254 最後の戦い


 演説が終わると、皆、戦の準備に取り掛かる。猫耳族は剣や鎧を装備すると、戦士の顔に変わった。

 わしは待っている間、暇なのでおやつをパクパク。これも準備だ。だから、ほっぺを引っ張らないで!


 皆の準備が終わると、一塊になるように集める。そして、大量に魔力を注ぎ込んだ大魔法を使う。


「土魔法【玄武】にゃ~~~!」


 わしの魔法に合わせ、猫耳軍の立つ土が盛り上がり、全員を乗せた巨大なスッポンが出現する。猫耳軍は、皆、何事かとしゃがみ込み、揺れに耐える。


 あら? さっきまで賑やかだったんじゃが、声が消えた。ノエミがまた気持ち悪い目で見ておるな。これは教えたところで、使えないんじゃが……


 わしが周りを見ていると、復活したコウウンが話し掛けて来る。


「王よ……これはいったい何が起こっているのですか?」

「でっかい亀の上に乗ってるにゃ」

「これが亀……」

「それじゃあ動かすから、みんにゃに、しがみつくように言ってくれにゃ」

「しがみつくにも、そんな事は……」

「あ、そうだったにゃ。落ちないようにするから、しゃがんでいるように言っておいてにゃ」

「はあ……わかりました」


 コウウンが猫耳軍に説明している間に、わしは落ちないように柵を作る。これで、多少揺れたとしても、落ちる事は無いだろう。

 準備が整うと、コウウンに目配せして発進。頷いてはくれなかったが、特に何も言われなかったので、そのまま発進した。


 【玄武】はわしの操作で、地響きを立てて前進する。あまりスピードを出すと酔いそうなので、上下運動が少ないように、慎重に操縦する。

 それでも、巨大な【玄武】は一歩が大きいので、すぐに視界に帝都を収め、そのすぐあとに、帝都の目の前に到着する。


 う~ん。高い壁が邪魔で、この高さでも中はギリ覗けないな。魔力をケチって平たいスッポンにするんじゃなかったな。まぁ千人も乗せるなら致し方ない。

 中は覗けないが、パニックになっているのは音でわかる。すんごい悲鳴と怒号があがっておるわ。


「コウウン。これぐらいおどせばいいかにゃ?」

「えっと……その……」

「にゃ~~~?」


 わしは前日に決めた作戦通りに事を進めたのだが、コウウンの反応が鈍い。


 コウウンの作戦の概要はこうだ。

 一万人の帝国軍を破ったが、わし達の軍の人数じゃとても信じてもらえない。そうなったら籠城し、帝国軍が戻るのを待つ作戦になる懸念があった。

 帝国兵は二千人と聞いてはいるが、大きな帝都の住人が敵に変わるとなると、どれぐらい兵が膨らむかわからない。


 ならばわしの力を見せて、一万人を容易に破ったと理解させてくれと言うのがコウウンの作戦で、それと同時に脅してくれと頼まれたのだが……


「やり過ぎです! こんな化け物が来たらパニックになるのは当然でしょう!!」


 と、怒られた。よかれと思ってやったのに……


「コウウンの作戦にゃ~」

「こんなもの、俺の作戦じゃありません! 火の鳥があったでしょ! アレを飛ばせばよかったんです!!」

「それにゃら、そう言ってにゃ~」


 どうやら、コウウンの作戦では【朱雀】で、帝都の門を吹き飛ばせばよかったみたいだ。


「もうやってしまったものは仕方がありません。帝都に降伏を呼び掛けてみましょう」

「わかったにゃ~」


 わしとコウウンは亀の頭に移動し、マイクスタンドと手すりを準備する。二人とも先端に乗ると、亀の頭を伸ばし、帝都がのぞき込めるまで高さを上げる。


