479 呪術と剣の訓練にゃ~


 日ノ本から帰って来てから数日……


 仕事もほとんど終わってしまったのでやる事がない。かといって、サボッているとリータ達が睨んで来るので、基本的にわしは魔道具研究所にこもっいる。

 オニヒメも毎日わしについて来ているので、文字を教えたり、一緒に研究なんかもしている。


「おお~。わしより遠くに飛んだにゃ~」

「えっへん」


 別に紙飛行機が遠くに飛ぶような研究をしているわけではない。


「また遊んでるの? ちらかって迷惑だから、他でやってくんない?」


 ノエミがとがめて来るが、遊んでいるわけでもない。


「だから、紙で遊ぶな!!」


 怒鳴られても、わしとオニヒメは研究を続けるので、ノエミはため息を吐いて離れて行った。


「やっと出来たにゃ~」

「できたにゃ~」


 わしとオニヒメが研究の成果に喜んでいると、ノエミはわし達の研究が気になってやって来る。


「うるさい! 騒ぐならどっか行って!!」


 いや、迷惑だから、追い出しに来たようだ。


「怒んないでにゃ~。わしとオニヒメの研究が、ようやく花開いたんにゃ~」

「研究? その鳥みたいなのが??」

「そうにゃ。危にゃいから庭に行こうにゃ」


 とりあえず、冷めた目で見て来るノエミと無表情なオニヒメの手を引いて庭に向かうと、何故か他の魔法使いもゾロゾロとついて来た。

 庭に出たら土魔法で大きな岩を作るのだが、魔法使いから悔しそうな声が聞こえて来たので、魔力が少ないからこれほど巨大な土の塊は作れないのだろう。


「さて、オニヒメ……やっちまいにゃ~!」

「うん! 【千羽鶴】にゃ~」


 オニヒメが魔法を使うと、ショルダーバッグの中から、わらわらと折鶴が出て来る。その折鶴はバタパタと空を舞い、オニヒメの周りを旋回する。ちなみに【千羽鶴】という魔法名だが、本当に千羽もいない。二十羽程度だ。

