158 海で遊ぶにゃ~


 黒燕くろつばめを倒したわしは、機内に戻ると魔法について怒鳴られた。仕方がないので、女王の質疑に答える事にする。


「で、なんにゃ?」

「あの大魔法は何なの?」

「大魔法にゃ?」

「風の玉を何百と出したでしょ」

「あんにゃの大魔法じゃないにゃ。数が多いだけの、ただの初級魔法にゃ」

「初級魔法……」


 大魔法を訂正しただけで、女王の質問は止まった。どうやら女王達の目には、大魔法に写っていたようで、信じられないようだ。


「他に質問は無いにゃ?」

「大きな鳥はどこに行ったの?」

「にゃにをいまさら……わしの収納魔法には、飛行機や車も二台入ってるにゃ。鳥ぐらい入るにゃ」

「あ、そう言えばそうね。でも、移動しながらそんな事が……」


 わしの答えに、また女王の質問は止まり、考え込んでしまう。


「これでいいかにゃ?」

「ええ……」

「ところでみんにゃ、にゃんで静だったにゃ?」

「それは、あんなに大きな鳥がボコボコにされたでしょ? 怖いに決まってるじゃない!」


 つまりわしが怖いのか……やり過ぎた? リータとメイバイ以外、わしが獣と戦うところを見たことがなかったな。さっちゃんも心なしか、撫でる手が丁寧な気がする。


「えっと……わしは悪い猫じゃないにゃ~」

「わかっているわよ!」

「だから、怒らないでくれにゃ~」

「あ……うん」

「その微妙な顔もやめてくれにゃ~」


 こうして怖がる皆に、またご機嫌取り活動でスリスリするハメになってしまった。その甲斐あって、すぐに皆の恐怖を取り除けた。リータとメイバイの視線に、わしが恐怖する事となったが……

 リータとメイバイも怖かったが、ご機嫌取り活動に集中し過ぎて、飛行機の墜落危機となって怒られてしまった。ご機嫌を取り過ぎて、女王の説教が長くなったのは失敗だったかもしれない。


 そうこうしていると海が見え始め、女王の説教も止まった。


「あれが、海……」

「きれ~い……」


 飛行機の窓から見える海に、女王、さっちゃんは言葉が出なくなり、その他の乗客も感動して口を開く者がいない。


 みんな見惚れておるな。今日も晴天でよかった。おかげで女王の説教から解放されたわい。


「すごいすごい! どこまでも水があるよ~」

「本当ね。あの先には何があるのかしら」


 たしかに、気になるところじゃな。じゃが、この世界にうといわしは、何があるかわからない。飛行機で飛んで行って、その先に島が無かったらアウトじゃ。まぁその時は転移魔法で戻るがな。


「シラタマちゃん!」

「ダメにゃ!」


 さっちゃんの質問は何が来るか想像できるので、わしはすかさず却下した。するとさっちゃんは、口を尖らせて文句を言う。


「まだ何も言ってないよ~」

「聞かなくてもわかるにゃ。行けるところまで行けって言うにゃろ?」

「なんでわかったの!? まさかシラタマちゃんみたいに……」


 わしみたいに? すんごく気になる……。さっちゃんを上手く誘導すれば、心を読まれるスキルの謎がわかるかも!


「そうにゃ。わしみたいになってるにゃ」


 さあ。ポロッと話すがよい!


「そんなわけが……ないでしょ!」


 クソッ! 失敗じゃ。じゃが、なんで自分のお尻を見ていたんじゃろう?


「ねえねえ。行ってよ~」

「ダメにゃ。海は広くて大きいにゃ。降りる所が見付からにゃければ、時間の無駄にゃ」

「え……なんでそんな事を知ってるの?」

「それは……にゃ! そんにゃ事をしていたら海で遊べないにゃ。さっちゃんはそれでもいいにゃ?」

「嫌! ぜったい遊ぶ! 海ってしょっぱいんでしょ?」

「そうにゃ。塩辛かったにゃ~」

「楽しみ~」


 ふぅ……なんとか話を逸らせた。あとは無心になって、心を読ませないようにっと。そろそろ高度を落として行くか。


「シラタマ。いい?」


 わしが飛行機の操縦に集中していると、青い顔をしたイサベレが後ろから声を掛けて来た。


「どうしたにゃ? ……汗かいてるけど、暑いにゃ?」

「何か危険な獣がいる。降りないほうがいい」


 イサベレの態度に、女王も不思議に思ったのか振り向く。


「イサベレ。どういうこと?」

「私より、かなり強い獣がいます。こんなに危険な気持ちは初めてです」

「シラタマ。イサベレが言うからには本当よ。引き返したほうがいいかもしれないわ」

「う~ん。ちょっと見て来るにゃ」


 わしはそう言うと、土魔法を使って飛行機の外に出る。そして、探知魔法を飛ばし、危険の正体を探る。


 たしかにデカイ反応がある。だが、こいつは……。探すのが面倒で、さっちゃんには会わせないと言ったけど、向こうから来たなら会わせてあげようかな?


