182 女王誕生祭 二日目 1


 女王誕生祭二日目。


「「「「「いただきにゃす」」」」」


 なんでこいつらは、普通にわしの家の食卓を囲んでいるんじゃ?


 時刻は朝七時。わし達とアイパーティにまざり、アダルトフォーも朝食を食べている。


「スティナ達は、昨日も遅くまで飲んでたみたいだけど、出し物で忙しくにゃいの?」

「警備のハンターも取り仕切っているから忙しいわよ」

「私も、露店でのいざこざが多くて忙しいです」

「みんなの協力で出来た服が、飛ぶように売れて忙しいわ」

「うちはまだそれほどだな」


 どうやら、スティナもエンマもフレヤも、おまけしてガウリカも忙しいようだ。


「忙しいにゃら、ギルドとかに泊まり込めばいいにゃ~」

「だって……ねえ?」

「「「ねえ」」」


 スティナが他のメンバーを見るので、わしは答えがわかってしまった。


「あ、そうだったにゃ! 男の居ない女は寂しいんにゃ~」

「「「「「「「ああん!?」」」」」」」

「すいにゃせんでした!」


 しまった! アイ達もモテないんじゃった。


「猫ちゃん……いま、なんて言った?」

「にゃ? すいにゃせんと言いましたにゃ」

「誰がモテないって~?」


 また心を読まれておる! 目がマジで超怖い。ここは無心、無心。


「もう遅いわよ!」

「にゃ~~~! リータ、メイバイ。助けてにゃ~」

「そう言えば二人は猫ちゃんと、いい雰囲気だっけ?」


 アイに怒鳴られたわしは、リータとメイバイに助けを求めるが、二人はスティナに睨まれて、何やら言い訳をする。


「えっと……洗い物しよっかな~?」

「私も手伝うニャー!」

「待ってにゃ~。マリー! みんにゃを止めてくれにゃ~」

「私も行こっかな~?」


 こうして、わしの味方になってくれそうな人物は居間からキッチンに逃げて行った。その後、わしは残りの人物達に壁に追いやられる。


「さて、みんな……。どんな処刑をする?」

「スティナさん? 謝ったにゃ?」

「そうですね。みんなで踏むというのはどうでしょうか?」

「エンマさん? それはご褒美じゃにゃいでしょうか?」

「う~ん。かわいい服に着替えさせようか?」

「フレヤさん? それは趣味じゃにゃいですかにゃ?」

「やっぱり撫で回しの刑じゃないですか?」

「アイさん? それって処刑だったにゃ?」

「それでは、全てを執行する! かかれ~!」

「いにゃ~~~ん! ゴロゴロゴロゴロ~」


 その後、スティナ達が仕事で出掛けるまで、朝からはずかしめを受け、ゴロゴロ言わされるわしであったとさ。





「シラタマさんが、あんな事を言うから悪いんですよ」

「そうニャ。シラタマ殿は、いつも一言多いニャ」

「アイさん達に、モテないは禁句です」


 いや。心の中で言ったんじゃ。それを何故にみんなわかるんじゃ!


 今日は、昼前に孤児院に呼び出されているので、朝の内は露店を軽く見て、それから孤児院に向かう予定だ。リータとメイバイにどうするかと聞いたら、マリーまでついて来た。

 露店を見て回る道中、先程の辱しめの反省会が行われるが、わしは心の中でツッコむ以外はうつむいて口を開かない。いや、開きたくないと言ったほうが正しい。


「それにしても、そのドレスもかわいいですね」

「大きなリボンも似合ってて、かわいいにゃ~」

「ねこさんは何を着てもかわいいです」


 わしが口を開かない理由は、いま現在も辱しめを受けているからだ。スティナ達におもちゃにされてゴロゴロ言わされた挙げ句、許す変わりに、フレヤに無理矢理着せられたドレスで、一日過ごせとお達しが下った。


 うぅぅ。恥ずかしい。猫、猫と騒がれるのも恥ずかしかったが、ドレスも恥ずかしい。スカートも短いし、リボンもデカ過ぎじゃ。

 昔飼ってたペットも、女房と娘にイロイロ着せられておったが、こんな気分だったんじゃろうか?


