141 東の国に帰って来たにゃ~


 仕入れと海に行った翌日、王になったばかりのバハードゥに帰る挨拶をするため、王宮に足を延ばす。初めての王宮だったが、猫パスですんなりと入る事が出来た。

 そうして応接室に通されたわし達は、バハードゥとハリシャの座るソファーの対面に座る。


「そうか。帰るのか」

「また、顔を出すにゃ」

「遠い地でも、シラタマならすぐに来れるのだな……」


 バハードゥは言葉を切ると、座ったままお辞儀する。


「この度は、国の危機を救ってくれて感謝する」

「気にするにゃ。アイラーバの依頼のついでにゃ」

「ついでか……ついでで大蟻まで譲って行くのだな」

「それは在庫処分にゃ。巨象の肉も欲しかったら言うにゃ。あれだけの大きさだと、東の国でも捌くのに困ると思うにゃ。でも、ひと月以上先になると思うけどにゃ」

「象を食べるわけには……」

「アイラーバとの話はついているから、好きにするといいにゃ」

「そうか。考えておく。それと、シラタマは女王陛下の使いで来たのだったな。この手紙を女王陛下に渡してくれないか?」


 わしは差し出された手紙を受け取り、懐に開いた次元倉庫に入れて、笑顔で答える。


「お安いご用にゃ」

「感謝する」

「ハリシャもアイラーバと仲良くするにゃ」

「はい。アイラーバ様に信用していただけるように、尽くしていきます」

「少し我が儘なところがあるけどいい奴にゃ。もしもの時は、ハンターギルド経由で連絡してくれにゃ」

「わかりました。何から何までありがとうございます。最後にちょっといいですか?」

「にゃ!?」

「「「「あーーー!」」」」


 わしがハリシャに抱き抱えられて頬にキスされると、この場に同席する者が、驚きの声と、殺気を放つ。


「妹はやらん!」

「にゃに言ってるにゃ! ハリシャはガウリカとデキてるにゃ!」

「ほ、本当なのか!?」

「猫! そんなわけがないだろ!」

「あら? 二人とも、振られてしまいましたわ……グズッ」

「貴様等……妹を泣かせやがって~」

「にゃ! これはウソ泣きにゃ。ニヤッと笑ったにゃ~」


 わしがハリシャの腹グロ笑顔を指摘しても、バハードゥは待ったなし。後ろにあった剣に手を掛けて振り向く。


「嘘つけ~~~!」

「にゃ! 剣をしまうにゃ! みんにゃ、逃げるにゃ~! さいにゃら~」

「待て~!」


 わし達は剣を持ったバハードゥ王から逃げ出し、南の小国ビーダールを脱出する。最後に聞こえた声は「また来いよ~」だったから、それほど怒っていなかったみたいだ。



 そうして空を行き、次なる目的地、南の国外れにある砂漠の街コッラトに到着する。兵士の目の前で飛行機を降ろしてやったが、わしの姿のほうが、驚きが大きかったのは気のせいだ。

 その後、古美術商から取り置きしてもらっていたティアラを買い取り、猫騒ぎの起きている街からすぐに出て、車で人の居ない場所に移動する。


 コッラトから離れ、砂漠の景色を楽しみながらランチを終えると、ガウリカからティアラの件を切り出された。


「ティアラを買ってしまったが、猫の言っていた面白い機能とはなんだ?」

「そう言えば、巨象騒ぎで言うの忘れてたにゃ。まぁ見てるにゃ。リータ、つけてくれにゃ」

「え? 私がですか? 女王様の贈り物なんて、つけられません!」

「あとでエンマが綺麗にしてくれるはずにゃ。それにリータに似合いそうにゃ~。きっと綺麗になると思うんにゃけどにゃ~」

「えっと、それならちょっとぐらい……」

「つぎ、私もつけるニャー」


 別に実験は一人でいいんじゃが……まぁいいか。ティアラを頭に乗せてっと……


「それじゃあ、盾の時と同じように、魔力を流してくれにゃ」

「こうですか? ん………何も感じません」

「にゃ~??」


 リータがティアラに魔力を流すが、まったく反応が無いので、ガウリカが睨んで来た。


「猫……」

「ちょ、睨むにゃ! 少し考えるにゃ」


 おかしい。宝石に魔法を込めた時は使えたんじゃがな……たしか魔道具の作り方は、使いたい魔法を込める、その維持に必要な魔力を入れると完成する。そして、使う時にきっかけの魔力を、少量流せば使える。

