468 最強チームの結成にゃ~


 海の捜索を開始して半日。騒がしい昼食を終わらせると、わし達は空を行く。

 ヤマタノオロチは、いまだに岸でびったんばったんもがいているので、機長の玉藻には念のため高度を高めに取らせ、迂回させて南に向かう。

 そうして半壊している漁村を発見すれば、そこから捜索を開始する。


 例の如く、わしは海担当。砂浜担当の玉藻の元へ、海に浮かんでいる村民を【水柱】で吹き飛ばして送り込む。その村民には、リータ達やキツネ神職が応急手当にあたり、炊き出しも同時平行で行っているようだ。

 連絡係のエミリから報告が入れば、クルーザーで移動。玉藻達もバスで北に移動する。次の漁村でも救助し、その次の漁村でも救助すれば、おそらく、津波の被害があったであろう漁村は回り切ったと思われる。


 なので、ここで小休憩。村民から距離を取ると、皆に甘いお菓子と飲み物を支給する。


「ひとまず、急ぎの救助活動は、こんにゃもんかにゃ~?」


 地図を見ながらわしが玉藻に質問すると、うなりながら答える。


「う~む。ここ……。わらわとしては、ここも見ておきたい」


 玉藻の指差す場所は、ヤマタノオロチの真下にあると思われる漁村。救助できる見込みが低いと、わしが切り捨てた場所だ。


「ああ。そこは、これからわしが見に行って来るにゃ。だから、玉藻はみんにゃを連れて帰ってくれにゃ」

「なんじゃと!? そちが行くなら、妾も行くぞ!!」

「うるさいにゃ~。戦いに行くんじゃないにゃ。ひっそりと捜索しようと思っていただけにゃ~」


 もちろんわしは、ただ切り捨てたわけではない。救助活動の順番と効率を考えて、後回しにしただけだ。

 脳筋の玉藻と違って、わしは隠密行動に徹する予定だから、脳筋の玉藻は連れて行けない。


「誰の頭が筋肉で出来ておるのじゃ?」

「にゃ!? また口に出てたにゃ??」

「はぁ……今回は、二度も言った事は許してやる。だから妾も連れて行け。民の救助が優先だと理解しておるからな」

「……本当にゃ?」

「信用しろ!!」


 立場は逆。前に玉藻は、わしを信用しない事があったので仕返ししてやった。いや、あの顔は怪しい。絶対、ヤマタノオロチにちょっかい出そうとしている顔だ。



 とりあえず連れて行く事は決定事項らしいので、皆には休憩してもらっておいて、わし達はクルーザーに乗り込む。

 クルーザーに乗るなり「ギャーギャー」うるさい玉藻には、操縦を教えてあげた。これでヤマタノオロチへの興味が減って、ちょっかいを掛けない事を切に願う。

 もちろん九尾の化け物ならば、クルーザーの後部から魔法で風を吹き出す事は余裕みたいだが、水面から浮いてるからもうちょっと速度を落として欲しい。


「「にゃ~~~!」」


 ほら、波にさらわれてひっくり返った。でも、悲鳴をあげるなら、「にゃ~!」ではないはずだ。


「いい加減にしろにゃ~!」

「す、すまぬ。つい、楽しくて……」


 わしが止めても飛ばしまくった玉藻は平謝り。これだからババアは……


「だから口に出すなと言っておろう!」

「だから飛ばすにゃ~!」


 お互い気に食わない事が多いので、「にゃ~にゃ~」喧嘩しながらクルーザーが進めば、ヤマタノオロチの真後ろに辿り着いた。



「まだ遠いはずなのに、デカイのう……」


 ヤマタノオロチとは、かなりの距離を取ったはずだが、わし達は見上げている。


「絶対に手を出すにゃよ~?」

「あ、ああ……強いとは思っておったが、ここまでとは……」


 玉藻は生唾を呑み込んで怖がっているように見えたので、わしは安心させようとする。


「まぁわし達にゃら、逃げるぐらいは楽勝にゃろ」

「それはそうじゃろうが、そちはあまり怖そうにしないのじゃな」

「わしはもっと絶望的にゃ者に会った事があるからにゃ。それより、さっさと調査しようにゃ~」

「そうじゃな。頼んだぞ」


 玉藻の気分が持ち直すと、わしは海に飛び込んで探知魔法を使う。すると十人ほど人間の反応があったので、玉藻に方向を知らせながらクルーザーに飛び乗った。

