第二章 王都編 友達が出来たにゃ~
027 盗賊だにゃ~
「おっかさん。少し時間が掛かったけど、兄弟を迎えに行って来る。見守っていてくれ。行ってきます」
わしはおっかさんの墓(猫の石像)に手を合わせ、決意を報告すると、しっかりと戸締りをした我が家を後にする。人型(ぬいぐるみ型)のまま、森を駆け足で走り、途中出会った黒狼に声を掛け、森の出口近くまで辿り着く。
そろそろ森の出口じゃな。街道で人型は見られるとまずいかのう。元の姿に戻るか……ん? これは馬車か? 人がこんな森の中におる。ちょっと気になるから見に行くか。おっかさんを殺した奴らが、また来たのかもしれんしのう。
わしは探知魔法に引っ掛かった馬車の方向に移動する。ほどなくして、二台の馬車を発見した。
馬車はおったが、あれは道なのか? 馬車の幅、ギリギリじゃわい。どこに向かうんじゃろう?
わしはこっそり後をつけ様子を見る。すると馬車は、少し空間のある洞穴の前で停車する。
ここが目的地か。我が家より日当たりも悪く湿っていそうじゃわい。ここには住みたくないのう。おっと、他所様の家のレポートをしていたら、馬車から人が出て来た。
ガラの悪そうな御者じゃと思っておったが、馬車の中から出て来た奴らもガラが悪い。盗賊って奴か? まぁわしには関係ないし、先を急ごう。
わしは
むう……お仲間って感じじゃないのう。身なりの良い服装のかわいらしい女の子とメイド服みたいなのを着た女性……そこにガラの悪い男が十人。ここから導き出される答えは……誘拐か~。
面倒事は避けたいんじゃが、見てしまったものは仕方がない。助けよう。もし違っていてもわしは猫又じゃし、問題ないじゃろう……ハンターが討伐に来ませんように!
わしは次元倉庫から木刀を取り出し、盗賊の元に静かに走り寄る。盗賊はわしに気付かない。まだ気付かない盗賊をしめしめと、わしは女の子の近くにいる盗賊四人に、威力を抑えた【風玉】をぶつける。
盗賊が吹っ飛び、女の子達から離れたのを見てわしは女の子達に近付き、馬車の中に押し込んだ。
ふぅ。これで女の子達は安心じゃ。わしの顔を見てかなり驚いておったがのう。盗賊共は明後日の方向を見て何やら叫んでおるが、念話を使っておらんからわからん。
お、やっと気付きよった。それじゃあ、わしの虎鉄(木刀)の
盗賊はわしを囲み、何かを叫ぶがわからない。とりあえず、わしは小首を傾げて「にゃん?」と言ってみたが、怒らせてしまったみたいだ。
怒って剣を振りかぶるが、そんな遅い剣に当たるわしではない。振り終わるのをまたずして、わしの木刀が横一閃に盗賊の腹部を薙ぎ払う。
まずは一人。次は二人同時か……よっよっはぁっ! っと、面白いように吹っ飛ぶな。残りも血相変えてかかってきよった。遅い遅い、遅いわ! ふぁ……欠伸も出て来たし、トドメじゃ。
わしは三人の盗賊の攻撃をかわし、腹部を木刀で撫でる。盗賊はそれだけで、バタバタとほぼ同時に顔から倒れ込む。
うん。派手に吹っ飛ばすのも面白いが、刀ならやっぱりこの倒れ方が決まるな。これでこそ、侍って感じじゃ。かっこいい! けど……死んでおらんかな?
人間はさすがに食べたくないのう。こいつらは置いておいて、女の子に接触してみよう。
わしは馬車の入口に登る。すると女の子達は悲鳴をあげて、震えながら
わし、悲しい。ドンヨリじゃ。マリー達の最初の反応と大違いじゃ。こんな愛らしい猫又……じゃない! 人型じゃった。これじゃあ、怖がられても仕方がない。ぬいぐるみとさして変わらんのじゃが……
声を掛けて安心させるかな? 今こそ、駅前に留学した英語力を活かす時!
「ワシ、アにゃタ、タスケル、オーケーにゃ?」
ご察しの通り、こんなもんじゃ。べっぴんな異人さんに釣られて入ったが、もっと真面目に勉強しておけばよかった。この子達に通じているのかもわからん。
何か話しておるが、早くて聞き取れない。諦めて念話を使おう。猫かぶりモード発動!
