053 最終回かにゃ~?
さっちゃんの双子の姉はさっちゃんに抱きついたまま、いっこうに泣きやまないな。綺麗な顔が、涙と鼻水でべちゃべちゃじゃ。さっちゃんの服は……ご愁傷様。
ここまで泣いて心配するって事は、暗殺には間違いなく
「いたっ! なにするんじゃ」
わしがさっちゃん達姉妹を温かく眺めていると、突如、エリザベスのネコパンチがわしに炸裂した。
「あんた。あの二人が黒幕って言ってたわよね?」
「まっさか~。あんなに仲がいい姉妹が、そんな事するわけがないと言ったはずじゃ」
「それ言ったの、俺とエリザベス……」
「そうよ! それなのに注意しろ、注意しろって……」
「そんなこと、言ったかいの~?」
「「言った!!」」
「すいませんでした!」
猫に怒られてしまった。わしは元人間なのに……
「お姉様。もう離してください」
「ぐすっ……ごめんね~」
「ぐすっ……心配だったの~」
「わかりましたから、泣きやんでください」
わし達兄弟と違って、あっちは仲良さそうじゃのう。エリザベスも昔はかわいかったのに……今もかわいいです! そんな目で見ないでください! ……こいつ、絶対わしの心を読んでおる。
「あなたがシラタマちゃんね」
「サティ……サンドリーヌを守ってくれたそうね」
ん? さっちゃんのお姉さんが話し掛けて来たぞ。猫に話し掛けるとは、変わっておるのう……周りにけっこういるな。まぁ挨拶ぐらいしとくか。
「にゃ~ん」
「シラタマちゃん。そんなに警戒しなくていいのよ」
「お母様から聞いてるから喋ってちょうだい」
女王が? 何を勝手な事を……てか、信じられるのか? さっちゃんに助けを……なんか
わしは次元倉庫から清潔な布を、二人の頭にふぁさっと落とす。そして念話で話し掛ける。
「なに?」
「布?」
「ハンカチにゃ。綺麗な顔が台無しにゃ」
「頭の中で声がする」
「ハンカチ?」
「シラタマちゃん?」
「そうにゃ」
「「なにそのキザなセリフ~! アハハハハ」」
これが孫が言ってたシンクロ攻撃か……よかれと思ってやったのに、そんなに笑わんでも……恥ずかしい!
「「アハハハハ」」
「そろそろ笑うのはやめて欲しいにゃ~」
「アハハ……綺麗な顔が……」
「ブフー……思い出させないで」
泣いたり笑ったり、忙しい双子じゃな。じゃが、間違いなくさっちゃんの遺伝子が入っているのはわかった。
「もう話さないにゃ」
「あ~。ごめんなさい」
「猫にそんなこと言われたの初めてだから……ごめんなさいね」
「ちょっと失礼するわね」
わしは二人に抱き抱えられる。二人の綺麗な顔が近いから少し照れてしまう。
「それじゃあ、改めまして……」
「シラタマちゃん、サティを守ってくれて……」
「「ありがとう。チュッ」」
「にゃ、にゃ~~~!」
「照れてる」
「かわいい」
そりゃ、こんなべっぴんさんにいきなり両頬にキスをされたら照れるじゃろう。あ、二人して抱きしめないで……。女王に似た立派なお胸が……
「サティに飽きたら、わたくしのところに来てもいいのよ?」
「わたくしのところでもいいわよ?」
「むぅ……お姉様! わたしのシラタマちゃんを取らないで! シラタマちゃんも鼻の下を伸ばさないの! この浮気猫~~~!!」
そんなに顔に出ておったか? 出ていたかも……双子のシンクロ攻撃、恐るべし。
「あら? 男を口説くのに許可が必要かしら?」
「サティがわたくし達に勝てるかしら?」
「お姉様の意地悪……」
さっちゃんが押されておる。ここは助けておかないと後が怖いな。
わしは双子の胸から飛び降りて、さっちゃんの胸に飛び付く。
「あら。振られてしまいましたわ」
「残念ですわ」
「シラタマちゃん。チュッ。エヘヘ~」
「それでは行きましょうか」
「お姉様、どちらに行かれるのでしょうか?」
「サティの部屋よ。あなたは女王になるのですから、わたくし達がしっかり教育してあげますわ」
「え?」
「これから忙しくなりますわ~」
「ええぇぇ~~~!」
わしは野生の感で危機を察して、さっちゃんの腕の中から飛び降りた。そしてさっちゃんは、売られて行く仔牛のような目で連れ去られて行った。
「シラタマちゃ~~~~ん!」
さっちゃんが遠く離れて行くと、わしを呼ぶ声が城に響き渡るのであった。
さて、今日はドロテの部屋にでも厄介になろうかのう。
城に帰ってからの一週間、朝になるとさっちゃんの部屋に、双子王女が毎日現れた。
双子王女のスパルタ指導がうるさく、さっちゃんの部屋ではゆっくり出来ないので、バルコニーにネコハウスを出して兄弟達と寝る事にしが、わしだけ双子に捕まった。
さっちゃんが人型になれる事を密告しやがった。何故そんな事をしたかと尋ねたら、一言、「裏切り者」とだげ言われた。
裏切り者はさっちゃんじゃ! そのせいで双子に挟まれチヤホヤ……いや、イチャイチャ……いや、モフモフされまくった。
さっちゃん。頼むからわしの絵を描いて、ペンで突き刺さないでくれ。
結局、わしも一緒に勉強させられるハメとなってしまった。
王族や貴族の名前の書き取りや、家門の暗記はわしには関係無いんじゃが、双子とさっちゃんが許してくれなくて、泣く泣く勉強させられた。
