469 三匹の侍にゃ~


 最強チームを結成した翌日、わしと玉藻と家康は、頭を押さえて会議に参加。調子に乗って、飲みすぎてしまったようだ。

 その席で、今日の指示を少し変更。瓦礫の除去を開始しようかと考えていたが、災害から二日で、怪我を押して忙しく動き回っていた者も多いのだ。一日の休養を設ける事にした。


 幸い、ウンチョウたち増援が百人以上いるのだ。炊き出しや住人達のケアを任せられる。三弟子もついて来ていたから通訳も問題ないし、ワンヂェンも来てくれたので、怪我人も治せるので助かった。

 なので、会議が終わるとわし達は、バスに戻って惰眠をむさぼる。リータ達も疲れていたからか、バスで横になったらすぐに眠っていた。


 この日は本当に食っちゃ寝し、夜に会議だけしてわし達は……いや、この場に居る被災者と救助隊は、明日からの英気を養ったのであった。



 翌日……


 わしたち猫ファミリーは、バスの中で装備を整える。防具を身に付け、武器を持ち、気合いを入れてバスから降りる。

 わし達がバスから降りると同時に、車から降りて来た玉藻と家康が、わしと隣合って歩き、避難所の中央にて止まる。

 そこで、巨大タヌキ家康の肩に乗せてもらったわしは、音声拡張魔道具を使って被災者に語り掛ける。


『え~……初日に挨拶をしたけど、お初の者も居ると思うから、もう一度挨拶しておくにゃ。わしは猫の国、国王シラタマにゃ。ゆえあって、天皇陛下に協力を求められ、この場の統轄を任されているにゃ』


 天皇の名代の玉藻でも、元将軍の家康でもなく、他国の王が……いや、小さな猫が統轄と聞いて、被災者はざわめき出す。


『これから、ヤマタノオロチを殺すにゃ』


 さらに被災者の声が大きくなるが、わしは気にせず続ける。


『まぁ驚くのは無理もないにゃ。でも、わしは出来ない事は口にしないにゃ。わしのお供には、玉藻が居るにゃ。家康が居るにゃ。日ノ本最高家臣のいくさにゃ! 負けるわけがないにゃ~!!』


 わしが声を大きくすると、被災者の声は無くなった。


『いいにゃ? これから人智を越えた戦いが始まるにゃ。だけど焦らず、怖がらず、係の者の指示を聞いて、わし達を信じて見守っていてくれにゃ。応援してくれにゃ。さすれば、必ずやわし達が、ヤマタノオロチ首を取ってやるにゃ。にゃ?』