「わしは悪い猫じゃないにゃ。君達に危害を加えないにゃ。だから驚かないで話を聞いて欲しいにゃ~」
「え? なに?」
「頭の中で聞こえる……」
「わしは今、念話で話し掛けているにゃ。わしの質問に答えて欲しいにゃ」
「念話……」
「……はい」
「外にいる奴らは、悪い奴らかにゃ?」
「はい」
「君達は悪い奴らに
「はい……他の者は殺されてしまいました」
「嫌な事を思い出させてごめんにゃ~」
「いえ、そんな……」
暗い顔をする二人にわしは謝る。その時、洞穴からガヤガヤと数人の盗賊が出て来た。その声に気付いた二人は顔色を変え、恐怖に震える。
「ちょっと行って来るにゃ。わしが守るから、安心してここに隠れているにゃ」
「「……はい」」
わしは洞穴から出て来た盗賊と対峙する。何か叫んでいるが、念話を繋げていないから所々しか単語は拾えない。
こ、こいつら……わしを指差して笑っておる。人に指差してはダメって親に習わんかったのか! 猫じゃけど……。こいつらはわしを怒らせた。わし、激オコじゃ!
一瞬で終わらせてやる。【風玉】×10じゃ!!
盗賊は、突如放たれるわしの【風玉】に反応も出来ず、一人を除き、吹き飛んでいく。
なんじゃ? 吹っ飛んでおればよいものを……。デカい奴が両手でしっかりガードしよったわ。
盗賊は怒りを
【風玉】を受けてピンピンしとるから期待したのに、こんなもんか。おっかさんを殺した騎士よりは小さいが、同じ大剣使いじゃから練習になるかと思ったが……残念じゃのう。
わしは盗賊の大剣をかわし、カウンターで強めに盗賊の腹を薙ぎ払う。盗賊はバウンドをしながら10メートルほど吹っ飛び、動かなくなった。動かなくなった全ての盗賊を横目に、わしは洞穴の中を確認する。
まだ人はおるかのう? 探知魔法オン! ……四人おるな。
わしはズンズンと奥に進み、四人を見つける。見つけた四人は全て女性で、檻の中に閉じ込められ、服を
なんと……ひどい……みんなボロボロじゃ。殴られた後もある。クソ! あいつら全員殺す……いや、被害者はこの女性達じゃ。わしの一存で決める訳にはいかんか……
わしは洞穴の中を見渡し、着る物を集める。さらに盗賊が集めたであろう武器、食料、目に付く全ての物を次元倉庫に入れる。その後、木の檻を腰に帯びている【白猫刀】で斬り、中に入る。
女性達はわしの姿を見て奥に逃げ出す。わしはそんな女性達に服を投げて、片言の英語で話し掛ける。
「着るにゃ~」
女性達は恐怖で震えているが、わしの指示に従い、服に腕を通す。全員が服を着るのを見て、わしは次の指示を出す。
「出ろにゃ~。行くにゃ~」
わしは洞穴の出口に向かう。女性達も不安な顔をしながらも、わしの後を追う。洞穴から出ると、また新た指示を出す。
「ここで、待つにゃ。森、危険にゃ」
女性達はコクコクと頷き、素直に従う。わしは気絶している全ての盗賊を、武器を没収してから洞穴に放り込み、土魔法で頑丈な
「お待たせにゃ。外に出るにゃ~」
わしは二人を連れて四人の女性の元に連れて行く。念話は人数が増えると情報量が増えて話し辛いので、二人には通訳をしてもらい、現状を説明する。
「みんなはわしが助けたにゃ。これからみんなを近くの街に送るにゃ~」
みんな半信半疑って顔じゃな。喜んでいいのか疑っていいのか混乱しておる。しかし、少女よ……「にゃ~」まで通訳しなくてもいいぞ?
「こんな猫だかぬいぐるみだかわらかない奴に言われても、心配なのはわかるにゃ。信じて欲しいにゃ。約束するにゃ~」
少女の肩が震えているけど……どうした? 通訳が終わったらみんな笑っておるし……ぬいぐるみ発言か? やっぱりぬいぐるみに見えるのか??
「もうお昼だし、ごはんにするにゃ~」
わしは皆の前に、次元倉庫に入っている盗賊から没収したパンを皿に乗せ、わしお手製黒鳥スープを取り出し、器に注いで並べる。皆、驚いて手を付けない。しかし、わしはお構いなしに食べ始める。
「いただきにゃす」
おお! パンじゃ! パン!! 夢にまで見た人間の食べ物! 約二年半ぶりか? 元の世界では米の方が好きじゃったが同じ穀物。嫌いじゃない。
まずは一口……堅いがパンの味。小麦の味じゃ。スープに付けて食べてみよう。……うん。いける! いけるぞ! あぁ……うまい!!
わしが涙を浮かべ、パクパクと食べていると、一人、また一人と食事に手を伸ばす。そして、わしの涙に釣られたのか、全員で泣きながら食べ続けるのであった。
わしだけ涙の理由が違う……なんかすいません!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます