138 白い巨象と戦うにゃ~
伝説の白い巨象の復活の報せを聞いたわしは、昼食を済ませると、すぐに食後のコーヒーをいただく。
「う~ん。
「猫! 巨象が復活しているんだぞ。ちょっとは焦れ!!」
「そうですよ。もうそこまで来ているかも知れませんよ」
わしが落ち着いてコーヒーを飲んでいると、ガウリカとリータが急かして来る。
「まあまあ。あんにゃに離れていたんだから、すぐには来れないにゃ。それに、まだここまで地鳴りは聞こえないにゃ?」
「たしかにそうだけど……怖いニャー」
「メイバイもコーヒーを飲むといいにゃ。リラックス効果があるにゃ」
「苦いし匂いが苦手ニャー」
「無理にとは言わないにゃ」
「だからのんびりするな! 焦って戦いに行け!!」
ガウリカが耳元で怒鳴るものだから、わしは耳がキーンとなってしまい、渋々立ち上がる。
「ガウリカはうるさいにゃ~。へ~へ~。行きますよ~にゃ」
「やっと腰を上げやがった」
「リータとメイバイはついて来るにゃ?」
「え? ついて行っていいのですか?」
「連れて行ってもらえないと思っていたニャー」
「もしもの時は逃げるから、そばにいてもらった方が安心するにゃ」
「それって、この国を救うのを諦めると言う事ですか?」
「まぁそうなるにゃ」
わしは二人を誘うが、いい返事がもらえず、メイバイが怒ったような声を出す。
「そんなのダメニャー!」
「わしはこの国より、リータとメイバイのほうが大事にゃ。だからついて来るにゃ」
「シラタマさん……行けません! 私はシラタマさんの帰りを待っています。だから、絶対、巨象を倒してください」
「シラタマ殿の気持ちは嬉しいけど……私も待つニャ! 帰って来たら、いっぱいサービスするニャー」
二人が強く拒否すると、ガウリカがわしの肩をポンッと叩いた。
「フフフ。これで引くに引けないな」
「そうだにゃ。行って来るにゃ~」
わしは宿屋を出て、避難する民衆と逆行し、南門に向かう。メイバイのサービスをどう回避するかを考えながら……
南門に着くと多くの兵が集まっており、わしの登場で兵達が、猫、猫と騒ぎ出してしまった。
うん。うるさい。巨象で忙しいんじゃから、猫一匹ぐらい通してくれてもいいのに。外に出たいんじゃが……押し通るか?
「お前が猫か?」
わしが悩んでいると、兵士のおっちゃんが話し掛けて来た。
「見ての通りにゃ」
「……そうだな。王子殿下から、猫が来たら通せと仰せ付かっている。これから向かうのか?」
「そうにゃ。通っていいかにゃ?」
「ああ。では、我々も助力する。皆の者、行くぞ!」
「「「「「おお!!」」」」」
兵士は死ぬ覚悟を持って大声をあげるのだが……
「待て! 待つにゃ~!!」
わしも負けじと大声で止める。
「なんだ?」
「わし一人でやるにゃ! ついて来るにゃ!!」
「しかし、他国の猫を一匹で送り出すわけには……」
「はっきり言うにゃ。わしが全力を出せないから、足手まといで邪魔にゃ」
「なっ……」
「わかったにゃら解散にゃ!」
「い、いや。それでも見届けないわけにはいかん!」
「どうしてもついて来るにゃ?」
「ああ!」
「はぁ。遠くから見るなら許可するにゃ。絶対に近付くにゃ。それとお前に、これを渡しておくにゃ」
わしは望遠鏡を兵士のおっちゃんに渡し、使い方を教えて、門から外に出る。
そうすると、巨象が近付いて来たのか、王都までかすかに地鳴りが聞こえ始めた。兵達も気付いたのか、息を呑んで南西の森を眺めている。
地鳴りの音が徐々に大きくなる中、わしは走り出す。巨象の待つ南西の森へ……
兵士達が見えなくなると変身魔法を解き、猫型に移行してスピードを上げる。あっと言う間に南西の森に到着すると、地鳴りも大きくなり、遠くに白煙を確認できた。
さてと、巨象は間違いなくこっちに向かっておるな。探知魔法の間隔からすると、王都までは、もう数十分ってところかのう。わしの射程はもう少しじゃから準備するか。まずは【玄武】。
わしは高さ20メートルの大きくて頑丈な土の亀を作り出し、甲羅の上にお座りをする。これは高さを合わせ、わしを固定する発射台だ。
わしがこれから使う魔法は超長距離魔法。兄弟達がさらわれた時には魔法書から発見できなかったが、修行時代に見付けていた。
ただし、呪文の詠唱が恐ろしく長いので、このままでは使えない。だから理論とイメージを魔法書から引用し、アレンジを加えている。
地鳴りが、かなり大きくなった……。周囲にも圧迫感が漂っている。肉眼でも確認できる。そろそろ射程に入りそうじゃな。よし。チャージ開始じゃ!