「シラタマさん。大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないにゃ~。着替えたいにゃ~」

「いえ、それはスティナさんが……」

「アイさん達にも、一日見張っているように言われてますからね」

「かわいいから、いいニャー」


 リータがわしを気遣って来たくせに、助けてくれない。メイバイとマリーもまったく役に立たない。結局、自分でなんとかするしかない。


「みんにゃが黙っていてくれたらいいにゃ~」

「それは出来ません! ……かわいいから」

「私も無理です! ……かわいいから」

「かわいいから着替えさせたくないニャー」

「あの~?」

「なんですか?」

「メイバイは置いておいて、二人の『かわいいから』ってのは、心の声かにゃ?」

「「あ!!」」


 気付いてなかったの!? はっきり言っておったぞ?


「まぁいいじゃないですか」

「そうですよ」

「本当ニャー」

「よくないにゃ~!」

「「「まあまあ」」」


 わしは皆になだめられながら……と、言うか、抱き回されながら露店を見て回り、程よい時間になったので孤児院に向かう。


「あれ? キャットランドに子供が居ないにゃ。てっきりババアはこっちに居ると思っていたにゃ」

「本当ですね。この時間なら誰か居そうなものですけど」

「う~ん。孤児院に入れば居るのかにゃ?」


 わし達はキャットランドに子供が居ない事を不思議に思いながらも、孤児院に入り、食堂に居た院長のババアに挨拶をする。


「おはようにゃ~」

「来たかい。おはよう。また変な格好してどうしたんだい?」

「聞かないでくれにゃ……。それより、キャットランドはまだオープンしにゃいの?」

「今日は女王陛下が来るんだよ。その準備とおもてなしがあるから、昼まで閉園だよ」

「にゃ……ババア、はかったにゃ!?」

「なんのことだい?」

「女王が来るにゃんて聞いて無いにゃ~!」

「言ったら猫は来ないだろ? 女王陛下の案内をさせるから当然だ」


 つまり確信犯って事か。それもいけしゃあしゃあと言いやがって!


「そんにゃのババアの仕事にゃ!」

「あたしが案内するより、猫が案内する方が陛下も楽しいだろ! 文句言わずにやりな!」

「嫌にゃ~! 帰るにゃ~!!」

「あ、待て! 子供達、猫を取り押さえろ~!」

「「「「「お~~~!」」」」」

「にゃ~~~」


 わしが逃げようと立ち上がると食堂の扉が開き、待機していたであろう子供達が雪崩れ込む。子供に暴力を振るうわけにもいかず、わしはあっと言う間に子供達に押し潰されてしまった。


