水柱】!
わしは探知魔法に引っ掛かった魚の群れに向けて【水柱】を立てる。そして、水しぶきと共に打ち上がった魚は、水しぶきと共に集め、【水玉】に閉じ込める。
その【水玉】に入った魚は水魔法で操作し、土魔法で作った大きなバケツに送り込む。
これを釣りと言ったわしは、皆から変だと
アイラーバの持つバケツに魚がいっぱいになると、全員で背中に移動し、砂浜に向けて歩いてもらう。
海の家に戻ったわし達は、焼き魚パーティーの準備を始める。あらかじめ女王には、料理の出来る侍女をお願いしていたので、魚の下処理の仕方を見せて次々と焼いていってもらう。
わしは寄生虫を取り除く魔法を使うと、侍女さんに小魚の料理は放り投げ……任せて、大物を解体する事にする。
「シラタマさん。私も手伝います」
「私もやるニャー!」
「私も手伝わせてください」
わしが黒い魚を
「みんにゃ。ありがとうにゃ。ちょっと相談にゃけど、角は魔道具に使えるとして、
「そうですね。硬い?ですね」
「そうだニャ。これだけ硬ければ、何かに使えそうニャー」
「にゃるほど。ちょっと鱗を一枚剥いでみるにゃ。ん……よいしょ。ドロテ持ってみるにゃ」
「硬くて軽いですね。これなら数を揃えれば、
「にゃるほど」
となると、捌き方はどうしたものか。通常の捌き方だと、鱗が飛び散って集めるのが大変じゃ。ここは三枚におろして、身をくりぬくか。
わしは方針を皆に伝えると捌き始める。黒い魚の下に土魔法でまな板を作り、【鎌鼬】で三枚におろすと、リータと一緒にひっくり返す。真ん中の骨と頭は次元倉庫に入れて、手分けして魚の身をブロック状に切り分ける。
それを見ていた、ソフィとイサベレも加わり、短時間で切り分ける事が出来た。切り終わると、残った魚の鱗も次元倉庫に仕舞い込む。
手伝ってくれたメンバーにはお礼を言って休憩してもらい、わしは余りそうな魚は、氷魔法で締めていく。そうこうしていると、魚の焼ける匂いが辺りに立ち込め、焼き魚パーティーが始まる。
「「「「「いただきにゃす」」」」」
この挨拶は、馬鹿にされているのかな? 女王まで言っておる。
「美味しい!」
「初めての味だけど、美味しいわね」
「「美味しいですわ」」
王族も認める味か。焼いて塩を振っただけじゃが、鮮度が違うからのう。
「これが海魚ですか。美味しいです」
「ほんとに~」
「香ばしくて美味しいですね」
ソフィ、アイノ、ドロテにも好評じゃな。アイノは両手で串を持って食べておるな。
「やっぱり美味しいですね」
「ニャーーー!」
「バクバクバクバク」
リータはいいとして、メイバイとイサベレ……喋れ! イサベレが大食いなのを忘れていた。メイバイと競いあっておる。侍女さん、頑張れ!
「「ニャーーー!」」
「パオーーーン!」
おう。兄弟もアイラーバもうまいか。念話で話してくれてもいいんじゃぞ? アイラーバには、黒魚のブロックの炙りじゃけど、足りるかな? さて、わしは……
皆の感嘆の声を聞きながら、わしは自分用に用意していた黒い魚の切り身を指でつまむと、さっちゃんが顔を歪めて質問して来た。
「シラタマちゃん……生で食べるの? お腹壊すよ?」
「昔はよく、にゃんでも生で食べていたから大丈夫にゃ」
「ぜったい焼いたほうが美味しいよ~」
「ちょっと試すだけにゃ」
さて、さっちゃんに止められたけど、食べてみるか。肉じゃが風に使っているエミリ特製タレに漬けて一口……うん。うまい!
エミリのタレも醤油っぽくて、刺身を食べてる感がある。懐かしい味。これは、アイラーバに食べられる前に、多目に確保しておかねば!
