264 外壁が完成したにゃ~
わしはリータの作った猫又石像をひとつ持ち上げると、門の横に配置し、硬く強化する。
「う~ん……もうひとつ反対側に置いてください」
「一個あればいいんじゃないかにゃ~?」
「いえ。両端に無いと、バランスが悪いです」
現場監督のリータの指示で、わしは渋々もうひとつの猫又石像を設置する。
「壁の上にも置きましょう!」
「もう十分にゃ~」
「いえ。街の内壁にも多くありますので、こちらにも必要です」
「いや……」
「必要です」
「はいにゃ」
結局リータの圧に負けて、上にもふたつ設置するわしであった。残りは次元倉庫に入れて、外壁が完成したら、バランスよく設置するようにと脅された。
笑顔で埋めると言われたからには逆らえない。だって目が笑ってなかったんじゃもん。
石像の設置が終わり、作業に戻ろうとしたら、リータは魔力を使い過ぎたみたいで、切り株も動かせないとのこと。なので、白魔鉱の槍を渡してみた。
リータは槍を使えないが、切り株を掘り起こすぐらいなら出来るはずだ。ひとつだけやる姿を見ていたが、勢い余って切り株が空に消えた。
相変わらずの馬鹿力だ。にゃろめっ!
心を読まれて針を刺されたわしは、逃げるように外壁の建設作業に戻る。いそいそと作業を続けると日が真上に来たので、リータを抱いて街に走る。
街に入ると、また肉の焼けるいい匂いがしていた。待っていてくれてもいいのに……
お腹もへっているので、食事をしている住人を見ながらお昼会議に参加し、報告を受ける。
「メイバイ。また氷室が満タンにゃの?」
「そうニャ。生き残った獣が、けっこういるみたいで持ち帰って来たニャ」
「わかったにゃ。それはわしが預かるにゃ」
「それと、昨日の取り残しがあったみたいだけど、どうしようかニャ?」
「そうだにゃ~……食べるとお腹を壊しそうにゃし、もったいないけど、バラして埋めてしまってにゃ。肥料に変わるにゃろ」
「わかったニャ。みんなに伝えるニャー」
「わしも今の作業が早く終わったら、獣を探してみるにゃ。それと、獣が減ったら、ケンフ達も切り株班にまざってくれにゃ」
「ワン!」
ケンフのいい返事を首を傾げて聞き、ノエミに目を向ける。
「ノエミは進展あったかにゃ?」
「いいえ。効率は上がったけど、まだよ」
「あの四人は役に立ってるみたいだにゃ」
「あ、そうそう。トウキンが言ってたけど、他にも猫耳族と人族で一緒に暮らしたい人が居るみたいなの。どうする?」
「う~ん……どちらか片方が希望するにゃら却下で、両方にゃら了承かにゃ。誰か個別で聞き取りしてくれる猫耳族が居ればいいんにゃけど……。ヤーイーが適任かにゃ?」
「私ですか!?」
「元奴隷だから出来る仕事にゃ。奴隷だった猫耳族が、心を開いてくれるのはヤーイーだけにゃ。頼めないかにゃ? それともうひとつ……」
わしはヤーイーに辛い仕事を頼むが、ヤーイーは少し考えてから返事をする。
「……わかりました。やってみます」
「ありがとにゃ。人族の聞き取りもあるから、リータも同席してやってにゃ。もしもの時は、殴ってもいいからにゃ。二人で協力してやってくれにゃ」
「「はい!」」
「これで以上かにゃ? 引き続きよろしくにゃ~」
昼の会議が終わると、わしは急いで外壁を作る。それでも広い外周を、壁で繋げるには時間が掛かる。残り三分の一程になるとタイムアップ。空が赤くなり始めたので、ダッシュで獣の探索に取り掛かる。
そこそこ見付けて回収したが、やり始めたのが遅かった為、街に帰ったのは完全に日が暮れてからだ。幸い月夜だったので、光には困らず帰れた。
だが、夕食と会議が終わっていたので、シェルターの食堂でリータとメイバイに撫でられながら食事をいただく。
「ゴロゴロ~。それでわしが居なくても、会議は大丈夫だったにゃ?」
「はい。お昼に話をしていたので大丈夫です」
「それはよかったにゃ」
「あ! ひとつ議題があがってました」
「にゃに?」
