266 白い獣と戦うにゃ~


「ネコパーーーンチ!」

「モォォーーー!」


 わしは15メートルはある白い獣を見付けるや否や、最高速の速度で殴り飛ばす。獣は、わしのネコパンチをひたいに受けて巨体を浮かし、ぶっ飛んで行く事となった。


 か~……痺れた~! かったいし重たかった~。怒りに任せて素で殴るんじゃなかったな。

 角が四本に尻尾三本の白い牛。キョリスより、やや上か。キョリスより強い獣なんて、ハハリス以外に見た事がない。ハハリスよりは若干弱いかな? 強いと言えば白い巨象じゃが、桁違い過ぎてサンプルにならんな。

 残りはデカイ黒牛三匹と、およそ五十匹の茶色い牛か……


 わしが怒りを収めて戦力分析をしていると、白牛は起き上がって念話を繋ぐ。


「なにしやがる!」

「それはこっちの台詞じゃ! わしの作った物を壊したんじゃ。殺して欲しいんじゃろ!」

「ハッ。お前のようなチビに殺されるか! 踏み潰してやる……。お前達、下がっていろ!」


 白牛は仲間の牛を下がらせると、後ろ脚で地をこすり、いまにも走り出しそうな構えを取る。


 う~ん……全員でかかって来ないのか? さっき殴ったので、自分以外は役に立たないとわかったのかな? まぁ手間が減ってラッキーじゃわい。

 それに牛は、貴重な労働力に代わりそうじゃし、全て無傷で捕まえたい。これさえ叶えば、わしの仕事が減る!

 白いのは……興奮しておるし、交渉できるところまで痛め付けるか。ダメなら群れを乗っ取ろう。



 わしの方針が決まると同時に、白牛は地を蹴り、角を前に突進して来た。わしは避けようかと考えたが、白牛はかなりの速度だった為、街まで突っ込む可能性があったので受け止める手段を取る。


 【光盾】×3!


 わしの作り出した光の盾は、縦に列を組み、一枚目が白牛の角と接触すると、光の粒子となって砕け散る。

 だが、一枚目の盾で突進力を削がれた白牛は、二枚目にぶつかると止まる。その隙に、わしは【肉体強化マックス】を使うと懐に潜り込み、ジャンプして喉元にキャットアッパーを喰らわせる。


 白牛は、下からの攻撃をまともに受けると後ろ脚で立ち上がり、そのまま倒れる……かと思えたが、ギリギリ踏ん張り、高く飛び上がったわしを睨む。


「モォォーーー!」


 白牛が叫んだ瞬間、下から土の槍が立ち上がる。


 土魔法か!? 【光盾】操作!


 わしは【光盾】を真下に移動させると着地し、足場にしながら、土の槍からも自分を守る。


 今度は上か! もう一枚!!


 白牛は、土魔法がわしに届かないと見ると、立ち上がって戻る勢いに任せて、わしに右前脚を落とす。

 この攻撃によって、頭上をガードした【光盾】は硬いひずめで踏み潰され、その下のわしが乗っていた【光盾】をも踏み潰された。


 あっぶな……次はこれじゃ!!


 わしは頭上の【光盾】が砕けた瞬間、前方に跳び、【白猫刀】の峰打ちで、さっき攻撃した白牛の首を打ち付ける。


「がはっ……」


 効いておるのう。魔力を流して刃のほうを使っていたなら、もしかしたら決着しておったかもな。いや、長さが足りんか。


 白牛はフラフラしてわしを見失っているので、その隙にわしは背中に飛び乗って、頭まで走る。そして……


 重力三百倍斬り!


 刃先に重力を乗せ、魔力で硬くした【白猫刀】の峰を、力いっぱい頭に喰らわせる。


「モ、モォォ……」


 わしの攻撃を喰らった白牛は、脳震盪のうしんとうを起こしたのか千鳥足になって脚を折り、倒れて寝そべる事となった。



 ふぅ……。これでしばらく眠ってくれるかな? ひょっとしたら、頭蓋骨が割れているかもしれないけど……おっきなタンコブが出来てるから大丈夫かな?

 あ! ヤバイ!


