133 象の群れが現れたにゃ~
岩山で黒鷹との戦闘を終えたわしとメイバイは、急いでリータの元へ飛び降りる。
「ニャー-ー!」
「にゃ~~~~~~!」
「だからシラタマ殿まで、なんで悲鳴をあげるニャー!」
「速いにゃ~~~」
「ま、魔法を使うニャー」
「そこまで、動物の群れが来てるにゃ。急がないといけないにゃ~」
わしがまだ距離があるから大丈夫と、よけいな事を考えていたせいでフラグになってしまった。急がねばと、メイバイをお姫様抱っこしてダイブしたけど、怖いものは怖い。
二人で叫んでいると地上が迫り、【突風】で衝撃を抑えて着地する。少し急ぎ過ぎたせいで、足が地面に減り込んでしまった。
「メイバイ。大丈夫にゃ?」
「怖かったけど、大丈夫ニャー」
メイバイの安否確認をしていると、リータも駆け寄って来る。
「シラタマさん! 足、大丈夫ですか?」
「凄いニャ! 膝まで埋まっているニャー」
「大丈夫にゃ。でも、動けないから離れてくれにゃ」
「私に任せてください!」
「私も手伝うニャー」
「いや、土魔法ですぐ抜け出せるにゃ」
「これぐらい大丈夫です!」
わしが大丈夫と言っているのに二人は離れない。力が入っているかも疑問だ。触りたいだけのような気がするが、任せている場合ではなくなる。
「にゃ! 下がるにゃ!!」
「え?」
「囲まれたニャー」
木の間から象の群れが、遊んでいたわし達の前に姿を現す。わし達は一気に警戒を高め、武器を構える。
「大きいです! 街にあった石像そっくりです。これが象ですか?」
「そうにゃ。まだ来るにゃ!」
「大きな黒象ニャ……」
灰色の象が次々と現れてわし達を囲む中、二匹の黒くて大きな象が現れた。二匹の黒象は10メートルを超える巨体で、四本の牙を有している。
「この二匹がボスかニャ?」
「いや……もう一匹来るにゃ」
「木が勝手に分かれていきます……」
リータの言うように、木は生きているのかと見間違うかのように、一匹の象の歩みを、邪魔をしないように道を開ける。
木が道を譲った象は、ボスの白象だ。体長は優に20メートルを超え、三本の鼻を揺らし、
「白象……」
「おっきいニャー……」
「これは……」
わし達は神秘的な光景と、白象の雄大な
見とれている場合じゃない。わし一人ならどうとでもなるが、どうする? 逃げるか?
いや、狙いの白い獣じゃ。お持ち帰りしたい。力はキョリスと同等か、それ以下。デカイ割にはたいした事は無いか? 問題はリータとメイバイじゃな。
キョリスクラスを相手にするなら、フォローに回れない。普通の象も百頭以上いるし、黒もいる……怒られるじゃろうけど、岩山の頂上に打ち上げるか。
「ま、待って!」
わしは方針を決め、魔法を発動しようとしたその時、白象が話し掛けてきた。
念話か……当然使えるわな。待てと言われても、リータとメイバイの命が掛かっている。とっぷ……
「攻撃魔法は痛いから、やめて~~~!!」
「へ?」
「いま、攻撃魔法を使おうとしたでしょ?」
「いや、後ろの二人を逃がそうとしただけじゃ……」
「そ、そうなの? 敵意は無いから話をしましょう。ね?」
「まぁいいけど……」
「よかった~」
なんじゃ? 調子が狂う。逃がしたあとに殺す気だったんじゃけど……。いまさら言えないし、敵意が無いならやりづらい。てか、こんなに取り囲んでおいて、何をしに来たんじゃ?