 これまで同様【水柱】を使いたいところだが、ヤマタノオロチに攻撃と受け取られては困るので、クルーザーに乗ったまま救助する。


 玉藻に操縦は任せて、水面ギリギリに土魔法で設置した板に乗ったわしは、要救助者が横に来た瞬間に服を掴んで引っ張り上げる。遠ければ、水魔法で調整して、スピードを落とさずに引っ張り上げた。

 玉藻の操縦は、とても船とは思えないカクカクした曲がり方の操縦であったが、その甲斐あって、素早く十人の要救助者をクルーザーの上に乗せたのであった。



「生存者は、三人か……」


 要救助者は三人しか息をしていなかったので、玉藻の顔が曇る。


「ゼロ……零じゃなかっただけ、マシだと考えようにゃ」

「そうじゃな……」

「少しだけ、悪足掻きをしてみるにゃ。ちょっとだけ過激だけど、これも治療にゃから、悪く思うにゃ」


 玉藻と生き残った者を離れさせると、わしはクルーザーの上の水分を全て水魔法で除去し、要救助者の服の胸元を開ける。そうして肉球を胸に近付け、魔法を使う。


 ドンッ!


 雷魔法……わしは簡易AEDで、蘇生を試みる。一度雷を喰らわし、心臓マッサージ。ほとんど息を吹き返さなかったが、一人の女の子が甦った。


「奇跡じゃ……シラタマ! そちが生き返らせたのか!?」

「違うにゃ~。この子が強かっただけにゃ~」


 玉藻が勘違いしているそばでは、女の子は虫の息。なので、わしは回復魔法を使って、完全に治してあげる。


「ここは……」


 女の子は目を開けると、わしをジッと見つめる。


「海の上にゃ。喉が渇いているにゃろ? ほい。水にゃ~」

「うん……」


 女の子がコップを受け取りゴクゴク飲んでいると、生き残りの女性が涙ながらに感謝を述べて来た。どうやら、女の子の母親だったようだ。

 母親は、わしが死者に鞭を打っているように見え、恐怖と女の子の蘇生に驚いて、抱き締めるのが遅れたみたいだ。

 その親子の抱擁を見たわしと玉藻は、クルーザーの中に移動して、グズグズ泣いたのであった。



 蘇生できなかった者は仕方がない。他の漁村と同じく次元倉庫に入れて、リータ達の元へとクルーザーを走らせる。

 そうして砂浜にクルーザーを乗り上げて全員を降ろしていると、リータ達が駆け寄って来た。


「シラタマさん……どうでしたか?」

「四人も助けられたにゃ~」


 暗い顔で質問するリータに、わしは笑顔で答える。


「そ……そんなに!? よかったです!!」


 リータは無理して明るく振る舞うので、わしは飛び付いて頭を撫でる。


「にゃはは。今回もいっぱい助かったにゃ~。さてと、もう日が暮れそうにゃし、浜松に帰ろうにゃ~」


 わしが笑うと、皆も無理して笑う。そうでもしないとやってられないのであろう。飛行機に乗り込むと精神的な疲れからか、わしと玉藻以外、すぐに眠りに落ちてしまった。


 生き残りの四人も飛行機に乗せたので、さっちゃん2に変身させたコリスも含め、幼女は全員誰かの膝の上で眠り、わしも猫型で玉藻の膝に乗って操縦している。


 その席で、わしを優しく撫でる玉藻と喋っていた。


「皆、こたえたようじゃな。まるで戦場のような現場じゃったから、仕方ないか……しかし、そちは大丈夫のようじゃな」

「ちょっとだけ、こんにゃ現場を体験していたからにゃ。でも、慣れるものではないにゃ~」

「ほう……未来でも、人は多く死んでおったのか。少し、そちの体験を聞かせてくれるか?」

「そうだにゃ~……。戦争、災害……」


 わしは玉藻に、自分で体験した戦争や地震、テレビや新聞で見た悲惨な状況を語る。玉藻も同じく戦や災害の話をしてくれて、助けられなかった命に思いを馳せるのであった。



 ヤマタノオロチから大きく離れながら飛行機は空を飛び、浜松の避難場所近くで着陸させると、わしと玉藻は手分けして人を運ぶ。リータ達はわしのバスへ、キツネ神職と生き残りはそのまま飛行機に残す。