「黒い鳥が飛んで来たニャー。獣を
「それは大問題だにゃ。護衛も増やすのは難しいし、見張りを立たせて、畑の近くに隠れる場所が必要だにゃ。それと、もっと木を切り倒さないといけないにゃ~」
「まだまだやる事がいっぱいですね」
「そうだにゃ~。わし以外にも頭が必要にゃ。内政を取りまとめてくれる人が居たらいいんにゃけど……」
わしがリータとメイバイの顔を見ると、二人は慌てた声を出す。
「む、無理です!」
「私も無理ニャー!」
「まぁ追々考えるにゃ。まずは食生活を安定させないと、国が立ち行かないからにゃ~」
話が終わると、お風呂に入って今日は就寝。次の日の朝の内は、昨夜に聞いた議題の解決だ。
農作業をしている南の内壁に、子供の見張りを二人立たせて望遠鏡を配布。人族の子供に嫌悪感のない元奴隷の猫耳族の女性を、その監督に頼む。そして、鉄魔法で鐘を作って、空から危険があれば鳴らしてもらう。
これで危険を知らせる事は出来るので、次は農作業をしている近くに避難場所を数戸作る。土魔法で硬く作ったから頑丈だ。そこを農具置き場を兼ねてもらい、残りの外壁作りに走る。
出遅れたので、お昼には戻れない。今日は一人で寂しく昼食だ。その時に通信魔道具でリータに連絡を取って、会議の内容を聞く。
会議の内容は、わしが居なくても問題無かったが、ノエミから泉を見付けたと報告があったとのこと。ひとまず方角だけ聞いて、作業に戻る。
外壁が繋がると上に登り、猫又石像を設置していく。だが、置く数をミスったのか、壁が大き過ぎたのか、半分ぐらい設置したところで無くなってしまった。
それと同時に日が暮れ始めたので、泉の方向へ木を切り倒そうと考えていたが、戻るしかなかった。
お! 今日は焼き肉の前に帰って来れた。皆も戻って来ておるな。お風呂に向かっている者も居る。食事とお風呂をズラすようにしているのかな? 誰の案かわからないけど、自発的にやってくれるのは有り難い。
わしは道行く住人に「お疲れ様」「今日もありがとう」と声を掛けながら歩く。住人も同じく、「お腹いっぱい食べさせてくれてありがとう」と返事をするので、わしは照れ臭くなる。
時折、女の子が抱きついて来て、大人が止めに入って来るが、好きにさせてやれと言ったせいで、めちゃくちゃ撫でられた。
だが、働いてお腹がすいていたのか、肉の焼ける匂いがすると、わしを置いて走り去って行った。
その後ろ姿を見て途方に暮れていると、リータとメイバイが走って来て、抱き上げられて会議のテーブルに連行された。
「さてと、議題の前にわしから発表にゃ。ついに外壁が完成したにゃ。これで地上からの獣は寄って来ないにゃ~」
「「「「「おお~!」」」」」
わしの発表に、皆、沸き上がる。農作物も農作業をする者も、安全を確保されたのだから当然だ。空の危険はあるが、地上より来る数が少ないので、心配は減ったと言えよう。だが……
「石像はどうなりましたか?」
リータが猫又石像の心配をしてきた。なので、わしは正直に話す。
「全部、設置しましたにゃ~」
壁の半分近く石像は乗っていないけど、嘘ではない。いまは慎重に日本語で考えているから、心を読まれる事もない。これで心も読まれないし、壁の全てに猫又石像を設置する必要もないじゃろう。
「……嘘ですね」
だが、リータがわしを問い詰めて来る。
「にゃ!? 嘘にゃんかついてないですにゃ~」
「私達に
「そうニャー。バレバレニャー!」
どうやら心だけでなく、仕種からでもわしの心境が読み取れるらしい……やはり女は怖い生き物じゃ。
「怖くなんてないですよ~~~?」
「私達のどこが怖いニャーーー?」
しまっ……油断して、今度は心の声を読まれてしまった。うぅぅ……
「すいにゃせん! 石像は足りなかったですにゃ~」
「どれだけですか?」
「えっと……四分の一ぐらいかにゃ~?」
「嘘ニャ! もっと足りないニャー!」
「そんにゃ事ないにゃ~」
「わかりました。前回と同じ量作ります」
「にゃ!? にゃんでですか?」