「王よ……た、高いです……」

「あ、高いのダメにゃ? わしもにゃ~」

「あの……あとは頼みます」


 コウウンはそう言うと、へたりこんでしまった。


 わしも怖いと言ったのに……致し方ない。


『帝都のみにゃさ~ん! 元気ですにゃ~~~? みにゃさんの立派な軍隊一万人は、わし達に破れましたにゃ~』


 う~ん。外壁にいる見張りの男はこっちを見ておるが、口をパクパクしてるだけで、反応が無いな。違うアプローチをしよう。


「【朱雀】×2にゃ~」


 今度は、10メートルはある二匹の火の鳥を魔法で作り、帝都を低空飛行で飛ばす。二匹が逆回りに一周回ると、上空でホバーリングさせる。


『どうにゃ? 熱かったにゃ? いまのは序の口にゃ。帝都のみにゃさんには、選択肢をあげるにゃ。デカイ亀に踏まれて死ぬか、デカイ火の鳥に燃やされて死ぬか……それとも降伏するかにゃ。降伏するにゃら、猫耳族を正門から解放してくれにゃ。降伏したくにゃい人がいたら、無理にでも説得してくれにゃ。それが出来なければどうにゃるかわかるにゃ? 制限時間は三十分にゃ。急ぐにゃ~!!』



 わしの言葉を聞いた帝都の住人は、悲鳴をあげてパニックにおちいる。しばらく待つと怒号が聞こえ、また少し待つと門が開いた。そこから、猫耳族がチラホラと出て来て、徐々に人数が増えて来る。

 わしはそれを見て、【朱雀】を吸収魔法で消し去り、【玄武】の尻尾を地面に付けて、降りられるようにしてからコウウンに指示を出す。


 コウウンは、自分から亀の頭から滑り降りてくれなかったので、押すなと言われたけど、押せと言う意味と受け取り、押してあげた。

 凄い悲鳴をあげていたけど猫耳兵の手前、なんとか復活して皆に指示を出していた。全ての猫耳兵を【玄武】から降ろしていたけど、奴隷の受け入れにかこつけて、全員逃かしたみたいだ。


 わし一人、亀の頭に乗っているのは恥ずかしいので、リータ達を呼んでみた。ケンフだけ甲羅から動かなかったが、リータ達が来てくれたら問題無い。ノエミはいらないけど……


 どうやって亀を作るかと言われても、魔力が足りないじゃろ?


 ノエミはわしをポコポコするが、そんな弱い力じゃびくともしない。そうこう遊んでいると、一時間を計れる砂時計の砂が半分まで落ちる。おそらく制限時間がやって来たが、奴隷だった猫耳族は、まだまだ門から出て来ている。


「あにゃ? 時間配分ミスったかにゃ?」

「あれだけ大きい街ですからね。端から端まで遠いのでしょう」

「猫耳族もいっぱい居たニャー」

「それにパニックになってるからね。歩くのに時間も掛かるわよ」

「しまったにゃ~」


 わしの質問に、リータ、メイバイ、ノエミが、各々納得できる意見を言ってくれたので、わしは再びマイクを握る。


『え~。帝都のみにゃさん。制限時間を過ぎましたけど、攻撃はもう少し待ちますにゃ。ただし、猫耳族は一人残らず外に出すにゃ。もし、あとで見付けた場合、連帯責任で帝都に火の鳥を落とすにゃ。何処で何百人死ぬかわからにゃくなるから、気を付けるにゃ~』



 また三十分待つと、門から出て来る猫耳族の数が減り、しだいに止まる。それを見て、マイクを握り、語り掛ける。


『これで全部かにゃ? これから街に入り、制圧するけど、あとで確認するからにゃ~? そこで見付けた場合も、連帯責任で百人ぐらい殺すからにゃ~? それじゃあ、猫耳軍……行きにゃ~す!』