 わしが白牛を倒して一息ついていると、牛達が穴の開いた壁に走り出した。

 そうはさせまいとわしは土魔法を使って壁を塞ぐが、このままでは四方八方に逃げられてしまう。なのでわしは、強さを隠す隠蔽魔法を解いて威嚇する。


「にゃ~~~ご~~~! 動いたら殺す。わかったな!!」


 わしの威嚇に茶色い牛はへたり込み、黒い牛は頭を高速に振ってうなずく。その姿を見て、隠蔽魔法を掛け直す。

 そして、三匹の黒牛に念話を繋ぐと一ヶ所に固まるように命令し、そこに座らせて笑顔を見せる。


「まぁまぁ。緊張するな。殺す気は無いから話を聞いてくれ。ひとまず全員にドーナツをやるぞ。甘くて美味しいぞ~」


 わしは次元倉庫に残っていたドーナツを出して、二個ずつ食べるように促す。大きな黒牛が副ボスなのか、恐る恐る食べると、茶色い牛に勧めていた。


 うん。素直に従っておるな。それに嬉しそうに見える。自然界では甘い食べ物に、めったにありつけないからのう。これで落ち着いたじゃろうし、一番大きな黒牛に話し掛けてみるか。


「それで交渉なんじゃが、食べ物を用意するから、わしの仲間にならんか? まぁタダではやれんがな」

「えっと……殺さないの?」

「殺すつもりなら、とっくにやっておる。嫌なら帰してやってもいいけど、お前達のボスがわしの物を壊したから、その分は働いてもらうぞ」

「ボスも死んだし、あなたがボスになってくれるなら従うわ」

「ん? 手加減はしたつもりだから、アイツならまだ生きているんじゃないか?」

「そうなの!?」

「起こして反撃して来るなら次は無いけどな。殺すのは惜しいし、お前達で説得してくれないか?」

「……わかったわ」


 わしの言葉を聞いた黒牛は、白牛の元へ行くと、頭突きで叩き起こしていた。とりあえず説得は黒牛に任せ、他の牛には水を振る舞う。先ほど食べたドーナツが美味しかったからか、今度は警戒せずに飲んでくれた。

 そうこうしていると、黒牛が白牛を連れてわしの元へやって来た。


「ああ……えっと……」

「ほら、あんた。さっさと謝りなさい!」

「その……壊してすみませんでした!」


 どう説得したんじゃろう? 強さ的には白牛が断然上なのに、黒牛に尻に敷かれておる。もしかして、黒牛は雌か? それなら惚れた腫れたがあるのかな? ……動物の恋愛はあまり知りたくないな。


「よし。謝罪は受け取ってやる。それで、わしの仲間になってくれるのか?」

「いや……それは……」

「さっき、『うん』って言ったでしょ!」

「しかし……」

「お前には群れをまとめてもらうだけじゃ。あと、これを食え」


 わしはドーナツをひとつ握ると、白牛の口に投げ込む。白牛はムシャムシャとすると目を見開き、口を大きく開ける。


 う~ん……まだ欲しいのか? あの巨体じゃ足りないだろうけど……もう三個投げ込んでやるか。


「ムシャムシャ」

「どうじゃ? 仲間になるか?」

「もっとくれたら考える」

「ちょっと、あんた!」

「……わかった。交渉決裂じゃ。ここから出て行って、もうわしの前に現れるなよ?」

「ああ。行くぞ!」


 白牛はわしに背を向けて歩き出すが、他の牛はわしの近くから座ったまま動かない。どうやら、脅しと餌付けが効いているみたいだ。

 白牛はしばらく歩くと振り返り、誰もついて来ていないと気付くと、走って戻って来た。


「なんで誰もついて来ないんだ~!」


 白牛が怒っているのに、黒牛はプイっと横を向いて仲間に話し掛ける。


「だってあんたより強いし、美味しい食べ物も水もくれたしね~?」


 うん。皆、頷いておるな。わしがこの群れのボスになってしまったみたいじゃ。人間の王様に続き、牛のボスにもなったのか……わしは猫じゃぞ?


「ついて来てくれよ~」


 なんか白牛が涙目で駄々っ子みたいになって来たな。地団駄が凄い。うるさいし、地が揺れておる。


「うっさい! 暴れるな! 殺すぞ!!」


 わしが強い念話を送ると、黒牛が庇うように前に出て来る。


「それだけは勘弁してあげて。ほら、あんたも謝りなさい!」

「す、すみません」

「まったく……一匹が寂しいなら、あんたもここに残ればいいじゃない」

「ううぅぅ……わかった」


 これで解決かな? よし! 労働力とミルクを手に入れた。これで街の発展に役立つぞ。



 牛達との交渉を済ませると、壊れた外壁を完璧に直し、白牛に乗って群れごと街に向かわせる。その時に、何故、壁を壊したのかと聞くと、そこに障害物があったからだとか。ただのアホ牛で、街を襲うとかではなかったみたいだ。