わしが象達の行動を不思議に思って見ていると、リータとメイバイが武器を構えたまま声を掛けて来る。
「シラタマさん。どうしたのですか?」
「リータ達は、白象の念話は聞こえていなかったにゃ?」
「「はい(ニャ)」」
「象達は、わし達をどうこうするつもりはないみたいにゃ。警戒を解くにゃ」
「わかりました」
「わかったニャー」
リータとメイバイが武器を収めると、わしは白象に話し掛ける。
「攻撃しないから、魔法を使っていいか?」
「ホントに? 何するの?」
「足が埋まっている。抜きたいだけじゃ」
「それぐらいならいいわ」
わしは土魔法で土を持ち上げて足を抜く。白象と話をするので、長くなるとリータ達に悪いので、テーブルセットと、お茶とおやつを次元倉庫から取り出す。
そうして白象に顔を向けると、怒っているような顔をしていた。
「嘘つき! 足を抜くだけじゃなかったじゃない!」
「別に攻撃しなかったじゃろう。これぐらい許せ。それに、お前は強いじゃろ? なんでそこまで攻撃魔法を嫌がるんじゃ?」
「痛いのは嫌いなのよ。弱い攻撃なら大丈夫だけど、あなたは強いでしょ? そんな奴の攻撃を受けたくないわ」
仲間の前でぶっちゃけておるけど、これで群れの長が務まるのか?
「そんなに痛いのが嫌なら、何しに来たんじゃ?」
「この森に強い者が現れたと、森の者が騒いでいたから、会いに来たの。どれほど強いか見に来たんだけど、私の思った以上に強いわね」
なるほど。黒鷹を相手にした時に、隠蔽魔法を解除したせいで、近付いて来たのか。威嚇までしたから、力がバレバレになってしまったな。その前から気付いていた節もあるし、イサベレみたいな危機感知でも持っているのかもしれん。
「それで、頼みがあるの」
「頼み?」
「ご先祖様を殺して欲しいの」
「ご先祖様? 先祖なら死んでるんじゃないのか?」
「いえ。生きているわ」
「生きているなら、さぞかし強いじゃろ? そんなのわしでも無理じゃ」
「ご先祖様は弱っているから、なんとかなると思うわ」
「弱っているなら自分でやればいいじゃろ? お前だって強いんじゃから……」
「私は攻撃魔法が苦手なの! それに痛いのも嫌なの! お願~い。協力してよ~」
「ち、近寄るな!!」
なんじゃこの我が儘な象は……ボスじゃろ? 地団駄踏むものだから沈んでおるぞ。そんなので、近付いて来られたら、また、埋まってしまうじゃろう。今度は頭まで……
それはそうと、ご先祖様か~……わしの予想では、これじゃろ? この岩山。高さ50メートルはある。こんなのをどうやって殺すのじゃ? いちおう、正解かどうか聞いておくか。
「その願い、受けるかどうかはまだ決めておらんけど、ご先祖様はどこにいるんじゃ?」
「あなたの後ろにいるわ」
ほらな。正解じゃ。
「えっと~。無理じゃ。ごめんなさい!」
わしは50メートルはある、岩山となった象の殺害依頼を、20メートルを超える白象からされて、丁重に断る。
「お願いよ~。助けてよ~~~」
しかし、白象は我が儘で、わしの意見を聞かない。すると、それを見ていたリータとメイバイが話に入って来る。
「シラタマさん。何を話しているのですか?」
「この白象が、無理難題をしてくるから断っていたにゃ」
「どんな内容ニャ?」
「そこの岩山が、この象達の先祖らしいにゃ。これをわしに殺せと言っているにゃ」
「え……伝説の白い巨象って、あっちの象じゃないんですか? 大きいですよ?」
「どうやら岩山のほうみたいにゃ」
「これが生きてるニャー?」
「まぁ念話で呻き声が聞こえているから、生きているみたいにゃ」
「もう! 人間と喋ってないで、私と喋りなさい!!」
リータとメイバイと話をしていると、今度は白象が割り込む。
「そうは言っても、二人に念話が繋がっていないから気になるじゃろ? お前だったらそれぐらい出来るんじゃから繋げろ。そうすれば、伝えなくてもいいんじゃ」
「人間キライ!」
また我が儘を……どこの密林の騎乗する人じゃ。
「なんで人間が嫌いなんじゃ?」
「キライな物はキライ!」
「お前は説明が無いから、わからんのじゃ。何故、人間が嫌いか。何故、先祖を殺したいか、ちゃんと説明しろ」
「説明したら協力してくれる?」
「それは聞いてからじゃ」
「え~~~!」
「え~。じゃない! 説明しないなら、わしは帰る」
「……わかったわ。あれは遠い昔の話で……」
