103 リータとメイバイ


「シラタマさ~ん」

「シラタマ殿~」

「飛びましたね……」

「飛んだニャ……」

「「逃げ(ましたね!)たニャ!」」

「「プッ……あははは」」


 シラタマが上空に飛んで見えなくなると、リータとメイバイは同じ結論に行き着き、顔を見合せ笑い合う。


「「あ……」」

「なんだか笑ったら、ケンカする気が失せました」

「私もニャ。よく考えたら、シラタマ殿の彼女さんに失礼な事をしていたニャ。ごめんニャー」

「え? 彼女??」

「一緒に暮らしているし……違うニャ?」

「う~ん。あまりそう言う話しをしないので……どうなんでしょう?」

「シラタマ殿はハッキリさせてくれないのかニャ? じゃあ、私が認めるニャ!」

「メイバイさんがですか?」

「こう言う事は外堀から埋めるニャ。そしたら、事実になるニャ!」

「なるほど……」

「だから、私にもシラタマ殿を分けて欲しいニャー」

「それが狙いですか……」

「彼女さん。お願いニャー」

「はぁ。わかりましたよ。彼女さんじゃなくて、リータでいいです」

「わかったニャ。これからよろしくニャー」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それより人が集まって来たから、移動しましょう」

「孤児院に行けって言っていたニャ」

「私が案内しますよ」

「頼むニャー」


 こうして二人は孤児院に向けて歩き出す。すると、先程からあがっている猫コールに、メイバイが反応する。


「やっぱり恥ずかしいニャー」

「フフフ」

「リータも笑うニャー」

「ごめんなさい。シラタマさんと出会った頃を思い出してしまって……いまより、もっとすごかったんですよ」

「そうなんだ。リータはシラタマ殿と付き合いが長いのかニャ?」

「いえ。まだ一ヶ月ぐらいです」

「こんな騒ぎの中を一ヶ月ニャ!? 私は耐えられるかニャ……」


 辺りの騒ぎを見て、メイバイは少し暗い顔になる。


「きっとすぐに収まりますよ。シラタマさんの時も、半月ぐらいで収まりました」

「あの姿でニャ?」

「あの姿でです」

「私の生まれた国だと絶対に収まらないニャ。それどころか、すぐに奴隷になっているニャ」

「そんなに酷い国なんですか?」

「酷いニャ。街を歩けば、この容姿のせいでさげすまれ、石を投げられたりしたニャ」

「そんなに……」

「ムチで打たれている一族の者も、そこかしらにいたニャ」

「ひどい……」


 メイバイの話にリータは同情し、想像して掛ける言葉を失う。それに気付いたメイバイは、慌てて言葉を続ける。


「シラタマ殿が見たらどうするかニャ?」

「そんなところを見たら、怒って、絶対に助けてくれます」

「そうなのかニャー?」

「私も助けられました」

「リータもニャ?」

「はい。私が王都で貧しく暮らしていたら、温かい家も食事も、何も言わず与えてくれました」

「なんでそんな事をしてくれたニャ?」

「シラタマさんは気まぐれって言ってましたけど……」

「リータに一目惚れしたとかかニャ?」

「そうだったら嬉しいんですけどね」

「じゃあ、なんでニャ?」

「口で言うより、孤児院を見たら、すぐにわかりますよ。着きました」


 二人は孤児院に併設されたキャットランドに並んで入る。メイバイは物珍しい物を見るように目を輝かせ、遊具に向かって走り出すので、リータは大変な思いをしてフードコーナーに座らせた。


「注文して来ますから、絶対に動かないでくださいね!」

「わ、わかったニャー」


 強く言って、メイバイをテーブルから動かないようにしたリータは、売店にいるエミリに注文をして、飲み物を持って戻る。


「どうぞ」

「甘くて美味しいニャー!」

「これはあそこの店員のエミリちゃんが作った、果物を使った飲み物です」

「あんなに小さい女の子がニャ?」

「エミリちゃんは亡くなったお母さんのレシピで、お店をする事が夢だったのです。それを聞いたシラタマさんが、夢を叶えたのです。このキャットランドも、孤児院がお金に困っている事を知って、子供達と一緒に作ったのですよ」