 折鶴は、オニヒメが扇子を前にかざすと一直線に空を舞い、くちばしを前に突っ込んで、次々と岩に突き刺さった。


「おお~。いい感じだにゃ。じゃあ、次は翼の強度にゃ~」

「いっくにゃ~」


 オニヒメが扇子を回すように動かすと、二十羽の折鶴は岩を中心に回転し、しだいに距離が近付き、回転ノコギリのような音を発する。

 そこからオニヒメは扇子を立てたり斜めにしたり、まるで踊るように動いていたら、巨大な岩は半分ぐらいの大きさになったのであった。



「うんにゃ。もうそんにゃもんでいいにゃ~」

「うん! かえっておいでにゃ~」


 オニヒメが扇子をパタパタと扇ぐと、折鶴はショルダーバッグに向かって飛び、次々と中へと消えて行った。


「よしよしにゃ~」

「えへへ~」


 魔法の成功に嬉しそうな顔をしていたオニヒメの頭を撫でると、さらに満面の笑みになる。そうしていたら、何やらブツブツ言っていたノエミがようやく復活した。


「さっきのって……あんな遊びで出来るようになったの?」

「遊びじゃなくて、研究にゃ~」


 鶴の折り方は思い出せなかったので、日ノ本出身のつゆに聞いたところ、つゆも忘れていた。

 しかしムキムキ三弟子に聞いてみたら、マッチョな人間とタヌキとキツネのくせに、綺麗に折ってくれたので、わしが思い出したていでオニヒメに教えてあげたのだ。


 飛行機を投げていたのも、本当に研究だ。折鶴を飛ばす予定だったので、紙で出来た飛行機はどのように飛び、曲がり、落下するかのイメージ作りをさせていたのだ。

 ちなみに扇子は、特に意味はない。着物姿のオニヒメに持たせたらかわいいかなと思っただけだ。だけどオニヒメからしたら扇子があったほうが、魔法が使いやすそうに見えた。


「本当に研究してたんだ……」

「失礼にゃ~! そんにゃこと言うにゃら、教えてやらないにゃ~!!」

「うそうそ。謝るから教えて~!」


 ノエミが謝って来たので、仕方なく講習会。折鶴は難しいので、紙飛行機で説明し、皆も二機ぐらいなら簡単に操縦していたが、オニヒメより威力で劣るようだ。

 ノエミはなんとか岩を傷付けられたが、他は木を傷付ける程度。戦闘に使えるかどうかは、これも要研究となっていた。



 これで暇潰し……もとい! 魔道具研究所での面白そうな事は終わったので、少し早いがお昼を食べに帰る。そこで、庭が騒がしかったから訓練場に寄ったら、宮本武志たけしの侍講習の日だったようだ。


 あら? 今日だったのをすっかり忘れておったわい。リータ達も参加していたみたいじゃな。皆、疲れているように見えるけど、どんな練習メニューだったんじゃろう?


 わしとオニヒメが近付くと、リータとメイバイが気付いたようで、わしを手招きする。


「どうかしたにゃ?」

「ミヤモト先生は、どうして私より早く攻撃に気付くのですか!」

「さっぱりわからないニャー!」

「それは先生に聞いてくれにゃ~」


 どうやら宮本は教え方が下手らしく、教える方法も思い付かないので、全員相手取って実践訓練をしていたようだ。

 それなのに、誰ひとり宮本に剣を当てられなかったので、悔しくてわしに泣き付いているみたいだ。


 なので、宮本も誘ってランチ。その席で詳しく話を聞く。


「宮本先生は、どうやってその剣を身に付けたにゃ?」

「どうやってと言われても……必死に生き残ろうとしただけだからな~」

「このご時世に、真剣でやりあってたんにゃ……」

「あ……いまのは、日ノ本では内緒にしておいてくれ。そんなの知られたら、しょっぴかれてしまう」

「まぁいいんにゃけど……五輪書ごりんのしょはどうしたにゃ?」

「あんなもの、難しすぎて読んでられるか」


 おお~い……子孫じゃろ? 子孫が諦めてどうするんじゃ。てか、それも読まずに、独学で宮本武蔵に追い付いたってのも凄いな。だから、教えるのも下手なのか……


 宮本の聞き取りをしてもらちがあかないので、リータとメイバイにわかりやすく説明してみる。


「う~ん……要するに、殺気のようにゃ物を正確に捉えて、その動きの前に動いているんにゃ」

「殺気ですか……そんなのありました?」

「わっかんないニャー。ケンフ達ならまだ感じたのにニャー」

「ですよね? 動きも気配もなく、目の前に竹刀がありましたよね?」

「そうそう」


 ダメじゃ。宮本先生が達人すぎて、順序が何段も飛んでおる。わしもじい様や伊蔵いぞう、タヌキ副将と闘っていなかったら、同じ結果になってたかも?


「じゃあ、宮本先生が殺気を出したらいいんじゃにゃい? 難しいかにゃ??」

「拙者の殺気か……あまりやりたくないんだが……」

「にゃんで~??」

「殺気を出すと、立ち会いが面白くなくなってしまうのだ。こんなふうに……」

「にゃ!?」


 わしが首元の空気を握るような素振そぶりをすると、宮本は大笑いする。


「わははは。流石さすがは一番弟子。受けるどころか、握り潰されてしまったわ」


 ビックリした~……一瞬、首を落とされるかと思ったわい。ガードが間に合ったからよかったけど……じゃない!