「「おう!!」」


 玉藻と家康の力強い返事を聞いて、わしは地面に降り立つ。


『いざ、出陣にゃ~~~!!』

「「「「「にゃ~~~!!」」」」」


 わしの叫び声に猫の国の者が大声で応えるが、玉藻と家康まで「にゃ~!」と言ってた事は気付かない振りをした。

 そうして被災者の励ましの声を聞きながらわし達は堂々と歩き、ヤマタノオロチに向かうのであった。



 瓦礫の町を突っ切り、海から中間地点まで走ると、わしはリータ達に指示を出す。


「たぶん、戦いの余波が浜松に迫ると思うから、にゃんとかここで食い止めてくれにゃ」

「はい!」

「私達に任せるニャー!」

「シラタマさんも、必ず生きて戻ってくださいね」

「わかっているにゃ。絶対に二人を未亡人にさせないにゃ~」

「あははは。帰って来たら、いっぱいサービスするニャー」

「私もお世話させていただきます!」

「それはお手柔らかに……じゃなく、行って来にゃ~す!!」


 わしがサービスを拒否しようとしたら、リータとメイバイの顔が曇り掛けたので、慌てて言い直す。せっかくの気合いがどこかに行かれても困るからだ。

 わしが走り出すと玉藻と家康も続き、凄い速さで駆けて、あっと言う間にヤマタノオロチを見上げる距離まで近付いた。



「あ~あ……にゃんで帰ってくれにゃいかにゃ~」


 山みたいに巨大な白いアンコウを見上げたわしは愚痴る。


「アレほどかっこつけておいて、いまさら何を言っておるんじゃ……」


 わしの愚痴に、玉藻が怒ったような目を向ける。


「だってにゃ~。一日空けたんにゃよ? 帰っていてもよくにゃい??」


 まだ愚痴を言うわしに、家康まで苛立った表情をする。


「お主が大将なんじゃから、しゃきっとせい!!」


 二人に怒られたわしは、やる気を出す。


「へ~へ~。わかりにゃしたよ~にゃ」

「「なんじゃその言い方は!!」」


 ちょっとやる気が薄かったせいで、二人の同時ツッコミを受けるわしであったとさ。



「さてと~。冗談はさておき、作戦はわかっているにゃ?」

「わかっておる」

「さっさと準備するぞ」


 ここで気を取り直して変身の解除!


 玉藻は5メートルの九尾のキツネに……

 家康は5メートルの五尾のタヌキに……

 わしは1メートルぐらいの三尾の猫又に……


 元の姿に戻ったわしは、念話で指示を出す。


「では、さっそく作戦開始にゃ~!」

「「おおぉぉ!!」」


 わしは玉藻の背に乗ると、家康はヤマタノオロチに向けて駆ける。遅れて玉藻は空を駆け、ヤマタノオロチの遥か上空でわしの合図を待つ。


 久し振りじゃけど、チャージ開始じゃ!


 わしは口に魔力を集め、雷に変換。魔力が足りなくなれば次元倉庫から補填し、ガンガン雷の威力を上げる。


 そうしていると、家康の攻撃が始まる。といっても、ヤマタノオロチの攻撃範囲の遠くから腹鼓はらつづみ。音を出して注意を引いてもらうだけなので、この距離なら反撃にあわないはずだ。

 その音で、八本の提灯ちょうちんは家康のほうに伸びているので、多少は注意が引けているように見える。


「まだか!?」

「もうちょっとにゃ~」


 いつ家康にヤマタノオロチの攻撃が及ぶかわからないので、玉藻が焦ったように声を掛け、わしは焦らず威力を加算する。それから十数秒……


「よし! いけるにゃ!!」

「ゴーーーン!!」


 わしの合図に、玉藻の咆哮ほうこう。その声を聞いて、家康は一目散にヤマタノオロチから離れた。


「投げるぞ!!」

「全力でいけにゃ~~~!!」


 玉藻は尻尾でわしを掴むと、凄まじい速度で急降下。ヤマタノオロチに向けて空を駆け、急転回してわしを放り投げ、遠くに逃げて行く。


 喰らえ! 【御雷みかずち】じゃ!!


「にゃ~~~ご~~~!!」


 急降下、猛スピードの最中、わしの咆哮と雷鳴が轟く。


 現在のわしの魔力、百倍もの魔力を乗せた【御雷】は、光の速度でヤマタノオロチに突き刺さり、貫通し、地面に激突。

 その余波は凄まじく、水蒸気爆発が起こり、全長300メートルはあるヤマタノオロチを包み込むスモッグが発生し、半円状の幕放電が出現した。

 その中は、灼熱。雷の温度がそのまま数秒残り、ヤマタノオロチを焦がす。


 周りにも余波は見て取れ、浜松に居る者は耳をつんざく雷鳴と、衝撃波を受けたらしい。その次の瞬間には、球体から幾千もの稲光が伸び、被災者は千手観音菩薩が化現けげんしたのだと、手を合わせて祈っていたそうだ。