わしは超長距離魔法の発射準備に取り掛かる。
まずはおっかさんの最大魔法【
次元倉庫に貯めていた魔力をさらに圧縮していき、おっかさんは広範囲に使っていたが、わしは一点に集中するイメージをプラス。さしずめ高出力のビームじゃ。
よし。こんなものか? ストックを半分持っていかれたが、わしの全魔力のおよそ百倍を使ったんじゃ。
これで
巨象も射程に入り、わしとの距離もだいぶ詰まったな。あとは、前日にマーキングしておいた軌跡どおりに通すだけ。簡単なお仕事じゃ。
行くぞ! 極大魔法【
「にゃ~~~ご~~~!!」
地鳴りの響く中、わしの咆哮が地鳴りの音を掻き消す。
【御雷】は、わしの口を発射口に、光を吐き出す魔法だ。
光の速度。刹那の輝き。
それはまさに一瞬で、巨象の頭に命中し、マーキングの軌跡に沿って心臓を貫き、尻を突き破り、空の彼方に消えて行った……
ぐぅ……これほどの魔力量は、わしにも負担が掛かるな。反動で足も折れて顔が焼け焦げておる。痛い……。リータとメイバイには見せられぬ姿じゃったな。待つと言ってくれてよかった。
とりあえず、ストックから魔力を補填して……回復魔法。痛いの痛いの飛んで行け~。よし。完全回復。じゃが……
地鳴りが消えない……嘘じゃろ?
脳と心臓を貫いたのに生きておるのか? マーキングがずれていたのか……。いや、それでも弱っているんじゃ。大穴が開いたんだから死んでもいいじゃろ! どうなっておるんじゃ? とりあえず、望遠鏡セット。
わしは望遠鏡越しに巨象を確認する。
う~ん。後ろは見えないけど、頭から噴水のように血は吹き出している。この分だと、後ろからも吹き出ているんじゃろうな。痛みに麻痺しておるのか?
くっそ~。これで決まっておれば楽じゃったのに……。まぁ相手は生物じゃ。どれだけ強くとも、血が無くなれば死ぬじゃろう。
わしの危険も増すが、やるしかない!
【肉体強化マックス】。行け! 【玄武】!!
わしは巨大な亀を走らせ、正面から巨象にぶつける。数秒の押し合いがあったが巨象の力に、あっけなく【玄武】は砕け散る。その間に、わしは巨象の頭に飛び移った。
さっき開けた穴は……ここじゃな。こんなに血を吹いているんだから、さっさと倒れてくれたらいいのに……。
【風猫】×2。心臓と脳で暴れて来い! さて、わしは……
血の吹き出す穴に、【鎌鼬】渦巻く猫の形をした魔法を入れると、巨象の正面に高く飛び上がる。そして風魔法で落下地点を調整し、力任せに巨象の頭にネコバンチを喰らわす。
着地するとまた巨象に向けて飛び掛かり、ネコバンチ。その行動を何度も、何度も繰り返す。
攻撃が当たると一瞬止まるが……何故、わしを攻撃して来ない? もう意識が無いのか? これでは昨日のリプレーじゃな。じゃが、ありがたい。
森から完全に出てしまったが、徐々に進む速度は落ちておる。王都まで行かせるか!
「にゃ~~~ご~~~!!!」
わしは叫び、気合いを入れ直す。そしてネコバンチ、猫頭突き、【肉体強化マックス】を何度も繰り返し、巨象にぶつかる。
巨象はわしの攻撃を受けて、最初は走っていたが徐々にスピードを落とし、歩きに変わる。それでも、一歩、一歩、大きな地響きを立てて王都に近付く。
くそ! まだ死なんのか。もう王都が見えておる。あれは……兵士達。後退しておるようじゃけど、このままでは追い付かれる。魔法もまぜるか……
ストックから魔力を移行!
行け! 【四獣】!!