白象は先祖から代々伝わる話を、わしに聞かせる。
その昔、象と人間は仲が良く、幸せに暮らしていたそうな。だが、いつからか人間は変わり、象をこき使うようになり始めた。
象は森を切り開く事に使われ、畑を耕す事に使われ、移動手段として使われた。優しい性格の象は、友達の人間の頼みだからと断らず、献身的に努めたそうだ。
しかし、そんな優しい象を、人間は裏切った。
不作が続いて食糧難となった時、象の食糧を奪い、あろう事か、人間は友達である象を食べた。
当然、先祖の象は怒った。象は働く事をやめ、森を切り開くために最前線にいた巨大な白い象に助けを求めた。巨大な白い象は話を聞くと、人間達との話の場を設けたが、その場すら裏切られた。
当時、最強と
その後、大規模な象狩りが行われ、象達は危険な森の奥に去って行ったと言う……
なに、その酷い話……。人間達の歴史と全然違う……。いいように奴隷にした挙げ句、食ったじゃと? それで、象達の居なくなった土地は森に呑み込まれて、住む土地が減ったってところか。
自業自得じゃ。だから象を
「人間が嫌いなのはわかったが、岩になった先祖を殺してくれと言うのは、どういう事なんじゃ?」
「それはご先祖様の願いだからよ。岩になる前から寿命が近かったみたい。体はボロボロ。痛みに耐えて森を切り開いていたの。もう少しで命が尽きようとしている時に、岩にされて、ご先祖様の時が止まったの」
「時が止まった?」
「当時の先祖は、岩にされたご先祖様を死んだと思ったみたい。でも、違ったの。近くに行くと声が聞こえたって」
「どんな声じゃ?」
「痛いだとか、賢者だとか……日が進むと、助けてだとか、殺してだとか、許さないだとかよ」
なるほど。森が浅い時期に人間が聞いた言葉に合致するのか。その後、森が広がり、象達がここまで来て、助けてや、殺してと聞いたのか……
しかし、時が止まったなら痛みや思考も止まっていてもいいと思うんじゃが、どういう事じゃろう? 時の賢者が、中途半端な魔法を使ったとしか思いつかんな。
「いまはもう、ハッキリと声が聞こえない。このまま放っておいても命が尽きるんじゃないのか?」
「ご先祖様を一刻も早く解放してあげたいの。これは私達一族の願いなの。これだけ大きいと、力で壊す事が出来ない。でも、私達の一族に魔法が得意な者が生まれなかった……だから、お願い! ご先祖様を助けて」
う~ん。たしかに体当たりで壊す事は出来ないか。しかし、魔法も効くのか? あの魔法なら……
「ちょっと考える。少し待て」
「また人間と話すの? あなたもいつか裏切られるわよ」
「この二人は大丈夫じゃ。何があってもわしを裏切らない。話の内容が気になるなら、念話を繋げばいいじゃろ?」
「それは……」
「好きにしろ」
わしは今までの白象との会話をリータとメイバイに伝える。すると二人は涙を浮かべ、白象に詰め寄る。
「白象さん! 私たち人間が酷い事してごめんなさい!!」
「白象さんの気持ち、痛いほどよくわかるニャー。私の一族も同じ仕打ちを受けているニャー」
「私が謝っても許す事は出来ないでしょうけど、そんな人間もいると白象さんには知って欲しいです。グスッ……」
「ニャー-ー! 象さん、かわいそうニャー-ー!!」
二人はしだいに大粒の涙を落とし、白象の足に抱きついた。その二人の行動に、白象は困惑した表情でわしに尋ねる。
「これは……」
「人間ってのは複雑なんじゃ。酷い事をする人間もいれば、優しく涙する人間もいる。この二人は人間でない、わしみたいな者でも愛してくれる大好きな二人じゃ」
「シラタマさん……いま、大好きって言いました?」
「初めて聞いたニャ……」
しまった……念話、繋ぎっぱなしじゃった。
「シラタマさ~ん!」
「シラタマ殿~!」
「にゃ!! ちょ、ちょっと待つにゃ。にゃ?」
リータとメイバイは、いまにも飛び掛かって来そうになったので、わしは
「いますぐ抱きつきたいです」
「もう一回言ってニャー?」
「それは……ゴニョゴニョ」
「聞こえません」
「照れてるニャー?」
「もっと近付いたら聞こえるはずです!」
「そうだニャ。聞こえるニャー!」
「いにゃ~~~ん! ゴロゴロ~」
この後わしは、二人に撫で回され、噛まれまくるのであった。象達が見ているにも関わらず……
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