「こんな事もあろうかと、準備しておいてよかったよ。ヒッヒッヒッ」


 くそ! 用意周到な……それに笑顔が怖過ぎる。


「悪の軍団に捕まったにゃ~。みんにゃ助けてにゃ~」


 ひとまず、リータ、メイバイ、マリーにわしは助けを乞うが、諦めた顔をして返事する。


「悪の軍団って……」

「もう諦めるニャー」

「ねこさんは子供達に大人気なんですね」

「「「「「行っちゃダメー!」」」」」


 わしが子供達とすったもんだ遊んでいると、マルタが走って食堂に入って来た。


「来られました! 猫ちゃん、準備はいい?」

「にゃんの準備にゃ~」

「すぐに出迎えに行くよ!」

「ほら、猫ちゃんも立って!」


 わしの文句は聞く耳持たず。ババアが立ち上がり、わしは子供達に両手両足を拘束されながら立たされる。すると、わしの格好を見たマルタは褒めてくれる。


「あら? 今日はかわいい格好ね」

「変って言ってにゃ~」

「ちょうどいいわね。行くわよ!」

「リータ、メイバイ、マリー! 助けてにゃ~~~」

「「「いってらっしゃ~い」」」


 再度リータ達に助けを求めたのに、笑顔で送り出されるわし。そして、マルタに抱き抱えられたまま、キャットランド入口まで連行されるのであった。

 逃げ出したいが、後ろからガッチリロックされ、柔らかい物が後頭部に当たっているので、逃げるにも逃げられない。柔らかい物はこの場合、関係ないか……



 そうこうしていると、女王の乗った馬車がキャットランドに横付けされ、女王率いる王族が続々と降りて来た。わしは女王達の服装が動きやすそうだったので不思議に思って眺めていたら、院長のババアが前に出て挨拶をする。


「ようこそいらっしゃいました。楽しんでいただけるように、精一杯、尽くさせていただきます」

「期待しているわ」


 さすがに女王来訪で、ババアは猫被っておるな。わしは元から被っておるけど……。てか、楽しませるってのはババアがやるんじゃなくて、わしに押し付けるんじゃろ! はぁ……帰りたい。


 わしが黙ってマルタに抱きかかえられていると、さっちゃんが前に出て、近付いて来た。


「このぬいぐるみ、かわいいわね。服もここで売っているの?」

「いえ。これは……」


 さっちゃんは、わしをぬいぐるみと勘違いしておるのか。ずっと微動だにしてなかったとはいえ、あんなに一緒にいたのに失礼な奴じゃ。いや、ここはぬいぐるみの振りをしておくのも手じゃな。女王達から逃げられるかもしれんしのう。


「少し借りてもいい?」

「あ、はい」


 マルタはさっちゃんにわしを手渡す。


「あれ? 私が貰ったぬいぐるみよりモフモフしてる。それに温かい……」


 あ、バレそう。そこは触らないで!


「シラタマちゃん……」

「………」

「何してるの?」

「………」

「モフモフ攻撃~!」

「いにゃ~ん。ゴロゴロ~」


 さっちゃんに服の中をモフられたわしは、悲鳴をあげる。


「やっぱりシラタマちゃんじゃない!」

「そうにゃ~。黙ってただけにゃ~。ゴロゴロ~」

「まったく……。それにしても、なんでそんな女の子の服を着ているの?」

「それは聞かないでにゃ~」

「どうせ怒られて、無理矢理着せられてるんでしょ?」

「にゃ、にゃんでそれを……」

「シラタマちゃんの事だもの。すぐにわかるわ」


 わしがさっちゃんと話し込んでいると、院長のババアと挨拶の済んだ女王が近付く。


「サティ。挨拶はその辺にして行くわよ」

「あ、はい。シラタマちゃんも一緒に遊ぼう!」


 え? 女王が遊具で遊ぶの? 子供用の遊具なのに……動きやすそうな服も着ているけど……まさかね。


 と、思っていましたが、女王達はガッツリ遊びやがった。何度も長距離滑り台を滑り、わしの制止を聞かず、勢いを付けまくってコースアウト続出。

 その都度、わしが受け止めていたが、王族女性陣が飛ばし過ぎて同時にコースアウトしやがった。

 さすがにわし一人では受けきれず、イサベレと兄弟達に手伝ってもらう事となった。ちなみに王のオッサンは高いところが怖いらしく、見学している。





「「「「あ~。怖かった~」」」」

「怖いにゃら、勢いを付けるにゃ~。怪我するところだったにゃ~」


 遊具を堪能した王族一行を売店カウンターに案内し、昼食をとる事となった。


「イサベレが居るから大丈夫よ」

「エリザベス、ルシウス。ありがとう」

「「にゃ~ん」」


 わしが文句を言っても女王はこういう始末。さっちゃんも兄弟達に礼を言って頭を撫でている。それに続き、双子王女もわしに礼を述べる。


「シラタマちゃんも、ありがとう」

「風魔法のクッション、気持ち良かったですわ」


 まったく……この王族は、わざとやっていたじゃろ? あんなに止めたのに、走って滑りやがって!