わしの放つ、火、風、土、氷の四属性魔法、【玄武】の20メートルを最大に、一匹10メートルの獣が巨象に襲い掛かる。
土の亀【玄武】が巨象の正面からぶつかり、氷の龍【青龍】が左脚に絡まって凍らせる。風の虎【白虎】が右脚を斬り裂き、火の鳥【朱雀】が顔を焦がす。
魔法で出来た四匹の獸にまざり、一匹の猫も突撃する。
【四獣】が巨象に潰されるとまた放ち、魔力が無くなると次元倉庫から補填する。そして、小さな体を使って巨象とぶつかる。
何度も繰り返される攻撃……ここに来て、ようやく巨象の足が止まる。しかし、まだ力を感じる。
わしは巨象を押し返そうと力を込め、最速の動きでネコパンチを、巨象の眉間に打ち込んだ。
「パオーーーン!」
戦い初めて数時間……
突如あがる巨象の声。
空は紅くなり、ついに終わりが来る。
巨象は膝を折り、ゆっくりと横に倒れる。
地を揺らし、大きな音を立て、横になった巨象の瞳から光が消える。
そして……
「にゃ~~~!!」
わしは勝利の雄叫びをあげる。
巨象の最後の言葉を振り払うために……
なにがありがとうじゃ! 胸糞悪い……殺した相手に言う言葉じゃないじゃろう! 恨め! 七代
じゃが、これで痛みからは解放されたか……安らかに眠れ。そして、生まれ変われ。今度はちゃんと喧嘩しよう!
わしが殺した巨象を前に、様々な思いを抱いて立ち尽くしていると、一台の馬車がやって来た。
「シラタマさ~ん」
「シラタマ殿~」
声に気付き、振り返ると馬車の窓からリータとメイバイが手を振っていた。わしは二人の声を聞くと、気持ちが和らぐのを感じる。そうして馬車が停まると二人は飛び降り、わしに駆け寄って来る。
「シラタマさん! また、血が出てます」
「大丈夫ニャ? 痛くないニャ?」
「痛いけど、大丈夫じゃ。もう少し魔力が戻ったら回復する」
「そうですか……お疲れ様です」
「凄い音だったニャ。こんなに大きな象と戦うなんて、やっぱりシラタマ殿は凄いニャー」
「あ~……ちょっといいか? この猫はなんだ?」
わし達が話していると、遅れてやって来た王子が話に入って来た。
「シラタマさんです」
「シラタマ殿ニャ」
「シラタマって……猫か?」
「そう言えば、王子には名乗っていなかったにゃ。わしはシラタマにゃ。これは元の姿で、さっき会った時は魔法で変身していたにゃ」
「頭の中で声がする……」
王子はキョロキョロとした後、視線をわしに戻したので頷く。
「この姿では喋れないにゃ。念話を使っているにゃ」
「そうか……俺はバハードゥだ。本当に巨象を倒してくれたんだな。民を……国を救ってくれて感謝する」
「そんにゃ言葉はいらないにゃ。わしはわしの仕事をしただけにゃ」
「仕事?」
「言ったにゃろ? 巨象の子孫の白象に、殺してくれと頼まれたにゃ。だから国を救ったわけじゃないにゃ」
「いや。それでも感謝させてくれ。ありがとう」
わしは照れ臭いので頬を前脚でポリポリ掻きながら、王子の言葉を受け取る。
「それで巨象はどうするんだ?」
「持って帰るにゃ」
「こんなに大きな物を持って帰るのか……」
「にゃんとかなるにゃ」
「お前が出来ると言うのなら出来るんだろうな。しかし、持って帰ってどうするんだ?」
「東の国の、女王の誕生祭に出展するにゃ。出来れば東の国に、この事を知られたくないにゃ」
「それは難しいだろうな。でも、英雄の頼みなら出来るだけやってみよう」
「英雄なんて大袈裟にゃ。ただの猫だにゃ~」
「そんなわけないだろ!」
ですよね~。ツッコミ、ありがとうございま~す。
その後、少し魔力が戻ったわしは回復魔法で怪我を癒し、水魔法で綺麗にしてから巨象を次元倉庫に仕舞い込む。巨象は大き過ぎて、戻った魔力では足りなくなり、ストックから補給した。
「巨象が消えた……」
「口止めをお願いしたから、無理してしまったにゃ。それじゃあ、帰るにゃ~……トトト」
わしは歩こうとするが、体がふらついてしまった。すると、リータとメイバイが心配して近付く。
「大丈夫ですか?」
「ふらふらニャー」
「かなり無理をしたんですね。私が抱いて運びます」
「すまないにゃ~」
「馬車で宿まで送ろう」
わしはリータに抱き抱えられて馬車に乗り込む。そうして王子に懸念事項を伝え終わると、疲れ果てていたのか、すぐに眠りに落ちてるのであった。
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