「シラタマちゃん。どうしたの? 泣いてるよ?」
「グズッ。にゃんでもないにゃ。美味しかっただけにゃ~」
「変なの……わたしにもひと切れちょうだい。あ~ん」
「ほい」
大口開けるさっちゃんだが、王女様には指で入れるのは気が引けたので、フォークに突き刺して切り身を入れてあげた。王女様は、こんなはしたないマネはしないと思うけど……
「ん! ……美味しいかも?」
「それは良かったにゃ」
「「「私もちょうだい!」」」
「にゃ!? 女王達までにゃ?」
「「「私もお願いします」」」
「「「ニャーーー!」」」
「みんにゃも? はぁ。タレはあんまりにゃいから、少しにゃ」
わしはエミリ特性タレを小皿に移し、皆に黒鮪の切り身を分ける。このままだと黒鮪が売り切れになりそうなので、アイラーバには次元倉庫に入っている黒い獣の肉の炙りに切り替えてもらった。
ちなみ「ニャー-ー!」と言っていたのは、兄弟とメイバイだ。メイバイは、わしより猫じゃないはずなんじゃが……
好評だった焼き魚パーティーもお腹が膨れると、皆、海に向かって走り出し、終了となった。イサベレとメイバイは、食べ過ぎて倒れているが……
わしも海に誘われたが、片付けがあるから少し遅れると言って、侍女達にまざる。刺身を食べれなかった侍女にも振る舞い、感謝で撫で回された。
それから残った魚を次元倉庫に仕舞い込むと、アイラーバは群れに戻ると去って行った。
アイラーバを見送ったわしは波打ち際近くに座り、皆の楽しそうな姿を眺める。
「泳ぎに行かないのですか?」
わしが座ってすぐに、リータが駆け寄って来た。
「リータもいいにゃ?」
「少し休憩です。その、さっき泣いてたのは……」
「元の世界の味だったにゃ」
「やっぱり。シラタマさんはいいな~」
「にゃにが?」
「だって、この世界でも、懐かしい物が見付かるじゃないですか?」
「リータには無いにゃ?」
「何もありません。空も見飽きてしまっていますから」
「にゃはは。そうだったにゃ」
リータが元岩だったと思い出したわしは笑い、リータは頬を膨らませる。
「笑わないでくださいよ~」
「ごめんにゃ~。それにゃら、この世界でいっぱい思い出を作ろうにゃ。それで、歳を取った時、一緒に思い出そうにゃ」
「それ、いいですね! 何年も経って、同じ話を語り合う。すごくいいです!」
「でも、楽しい思い出だけじゃないにゃ。ケンカした思い出、悲しかった思い出、そういうのも分かち合うにゃ」
「長く一緒にいれば、そういう思い出も出来ちゃうのですね……」
リータは顔を曇らせるが、わしは笑顔のままリータの膝に手を置く。
「大丈夫にゃ。悲しい思い出も、時間が経てば笑って話せる事もあるにゃ」
「そんなものですか?」
「人間にゃんて、そんなもんにゃ」
「人間はそうなのですか……」
「わかってるにゃ。わしは猫だにゃ~」
「プッ。アハハハ」
「ほら。笑ったにゃ。楽しい思い出がひとつ増えたにゃ」
「本当です!」
「じゃあ、もっと増やすために泳ぐにゃ~~~!」
「あ! 待ってくださ~い」
わしは走り、リータも続く。リータは突然走ったから、砂に足を取られこけてしまった。砂まみれになった顔も笑顔だったので、わしも笑う。
しかしわしが笑ったせいか、リータは怒ってわしを追いかけ出す。本気で怒っているわけではなく、笑いながら追いかけるリータ。わしも笑いながらそれに合わせる。
だが、笑いながら後ろ向きで走っていたら、双子王女に挟まれてしまった。何処とは言わないが……
そのせいで、本気で怒られてしまった。
リータ以外にも……
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