480 エルフの里の代表選びにゃ~


 猫の国、最高戦力を前にして宮本武志たけしが自信を無くしてしまったので、訓練生を相手にさせて自信を取り戻してもらった。すると何人か辞退していたので、イメージでも体を真っ二つにされる事は、こたえたようだ。

 宮本も、リータ達と同じ扱いで訓練生を扱ったので、ちゃんと斬れた事に安堵の表情をしていたけど、まずは手足からって言ったじゃろ? 辞退した人以外は、気絶してしまったじゃろ!!


 とりあえず、今日はドクターストップ。イメージだけでも死にかねないので、リータ達と手分けして活を入れて起こしてあげた。

 それから、恐怖体験はこれからの糧になるからその体験は忘れず、心を強く持つように励まし、皆に温かいスープを支給した。

 残暑厳しいのに、全員、漏れることなく震えていたので、最良の処置だ。


 今日は終了と言ったのに、リータとメイバイは宮本に頭を下げて、何度も殺気の剣で腕を斬らせていた。ただ、避けずに我慢して受けて痛そうにするメイバイと違い、リータは斬られてもケロッとしているので、この訓練が上手くいくかは謎だ。

 まぁメイバイもマスターするにはまだまだ時間が掛かりそうなので、ハッキリわかるのは、その時が来ないとわからないだろう。


 その他に頑張っているのは、シェンメイとケンフ。シェンメイは歯を食い縛り、必死にマスターしようとしているが、ケンフはキモい。なんか斬られて喜んでいるから、バトルジャンキーには楽しい修行のようだ。

 ムキムキ三弟子は、わしに何か教えてくれと寄って来たから突き放す。宮本の剣をマスターしたら、見てやると言っておいた。イメージでも、何度も腕や足を失うのは嫌なのか目を潤ませていたけど、無視してやった。


 宮本武志の侍講習はこの日以降、怖がられて敬遠されるかと思ったが、意外と人気で、他国からも多くの人が集まって来るのであった。



 侍講習の次の日……ようやくエルフ組の里帰り。リンリーは猫の国の研修が残っているので、関ヶ原での護衛に雇ったヂーアイと男二人を三ツ鳥居から送り届ける。

 ちなみに、今日はわしだけで行くと言ったのに、猫ファミリー全員で行く事となった。夜までサボろうと思っていたのに……


「そう思ってですよ~」

「シラタマ殿の考えなんて、わかりきってるニャー」


 という理由で、リータとメイバイはついて来たようだ。拒否すると怒られそうなので同行を許可した。


 エルフの里、おさの白い屋敷に着いたら、里の重鎮を集めてもらって会議。ヂーアイが長の座を下りると発表したら、どよめきが起こった。

 何やら止めたり泣いたり土下座したり、必死にヂーアイを引き留めていたところを見ると、ヂーアイはさぞかし愛されていたのだろう。


 我等のアイドルって……このしわくちゃババアが? 昔は綺麗だったって……この梅干しババアが? それ、知ってんのお前達だけじゃね??

 てか、じいさん達の嫁も健在じゃろ? あわよくばって……枯木ババアとできんの!?


 重鎮はジジイしかいないと思っていたら、どうやらヂーアイのファンだったとのこと。それも、恋仲になれないかと、虎視眈々こしたんたんと狙っていたようだ。

 なので、誰も代表になりたがる人がいない。頼んでも、面倒とか言って来やがる。ヂーアイがいなくては、野心もやる気も枯れ果てたようだ。


 ならば、候補を出せと命令して一次解散。お昼過ぎに書類を提出してもらうので、その間、ダラダラ……


 ダメ? でも、やることないよ? 白銀猫に会いたいじゃと!? 待って! まずは兄弟達でお試ししてから行きましょうよ~。じゃないと、殺されかねないですから~。ね?


 西に向かうリータ達を、必死の説得で止めたわしは、別荘にてダラダラと…… 


 ダメ? 体を動かしたい?? 相変わらず脳筋ですね……待って待って! ぎゃ~~~!!


 不穏な事を考えてしまったわしは、リータ達の訓練に付き合わされる。わし抜きのパーティ戦闘で、敵は魔王を想定しているらしいけど、わしを魔王認定しないで欲しい。

 まぁわしに掛かれば、四人相手取っても余裕だけど、なかなか手強い。リータの足止め、メイバイの素早い崩し、オニヒメの折紙魔法。その攻撃を捌き損ねると、素早いコリスがわしにダメージを与えようとする。

 その騒ぎを聞き付けたエルフ達が、わし達を囲んでやんややんやの大騒ぎ。リータ達が疲れると、エルフパーティがわしに手合わせをお願いしてくる始末。


 別にいいんじゃけど……全員で来ないでくれる? リータ! いつの間に、軍隊まで統率できるようになったんじゃ!!