 わしは【玄武】の首をゆっくり下げて、地に降りる。そして、両隣にリータ、メイバイ、その後ろにノエミと、慌てて降りて来たケンフが続く。


 門に近付くと、コウウンとシェンメイが猫耳軍、五百人を引き連れて、駆けて来た。


「奴隷だった者はどうなったにゃ?」

「ただいまワンヂェン様が見ております」

「忙しいにゃら、兵をそっちに割いてくれていいんにゃよ?」

「最後の戦いに、我ら猫耳族の猛者が出ないなんて出来ません。ただでさえ、王、一人に戦わせているのですからね」

「気にするにゃ~」


 わしとコウウンの会話に、シェンメイが加わる。


「気にするわよ。この前は、ケンフがおいしいところを持って行ったんでしょ? 次は私にも強い敵をちょうだい」

「いいんにゃけど……コウウンもやりたいにゃ?」

「腕が鳴ります」

「「フフフフフ」」


 笑い方が怖い……この二人は好戦的だったんじゃな。今までよく我慢していたもんじゃ。ストレス発散に任せるか。


「このブレスレットを渡しておくにゃ。【肉体強化】の魔法が入っているから、危ない時には使うにゃ」

「「はい!」」

「じゃあ、露払つゆはらいは任せるにゃ~」

「「はっ!」」


 わし達は、コウウンとシェンメイを先頭に、猫耳兵に守られて門を潜る。帝都に入ると、襲い掛かって来る敵はおらず、二人の尻尾がしおれていた。

 どうやら、わしの脅しが効いたみたいで、帝国兵は民衆によって取り押さえられたみたいだ。辺りを見渡すと、そこかしこに縄で縛られた男達がいる。


 中に入ったものの民衆は見当たらず、どこに向かっていいかわからないので、ケンフに道案内をしてもらう。 

 ケンフは一言「ワン!」と言って、尻尾を振りながら先頭に走って行った。なのでわし達は苦笑いで、それを送り出す。


 ケンフの案内で帝都の大通りを歩き、窓から眺める民衆を他所に、猫耳軍は皇帝の住まう宮殿に向けて一直線に歩く。

 しばらく歩くと宮殿が見え始め、その門の前には、帝国兵が守りを固めていた。


 およそ千人か? 籠城すればいいものを、出て来ているって事は、それほどの自信アリか? まぁ倍の兵力差なら、撃ち破ったほうが早いか……



 帝国兵との距離が近付くと、コウウンが停止の号令を掛けるので、わしはそのまま間を抜けて最前列に躍り出る。すると……


「「「「「猫!!」」」」」


 と、帝国兵は騒ぎ出す。


「言われなくとも、わかっているにゃ~! それで、まだわし達とやり合うにゃ? 返答は如何ににゃ!!」


 わしの問いに、帝国兵は笑う者、怒る者と、よりいっそう騒がしくなるが、立派な髭を生やした軍服の男が声をあげながら先頭に立つと、ピタリと止まった。


「あにゃたが、ガクヒ将軍かにゃ?」

「猫が喋った!!」


 くっそ~……ついさっきまで冷静そうじゃったのに、なんでここで驚くんじゃ。理由はだいたい察しが付くがな。猫じゃもん。


「気持ちはわかるけど、いまは置いておいてにゃ~」

「あ、ああ。私がガクヒだ。先程の返答だが、答えは『馬鹿め』だ。これでいいか?」

「どっちが馬鹿か、やり合わにゃくてもわかるんだけどにゃ~」

「そうだな。だが、帝国兵は皇帝に忠誠を誓っている。それ以外の言葉を持ち合わせていない」

「本当に馬鹿にゃ……。それじゃあ、頑張るにゃ~」

「フッ……そうさせてもらおう。全軍、抜刀!!」


 ガクヒ将軍の声で、帝国兵は得物を抜く。


「コウウン。やれにゃ」

「はっ! 全軍、構え~~~!!」


 わしの指示を聞いたコウウンの声で、猫耳兵も得物を構える。


「「突撃~~~!!」」


 こうして二人の将の号令で、最後の戦いが始まるのであった。

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