540 チェクチ族の暮らしにゃ~
チェクチ族の猫の国入りは、ヴクヴカイの決断で白紙となったので、勝ち誇っていた顔をしていたわしは、リータとメイバイに頬を引っ張られてしまった。
だが、二人の力ならまだ痛くない。余裕でホッとしていたら、二人はヴクヴカイに、どうして猫の国に入らないのかと理由を聞いていた。
「その猫が王なのだろ? そんなやる気のない奴の下につくのもな~」
どうやら、国土を増やせるチャンスを必死に阻止しようとした事が、わしの勝因に繋がったようだ。なのでニヤニヤ笑っていたら、リータとメイバイに鬼の形相で睨まれた。
マジで鬼。二人に、オニヒメより多い角が見えて、わしはプルプル震える。
そんな中、黙って聞いていたイサベレまでよけいな事を言い出した。
「猫の国が嫌なら東の国に入ればいい」
「「「却下にゃ~~~!!」」」
まさかの提案に、わしとリータとメイバイは、心がひとつに重なるのであったとさ。
「東の国……さっき、写真で見た国か……」
何やらヴクヴカイの興味が東の国に移ってしまったので、わしもさすがに止めに入らなくてはならない。
「別にどこかの国に入らなくてもいいにゃろ。もう、チェクチ族の集落を国にしてしまって友好条約にゃんて結べば、もしもの時は助けに来てやるにゃ」
「お、おお! それはいいな。しかし、助けを求めるのはお高いんでしょ~?」
ヴクヴカイが通販番組に出ているアシスタントみたいになったので、わしは金額を提示する。
「お値段据え置きにゃ~」
「なんだそれ?」
当然、わしのボケは誰ひとり伝わらないので、真面目に話す。
「まぁそれなりににゃ。ただ、この土地は、我が国としてはメリットがあるにゃ。さっき話した鉱石は、我が国では採掘量が少ないから購入できなくなると困るにゃ。それにゃら助ける為に、兵を出してもいいと考えてもおかしくないにゃろ?」
「なるほど……しかしな~」
「逆はどうにゃ? これからここに必要にゃ物資が安定的に手に入るにゃら、ヴク……族長は、うちに協力しようと思わにゃい?」
「たしかに……」
「お試しに、交易から始めようにゃ。それで半年でも一年でも続けて、お互い信用できるにゃら、友好条約を結ぼうにゃ~」
「それならば……うむ。わかった」
交渉成立。どうしてもヴクヴカイの名前は発音できないが、チェクチ族との交易は決定し、わしとヴクヴカイは握手を交わす。その時の写真もメイバイに撮らせ、その写真はお互い笑顔の写真となっていた……
「友好条約じゃなくて、猫の国入りでもいいのですよ?」
「交易したら、きっと猫の国に入りたいと思うはずニャー」
「東の国も門戸は開いてる」
諦めの悪い、リータ、メイバイ、イサベレの顔はしかめっ面だったけど……
握手のあとは、交易の詰め。お互いの商品を見せ合うのだが、ヴクヴカイは何を要求していいかわからないとのこと。
なので、わしが持っている猫の国で手に入る、麦、米、野菜、お酒を少量ずつ。香辛料も気になっていたようなので、これも各種少量ずつ出して味見をさせる。
何を買うかはこれから人を集めて会議をするらしく、決定には時間が掛かりそうなので、その間、わし達も商品を探す。その案内にヴクヴカイの娘、ゲウトワリという女性がついて来てくれた。
ゲウトワリはチェクチ族一番の美人と自分で自己紹介していたが、たしかに美人で巨乳だが、距離が近い。たぶん撫でたいのだと思うので、撫でさせたらモフモフ言って挟まれた。
いや、抱っこされて案内される。
ややリータ達の目が怖いが、市場だという場所に辿り着いた。そこは、
「いつもこんにゃに商品は少ないにゃ?」
「この時間はですね。朝から昼に掛けて人が集まるので、ほとんど売れてしまっているのです」
「にゃるほど~。あの人は、干し肉と引き換えに、にゃにを渡していたにゃ?」
「
ふ~ん……いちおう貨幣のようなシステムはあるのか。ただ、自由経済というより、社会主義的な感じで、族長から給金が支払われるんじゃな。