 しばらく白牛が歩くと街が見え始めたので、皆を怖がらせないように、光魔法で猫の絵を照らしながら進み、街の門近くになると停止させて全員座らせる。


 牛達が座ったのを見て、リータ達が居る内壁の見張り台に飛び乗り、声を掛ける。


「ただいまにゃ~」

「おかえりなさい」

「おかえりニャー」

「それで……あの牛の化け物は、なんですか?」

「ああ。スカウトして来たにゃ。これで畑仕事が楽になるにゃ~」

「キョリスより大きいけど、大丈夫ニャ?」

「話はつけたから大丈夫にゃ。最悪、白いのは殺しても、群れはわしが乗っ取ったから大丈夫にゃ」


 わしの報告を聞いたリータとメイバイは、気の張っていた顔から安心した顔に変わる。


「はぁ……シラタマさんに怪我がなくてよかったです」

「本当ニャー。地響きが凄くて、心配だったニャー」

「地響きにゃ? それは白牛が地団駄踏んでただけにゃ。戦闘自体は、早くに終わっていたにゃ」

「戦いの音じゃなかったのですか!?」

「凄い戦いが繰り広げられていると思ったニャー!」

「それじゃあ、危険も無くなったし、みんにゃを安心させようにゃ。紹介もしたいから、住人を街の外に出してくれにゃ~」

「「はい(ニャー)!」」


 街の外に住人が出て来ると、牛のこれからの役割を説明する。皆、巨大な牛に驚いていたが、子供達は興味深々で近付こうとする。

 なので、白牛に乗せてやってくれとわしが頼むと、意外とすんなり乗せてくれた。黒牛も子供達を乗せて遊んでくれて、わし達は微笑ましくそれを眺める。


 そうしてお茶休憩をしていると、トウキンがわしの元へやって来た。


「あれは、シユウですか?」

「シユウにゃ? あの白牛は有名にゃの?」

「はい。災害級の暴れ牛です。そのシユウすら手懐けるとは、猫王様はお強いのですね」

「まぁにゃ」

「これなら、伝説のリスも手懐けられるのではないでしょうか?」


 伝説のリスって、ハハリスの事じゃよな? ハハリスは、やっぱりこの国で暴れていたんじゃな。


「ああ。そのリスにゃら友達にゃ」

「ええ!?」

「リスも有名にゃの?」

「ええ。百年前に、国が大打撃を受けたと聞いています」

「へ~。わしの居た国ではハハリスと呼んでいたけど、こっちではなんと呼んでいたにゃ?」

「厄災リスと呼ばれていました」


 厄災リス? そんな災いの象徴みたいな名前を付けられるなんて、ハハリスはこの国で何をやらかしたんじゃ? まぁキョリスも似たような事をやっておったか……

 あ! コリスとしばらく会ってなかった。またわしの縄張りまで来ると厄介じゃし、明日行こうかな?

 その前に、トーキンに頼み事をしておくか。


「名前が無いと不便だから、黒い牛と残りにも、名前を付けてやってくれにゃ」

「私、一人でですか?」

「子供達も使ってくれたらいいにゃ。頼んだにゃ~」

「それでしたら……わかりました」


 トウキンはわしから離れると子供達を集合させ、わいわいと話し合う。わしもその輪に入り、決まった名前を黒牛に伝え、全牛が終わると農機具を付けたデモンストレーションを行う。

 さすがは牛。わしが土魔法で作った熊手のような農機具(牛鍬うしぐわ)を付けても楽々進み、畑が凄い速さで耕される。


 巨大な白と黒の牛にも大きな牛鍬を付けさせ、こちらはパワーで切り株の残った土地を走らせる。思った通り、楽々切り株を掘り返し、そのまま進んで行った。

 わしは仕事が減ってしめしめと見ていたが、リータ達に、シユウとわしのどちらが力があるのかを確かめようと、同じ大きさの牛鍬を強引に付けさせられた。

 渋々わしも走るが、スピードが速かったせいで皆はわし達を見失い、外壁からタッチして戻って来たら、誰も居なかった……


 住人は街の中で焼き肉をし、牛達は草を求め、足跡から北に向かったようだ。



 ほっぽり出されたわしとシユウはお互い慰め合い、心を通わす事となったとさ。

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