 デカイ反応の正体がわかったわしは、機内に戻る。


「大丈夫にゃ。このまえ来た時に、友達になった奴にゃ」

「シラタマちゃん、友達って?」

「昨日話していたアイラーバって言う白い象にゃ。大きいけどいい奴にゃ」


 さっちゃんと話をしていると、女王も興味を持って質問して来る。


「白い象? たしか、この国の宗教で聞いた事があるわね。伝説の象と友達……キョリスといい、そんな獣と友達になるなんて、シラタマはどうなっているのよ」

「成り行きにゃ。そろそろ着陸するにゃ。イサベレも安全だから、席に着くにゃ~」

「ん。シラタマが言うなら信じる」



 イサベレの着席を確認し、前回降りた着陸ポイントに機首を向け、高度を落として行くと皆の興奮する声が聞こえて来た。そうして、着陸して扉を開け放つと、我先にと皆は飛び出して行った。


「うわ~! 海だ~~~!」

「さっちゃん。待つにゃ! みんにゃも止まるにゃ~」


 あ~あ。砂浜に走って行ってしまった。女王まであんなにはしゃいで……


 海に向かって走る皆を眺めていると、リータとメイバイがわしの隣に立つ。


「みなさん、私達みたいに走って行きましたね」

「そうだにゃ」

「絶対こけるニャー!」

「あ、こけました」

「にゃははは」

「「あはははは」」


 砂に足を取られてこけてしまった皆を見て、わし達は笑い合う。


「二人は行かなくていいにゃ?」

「私達はこのまえ遊びましたので……」

「のでにゃ?」

「シラタマ殿成分の補給ニャー!」

「にゃ! こんにゃところで……ゴロゴロ~」


 わしはリータとメイバイの間に挟まれ、撫で回されてしまった。


「寂しかったんですよ」

「にゃ! そんにゃところを……ゴロゴロ~。ちょ、ちょっと待つにゃ。ゴロゴロ~。まだやる事があるにゃ。抱いてていいから、移動してにゃ~。ゴロゴロ~」

「「はい(ニャ)」」


 わしは交代で抱く二人に移動してもらい、休憩所代わりの車を飛行機の近くに二台とも取り出す。そして直接日が当たらないように、屋根を付けて日陰を作る。

 それでも足りないかと、全員入れるコテージも作ってみた。あとはテーブルと椅子を作り、バーベキューセットと飲み物の入った冷蔵庫を次元倉庫から配置すれば、休憩所の完成だ。


 まぁこんなもんじゃろう。コテージのつもりが、海の家みたいになってしまったな。じゃが、これで休むのには困らんじゃろう。


「ゴロゴロ~。完成したにゃ。二人とも、水着はフレヤの店で買って来たにゃ?」

「はい」

「シラタマ殿を悩殺するニャー」


 いや、毎日お風呂で裸をチラッと見ているから、いまさら水着で悩殺は……おっと。無心、無心。


「楽しみにしてるにゃ~」

「あ! シラタマさんの水着も用意して来ましたよ」

「二人でお金を出し合って買ったニャ。プレゼントニャー」

「う、うんにゃ。ありがとにゃ。みんにゃの海用の荷物も出したから、着替えるように言って来てくれるかにゃ? わしは近くにいる、アイラーバの様子を見て来るにゃ」

「はい」

「わかったニャー!」



 わしは二人の撫で回しから解放され、探知魔法を飛ばしながら、白象アイラーバの元へ走る。


 わしも水着を着ないといけないのか。二人のプレゼントじゃから喜びたいところじゃが、水着か……。この丸い体に似合うじゃろうか?

 よく考えたら、この世界に来て、初パンツじゃな。モフモフの毛で隠れて見えないだろうし、尻尾が痛そうだから敬遠していたんじゃけど……そう言えば、メイバイのパンツはどうなっているんじゃろう?