 わしが女王達から遊具の感想を聞いていたら料理が運ばれ、テーブルに並ぶ。料理が揃うとババアが前に出て、軽く頭を下げる。


「お口に合えば幸いです」


 お! 今日はすき焼きか。卵まで使って、かなり奮発しておるのう。しかし、女王に出すには、ちと難易度が高いな。

 わしの家と違って、箸を使う習慣が無いから食べ辛いじゃろうな。これがあったから、わしに対応を丸投げしたのか……。わしも食べたいが、今日は我慢するしかないな。今度作ってもらおっと。


「いい匂いだけど、見た事のない料理ね」

「シラタマちゃん。この料理はどうやって食べるの?」

「わしが取り分けるにゃ。スプーンやフォークでは食べ辛いと思うから、マナーはここでは忘れてくれにゃ」


 女王とさっちゃんは不思議そうな顔でわしを見るので、簡単な説明をしながら卵を溶き、皆の器にすき焼きの具を入れていく。温かいまま食べたほうが美味しいと伝え、取り分けたすき焼きを女王から食べてもらう。


「ん! 美味しいわ」

「それはよかったにゃ~」

「面白い味ね」

「甘い? 辛い?」

「卵でまろやかになっているわね」

「さすが女王。ご明察にゃ」


 女王、双子王女と食べて感想を言い合う。おそらく歳が上から回したほうがいいかと思いの配慮だったのだが、さっちゃんが急かす。


「シラタマちゃん。早く~」

「ほい。お待たせにゃ~」

「ん~! 美味しい!」


 さっちゃんは器を受け取るとすぐに頬張り、笑顔となった。ちなみにオッサンは、レディーファーストだから一番最後だ。兄妹達よりあとにしたから、文句を言われたけど……

 そうして、王族一同、概ね好評な感想を言い合っている姿を見ていると、女王はわしの持っていた箸に興味が惹かれたようだ。


「シラタマが言った通り、少し食べ辛いわね。その道具を使えば食べやすいの?」

「馴れたらにゃ。難しいから練習が必要にゃ」

「少し試させてもらっていい?」

「いいにゃ」


 わしは次元倉庫から箸を取り出し、軽くレクチャーしながら皆に渡す。すると皆、なかなか具を掴めないでいる。


「うぅ。難しい」

「本当に」


 さっちゃんも女王も、持ち方を教えたのに箸がクロスしておるな。双子王女も具を挟めないでいる。この中で上手いのは……


「オッサンが一番上手いにゃ~」

「オッサン言うな! 私は王だぞ!」

「難しいにゃら、諦めてフォークとスプーンで食べるにゃ。この料理は温かいまま食べたほうが美味しいにゃ」

「無視するな!」

「あなた。いまは喧嘩はやめて……」

「ぐっ……」


 フフ。オッサンは女王ににらまれて、何も言えなくなっておるな。ざまぁみろ!


「シラタマも、いい加減、言葉を選んで話しなさい……」

「はいにゃ!」


 怖っ! わしまで睨まれてしまった。しかし、オッサンはオッサンじゃ。もう呼び方が固まってしまったから、いまさら変えられん。



 しばらくして、女王達が楽しそうにすき焼きを食べ終えると、頃合いと見た子供達がデザートが運んで来た。


 プリン? ついに完成させたか。蒸すなんて料理はこの国には無かったから、エミリに頼まれてわしが蒸し器を作ったんじゃ。

 すき焼きといい、プリンといい、高価な卵をこんなに使うとは、安く卵を仕入れられたのかな? すき焼きは食べれなかったが、プリンだけは食べて帰ろう。


「猫ちゃん。ここはもういいから、行くわよ」

「にゃ? まだプリン食べてないにゃ~」

「ほら。早く!」


 わしがプリンに手を伸ばすと、マルタに首根っこを掴まれ、連れさらわれる。


 そして、子供達の劇が始まるのであった。



 なんでわしまで参加なんじゃ~~~!

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