 エルフ総出で魔王討伐に発展し、わし達の戦いは大盛り上がりに続くのであった……



 コリス時計が鳴ると、訓練は終了。襲い掛かる全員を【突風】で吹き飛ばしてやった。さすがに一時間を超える戦闘は、皆、こたえたようで、地面に倒れて動けなくなっていた。

 なので、さっさと撤収。コリスにリータとオニヒメを担がせ、わしはメイバイを担いで別荘に走る。

 そこで、楽しくランチ。さっきの戦闘を反省するリータとメイバイは放っておいて、コリスとオニヒメに餌付けする。


「あ~ん」

「にゃんでババアまで口を開けて待ってるんにゃ~!!」


 ババアに餌付けする趣味のないわしは、ヂーアイに皿を突き出し、勝手に食べさせる。


「しかし、本当に里の者全員でも、シラタマ王を倒せないとは思いもしなかったさね」

「やっぱりババアが関わっていたんにゃ……リータが指揮してるには、上手すぎると思ってたんにゃ~」

「いいや、わたすは通訳をしただけさね。あの戦闘は、全てこの子の才能さね」


 マジか……何回か危ない場面があったぞ? 本当に、リータは何を目指しておるんじゃろう……王妃じゃよね??


 わしがリータをジト目で見ても、メイバイとわしの倒し方について話が弾んでいて気付かない。なので、ヂーアイとの話に戻って代表候補の選考について質問すると、目を逸らされた。


「わし、命令したにゃろ? にゃのに、遊んでるわメシは食ってるわ……」

「さて、わたすはやる事があるから先に失礼するさね」

「逃げるにゃ~~~!!」


 ヂーアイは料理の皿を膝に乗せるだけ乗せて、凄い速度で車イスを走らせるのであった。



 まだ食事の途中だったわしは、ババアのケツを追う事はせずに、ムシャムシャ食べる。そうしてお腹がいっぱいになると、縁側でお昼寝だ。

 どうせ屋敷に行ってもまだ何も決まっていないだろうから、呼びに来るまで放置だ。これは、リータとメイバイのせいでもあるので、特に怒られる事もなく、膝の上で寝るわしを優しく撫でてくれた。たぶん反省しているのだろう。


 それから三時頃になると、ヂーアイの使いの者がやって来たので、おやつを食べてからズカズカと屋敷に乗り込んだ。


「これが候補さね」


 ヂーアイが差し出した木簡もっかんには、漢字の名前が書かれているみたいだが、達筆すぎてさっぱりわからない。なので、名前を読ませてどんな仕事をしているかを聞いて、自分のノートにメモを取る。


「にゃるほどにゃ~。このシウインにゃんか、人を多く使う仕事をしていたからよさそうだにゃ~。でも、全員の横に×が付いてるのはにゃんで?」

「それは断られた印さね」

「……い、いまにゃんと言ったにゃ?」

「だから断られ……」

「にゃ~~~!」


 時間の無駄に付き合わされたわしは、激怒してノートを破り捨て……るのは、もったいないので、頭をガシガシ掻きむしって気持ちを落ち着かせるのであった。


 わしの御乱心が終わり、リータが毛並みをくしで直してくれていたら、ヂーアイは申し訳なさそうに頭を下げる。


「す、すまないさね。なにせ、自分が里の大役をこなすなんて、これっぽっちも考えていなかった者達なんさね。いきなり言われて、即答なんて出来ないだろう」


 たしかに、いきなり市長や知事をやれと言われても、はいそうですかとはいかんか。でも、わしはこの里の者の人となりを全然知らないからな~……何度かヂーアイに説得してもらうしかないか。

 にしても、これだけの候補が居るんじゃから、一人ぐらい「里の為」とか言って、立ち上がってくれてもいいのに……

 もしくは、「里は今日から俺の物だ、ひゃっほ~!」とか言うバカとか……バカはいらんか。バカじゃなくて、野心家の一人ぐらい居ないのか?


 このままじゃ代表ひとり決めるにも時間が掛かるし、ヂーアイに任せるのも嫌々押し付けられたり、力量不足の人選になりそうじゃな。

 何かいい手は……バカの炙り出しでもしてみるか?



 わしが腕を組んで考えていたら、リータとメイバイに撫でられてゴロゴロ喉がなる。そうしてわしは二人の手を同時に掴んで止めると、考えを述べる。


「第一回、エルフ総選挙を開催しますにゃ~」

「「「「選挙??」」」」


 皆、聞き慣れない言葉に、聞き返して来るのでわしは詳しく説明する。


「投票で、二人の代表を決めるにゃ。リータとメイバイは、猫会議での話を覚えてないかにゃ?」

「十年後にやるとか言ってたアレですか……」

「あ! 言ってたニャー!」

「それにゃ。今回は立候補者無しで、この里を治めるにゃら誰が適任かを書いてもらうにゃ。言うなれば、人気投票みたいなものにゃ。その1位と2位が代表にゃ。選ばれた人は、多くの人に頼まれたようなもんにゃから、断りづらいし手を抜く事も難しいんじゃないかにゃ~?」


 わしが悪い顔で笑うと、リータとメイバイは呆れ顔。ヂーアイ達は、王様のわしの案だし、他の案もないので、首を縦に振るしかなかった。



 それから制度の作成。里の全員といっても、あまり年寄り過ぎると、勉強も変わり行く里の状況にもついていけない可能性もあるので、候補者を絞る。

 正直、エルフの寿命がどれぐらいあるかわからないので、どこで区切っていいのかわからない。なので、一番下の重鎮の年齢が251歳だったので、250歳で線引きしてみた。


 ルールについても話し合い、わしの案をゴリ押しして、この日の内に発表。エルフ達は驚いて、どう反応していいかもわからないようだ。

 しかし、決定事項だ。票の多い者には絶対に代表になってもらうと念を押し、以前お願いしていた木材を大量に次元倉庫に入れて、わし達は猫の街に帰るのであった。

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