 いま現在、使えないって事は魔力切れかな? ティアラに付いている宝石全てに、わしの魔力を補給すれば使えるはず。やってみよう。


 わしはティアラに付いている宝石に、次々と魔力を注ぎ込んでいく。最後に大きな宝石に魔力を込めると、宝石の輝きが変わった。すると、メイバイとガウリカはじっくりと見て感想を述べる。


「キラキラして綺麗ニャー」

「元もよかったが、魔力を込めるだけでこんなに変わるのか」

「リータ。もう一度やってみるにゃ」

「はい。ん……」

「「「おおおお……」」」


 リータが魔力を流すと、ティアラに付いてある宝石は光を放ち、中央にある大きな宝石に集約される。そして、集約された光は白い光となって、ベールのようにたなびき、リータを優しく包み込んだ。


「ど、ど、どうなっているんですか!?」

「わからないにゃ~。でも、とっても綺麗にゃ~」

「リータ。綺麗ニャー」

「これなら女王陛下に、最高のプレゼントになるぞ!」

「私も見たいです! メイバイさん、変わってください」

「ちょっと待つにゃ。この光の正体を調べたいにゃ。リータはにゃにか感じる事はあるかにゃ?」

「いえ、特には……あ、少し気温が下がったように感じます」

「にゃるほど……にゃ!」


 わしは光のベールがどうなっているのか調べようと触れると、効果がなんとなくわかった。


「どうした?」

「触ってみるとわかるにゃ」

「あ、硬いニャー!」

「本当だ! 布のようにしか見えないのに……」

「リータは触れるかにゃ?」

「えっと~……突き抜けました!」

「外からは守って、中からはなんでも出来るって感じかにゃ? 次は強度を見てみるから、リータは盾を構えておくにゃ」

「は、はい」


 わしは次元倉庫から、盗賊から没収した剣をガウリカに渡す。


「リータの盾があるから、思いっ切りやるにゃ」

「ああ。行くぞ!」


 ガウリカが振りかぶって剣を振り下ろすと、パキーンッと剣が折れてしまった。


「盾に届かずに折れた……」

「これで決定だにゃ。このティアラは、防御魔法が込められたティアラにゃ。きっと、王妃様を護るために作られたにゃ」

「猫! 凄い発見だ!!」

「これで商業ギルドの買い付けも、上手く行ったかにゃ?」

「ああ。最高だ!」

「私もつけるニャー!」

「あ、はい。ちょっと待ってください」


 興奮するガウリカを他所に、リータと交代で、メイバイがティアラをつけて魔力を流す。


「シラタマ殿。どうにゃ?」

「うんにゃ。メイバイも似合っていて綺麗にゃ~」

「シラタマ殿~!」

「にゃ! 近付くにゃ……にゃ~~~!」


 わしは抱きつこうとしたメイバイに、ティアラのシールドによって跳ね飛ばされてしまった。これを機に、二人はわしを抱けなくなるから、もうつけないと言い出していた。



 ティアラの確認が終わると、無事、全ての買い付けが終わり、王都に帰還する。機内では旅の感想を言い合い、夕方に東の国王都の門を潜った。

 それからガウリカも報告は明日にすると言うので、待ち合わせをして別れる。ガウリカと別れたわし達は、久し振りに大通りを歩き、広場で夕食を購入する。

 王都の民衆は、しばらくわしを見掛けていなかったからか、心配する者や、おかえりと言ってくれる者、ただ撫でたい者が次々に現れ、家に着くまでに、いつもより倍の時間が掛かってしまった。