 もちろんそれほどの衝撃波ならば、辺りにもたらす被害も大きい。地面は揺れ、木や岩、小石。様々な物が避難所に降り注ぐ。

 しかし、リータの指示を聞いたコリスとオニヒメの風魔法で、大きな物体は推進力を削がれ、避難所の手前で次々に落下する。その過程でコリスとオニヒメに直撃しそうな物体は、リータの盾とメイバイの猫の手グローブで弾かれる。



 【御雷】を使った当の本人はというと、発射の反動に吹き飛ばされ、幕放電に突っ込む事はなかった。しかし、威力と反動は同じこと。

 わしは物凄い速さでヤマタノオロチから離れ、空気の壁にぶつかり、骨を砕き、体のあちこちが切り刻まれてしまった。



「シラタマ~~~!!」


 玉藻は凄まじいスピードで空を飛ぶわしを追いかけ、口で受け止めてくれた。しかし、まだ運動エネルギーが残っていたので玉藻も制御不能。8の字を描くように回転し、玉藻は地面に打ち付けられてしまった。


「玉藻! 大丈夫か!?」


 そこに家康が追い付き、心配する声を掛ける。


「妾は大丈夫じゃが……」

「これは……」


 起き上がる玉藻は、口を開いてわしを優しく吐き出す。そのわしの姿に、家康は言葉を失う。


 わしの顔は黒焦げ。四本の脚は変な方向に向いており、真っ白な毛皮は真っ赤となっていたからだ。

 これは【御雷】を使った反動。巨象に使った時の反省を踏まえて肉体強化魔法を使っていたのだが、その時の魔力量から三倍も増えていたのを計算に入れ忘れていて、瀕死の重傷となってしまったのだ。


「シラタマ! いま治してやるぞ!!」

「死ぬでないぞ~~~!!」


 玉藻は呪術を使った治療を開始し、家康はわしを励ましてくれる。



 それからおよそ一分後……



「痛いの痛いの飛んで行けにゃ~」


 のほほんとした念話が二人に届き、わしは強烈な光に包まれた。


「ふぅ~。完全回復にゃ~」


 わしは首をコキコキと鳴らし、辺りを見渡す。


「生きておったか!?」

「死んだかと思ったぞ!!」


 そこには、驚く玉藻と家康の顔。なにやら心配してくれていたようなので、笑ってみせる。


「ちょっと三途の川を泳いで来ちゃったにゃ~。にゃははは」

「あれほどの怪我をしておいて、よく冗談が言えるな……」

「まったくじゃ……怪我もそうじゃが、一瞬で治すとは、お主はどうなっておるんじゃ」


 二人は化け物でも見るような目で見て来るが、この中で一番小さな愛らしい猫に、向ける目ではないはずだ。その事をとがめてやりたいところだが、喧嘩をしている場合ではない。


「それで……ヤマタノオロチはどうなったにゃ?」

「おお。そうじゃったな。いまのところ動きはないみたいじゃから、やったのであろう」

「ああ。間違いない。あれほどの威力の呪術に包まれたんじゃ。生きているわけがあるまい」


 玉藻と家康は報告してくれるが、わしは合点がいかない。


「ふ~ん……じゃあ生きてるんにゃ」

「は? 妾達の話を聞いておったか? 確実に死んでおる」

「どう見ても死んだじゃろう」

「だからそんにゃこと言うにゃ~!!」

「「あ……」」


 わしのツッコミと同時に、地震が起こる。そう、ヤマタノオロチが動き出したのだ。


「あれで死なぬとは……」

「どうなっておるのじゃ……」

「二人がフラグを立てるからにゃろ~~~!!」


 わしのツッコミは伝わらず。二人が散々勝ったと言ったから甦った事に気付いていない。こんな場面で言ってはいけない事を何度も言ったんだから、そりゃ生きてるよ。


「二人には責任取ってもらうからにゃ~? プランBに移行にゃ~!!」

「「おおぉぉ!!」」


 くして、わし達とヤマタノオロチの第二ラウンドは、地震と共に始まるのであった。

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