 目が覚めた時にはお腹が減っているだろうから、各自が食べられるように食事と飲み物は置いて、わしと玉藻は会議室に向かった。


 会議室では、ウンチョウが家康と話をしている姿があったので、わし達もその席に加わる。


「もう着いてたんにゃ~」

「はっ! 思ったより街道が整備されておりましたので、無事、到着しました」

「お疲れ様にゃ~」


 まずはウンチョウへの労い。そのウンチョウがわしにかしこまって挨拶をしたので、玉藻が首を傾げていた。「珍しく王らしく見える」とか言ってたけど、無視してやった。


「たぶんウンチョウは、ご老公から話を聞いていたからわかっていると思うけど、わしからも状況説明させてもらうにゃ」


 いちおうわしはここの統轄なので、それらしく振る舞い、今日の活動内容もウンチョウや家康達に伝える。

 助かった命は漁村民全体の半分以下と少なかったが、それでも奇跡的な数字と受け取ったのか、二人はわしを褒め称えてくれた。

 そこでこちらに向かっている村民が居ると説明し、案内役を派遣する事を決める。


 あとは復興の話し合い。ヤマタノオロチが襲撃してからまだ二日しか経っていないので時期尚早に見えるが、人々の不安を取り除くには、未来の話が必要だ。

 ちびっこ天皇に通信魔道具を繋いで、大工や資材、支援物資を用意するように伝え、ウンチョウにも瓦礫の除去を手伝うように指示を出す。シェンメイだけでなくエルフ四人も連れて来てくれたから、さくさく進むはずだ。


 これで今日の会議は終了。夕食を食べたらわしは席を外し、瓦礫の町を突っ切り、月夜に照らされているヤマタノオロチを肴に、ひょうたん酒を飲む。





「妾達にも貰えるか?」


 しばし静かに飲んでいたら、後ろから声が聞こえたので振り返ると、玉藻と家康が立っていた。なので、レジャーシートを広げた場所にひょうたん酒をふたつ置いて勧める。

 二人がドサッと座り、酒を口に付けるとわしは質問する。


「まだ急ぎの決め事があったにゃ?」

「いや、奴を見に来ただけじゃ」


 玉藻の返事に、家康も頷く。どうやら、二人でヤマタノオロチを倒す方法を考えていたらしい。しかし、玉藻を凌駕する生き物では答えが見付からず、散歩をしながら話し合っていたようだ。


「そちも同じ考えなのであろう?」

「まぁにゃ~……」

「何か手があるのか?」

「無い事は無いんにゃけど、帰ってくれたほうが助かるんにゃけどにゃ~」

「まことか!? また来られて被害を受けてもたまらん。出来るなら、この場で仕留めたい!!」

「まぁまぁ。二人は、昨日わしとやり合って、そのままずっと働き続けているんにゃから疲れているにゃろ? 明日一日休養日を設けて、体調を万全にしようにゃ。それでも残っていたら、戦うってのでどうにゃ?」


 わしの問いに、玉藻と家康は自分の体調を確認するように肩や腕を動かす。


「むう……それもそうか。よく考えてみれば、関ヶ原の閉会式は昨日じゃったな」

「そうじゃった。二人して、こっぴどく負けたところであったな」

「負けたのはわしにゃろ~?」

「そちは手加減していたじゃろ。それぐらい見抜けんとでも思ったか」

「まことに……わしよりタヌキじゃな」

「猫って言ってるにゃろ~!!」

「コ~ンコンコン」

「ポンポコポン」


 わしがツッコんでも、二人は仲良く笑うだけ。少し腹立たしいが、仲良くしているのならば、共闘しても足を引っ張り合うことはないだろう。なので、わしも仲良く酒を汲み交わす。


 この日は、ヤマタノオロチ討伐最強チームの結成を祝し、大いに飲み明かしたのであった。

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