137 白い巨象、復活にゃ~


 ん、んん~……朝か。昨夜はたしか……ああ。王子の決起集会に夜遅くまで付き合わされたんじゃったな。

 わしがいる必要なんてなかったんじゃが、あの王子め……わしを餌付けして、シンボルにしようとしてないか? 最後のほうはあがたてまつられたぞ? 今日の仕事が済んだら、さっさと逃げたほうがよさそうじゃ。

 そう言えば、昨日は猫の姿でネコハウスで寝たはずなんじゃが……いつの間にか二人の間で寝ている。リータとメイバイも逃げたから、お仕置きでネコハウスで寝たのに。これがお仕置きになるかは、わからないが……



「ふにゃ~」

「シラタマさん……起きましたか?」

「シラタマ殿……おはようニャー」

「ああ。おはよう」


 わしが大きなあくび声を出すと、リータとメイバイを起こしてしまったようだ。そうして二人は目覚めると同時に、わしをぐわんぐわんと揺らして来た。


「なんで一人で寝ていたのですか!」

「ホントニャ! 寂しかったニャー」

「それは二人の胸に聞くといい」

「こうですか?」

「こうニャ!」

「違う! わしに聞かせてどうするんじゃ!」


 まったく。わしの耳を胸に押し当ててどうするんじゃ。最近、二人のセクハラがひどいわい。嫌がっているつもりじゃが、猫の喉のせいでゴロゴロと言ってしまっているのが悪いのか? それよりも……