「ちにゃみに、ゲウトワリさんは黒貨を貯め込んでたりするのかにゃ?」
「少しだけですね。服が好きなので、黒貨が貯まったらすぐに買ってしまうんです」
「にゃはは。お洒落だもんにゃ~」
ふむ……服は高価じゃが、毎月お金は貰えるから、我慢してまで貯蓄に回す必要はないのか。だいたいここでの暮らしは掴めて来たのう。
それからも些細な質問をしつつ、チェクチ族の暮らしを聞き出し、売っている物の説明なんかを聞きながら歩く。
ただ、アザラシの頭や鳥がそのままだったりのグロイ物ばかりで、カメラ係のメイバイもあまりシャッターを押していなかったから、建物密集地の外へ移動する。
「この広い敷地は、にゃにに使っているにゃ?」
建物密集地の外は、一面の雪景色。遠くに黒い壁があるのみだ。
「集落の外は危険ですからね。運動用に広く取っています。それと、住人が増えた場合に備えてですね」
「にゃるほど~」
ここも見る物が無いので、気になっていた外壁に移動する。ただ、コリスとオニヒメが暇そうにしてるのがかわいそうだ。
だからバスに乗せてお昼寝させつつ移動しようとするが、ゲウトワリがうるさい。
「なんですかこれ!? 寒くないし、犬ぞりより断然乗り心地がいいです~!!」
「後ろで寝てる子も居るんにゃから、静かにしてにゃ~」
ようやく落ち着いたところで移動手段も聞いてみたら、ほとんど徒歩。遠出する時や荷物を運ぶ際に、犬ぞりを使うだけらしい。
そんな話をしていたら外壁に着いたので、コリス達は寝かせたままバスを降りる。鍵も閉めたから、悪さをする事も出来ないだろう。
外壁の頂上に登ると、そこには……やっぱり雪景色。雪景色に加え、東に流氷の浮く海も見えるから悪くはないが、面白味に掛ける。
うぅむ……鉱石ぐらいしか、興味の引く物がないな。せいぜい犬ぞりのアクティビティぐらいか。北極圏ならホエールウォッチングなんてのも見所だと思うけど、アンコウまでもが山みたいに見える世界じゃ。クジラを見る必要もないか……
面白くはないが、気になる事もあったのでゲウトワリに質問してみる。
「この、弓に弦を張っていない物はにゃに?」
「それは見たまま弓ですね。ただし、強力なので、大きな獣でも一撃で倒せるのですよ」
見た目通りで使い方もわかるが、いちおう説明を受ける。
この外壁には、
ただ、獣はそう毎日出て来るわけでもないので、弓が痛まないように、使用する時以外は全て外しているようだ。
これ……すんごい量の黒魔鉱じゃな。白魔鉱のデカイ矢もある。近くにある矢だけでも、ひと財産になるぞ?
それに、この外壁全て黒魔鉱っぽい。てっきり上からコーティングしていると思っていたけど、魔力を流しても空洞らしき場所は無かった……
これこそ夢にまで見た黄金郷。いや、真っ黒じゃから、黒金郷。ちょ~っと、これはマズイかも……
とりあえず見るところは見たので、族長の屋敷に戻って会議の話を聞く。
「バス! バスを売ってくれ!!」
当然、ゲウトワリが報告したので、ヴクヴカイは食品よりもバスに食い付いてしまった。
「いいんにゃけど、この極寒の土地で使えるかどうかがわからにゃいんだよにゃ~。一度帰って持って来るから、使ってからまた話し合おうにゃ。他は決まったのかにゃ?」
「そうだな……」
食料品も、全て欲しいとのこと。特に香辛料が欲しいらしいが、これはうちで生産されていない物が多いので、少し割高になると説明する。
ついでに技術品の置き時計、レコードも見せて、購入を決めさせた。これで、我が国は黒魔鉱や白魔鉱が山ほど手に入るはずだ。
売ってよし、使ってよし、ウハウハだ。
ただし、魔鉱の値段をいまいち覚えていなかったので、帰ってからホウジツと相談してからとなった。
あとは三ツ鳥居とキャットコンテナを売れば商売も成り立つが、手持ちが無い。これも一度帰ってからとなったが、そんな一瞬で行き来できる物があるのかと少し疑われてしまった。
