265 仕事と休日にゃ~


 街を再興して三日目。今日は住人を二班に分け、一班には休みを言い渡す。多くの者は、「なにそれ?」という顔をするので、どうしてかと聞くと、休みがわからないそうだ。

 わしの街の住人は、浮浪児、元奴隷、帝都の住人と魔法使い少人数で構成されている。なので、休みという概念を知らない者が、三分の二も居る。


 休みの説明をしてみるが、今度は何をしていいかを聞いて来る。

 困ったわしは、子供達には遊具を作り、「これで遊べ。疲れたらごはんを食べて寝てろ」と説明し、猫耳族には「子供達を見てろ。一緒に寝ろ」と言って、あとはリータ達に丸投げする。

 主要メンバーも半数は休みを言い渡しているので、今日の休みの者が居るから、なんとかなるだろう。


 面倒事は皆に押し付けたので、わしは変人大工、ダーシーに会いに行く。ダーシーはすでに作業をしているらしく、わしが訪れても気付かないのか、まったく作業の手を休めない。


「にゃあにゃあ? ちょっといいかにゃ?」

「なんだ? いまは忙しいんだ……ね、猫王様!!」


 うん? 驚いている。わしの姿のせいか?


「ビックリさせて、すまないにゃ」

「いえ。猫王様に謝らせて、こちらこそすみません」

「いいにゃ、いいにゃ。それより話をしに来たんにゃけど……その前に、お風呂は入っているにゃ?」

「えっと……いえ、最後に入ったのはたしか……」


 くさいわけじゃ。お風呂に入った日すら覚えておらんとは……髪も髭も汚いし、服も体も汚い。どうりでリータ達がお勧めしないわけじゃ。


「ここは貴族の屋敷にゃろ? お風呂もあるだろうし、先にお風呂に入るにゃ」

「いえ。まだそこは修理していないので、俺はこのままでもいいのですが……」

「わしが臭くてたまらないにゃ。これは命令にゃ!」

「は、はい!」


 強制的にダーシーをお風呂に連行すると、土魔法で湯船をちょちょいと綺麗にして、お湯をぶちこむ。

 石鹸と布を渡したら、わしはそのかたわらで、土魔法で作った簡易洗濯機でダーシーの服を何度も洗い、綺麗にする。

 ダーシーは、王のわしに洗濯させてしまっている事に謝って来たが、もっとゴシゴシしっかり洗えと命令し、綺麗になったところで話を再開する。


「それで、猫耳族を嫁にしたいんにゃって?」

「も、申し訳ありません!」

「別に怒る為に来たんじゃないにゃ。協力はするつもりだけど、相手が嫌がっているから無理強いは出来ないにゃ」

「嫌がっているのですか……でしたら、次の候補に行きます!」


 ん? ポジティブじゃな。猫耳族なら誰でもいいのか?


「いや、ひとまずダーシーを建設担当のトップに任命するにゃ。それと、断られた猫耳族を秘書として配置するから、あとは頑張ってくれにゃ」

「建設担当トップ!?」

「権力を持っているほうが、女がなびきやすいにゃろ?」

「たしかに!!」

「まぁ身だしなみも大事にゃ。毎日お風呂に入って、そのボサボサの髪と髭も、にゃんとかするにゃ」

「しかし、俺は大工が趣味みたいなもので、これほど多くの家が修理できるのが楽しくって、ついつい時間も忘れてしまうんです」


 時間を忘れるって……今までずっと修理しておったのか? なんかくまも凄いし……寝てないんじゃないか? 有り難いんじゃけど、過労で倒れてしまうぞ。早く気付いて良かった。


「一人でやると時間が掛かるにゃ。建設担当のトップとして皆を率い、新人にも教えて、一軒でも多く住めるようにして欲しいにゃ」

「うっ。教えながらですか……」

「出来ないにゃら、この話は無しにゃ。他に大工が出来る人に頼むにゃ。その人が秘書に付けた猫耳族と結婚するかもにゃ~?」


 さあ。アメを取り上げられたらどう出る?


「他にやらせるぐらいなら、自分がやります! 猫王様の期待に恥じないように、立派な猫耳嫁を手に入れてみせます!!」


 うん。効果はあったが、方向がズレておるな。立派な街にして欲しいんじゃが……まぁ今のやる気を削ぐのも、もったいないか。



 話が終わると、今日は必ず休む事と身だしなみを整えるようにと伝え、屋敷をあとにする。

 そして次の目的地、猫耳族のお姉さんに挨拶をしに行く。何人かに居場所を聞くと、遊具場に居ると聞いたのでそちらに向かう。だが、猫耳族の女性は数人固まっていたから、誰が目的の人物かわからないので、声を掛けてみる。


「えっと……ファリンさんは、どなたかにゃ?」

「は、はい! 猫王様。私でございます」

「ああ。そう緊張しにゃいでくれにゃ。ちょっと聞きたいんにゃけど、ダーシーって人を知ってるにゃ?」

「はあ。知っていますが、どうかしましたか?」

「ファリンさんには明日から、ダーシーの下で働いて欲しいにゃ。嫌だったら断ってくれにゃ。あ、わしが言うと断り難いんだったにゃ。強制じゃないし、嫌だったら今の仕事を続けていいからにゃ?」