「二人とも、わしが助けてって言ったのに、助けてくれなかったじゃろ? その罰で、一人で寝たんじゃ」

「そ、そんな……」

「こんな罰、あんまりニャー」


 おう……これが罰になるのか? 思ったより効いておる。絶望で、いまにも泣き出しそうな顔をしているな。


「えっと~。やり過ぎた。ごめんなさい」

「シラタマさ~ん!」

「シラタマ殿~!」

「わ! 二人して噛むな。そこは触らないで~。ゴロゴロ~」


 わしは二人にめちゃくちゃにされ、ゴロゴロと声を鳴らす。しばらくして、落ち着いた二人に解放……されない。


「それで、なんでわしはベッドで寝てるんじゃ?」

「それはシラタマさんが起こしても起きなかったから、つい引っ張り出しました」

「何度も起こしたニャ。何しても起きなかったニャー」

「で、あまりにも気持ち良さそうにスヤスヤ寝てるものだから、見ていたら寝てしまったみたいです」

「たまには猫型のシラタマ殿もいいニャー」


 ベッドで寝ていた理由はわかったけど、つい引っ張り出さないで! あとメイバイ……何したんじゃ? 怖いから聞けない。

 それはそうと、昨日は張り切って、巨象に魔法や体術を使ったから疲れていたんじゃな。それに加え、夜遅くまで崇め奉られたのが効いたのか。


「ところで、いまは何時じゃろう?」

「朝一の鐘でシラタマさんを起こそうとして、寝てしまったから……」

「もう昼じゃないかニャー? お腹へったニャー」

「なんじゃと!? 白象との約束があるのに寝過ごしてしまった。急いで支度するぞ!」



 わし達はいそいそと着替え、宿屋の食堂に駆け込んで注文をする。すると、外に出ていたらしいガウリカが宿屋の扉を開けて入って来た。


「あれ? 居たのか」

「起きていたにゃら、起こしてくれにゃ~」

「ノックはしたんだが、反応が無かったから、もう出掛けたと思っていたよ」

「寝過ごしたにゃ~」

「その割には食事なんて、余裕そうだな」

「いや、これは……腹が減っては戦が出来ないにゃ」

「そうか……」


 ガウリカがわしをジト目で見るので、慌てて話を変える。


「そ、そう言えば、ガウリカは仕入れに行ってたのかにゃ?」

「いや、街が騒がしいから様子を見に行っていたんだ」

「立って喋る猫が現れたにゃ?」

「そんな奴いるか!」

「冗談にゃ」


 ここにいるんじゃがな~。ガウリカは、まだわしを認めておらんのか。リータとメイバイの生温い目が痛いし、まじめに話をしよう。


「王子が動いたかにゃ?」

「あたしもそう思ったんだが、様子がおかしいんだ」

「おかしいにゃ?」

「それが、白象教と王様が、兵を連れて国から逃げ出したと言っていたな」

「悪事がバレて逃げ出したのかにゃ? 王子からしたらラッキーにゃ」

「それだったらいいんだがな……」

「他に、にゃにがあるにゃ?」

「遠くから地鳴りがすると噂している」

「地鳴りにゃ?」

「あたしも地面に耳を当ててみたら聞こえたよ」


 ああ。巨象か。寝坊したから向こうから会いに来たのかな? ……って、ホントに石化が解けたの!? 早くもフラグの回収か~。


 わしが黙って料理をつついていたら、ガウリカは語気を強くする。


「猫……お前は何をしたんだ!?」

「この料理は、にゃんて名前にゃ?」

「それは……って、話を逸らすな!」


 ガウリカの追及をのらりくらりとかわしていると、リータとメイバイがよけいな事を言う。


「やっぱり石化が解けたのでしょうか?」

「シラタマ殿が、あんな事をするからニャー」

「ね、猫! 本当に何をしたんだ!?」


 リータとメイバイの言葉を聞いたガウリカは、わしを揺らすので、仕方がないので答えてあげる。


「う~ん。白象に会って、伝説の白い巨象を殺すように頼まれたって言ったにゃ?」

「あ、ああ……」

「だから本気を出して、巨象に攻撃したにゃ」

「攻撃したなんて、聞いてないぞ!」

「ほとんど効かなかったから、言わなかったにゃ」

「そりゃそうだよな。50メートルある巨象に、お前の攻撃が効くわけないよな」

「でも、元の位置から100メートルぐらい動いてしまったにゃ」

「な……」


 ガウリカは言葉を詰まらせていつので、わしはその内に料理を堪能する。


「この料理も美味しいにゃ~。おばちゃん、おかわりにゃ~!」

「食ってる場合じゃない! それじゃあ、なにかい? 巨象の石化が解けて、この国に向かっていると……」

「まぁそうなるかにゃ~? あ、来た来た。モグモグ」

「フッ……もうついて行けない」

「ガ、ガウリカさん! 大丈夫ですか!?」

「こっちに戻って来るニャー!」


 わしの話にガウリカは、ガクンと椅子から落ちて、リータとメイバイに看病されるのであった。


 ありゃ? ガウリカの口から魂が飛び出した。まぁメイバイが魂を捕まえて口に押し込んだから大丈夫じゃろう。ホンマホンマ。

 しかし、巨象はなんでこっちに向かっておるんじゃろう? たしかに王都の方向を向いておったけど、いきなり走り出すものかね? どこぞの漫画じゃないんじゃから、別の方向に走ってくれたらいいものを……


 わしがおかわりをモグモグしながら考え事していると、ガウリカの体調を確認したリータとメイバイが、わしに詰め寄る。


「シラタマさん。悠長に食べていていいんですか?」

「そうニャ。ここにいたら危険ニャー」

「そうだにゃ。逃げるとするにゃ~」

「「ダメに決まってる(ニャ!)でしょ!」」


 あ、二人ともキレた。相当焦っておるのか?

 さて、どうしたものか……このままではこの国は滅亡じゃな。わしが相手をするとして、わしより強い相手に勝てるかどうかじゃな。

 手応えはあったが、岩の状態であの防御力。石化が解けて防御力が落ちていると思うが、絶対ではない。石化する前は死にかけだったんじゃから、ここに期待するしかないじゃろう。


 もしもの時は残念じゃが、リータとメイバイだけは連れて、転移で逃げよう。この国に非があるのは明白じゃ。巨象に本懐を遂げさせてやれば落ち着くじゃろう。

 それにしても、二人とも、そろそろポコポコ叩くのやめてくれんかのう? 二人のポコポコは、リータがズシンズシンで、メイバイがダダダダじゃから、椅子が粉々じゃわい。



 わしの座っていた椅子が砕けて間もなく、宿屋の扉が乱暴に開き、この国の王子が飛び込んで来た。


「猫! お前がやったのか!!」

「にゃんの事にゃ?」

「巨象だ! 昨日、賢者の話の時にコソコソと話していただろ!!」

「だから、にゃんの事にゃ?」

「巨象がこの国に向かっているんだよ!」

「にゃんでわかるにゃ?」

「父上が慌てて言っていた。南西の森から地鳴りがした場合、白い巨象が復活する……と。復活した場合は国を棄ててでも逃げろと、古文書にも書いてあった」


 王子は怒ったように喋っていたが、しだいに声のトーンが下がっていく。


「へ~。古文書にゃんてあったんにゃ。他には何が書いてあったにゃ?」

「人間達が象にした所業も書いてあった。それを国民に隠せともな」

「……で、王子はどうするにゃ?」

「一人でも多くの国民を逃がす為に、ここに残って戦う。それで、お前が巨象を復活させたのか?」


 王は逃げ出したのに王子は残るのか……勝てない戦に出向くなんて馬鹿じゃな。こういう者が、何故、今まで生まれてこなかったんじゃろう。生まれていたなら、今頃もっと、国民は幸せだったじゃろうに……