 尻尾の穴が開いておるのか? さすがに、よく見ていなかったからわからん。いや、女の子のパンツの事を深く考えるのはよそう。


 パンツの事を考えながら走っていると、すぐにアイラーバを見付けた。探知魔法で確認した通り、お供の象の姿は見当たらない。


「よう!」

「シラタマ! 戻って来たの?」

「ちょっと遊びに来ただけじゃ。アイラーバも、こんな所で何してるんじゃ?」

「ハリシャに、こっちのほうに森を切り開いて欲しいと頼まれたから、先行して進んでいるの。こっちに何かあるの?」

「海ってわかるか? でっかい水溜まりがあるところじゃけど」

「海? わからないわね。でも、そんなにいっぱい水があるなら、私達も嬉しいわ」

「たぶん飲めないかな? 飲んだらしょっぱいぞ」

「そうなの? まぁ試してみるわ」

「じゃあ、一緒に行こう」


 わしはアイラーバの頭の上に乗せてもらい、海に向かって走ってもらう。アイラーバの木を動かず魔法は集中力がいるみたいなので、わしが黒い木を【鎌鼬】で切断し、何本か次元倉庫に保管する。

 20メートルの巨体で走ってもらったせいか、すぐに海へと到着した。


 みんなは……水着に着替えて固まっておるな。王族はさっちゃん以外、巨乳じゃな。あと、巨乳なのはアイノと、あれは誰じゃ? 女王の侍女さんか。巨乳じゃな。っと、こんな事を考えている場合じゃなかった。


 アイラーバに近付かないように伝えたわしは、頭から飛び降り、固まっている皆を凝りほぐすために、女王に話し掛ける。


「あれがさっき言ってた、友達の白象。アイラーバにゃ」

「大きいわね」

「そうだにゃ。人間嫌いにゃところがあるから、怒らせないようにするにゃ」

「そんなことしないわよ。ところで、キョリスとどちらが強い?」

「ややキョリスにゃ。その上にハハリスにゃ」

「ハハリスって、キョリスのつがい?」

「そうにゃ」

「東の森には、そんな化け物が二匹も……いや、三匹……」

「手を出さなければいいにゃ。ほれ? せっかく海に来たにゃ。遊ぶにゃ~」

「心配事が増えていくけど……そうね。伝説の海だもんね。泳ごう!」

「にゃ!? 挟むにゃ~~~」


 わしは女王のふくよかなモノに挟まれ、波打ち際に連行される。このままでは、服が濡れてしまうから着替えてくると言ったが、ブーブー言われたので、滑り台とサーフボード、土魔法で作ってみた浮き輪を支給した。

 浮き輪もなんとか浮いていたので、沖に行かないようにだけ告げ、着替えをしに車に戻る。


 う~ん。息子が使っていたスクール水着みたい。この穴に尻尾を通せばいいのかな? とりあえず穿いてみてっと……うん。さほど不快感は無いな。じゃが、似合うかと聞かれたら、似合わないじゃろうな。

 裸で泳ぐより……ぬいぐるみで泳ぐよりはマシか。はい。言い直しましたよ~。これでいいじゃろ!

 わしはまた、誰に言い訳をしているんだか。アイラーバも待たせているし、急ごう。


「にゃ??」


 わしが車から出ると、リータとメイバイ、さっちゃんが待ち構えていた。


「みんにゃ遊ばないにゃ?」

「プレゼントした水着が気になりまして。似合っています!」

「シラタマ殿。かわいいニャー!」

「ありがとうにゃ。二人の水着も似合っていて、かわいいにゃ~」


 これで、似合っているのか? それにかわいいって……ペットに服を着せる飼い主か!