「信用できないにゃら、誰かうちの国に来にゃい? ここより発展した土地で、しばらく生活させてやるにゃ~。もちろんタダではないけどにゃ」
「むう……
「にゃはは。帰るのが嫌になっちゃうかもにゃ。でも、文字と言葉の勉強をしてもらわにゃいといけないから、どっちにしろ二人ぐらいは連れて帰らないとにゃ~」
「たしかに……さっき見た字も、うちと全然違った」
「ま、もう数日ここを拠点に観光するから、数に強い信頼できる者を二人ほど見繕っておいてにゃ~」
商談も終わったので、宿屋はあるかと聞いてみたが、思った通り無かった。なので、どこか開いている土地を借りる事にする。
ゲウトワリの案内で向かおうとしたら、ヴクヴカイもバスに乗り込んで来た。なんでも、乗り心地を確認したかったようだ。
うるさいヴクヴカイを宥めながら進んでいたら、雪原に到着。ここなら土地が余っているから、好きな所を使っていいとのこと。
ヴクヴカイとゲウトワリのガン見は気になるが、土地を整地してキャットハウスを取り出してみた。
「なんて便利な猫なんだ……」
「ね? 私が言った通りでしょ~?」
ヴクヴカイとゲウトワリは何やら盛り上がっているが、気にせず猫パーティでキャットハウスに入る。だが、帰ると思っていたヴクヴカイ達も入ろうとしたので、見たいなら靴を脱げと言って上げた。
そうして光や火の魔道具に魔力を流し、ダイニングに案内して座らせようとしたが、家の作りが気になる二人は「ワーキャー」騒ぎながら引き戸を開けまくる。
わし達は夕食の準備に取り掛かるが、二人はまったく帰る素振りを見せず、取り出した寸胴や調理姿をガン見しているので、メシを食ったら帰る事を条件に夕食をご馳走してあげる事にした。
「「ズズー……熱っ!!」」
今日の夕食はラーメン。調理済みのラーメンもあるが、夜が長いので暇潰しに麺を茹でるぐらいはしてみた。二人は上手くすすれないらしく、舌を火傷してしまったようだ。しかし、うまいからか食べる事をやめない。
ラーメンだけでは足りない皆には、出来合いのチャーハンや餃子、高級串焼きを振る舞っていたら、それも欲しがって来たので、絶対に帰れと念を押して振る舞う。
その時、冷蔵庫があるのに空なのはどうしてかとコリスが文句を言うので、高級生肉をパンパンに入れて、調味料も棚に並べてあげた。
自分で料理するの? 焼くぐらいは出来るんじゃ~。えらいえら~い。でも、いまは生のまま食べるのやめよっか?
コリスを冷蔵庫から引き離してお風呂に入れようとしていたら、ヴクヴカイとゲウトワリも入りたいとか言い出したので、雑に洗ってキャットハウスから放り出した。いちおう湯船に入って温まったから、凍死する事はないだろう。
これでようやくわし達もゆっくり出来るので、皆でワーキャー言いながらお風呂に入り、夜の晩酌。
その席で、今後の予定の前に、イサベレの尋問を開始する。
「イサベレって……女王が送り込んだスバイにゃろ?」
「ななな、何を言ってるの?」
「素直に吐いたほうが楽になるにゃ~。カツ丼あげるから喋るにゃ~。にゃ?」
「たべる!」
カツ丼はコリスの頬袋と、追加はオニヒメの腹に入ってしまったが、誘導尋問をしまくってイサベレから全てを聞き出してやった。
どうやら台湾を、わしが猫の国に入れずに家康に統治を任せた事で、女王に欲が出たようだ。人の住む土地を見付けて、もしもわしが国に入れようとしないのなら、東の国入りの話をする事がイサベレのミッションだったらしい。
「やっぱり、ゴリッゴリッのスパイだったにゃ~~~!!」
イサベレをスパイにする事は、女王の失策。無口と口が固いを履き違えた女王の失敗。そもそも本質をついたら必ずどもるスパイでは、喋っているのと一緒だ。
「ななななな、なんでわかったの?」
「全部喋ってたにゃ~~~!!」
わしにスパイと見破られたイサベレは、物凄く驚くのであったとさ。
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