「いえ……どんな仕事でも、私はやらせていただきます」


 うん。あからさまに嫌そうじゃな。ダーシーには、早く次の相手を見繕みつくろわないといけないかも。


「やっぱり嫌いかにゃ? 臭いし汚いのがダメだったにゃ?」

「それもありますが、人族の方は苦手でして……それに、いきなり結婚してくれと言われたので、少し気持ち悪いです」


 マイナス要素のオンパレードじゃな。一発で嫌われるとは……ダーシーはよくもまぁ求婚なんて出来るな。


「じゃあ、数日だけついてみてくれにゃ。いちおう身だしなみだけは整えるように言っておいたから、においは大丈夫だと思うにゃ」

「……わかりました」

「耐えられないにゃら、絶対に言ってにゃ? わしはこの街のみんにゃに幸せになって欲しいから、強制にゃんかしたくないからにゃ?」

「幸せ……」

「いまはまだ考えられにゃいだろうけど、所帯を持って、家族で笑いながらごはんを食べて欲しいにゃ。一人が幸せって言うにゃら、それもかまわにゃいけどにゃ。でも、目の前で遊ぶ子供が、自分の子供だったらかわいいと思わないかにゃ?」


 わしと猫耳族の女性達は、キャッキャッと遊ぶ子供に目を移す。皆、思う事があるのか、子供の姿を無言で眺めている。


「ちょっとは所帯を持つ事は考えられたかにゃ? ここには猫耳族の男も居るし、猫耳の里って所にも居るにゃ。もちろん人族の男に恋をするのも自由にゃ」

「恋をするのも自由ですか……」

「そうにゃ。ここには自由があるにゃ。でも、自由だからって仕事はしてにゃ? じゃないと、わしが困るにゃ~」

「は、はい」

「まぁ将来の事は、ゆっくり考えてくれにゃ」


 皆、自由という言葉に戸惑っていたが、子供達のはしゃぐ声を聞くと優しい目になっていたので、わしはこの場をあとにする。きっと大丈夫なはずだ。



 その後、わしも休もうとシェルターに向かっていたら、リータとメイバイにからまれた。


「仕事はどうしたのですか?」

「にゃ? 今日は休もうかにゃ~っと……」

「まだやる事はあるはずニャー!」

「休みも大事かにゃ~?」

「暇なのですよね?」

「いや、寝ようかと……」

「暇みたいニャー」

「ちょっと寝たいにゃ~」

「「それが暇なの!」」


 結局、二人に両脇を抱えられ、仕事に連行されるわしであった。


 どうやらダーシー以外の街の修復班から、木が邪魔で、なんとかして欲しいという要望があったみたいだ。

 たしかにメインストリート以外は、まだまだ木が生い茂っている。だが、今日は休むと決めている。


「埋めますよ?」

「針で刺されたいニャ?」


 と脅されたので、街の木を切り倒し、次元倉庫に入れて歩く。いや、浮いているので二人は歩く。

 メインストリートは南からシェルターを行き止まりに、西に直角に曲がっている。今回は、北と東に道を作る事がわしのミッションだ。

 二人とぺちゃくちゃと世間話をしながら木を切り倒していると、あっと言う間にメインストリートが十字になった。

 これでわしの仕事は終了。昼食を食べたらお昼寝だ。


「まだ路地が残っています」

「それが終わるまで、休み無しニャー」

「そんにゃ~~~」


 まだまだ休めないらしい。



 ここ数日、睡眠時間が少ないわしは、必死にスリスリして、小一時間のお昼寝タイムをもらった。なので、二人もわしに付き合って、気持ち良さそうに仮住まいで寝ている。

 だが、頼んでいたズーウェイ目覚ましの前に、街に轟音が響いて飛び起きる事となった。


「さっきの音はなんでしょう?」

「凄い音だったニャー!」

「むぅ……さっき寝たところにゃったのに……」

「いまはそれどころじゃないですよ」

「街が心配ニャー」

「そうだにゃ。急ごうにゃ!」


 わし達は仮住まいから飛び出ると街を走り、先行していたわしは、南門に到着する。そうして外に出ると、街に向かっているワンヂェンを見付けた。


「ワンヂェン! さっきの音はなんにゃ?」

「わからないにゃ~。いちおう避難させてるけど、これでよかったにゃ?」

「いいにゃ。ありがとにゃ。それで、音はどっち方面から聞こえて来たにゃ?」

「だいたい東かにゃ?」

「わかったにゃ。行ってみるにゃ。あとからリータ達も来るから、避難誘導はお願いするにゃ~」

「シラタマなら大丈夫だと思うけど、気を付けてにゃ~」



 ワンヂェンの心配を笑って応え、わしは探知魔法を飛ばしながら東へ走る。探知魔法には北に向かう賑やかな反応があったので、わしは修正しながらスピードを上げる。


 マジか……あの外壁を破壊したのか。東はお堀に橋は掛かっているけど、扉はないから硬いんじゃが……。

 音から察するに、一撃で破ったんじゃろう。そんな事が出来るのは、そうおらんはずしゃ。しかも、壁の中にかなりの数の獣が入っておる。

 デカイので全長15メートルか。こいつが壁を破壊した犯人じゃろう。白なら厄介じゃな。いや、わしの魔法を破るぐらいじゃから、間違いなく白じゃろう。

 くそ! せっかく外壁が完成したのに、壊しやがって! わしの仕事が増えるじゃろう!! 絶対にぶん殴ってやる。わしの休みが減る~~~!!



 街の危機に最高速で走りながら、敵の正体よりも、自分の休みの心配をするわしであったとさ。

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