「ところで、さっちゃんまでどうしたにゃ?」

「アイラーバに乗りたい!」


 あぁそうですか。そう言う子じゃったな。


「キョリスには乗らなかったのに、アイラーバは乗るにゃ? 同じくらい怖い獣にゃのに……」

「キョリス様はワレワレ、ガラが悪かったから怖かったのよ。アイラーバは大きくて優しそう」


 たしかに、キョリスはヤクザさんじゃもんな。


「いいけど、人間嫌いだから、ダメだったら素直に引くにゃ」

「わかった!」



 わし達は手を繋ぎ、アイラーバの元へ向かう。ちなみに、手が足りないので、メイバイはわしの二本の尻尾をニギニギしている。こちょばいから、やめてほしい。


 そうして三人を連れてアイラーバの前まで行くと、わしは全員に念話を繋いで話し掛ける。


「待たせたな」

「もう! 遅い~」

「すまんすまん。それで、水はどうだ?」

「飲めない事はないけど、よけい水が欲しくなるわね。これで一族が困らなくなると思ったのに」

「それならアイラーバが、水魔法を覚えればいいじゃろ? わしが教えてやる」

「本当!? パオ~~~ン!」


 アイラーバがいきなり叫ぶものだから、わし達は驚きながら耳を押さえる。


「声が大きい! それに近付くな。踏まれる!」

「あら? ごめん」


 アイラーバが落ち着くと、少し緊張しているさっちゃんの背中にわしは手を添え、アイラーバに紹介する。


「魔法を教えるから、この子。さっちゃんを乗せてやってくれ」

「いいわよ。それぐらいで、見返りなんて求めなかったわよ」

「そうか。ありがとう」


 わしは例を言いながらさっちゃんの顔を見る。


「さっちゃん。乗せてくれるってさ」

「アイラーバ様。私はサンドリーヌと申します。宜しくお願いします」

「よろしくね~」


 わし達は挨拶を済ませるとアイラーバの鼻に包まれ、頭に乗せてもらう。アイラーバが沖の方向に進むと、水魔法講座に移る。

 すぐに使えるように、簡単な水の知識と言霊を教えておいた。そのせいで、さっちゃんも使えるようになってしまうとは、思いもよらなかった。


「なんで王女様が一番うまいニャー」

「ふふん。才能よ!」


 メイバイの疑問の声に、さっちゃんは勝ち誇った顔で答える。そのドヤ顔と自慢げな声に、リータとメイバイもボヤく。


「シラタマさん。ぜんぜん出来ません~」

「こんな小さな子供に負けた……」


 たしかにさっちゃんが一番うまく、水の玉が出来ている。これは理解力の差かな? 簡単な説明だけで、ここまで出来るとはたいしたもんじゃ。

 リータは元岩だから出来ないのかな? メイバイは、話を聞いていたか疑わしい。アイラーバは水の量は多いが、形がぐちゃぐちゃじゃな。魔力に頼りすぎじゃ。


「得て不得手は誰にもある。アイラーバもコツはつかめているから、あとは慣れじゃ。一族の者に教えれば、より深く理解出来ていくじゃろう」

「そうなの? まぁこれだけ出来れば、あとは私でも教えられるか」


 アイラーバが納得する中、さっちゃんがおかしな事を言い出した。


「わたしも城の魔法使いに教える!」


 ゲッ! 失敗じゃ……。さっちゃんの前でやるべきではなかった。このままでは、わしの秘術が世界に広まってしまう。ここは、丁寧にさっちゃんを説得しなくては!!


「それはやめてくれないか?」

「どうして~?」

「これはわしの秘伝じゃ。あまり知られたくない。さっちゃんだから、教えたんじゃ」


 これでどうじゃ??


「そうなんだ……わかったわ。その代わり……」


 うっ……。さっちゃんは何を要求するつもりじゃ?


「代わり?」

「なんでそんな口調なのかも教えて! ショックで忘れていたけど、キョリス様の時も、そんな喋り方だったよね?」


 そんなこと? わしが言うのもなんだけど、そんなのでいいの? まぁそれでいいなら大歓迎じゃ。


「これは、本来の喋り方じゃ。念話だと普通に喋れるけど、変身して口で話すと『にゃ』が付いてしまうんじゃ」

「じゃあ、念話の時に『にゃ』が付いていたのはなんで?」

「猫被っていたんじゃ」

「それ……脱げるの?」

「お気に入りじゃから絶対脱がん!」


 わしがボケると、リータとメイバイが生温い目で見て来た。


「またシラタマさんは……」

「普通に脱げないって言えばいいニャー」

「あ……」

「プッ。アハハハ」

「「「アハハハ」」」



 さっちゃんに言霊は秘密にしてもらう事に成功したわしであったが、皆に笑われて恥ずかしくなり、アイラーバの鼻を滑り台にして海に飛び込んだ。その行動を見ていた三人も真似をして滑り出す。だが、さっちゃんだけ失敗して横から落ちた。

 わしが慌てて水魔法を使って受け止めると笑い出し、もう一回とアイラーバに頼んでいた。アイラーバも楽しいのか笑い、遊んでくれている。


 その笑いに釣られて皆が集まり、アイラーバ滑り台は大繁盛となるのであった。

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