「わしが復活させたにゃ」


 冷静にわしを見つめる王子に、嘘偽り無く答える。


「やっぱりお前だったか。なんでそんな事を……いや、いまさらか。遅かれ早かれ、こうなる運命だったのだろう。これはこの国の問題だ。お前をこの国から追放する。さっさと、この国から出て行け!」

「にゃははは」

「何がおかしい?」

「わしを助けようとするにゃんて、馬鹿だにゃ~と、思っただけにゃ」

「ああ。馬鹿だ。ハハハハ」


 わしが笑うと、王子も笑いで応える。


「そんにゃ馬鹿に、お願いがあるにゃ」

「なんだ?」

「わしが巨象を殺すにゃ。殺せなくても時間は稼ぐにゃ。だから、王子は国民を逃がす事に努めるにゃ」

「巨象を殺す? 山のように大きいのだろ? そんなこと出来るわけがない」

「出来るにゃ! わしを信じるにゃ!!」

「猫をか……」


 わしは自信に満ちた目で王子を見るが、信用するには難しい。だが、そのやり取りを見ていたリータとメイバイが、助け船を出してくれる。


「お、王子様! 失礼を承知で申します。シラタマさんは、とっても強いんです。千を超える大蟻の大群も、一人で倒すほどです!」

「そうですニャ! その中にホワイトが二匹もいましたニャ。そんなの相手に無傷で、私達の元に帰って来ましたニャー!」

「本当か?」

「「本当です(ニャ)!」」


 二人の必死の訴えに王子は、やや期待のこもった目となった。


「それなら……任せてもいいか?」

「いいにゃ」

「それでお前達は、この猫と、どういう関係だ?」

「パーティ……」

「妻です!」

「愛人ニャ!」

「にゃ!?」

「そうか。愛する者が二人もいるのか……死ぬなよ?」

「いや……」

「では、俺は行く。終わったら酒でも酌み交わそう!」

「待つにゃ……」


 わしの制止を聞かず、王子は去って行った。残されたわし達は……


「どういう事にゃ?」

「えっと……願望が口に出てました。ごめんなさい!」

「早くリータと結婚するといいニャ。そうすれば、私も堂々と愛人と名乗れるニャー!」

「もう結婚するしかないな。アハハハハ」


 いや、堂々と名乗っていたじゃろ! リータはわしの過去を知っているから謝っているけども……ついに外堀を埋め始めたのか? ひょっとしてメイバイの策略か?

 これをさっちゃん達に知られると、また怒られてしまう。どう口止めしたものか……。その前に、ガウリカが腹を抱えて笑っているのが腹立たしい。さっきまで魂が出ていたじゃろう!


「笑うにゃ~! 笑っているにゃら、ガウリカを置いて逃げるにゃ!」

「ま、待て! そんな事で国が滅んでは申し訳が立たない」

「じゃあ、この件は口外するにゃ。にゃ?」

「わ、わかったから、そんなに怒るな」


 これでガウリカから漏れる事はないかな? 問題は二人か……


「ひとまず、その話は保留にして欲しいにゃ~。お願いにゃ~」

「シラタマ殿は、リータと結婚するのは嫌ニャ? じゃあ、私と結婚するニャー!」

「メイバイさん! 約束と違います。シラタマさんには、事情があるんですよ」

「事情ってなんニャ?」

「それは……」


 二人の約束は気になるが、わしの秘密をリータが話す事は出来ないな。仕方ない。


「この件が終わったら、メイバイにも聞かせるにゃ。リータはそれでいいかにゃ?」

「私は……かまいません。未来の家族なんですから」


 家族? 愛人は家族にカウントされないはずじゃが……どゆこと?


「気になる事はあるけど、戦闘に向かう前に、食後のコーヒーを貰えるかにゃ?」

「「「まだゆっくりするのか!!」」」



 王子が帰り、伝説の白い巨象が王都に近付く緊張感の中、コーヒーを注文したわしは、リータ達から総ツッコミを入れられるのであった。

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