「これも気まぐれかニャ?」

「シラタマさんはそう言ってます」

「こんなの気まぐれじゃないニャー!」


 シラタマの行動に、目をパチクリして聞いていたメイバイだったが、気まぐれのレベルを大きく越えていたので声が大きくなる。その反応に、リータは優しく微笑みかける。


「ですよね。これ以外でも飢饉ききんに苦しんでいる村にも、食料を提供したりしてるのですよ」

「シラタマ殿は人が良すぎるニャ。人じゃないけど……」

「猫だにゃ~」

「あははは。似てるニャー」


 突如、シラタマのモノマネをするリータに、メイバイは大笑いだ。


「私の村も助けてもらいました。おかげで村のみんなも笑顔になりました」

「ここも笑顔がいっぱいニャ。なんとなくわかったニャ。シラタマ殿は、人の笑顔が好きなんだニャ」

「「猫なのに」」

「「プッ。あははは」」


 二人が笑っていると、エミリが注文の品をテーブルに並べて会話に入る。


「二人して何を笑っているんですか?」

「シラタマさんの話をしていたの」

「陰口で笑うなんて、ねこさんに悪いですよ」

「違うニャー。シラタマ殿の偉大さを話していたニャ」

「ニャ? ねこさんのモノマネですか?」

「エミリちゃんは、こちらのメイバイさんの姿を見て驚かないの?」

「なんでですか?」

「ほら、耳や尻尾があるじゃない?」

「そんなのみんな付いてますよ」


 リータとメイバイは、エミリの視線の先を追って驚く。そこには、猫耳カチューシャや尻尾を付けた、多くの子供達が遊んでいる姿があった。


「「ホント(ニャ)だ!」」

「うちの売れ筋商品です。レーアちゃんの発案で作っています。お姉さんも買われたのですよね?」

「買ってないニャ。本物ニャー」

「本物? ちょっと失礼します」

「だからメイバイさんを見ても騒がれなかったんだ!」


 エミリはメイバイの耳や尻尾をわさわさと触り倒す。


「ちょ……こちょばいニャー」

「温かい……尻尾も動いてる……あ、あなたは何者ですか!?」

「「猫だにゃ~」」

「あははははは。なんですかそれ~」

「ほら。エミリちゃんも笑った~」

「だって、ねこさんの口癖だもん」

「エミリも仲間入りニャー」

「もう~。でも、メイバイさんは本当に何者なんですか?」

「メイバイさんは、シラタマさんの親戚よ。だから耳と尻尾があるの」

「じゃあ、ねこさんと結婚したら、わたしにもそんな子供が生まれるのですか?」

「それは……ゴニョゴニョ。あ! お客さんが呼んでるよ!!」

「は~い! ただいま~」


 リータの咄嗟とっさのファインプレーで、エミリは二人のテーブルから離れて行く。


「由々しき事態です」

「由々しき事態ニャ」

「シラタマさんはモテます」

「王女様にも言い寄られていたニャ」

「「これ以上シラタマ(殿)さんに、女を近付かせてはいけない(ニャー)!」」


 リータとメイバイは、声を合わせ、視線を合わせて頷く。


「ケンカしてる場合ではないですね」

「二人で協力してシラタマ殿を守るニャー」

「ですね」

「私は愛人でいいニャ。先に出会ったリータが正妻になるニャ」

「本当ですか!? でも、それじゃ悪いですから、過ごす時間は同じにしましょう」

「「猫同盟結成(ニャ!)ですね!」」



 敵の敵は味方。新たな恋敵からシラタマを守るため、二人はガッチリと握手を交わすのであった。


 シラタマの知らないところで……

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