「いまの反応ですと、このぐらい足りないはずです。それに多いに越した事はありませんしね」
そんな笑顔で言わなくても……
「出来次第、設置しますにゃ」
わしは渋々了承する。だって、埋められそうなんじゃもん。
リータ達との痴話喧嘩が終わると、報告のあった気になる事を聞く。
「それでノエミ。泉が見付かったんにゃって?」
「そうよ。あれから川も見付けたわ。でも、どちらも遠いのよね」
地図によれば、泉は北に、馬車で十五日ぐらいかな? 帝都より遥かに遠い。いきなり走り出さなくてよかった。向かっていたら、今頃、途方に暮れていたところじゃ。
川も遠いな。こちらも東に十五日ってところか。う~ん……これなら、干上がった所を掘ったほうが早いか? それとも、山の万年雪を溶かすか? どれも現実的じゃないか。ならば、川か……
「もう少し近い所に無いか、引き続き調査してくれにゃ」
「わかったわ」
「あとは……ヤーイーかにゃ? いまは一緒に暮らしたいって人だけ、聞かせてくれにゃ」
「はい。聞き取りの結果はこうです……」
猫耳族と一緒に住みたい者は、ほとんどが主従関係だったそうだ。その関係で、お互いを尊重し合う間柄だったので、ヤーイーも驚いたそうだ。
「ふ~ん。それじゃあ、わしが猫耳族と引き離したからついて来たんにゃ。悪い事したにゃ~」
「そうでもないですよ。帝都では外聞が悪いらしく、他の住人にどう見られるかわからないので、新天地に来れて幸せみたいです」
「にゃるほど。リータの目から見て、その人達はどう見えたにゃ?」
「私も、お互いを信じ合っているように見えました」
「種族の違う二人が、そう言うにゃら大丈夫そうだにゃ。空いている好きにゃ家に住むように伝えてくれにゃ」
「わかりました。でも、一人、変わった人が居るのですけど……」
「あの人ですか……」
「変わった人にゃ?」
二人が言うには、ここに来れば猫耳族の女性と結婚できるかもと、ついて来た男がいるらしい。しかもその男は、喋った事も無い女性に恋をしているらしく、指名して一緒に住もうとしたとのこと。
もちろん女性は拒否したみたいだ。
「両思いにゃらいいんだけどにゃ~。その女性は、にゃんで拒否したにゃ?」
「性格も知らないのに、好きと言われても困ると言っていました」
「性格を知ればいいのかにゃ?」
「どうでしょう……。見た目もその……」
「悪いんにゃ。ちなみに、そいつの職業ってなんにゃ?」
「大工をやっていたと言っています。いまは家の修復を真面目にやっているみたいです」
大工か~。是非とも我が町で、力を振るって欲しいな。
「貴重な人材だにゃ。逃げられないようにしたいんにゃけど……二人は無理矢理くっつけるのは反対かにゃ?」
「「いえ……」」
「言いづらそうだにゃ。とりあえず、そいつには役職を与えるにゃ。それと女性は秘書に抜擢して、それで恋が進展しにゃければ、他の猫耳族と見合いでもさせようにゃ」
「「まぁそれなら……」」
微妙な顔じゃな。そんなに不細工なのか? じゃが、権力や金を持っていれば、なびくかもしれない。男には頑張ってもらいたいものじゃ。
「あ、そうにゃ。みんにゃ慣れない仕事をして疲れていると思うんにゃ。明日、明後日と、二班に分けて休んでもらおうにゃ」
わしが休みの指示を出すと、リータとメイバイの目が光る。
「シラタマさんが、休みたいからじゃないですか?」
「違うにゃ~」
「王都では、三日しか働いていなかったからニャー」
「違うって言ってるにゃ~」
休みたいけど……
「「ほら~」」
「にゃ!? 心を読むにゃ~!」
いまだに心を読まれているが、皆を休ませる理由をしっかり力説したわしは、なんとか休みを勝ち取る事が出来た。
王様なら、休みは自由なのでは……
「違います!」
「そんな事を言うなら休み無しニャー!」
相変わらず
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