 こうしてわし達の、長いようで短い旅が、終わりを告げるのであった。





「ただいまにゃ~」


 いつもの癖で、誰も居ないであろう家に帰り、挨拶をする。すると、パタパタと足音が聞こえ、エミリが顔を出した。


「ねこさん。おかえりなさい」

「エミリ。ただいまにゃ~。でも、どうしているにゃ?」

「スティナさんから料理を作って欲しいと頼まれて、先にお邪魔して、キッチンを借りています」

「ゲッ! スティナが来るにゃ!?」

「ゲッ! って、何よ!!」


 わしが驚いた声を出すと、後ろからスティナの声が聞こえて振り返る。


「にゃ!?」

「シラタマさん。おかえりなさい」

「猫君。久し振り~」


 振り向くと、スティナ、エンマ、フレヤの所属団体、アダルトスリー、プラスワンが現れた。


「ガウリカまで……」

「飲みに行くと誘われて、ついて来たら、ここだった……」

「さあ、みんな上がってちょうだい」


 さっき別れたばかりで気まずそうにするガウリカの肩をポンッと叩き、スティナはわしを押しのけて、家に入ろうとしやがった。


「にゃ! ここはわしの家にゃ~」

「今日は飲むわよ~!」

「いつも飲んでるにゃ~……ムゴッ」

「もう! うるさいわね~。行きましょう」


 スティナの胸に挟まれて、わしは運ばれて行く。そして旅の話を肴に、アダルトフォーは、飲むは食うは……

 エミリにお土産で買って来た様々な調味料は、上手く使ってもらい、美味しい料理に変貌したせいかもしれない。そのせいか、酒も料理もすぐに消えていく。

 酒のペースが早かったのか、早々に倒れていくアダルトフォー。エミリも早いペースで作らされて疲れたのか、食事を終えるとすぐに眠ってしまった。



 わしはエミリを客間の寝室に運ぶと、縁側で酒をチビチビしながら制作作業に取り掛かる。アダルトフォーは……面倒臭い。毛皮だけ掛けておいた。


 そうして作業に没頭していると、片付けを頼んでいたリータとメイバイが縁側に腰掛ける。


「みなさん寝てしまいましたね」

「にゃにしに来たんだか……」

「久し振りに、シラタマさんに会えて嬉しかったんじゃないですか?」

「あいつらに、そんにゃしおらしい心は無いにゃ!」

「「アハハハ」」

「それでシラタマ殿は何をしてるニャ?」

「にゃ? メイバイ。右手を出すにゃ」

「はいニャー」


 わしは出来立てホヤホヤの指輪を、メイバイの右手薬指に通す。


「ニャーーー! 綺麗ニャー!!」

「メイバイさん。似合ってますよ」

「ありがとうニャー」

「にゃ! ゴロゴロ……待つにゃ! まだ作業があるにゃ。あとでゴロゴロ……にゃ?」


 興奮したメイバイに押し倒されて噛まれていたわしは、なんとか落ち着かせて起き上がる。残念そうにするメイバイだったが、わしが手に持つ物が気になるようだ。


「ニャー……それはどうするニャ?」

「プレゼト用のブレスレットにゃ。リータは指輪だと宝石が壊れそうだから、ブレスレットでいいかにゃ?」

「なんでも嬉しいです!」

「ほいにゃ」

「ありがとうございます!」

「メイバイも、ブレスレットにするかにゃ?」

「私にもニャ? じゃあ、シラタマ殿の好きな足を綺麗にするニャー!」

「アンクレットにゃ」

「これも綺麗ニャー」


 足が好きなんて、一度も言った事は無いんじゃけど……喜んでくれているなら、よしとするか。


「このブレスレットの宝石は……」

「気付いたにゃ? リータのブレスレットには、土魔法を強化する魔法と、肉体強化魔法を入れた宝石を使っているにゃ」

「私のは、なんニャー?」

「メイバイは指輪に風魔法。アンクレットに肉体強化魔法にゃ。指輪は【風の刃】が入っているから、気を付けるにゃ」

「これで攻撃魔法が使えるニャー?」

「回数制限があるから、いざと言う時に使うといいにゃ。使えなくにゃったら補給するから言ってくれにゃ」

「やったニャー! こうかニャ? あ……」


 メイバイが指輪に魔力を流すと【風の刃】が出て、離れを削った。


「にゃ~! わしの離れが~!」

「ご、ごめんニャ……」

「あれぐらいにゃら直せるけど、街中では気を付けるにゃ」

「はいニャ……」


 メイバイがしゅんとするので、わしは頭を撫でながら優しく語り掛ける。


「そんにゃ顔するにゃ。わしはメイバイの笑っている顔が好きにゃ」

「これは……プロポーズニャ-!」

「そうかもにゃ」


 わしの言葉で、メイバイは目をパチクリさせてリータを見る。


「リータ……シラタマ殿が否定しないニャ……」

「よかったですね」

「さあ、お風呂に入って寝るにゃ~」

「「はい(ニャ)」」



 その夜、わしはメイバイに元の世界の話を聞かせる。


 メイバイは、わしが元人間だと知っても態度を変えなかった。リータが元、岩だと聞いた時は、さすがに信じられなかったみたいだが、わしが信じているからか信じると言ってくれた。

 二人とも、わしの元の世界の話が面白いのか、眠りに就くまで、もっと聞かせてとせがまれた。


 長い昔話が続き、しだいに二人の寝息が聞こえて来ると、わしも眠りに就く……



 元の世界の子供達に、絵本を読んでとせがまれる夢を見ながら……

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