テストでもいつも負けておる。つい最近、文字と言葉を覚えたんじゃ。勘弁してくれ。
だが、歴史の授業は面白かった。この国の成り立ちや世界史等を習った。どうもこの世界では、突然文明が崩壊して、人間の住める場所が減っていっているみたいじゃ。
なんでもこの国を最東に、隣接する西と南にある国から先は小国が並び、それ以外は黒い森が広がって浸食しているらしい。その森があった場所は、文明があったらしいが、千年以上も昔の話で失伝しているとのこと。
わしの生まれた山の東にも文明があったらしいが突然滅び、それ以降は黒い森になっているらしい。それ以前の文明は、なんだか見た事がある気がしたが、資料が少な過ぎて思い出せない。
楽しく歴史の勉強をする事によって、テストでわしがさっちゃんを僅差で破り、双子にチヤホヤされていたら、さっちゃんから一枚の紙を渡された。
何が書いてあるのかと開いて見たら「エロ猫」って……。この一週間で勉強の点数は上がったが、さっちゃんの評価はだだ下がりじゃ。
そんな勉強漬けの毎日を過ごしていたら、女王から呼び出しが掛かった。場所は案内役が連れて行ってくれるから、さっちゃんに猫型で抱かれて移動する。
「女王はなんの用にゃ?」
「さあ? 事件の事後処理が終わったから、シラタマちゃんに会いたくなったんじゃない?」
「そう言えば帰った次の日に、ちょっと挨拶しただけだったにゃ」
「貴族のお取り潰しや処刑、犯人の刑罰でお母様は忙しかったみたいよ」
へ~。この事件の前も忙しくて娘に会えないと
「こちらでお待ちください」
案内役が部屋のドアを開け、中へ通される。そこには、さっちゃんの護衛を勤めたソフィ、ドロテ、アイノが待っていた。
「サンドリーヌ様……お元気でしたか?」
「もう勉強漬けで疲れたよ~」
「猫ちゃんは元気よね?」
「わしも勉強漬けにゃ~」
「シラタマ様もですか!?」
「さっちゃんに売られたにゃ~」
「シラタマちゃんが逃げるからでしょ! 聞いてよ、ドロテ」
「どうしたのですか?」
「シラタマちゃん、いっつも姉様が来たら猫撫で声を出すのよ」
「それは許せませんね」
「許せない」
「おやつは没収ですね」
「猫にゃ~! 猫撫で声ぐらい、いつも出てるにゃ~」
「そんなこと無い! 撫でられてゴロゴロ言ってるじゃない!」
「ゴロゴロ言っているのですか?」
「言ってそう」
「食事の一品も減らしましょう」
「猫にゃ~! ゴロゴロ言うのは仕事みたいなもんにゃ~」
「プッ」
「「「「アハハハハ」」」」
皆に責められて言い訳……事実を説明していると、皆は急に笑い出した。
「なんにゃ?」
「いえ。懐かしいと思いまして」
「ベネエラの街では、こんな感じでしたね」
「ホント楽しかったね」
「大変なはずだったのにね。これも猫ちゃんのおかげかな」
わしが質問すると、皆は昔を懐かしみ、優しい顔に変わる。そして、真剣な顔になったかと思うと、ソフィから順に、さっちゃんからわしを受け取り、感謝の言葉を述べる。
「シラタマ様、サンドリーヌ様を守って頂きありがとうございました。チュッ」
「シラタマ様には助けられました。ありがとうございました。チュッ」
「猫ちゃん、楽しかったわ。ありがとう。チュッ」
「シラタマちゃんがいなかったら、わたしはどうなっていたか……ありがとう。大好き。チュッ」
なんでみんな礼を言ってキスをするんじゃ? 美女に囲まれ、謝礼のキスを受ける。これは孫が言っていた、フラグが立つってヤツではなかろうか?
最終回? いや、わしは死ぬのか……この扉の先にあるのはギロチン台とか? いやいや、そんな事は無いじゃろう。と、なると別れか?こんな危険な妖怪猫又は王都からの永久追放って事か。
事件が解決したら出て行くつもりじゃったが、それはそれで寂しい気が……
わしが暗い顔をしていると、さっちゃん達が心配して声を掛ける。
「シラタマちゃん、どうしたの?」
「わしは死ぬのかにゃ?」
「どうしてですか?」
「こんな美女に囲まれてキスまでされたにゃ。物語の最終回みたいにゃ」
「なんでそうなるの!」
「じゃあ、この扉の先にはギロチン台があるにゃ?」
「そんなのありませんよ」
「みんなと永遠の別れかにゃ?」
「なんでそうなるのよ! あ、そろそろ始まるよ」
ファンファーレの音と共に豪華な扉が開く。扉の先には騎士、貴族、多くの人が立ち、拍手でわし達を出迎える。
床には赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれ、その一番奥には、玉座に座る女王と両脇に立つ双子の王女。皆、にこやかに、わし達を見つめている。
その光景に、わしは……
「あ~あ……」
「逃げました」
「逃げちゃいましたね」
「やっぱりね」
「でも、シラタマちゃんらしい……行こう!」
扉は閉まり、誰もいなくなった部屋には、式典の漏れる音が聞こえるだけであった。
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