 いまのなに?? 宮本先生は刀を抜いてなければ、椅子から腰も上げてもいない。なのに、斬られるイメージがあったし、肉球に刀の感触が残っておる……


 わしが手をグッパーグッパーしていると、リータとメイバイが首を傾げながら尋ねる。


「驚いた顔をして、どうしたのですか?」

「ミヤモト先生も、なんで笑っているニャー?」

「……二人は、にゃにも気付かなかったにゃ?」

「「??」」


 わしが質問しても首を傾げるだけので、やった本人に聞いてみる。


「いまのにゃに? にゃんで動いてもいにゃいのに、わしは斬られそうに思って、手に感触も残っているにゃ??」

「拙者も説明する口を持ち合わせていないからな……しいて言うならば、拙者が殺気を出すと、意思が先行してしまうと言っておこうか」


 意思が先行する……か。たしかに、言い得て妙。殺気がそのまま未来を描いた感じじゃったな。


「にゃるほど~。とても面白い技にゃ~」

「技?? 拙者のこれを喰らった者は、気絶するか、卑怯だとののしるのに、殿は技と言うのか??」

「だって、フェイント……見せ技に使えるにゃろ? 避けたり、変にゃ体勢になったら、万々歳にゃ~」

「わははは。そんな使い方、思いもしなかった」

「そうにゃの?」

「これを喰らって、反応できる者がまったくおらなんだからな。それに斬り合いにならんと楽しめない。拙者の禁じ手としておるのだ」


 なるほどのう。殺気ひとつで斬られる事を想像させられたら、勝負どころじゃなくなるな。それも、リアルな感触で斬られたら、感受性が豊かだったら死んでしまうぞ。


 わしがウンウン頷いて宮本と話を弾ませていると、それを念話で聞いていたリータとメイバイが、ちんぷんかんぷんって顔で説明を求めて来る。


「いったいなんの話をしてるんですか~」

「何かされたなら、教えてニャー」

「あ、ああ……」


 とりあえず二人に説明してみたところ、上手く伝わらない。なので、ムキムキ三弟子を呼んで、宮本の殺気の剣を喰らってもらった。


「「「ぐわ~~~!!」」」


 宮本は動いてもいないのに、同時に倒れるキツネとタヌキと人間。リータとメイバイは説明を聞いていたのに、それでも信じられないって顔をする。


「よっと……生きてるにゃ。斬られた感触があったにゃろうけど、それは嘘にゃから、忘れるんにゃ。あ、忘れる前に、その感触をリータ達に教えてあげてにゃ~」


 ムキムキ三弟子に活を入れてから説明させている間に、わしは宮本に提案する。


「わしが思うに、侍の剣ってのは、命のやり取りを日常的にしてないと覚えられないんだと思うにゃ。だから、その殺気の剣を何度も喰らわせれば、目覚めるかもしれないにゃ」

「ほう……面白い修行方法だな。だが、下手したら死んでしまうぞ? 殿はそれでいいのか?」

「そこは手でも足でもあるにゃろ~? 急所を外してやれにゃ」

「ふむ。やるだけやってみよう」


 わしと宮本が話をしていると、それを聞いていたリータとメイバイが試してみたいと言うので、訓練場に戻る。



「では、リータからやってみるにゃ~」

「はい!」


 本当は愛する妻に、そんな怖い訓練はして欲しくないが、わしが止めても聞く耳持たず。これで強くなれるとリータは覚悟を決めて、宮本の殺気の剣で斬られる。

 リータが終わるとメイバイ。メイバイが終わると、なんとなくコリスもやりたいと言って来たので、絶対に反撃するなと言って、コリスも斬られる。


「な、なんだその女子おなご達は……」


 その結果、宮本が死ぬほど驚いた。


 一番手のリータは……


「あ! ……あれ??」

「嘘だろ? 山を斬ったかと思った……」


 殺気の剣は、頑丈な体に触れて傷は付かず。


 メイバイは……


「わ! ……避けちゃったニャ」

「拙者の剣速が……」


 殺気の剣は、人の反射神経を超えるスピードで避けられる。


 最後のコリスは……


「いた~い!」

「ぬおっ!?」


 殺気の剣は、コリスの肌を腫らしたようだが、素早い反撃に宮本の防御は間に合わなかったので、わしが止めて撫で回す。

 それから「ホロッホロッ」と嬉しそうなコリスの声を聞きながら、先ほどの宮本の質問に答える。


「猫の国王族は、みんにゃ凄いんにゃ」

「拙者の剣が通じない者が、こんなに居るのか……」

「あと、リンリー達も来てくれにゃ~」


 ついでに訓練を見ていたエルフ組も呼んで、殺気の剣を全て避けられた宮本は、物凄く自信を無くしたのであった。

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